123.離屋の夜、その4(バニーとメイドと魔女っ娘と‥‥。)
文化祭の翌日は、文化祭の後片付けの日。
盛り上がった文化祭も、装飾を撤去し、元の状態に戻していくと、文化祭の二日間が、夢のような時間だったと改めて実感する。
そして、その後は週末に文化祭が行われたため、代休を取って、再び授業が始まるのであった。
「あ~あ。こうしてみると、あっという間だったね♪」
葉月は感慨深そうに、生徒会の最後の見回り作業を行っている。
「本当ね。でも、生徒会長として、無事に終わってホッとしてる。」
加奈子も葉月のことばに頷く。
「みんなは、まだいいわ。私は、最後の文化祭が終わちゃったのよぉ~。」
半分涙目になる史奈。
彼女は高校三年生、最終学年。高校生活最後の文化祭だった。
「そうだね。寂しいよね。」
僕は史奈の瞳を見つめる。だけど、史奈が何を考えているがわかっている。
しかし、同情しておかないと、とも思ってしまうため、この言葉が出てきた。
「そうよぉ。輝君、やさしい~。」
史奈は涙目になりながらも、どこか笑っている。
そして、案の定ではあるが、僕以外の生徒会メンバーからの反応は何もない。
「ふ~ん。その表情、卒業してOGになっても、文化祭に遊びに行きます。って顔してる。」
にやにやと笑う葉月。
「バレてた?葉月ちゃん。」
涙を拭き、急に笑顔になる史奈。
「はい。バレバレです。」
葉月は言う。そして、他のメンバーも頷く。これには、僕も頷く。
「あら、そう。というわけで、来年も遊びに行くわね~。」
にこにこと笑う史奈。
僕もやっぱりそうだよね、と思っていたが、ここは伏せておく。
そうして、跡形もなく文化祭の装飾が無くなり、今から授業が行えるという状態になった花園学園。
もう既にほとんどの生徒が帰宅し、学校に残っているのは、全体の統括をして、最終チェックをしている生徒会メンバーだけとなっていた。
そして、その生徒会メンバーですべての最終チェックを終える。
「皆さん!!お疲れさまでした!!」
加奈子がにこにこと笑って、ねぎらいの言葉をかける。
「「「お疲れさまでした!!」」」
僕たちは笑って返事をする。
「本当に良い文化祭だったと思います。明日、明後日と代休になります。しっかり休んで、生徒会の仕事はまだまだ続きますので、代休が終わったら、元気な顔を見せてください。」
加奈子が笑って、挨拶をした。
「みんなお疲れ様。本当に良かったよ~。私からも連絡は特にないので、これからも頑張りましょう!!」
葉月がニコニコ笑っている。
「そして、そうだね。早織ちゃん。本当にお疲れ様。家庭科部と生徒会とで、大変だったよね。」
葉月がそう付け加えて、早織を見る。
僕たちも頷き、早織の方を見る。
早織は全ての何かから解放されたのか、もしくは、それで新たな一歩を踏み出せたのだろうか。
涙を浮かべながらも穏やかな表情をしていた。
「はい。皆さん。本当に、ご迷惑おかけして、申し訳ありませんでした。おかげで、文化祭。すごく、すごく、成長できた気がします。ありがとうございました。」
早織は僕たちに深々と頭を下げる。
労いの拍手をする、僕たち。
早織にとっては密度の濃いひと月だっただろう。
イキナリ早織のお店に、黒山という酔っ払い客が乱入し、秘密を暴露され、ボロボロになりながらもここまで来られたのだ。
「すごかったっすよ。お嬢。」
「そうね。早織ちゃんは本当に大活躍だったわね。」
義信と史奈がニコニコ笑う。
葉月と加奈子も同じだ。
「本当に、早織はすごいよ。比べられないかもしれないけど、僕だって、前の高校の一件から、立ち直るまで、一年、それ以上かかったんだから。」
僕は早織にそう話す。
早織は静かに頷く。
「うん。・・・・。ありがとう。輝君。」
瞳には涙がありながらも、前を向いて進もうそしている表情だった。
早織は涙を拭いて。
「皆さん、そして、輝君に北條さん。本当にメイド喫茶を手伝ってくれてありがとうございました。先ほど、家庭科部の後片付けも手伝っていたのですが、富田部長から皆さんによろしくと。」
早織はそう言って、僕たちに頭を下げたのだった。
メイド喫茶を手伝うことが出来て本当に良かったと、心から思った。
早織の話を終え、最後に他に連絡がないか確認して、僕たちの初めての文化祭、そして、文化祭の生徒会の仕事が終わったのだった。
そして。
「お疲れさまでした!!」
と言って、生徒会は解散したのだが、まっすぐ自分の家に帰ったのは義信だけだった。
他のメンバーは、<家に帰って荷物を置いたら、輝君の家に集合!!>
という連絡が各々のスマホに来ていたのだった。
そして。
僕の家に続々と集まってくる、生徒会メンバーたち。
時刻も日暮れに近いのか、他の学校に通う、マユも呼んでいる。
さらにはコーラス部の風歌も僕の家、つまり、伯父の家に来ていたのだった。
