120.文化祭の案内(文化祭、その2)
原田先生とともに、家庭科部のメイド喫茶を行っている教室を出て、僕の案内が始まった。
「どこから行きましょう?」
僕は原田先生に、言うが。
「そうだな。まずは、加奈子ちゃんの教室へ行こうかな。」
原田先生はそう言ったので、僕たちは、加奈子たち、高校二年生の出し物を行っている教室に行くことになった。
原田先生は、加奈子のバレエの先生なので、この反応は当然のことである。
そして、この会話からするに、原田先生は、加奈子や他の教え子たちの出し物をやっている教室から先に回っているのではなく、僕たち家庭科部のメイド喫茶を一番最初に訪れていたようだ。
一体何故、加奈子よりも、僕たちメイド喫茶の教室に先に来たのか、疑問に思ってしまう。
僕は素直に。
「あれ?先に加奈子先輩の教室に行っていたのかと思いました。」
と、原田先生に聞く。
すると。
「そりゃあ、まあ。メイド喫茶と聞いて、真っ先に行くよ。混みそうだったし、現に私も並んで入っただろ。それに、一年生の教室の方が近かったし。」
と原田先生にこのことを尋ねたら、こんな回答が来た。
確かに、正面の校門、玄関から入れば、一年生の教室の方が近い。
「それに、少年、お前だって、ウチの教室の一員だ。そういう意味では、加奈子ちゃんと同じく、バレエ教室の生徒だろう。」
原田先生の言葉に頷く。感謝しかない。
「それに、最近だと、あの子のことが心配だったからね。ウチの教室はクリスマスコンサートという目標に向けて、順調に取り組んでいるからさ。」
原田先生は大きく頷いて、僕の方を見て、静かに言った。
確かにそうかもしれない、バレエ教室の生徒は、加奈子を含め、皆、クリスマスコンサートという目標に向かって、生き生きとしていた。
「あの、ありがとうございます。」
僕は原田先生に頭を下げる。
「ハハハッ、別にいいよ。コンサート準備で、ある意味で忙しいが。別の意味で言えば、暇だな。こういう悩みを抱える生徒さんが出てくるのって、実は、コンサート後が多いからね。」
原田先生はそんな感じでニコニコ笑っていた。
そんな会話をしながら、原田先生を連れて、加奈子たちの教室、二年C組へ。
高校二年の合同の出し物は、二年C組の教室で行われていた。
高校二年の出し物は、ゲームコーナーだった。
入り口には、昨日同様。福引大会と同じく、バニーガールの格好で、出迎えてくれる葉月の姿があった。
「あーっ、輝君いらっしゃい。」
葉月はニコニコ笑う。
「原田先生、こんにちは。」
葉月は原田先生の存在に気付いたのか、頭を下げる。
ちなみに葉月も、小さいころに原田先生のバレエスタジオに通っていた。
「おーっ、葉月ちゃんじゃないか。似合ってるね。バニーガール。」
原田先生は元気よく挨拶をする。
「へへへっ、加奈子も、この衣装、着てますよ!!あっ、そうそう、この衣装、輝君のクラスのメイド服をデザインした子に作ってもらったんです。」
葉月はニコニコ笑う。
そして、原田は葉月の言葉を一言一句、聞き逃さなかった。
「なんと、メイド服だけでなく、このバニーガールの衣装も作ったのか。あの双子ちゃん、だっけか?・・・・。」
原田先生は先ほどのメイド喫茶で、双子の妹の未来しか会っていない。
「はい。そうなんですよ~。凄いですよね~。赤城さん。輝君が一緒ということは、メイド喫茶に行って、赤城さん兄妹にお会いした感じですか?」
「おおっ、そうだな。双子の妹の方しか会ってないのだが。クオリティは確かにヤバいな。」
原田先生は大きくなずき、葉月に親指を立てる。
「後ろも凄いですよ~。」
葉月はニコニコと笑い、くるっと回って、原田先生にバニーガールの衣装の凄さを改めてアピールしていた。
「おうおう。いい感じだな。ヨシッ。」
原田先生は大きく、何かを確信するように頷いた。
「まあまあ、先生も輝君も立ち話もあれですし、加奈子に会ってってください♪、お二人様ご案内で~す。」
僕と原田先生は葉月の案内のもと、帰宅部や生徒会メンバーで構成される、高校二年生の企画、ゲームコーナーに案内される。
テーブルに座らされると、同じく、昨日と同じ、バニーガールの衣装に身を包んだ加奈子が出てきた。
「いらっしゃい、輝。そして、先生、こんにちは。」
「よっ、加奈子ちゃん。元気でやってるね。」
そしてもう一人。
「ひ、輝君。よ、ようこそ。こ、コーラス部の発表、丁度終わって、手伝ってる。」
なんと、バニーガールの衣装に身を包んだ風歌の登場。
緊張した野うさぎの目をしている風歌。
風歌も、大きな胸の谷間が衣装から覗かせていた。