早織は改めて伯父、伯母にお礼を言う。メイド喫茶のメニューの材料を用意してくれたお礼だった。
そうして、僕たちは、僕の寝泊まりとして使っている、離屋へ・・・・・。
“例の約束”をした、全員が集まっている。
「全員が揃っているということなので、先ずは、それぞれの名前が書かれている箱の確認をしよっかぁ。」
という葉月の提案。
そして、名前の書かれた箱を取り出し、箱の中身を数えていく。
お互いの顔を見合わせ、真剣な表情で・・・・・。
箱の中身は小さな袋、例の、あの袋だ・・・・。
一番少ない人、要は一番減り方の激しい人が、勝者だった。
このイベントは定期的にやっていて。
今回の勝者は、早織だった。
「はははっ。やっぱり、早織ちゃんに関しては、しょうがないかぁ。」
葉月が笑っている。
「そうね。あの一件があったから、激しくしちゃったのよね。」
史奈がニコニコ笑う。
早織は、史奈の言葉に頷く。
「まあ、しょうがないか。今回ばかりは。」
加奈子が頷く。
「うんうん。さおりん、すごく頑張ってたよ。」
マユも同じように頷いていた。
「早織ちゃんが元気になってくれて、嬉しい。」
「だってさ、八木原さん。メイド喫茶お疲れ。キングオブパスタも頑張ろう!!」
風歌、結花がニコニコ笑って声をかけた。
「み、皆さん、ありがとうございます。」
早織は恥ずかしがりながらも、笑っていた。
「それじゃあ。文化祭お疲れ様パーティーを兼ねて。」
「「「今日も・・・・・。」」」
全員が、僕に抱き占めてくる。
そして、皆、一人一人、唇を合わせてに来る。
それが一通り終わった後。
「輝君、ちょっと待ってて、目を閉じてくれる~。順番に・・・・。」
葉月の声に、僕は目を閉じる。
葉月たちは、目を閉じている隙にお互いの顔を見て。
「順番だから、抜け駆けなしだよ。」
葉月はそう言って、皆に言い聞かせる。
僕の両手に誰かいる感覚。
それが、変わりばんこにくっついては離れるのを繰り返して。
「輝君、お待たせ、目を開けていいよ♪」
葉月の声に目を開けると・・・・・。
いきなり突然、僕の胸の鼓動が高鳴る。
かわいいメイドと、バニーガールと、魔女っ娘が勢ぞろい。
どうやら、僕が目を閉じている間に、それぞれ、着替えを済ませていたようだ。
早織、風歌がメイド。
「こ、今回はメイドさん。輝君、いーっぱいお世話しちゃう。」
風歌が笑っている。
「ここなら緊張しなくてすごくいい。」
早織がニコニコ笑う。二人とも、ここの数日間で、一番緊張していない表情で、メイド服を着ている。
「「お帰りなさいませ、ご主人様。」」
結花と、葉月、加奈子がバニーガールの衣装を着ている。
加奈子は細身だし、結花は性格からだろうか、こちらの衣装の方がとても魅力的だった。
「へへへっ、メイド服も、バニーガールの服も、赤城さんたちに衣装、今日まで貸してもらったんだぁ。」
葉月は得意げになって、笑っている。
加奈子も、結花も得意気に頷いている。
「みんなは良いわね。」
昨日の花園学園グランプリと同様に、魔女っ娘の衣装を着ている史奈。
「あっ、でもこの衣装、昨日から進化して、ポンチョの下は、何も着てません。」
と、史奈はポンチョの下をめくる。
「あーっ、先に抜け駆けずるい!!」
というブーイングが史奈に浴びせられるが。
「良いじゃない。減るもんじゃないんだし。」
そういって史奈はウィンクする。
「みんな、文化祭の衣装でずるいよ~。」
そういうマユは、陸上部のユニフォームを着ている。胸元と、下半身だけを覆っている、セパレートタイプのもので、かつ、部活終わりだからだろうか、マユの汗のにおいがさらにドキドキさせていた。
「それじゃあ、輝君。準備は良い?」
葉月の言葉に、喉を鳴らして、コクっと、頷く僕。
皆の衣装が可愛いからだろうか。
そこからは一気に速かった。
「ふふふっ、輝君、いつも以上にパンパン。」
史奈という史奈の声。
これが本当の文化祭の打ち上げであった・・・・・。
そして、明日も代休ということもあり、全員で一夜を過ごしている僕たちの姿があった。
ここから、早織はキングオブパスタに向けて、頑張っていくのだろう。
僕も、それを応援していこうと思いながら、一夜を過ごし、ベッドの上で夜明けが来るのを待っていた。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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そして、第5章、文化祭編はここまでです。
お気づきかと思いますが、第2部(5章以降)のメインヒロインは早織ちゃんです。というより、主人公といっていいかもしれません・・・・。
春のキングオブパスタに向けて、輝君と早織ちゃんの物語は続きます。第6章もよろしくお願いいたします。