「そしたら、私と、先生と、輝と、風歌の四人で勝負しましょう!!」
加奈子はそう言って、トランプを配っていく。
配られたトランプを各々受け取っていく。
「大富豪です。ルールは分りますか?」
加奈子が聞く。
思わず首を振る僕。
確か、夏に茂木の別荘でやった時は、トランプで、やってなかった気がする。
茂木の別荘の時は、トランプやウノ、ボードゲームなど色々持ってきていたため、トランプはババ抜きを何回かやっただけで、その他は、ボードゲームなど、他のゲームがメインだったから。
「珍しいな、少年。大富豪を知らないのか?」
「はい。すみません。」
僕は原田先生の言葉に謝る。
一通り、ルールを説明していく、加奈子。
八切、革命、というワードが出て。
「ああ。ごめん。大貧民ね。僕も、父さんも、伯父さんも、このゲーム、大貧民と呼んでた。それに、順位も大富豪とか呼ばないで、一位、二位って言うので呼んでた。」
「「「ああ~。」」」
加奈子たちは声を揃えて納得する。
「それじゃ、説明はこのくらいで、大丈夫そうだね。」
加奈子の言葉に僕は頷く。
「結構、呼び方の、ちがい、別れるよね。」
風歌は頷く。
「なんだ。知ってて、良かった。」
原田先生はにっこり笑う。
ということで、気を取り直して、僕たちはゲームを始めることにした。
そして・・・・・。
「すーっ、はーっ。」
深呼吸して、トランプの手札を広げていく、原田先生。
カッコいい、ギャンブラーのようだが・・・・・。
実はこのゲーム。もう四回戦目であり、ここまで三回連続で、原田先生は最下位、つまり大貧民になっていた。
そして。
「あ、あがり。」
風歌がガッツポーズをして。
「なんでだよ~。」
原田先生は、とても悔しがり、原田先生の四連敗でゲームが終了した。
僕と、加奈子は、相手の出した手札を確認して、ゲームを進めていたので、一気に攻めることができた。
それを考えず、一気に攻めようとした原田先生は全て、出せる手札が無くなり、見事全敗したというオチだった。
原田先生はそれでも、すぐに気持ちを切り替える。
「ヨシッ。次行くぞ、少年!!あれで勝負だ!!」
原田先生は黒板の方を指さす。
ダーツが置かれていた。
原田先生はお酒でも入っているのだろうか。まるで酔っぱらったかのように、ヴォルテージが一気に上がる。
「いらっしゃいませ!!」
ダーツの案内をしているのは心音だった。
心音は、トレードマークのポニーテールをいつもよりもカッコよく結び、某歌劇団の男役に居そうな、僕と同じベストを着た服装で、出迎えてくれた。
「あっ、橋本君に、加奈子のバレエの先生ですね。いらっしゃいませ!!」
「よう、夏の時以来だな!!ああ、少年のコンクールに来てたっけか。」
原田先生は心音に声をかける。
「はい。あの時はありがとうございました。私も風歌も楽しかったです。」
「いいってことよ。」
原田先生はそう言いながら、ダーツのアピールをする。やっても大丈夫かと。
「どうぞ。矢を三本ここから取ってください。」
心音の言葉にダーツの矢を三本取る原田先生。
にやりと笑い、腕をまくる。
「見てろよ、少年!!」
原田先生は一気に狙いを済ませ、一気に三本矢を放っていく。
「おおっ!!」
心音の目が見開く。
僕もとても驚いた。
矢は一本ど真ん中に命中。
そして、他の二本も真ん中を少し外した場所に、でも、限りなく真ん中に近い場所に命中していた。
「おめでとうございます!!本日最高点が出ました!!」
心音が、持っていた鐘をカランカランと鳴らす。
「ヨッシャ―!!」
原田先生はガッツポーズをする。
加奈子も風歌も、そして、案内のため廊下に出ていた葉月も、その様子に思わず原田の元に駆け寄り祝福をしていた。
景品を自信満々に受け取る原田。
これは流石に恐れ入った。
「名誉挽回だ、少年!!」
原田先生は一気に機嫌を取り戻し、加奈子たちに見送られながら、二年C組の教室を出て行った。
しばらくは原田先生とともに、他の教室を回っていると。
「ああ。こんにちは。ご無沙汰しております。」
そんな声が原田先生にかかる。
「ああ。こんにちは。お久しぶりですね。」
原田先生もとても丁寧に、だが、どこか表情は暗そうに挨拶をした。
「やあ、輝君。」
声の主は、この花園学園の理事長、花園慎一。葉月の父親だった。
「こんにちは。」
「こんにちは。楽しんでる?」
慎一がニコニコ笑いながら、僕に尋ねてくる。
「はい。」
僕は笑顔で頷いた。
「それならよかった。」
慎一は大きく頷く。
「えっと、先生は理事長と知り合いなんですね。」
僕は、原田先生の方を見る。
「ああ。そうだな。まあ、何だって、葉月ちゃんが、昔、ウチのバレエ教室に通ってたからなぁ。」
確かにそうだ。葉月は、短い間ではあったが、原田先生のバレエ教室に通っていた時期がある。
それなら、まあ、頷けるが。どこか遠くを見る目、少しどこか表情が崩れる原田先生を僕は見た。
「す、すみません。変なこと聞いてしまって。」
それを見逃さなかった僕。すぐに謝る。
「あ、ああっ、別にいいってことさ。」
原田先生はすぐに開き直る。
「ああ。輝君も、元気そうで良かったよ。確か、井野さんが、原田先生の経営するバレエ教室に通っていて、輝君は、そのバレエ教室で、ピアノ伴奏の手伝いをしているんだよね。」
慎一の言葉に僕は頷く。
「うん。そうか。楽しそうな先生だよね。」
慎一は原田先生の方を見る。
その言葉に、僕も頷き、僕も原田先生の方を見る。少し恥ずかしそうな顔をする原田先生だが、どこか遠くを見る感じで。
「すまない。少年。ちょっと、この人と話があるんで、お前の案内はここまでで大丈夫だ。他に見るべきものは、お前の案内のもと、調べて見て回れるから。」
原田先生は僕の方を見て言った。
「は、はい。その、来てくれてありがとうございました。」
僕は頭を下げ、その場所を去っていった。
「おう、また、練習でな。」
原田先生は大きく手を振った。
僕を見送った後、原田先生は理事長を見た。
そして、深くため息をつく、原田先生。
「申し訳ありません。ここに来ると、やはり、色々と思い出されますか。」
僕が去っていった後、理事長は原田先生に向かって、こう問いかけていた。
「ええ。ですが。もう、過去のことです。さっきの少年の態度にヒヤヒヤしましたが。彼は知らなくてもいいのです。私も、彼に話していないのですから・・・・。」
原田先生は重い口を開いていた。
「そうですね。彼は知らなくてもいいのです。そして、井野さんや、葉月も・・・。」
「はい。」
原田先生と理事長は、頷きながら、会話を続けたのだった。お互い、神妙で、真剣な表情で。
さて、再びシフトの交代の時間が訪れたので、僕は家庭科部のメイド喫茶の仕事をこなす。
昼過ぎの時点で、パスタの売れ行きが好調だ。
早織が作った三つのパスタ。
納豆餃子のパスタ、キノコパスタ、そして、シラスのパスタも売れ行きが好調で、現時点で、メイド喫茶の売り上げの上位三位はこれが独走しており。
「輝君ごめん。来て早々だけど、パスタ、大量に茹でてもらってもいい。」
早織からの指示に僕は頷く。
そうして、このシフトの時間はずっとパスタを茹で続けたのだった。
「ありがとう。もう大丈夫。ここからは、昼時も過ぎたし、おやつとか、デザートの売り上げが少しずつ上がってき始めているから。」
早織は、安心しきった表情で、ニコニコ笑う。
「八木原さん、お疲れ様。ここからは多分、デザートの注文が多くなるし、お客も少なくなってきたから、休憩してきて。ここまで、本当に、ありがとう。デザートは手順通りに、十分、引継ぎも済んでるから、大丈夫だよ。」
家庭科部の調理班のメンバーが笑顔で言う。
そして、それを見ていた富田部長も、うんうん。と笑っている。
そういえば、この家庭科部のメイド喫茶のメンバーの中で、唯一休憩をろくに取っていないのが早織だった。
「大丈夫?お疲れ様。早織。」
僕も、早織に声をかける。
「うん。何とか、お昼時、頑張れたかも。ありがとう。輝君。」
早織はお礼を言うが、僕は首を横に振る。
「お礼を言うのはこっちの方だし、謝るのも僕の方、楽しめず、ごめん。」
そういって、僕が謝るが。
「ううん。料理作るのも、楽しいよ。それに、まだまだ、文化祭の時間はたっぷりあるから。」
早織はそう言いながら、笑っている。
「それに・・・。本当にありがとう。輝君。輝君が居なかったら私。ここまで、出来なかったかも。」
早織は瞳の奥に涙をにじませながら、僕に近づき、両腕を背中に回す。
「うん。それでも、早織が頑張ったからだよ。」
僕は大きく頷いた。
「ありがとう。輝君。」
早織は涙を見せる。
本当に、早織は頑張った。ここ数日彼女の活躍は、すさまじいものだった。
大きく頷きながら、僕も、そして、僕とのやり取りを見ていた、富田部長と他の家庭科部員たちも、頷いていた。
そうして、残りのパスタの盛り付けを終え、僕は早織を連れて、再び、メイド喫茶の教室、つまり、フロアへと向かった。
時刻は、僕と早織のシフト終了間際の時間帯。
僕と、早織は、今日の盛況を見たいと思い、もう一度、料理を運びながら、教室へと向かった。
そのシフト終了間際の時間帯に、今度はマユがやって来た。
「ひかるん、お疲れ~。部活終わって、急いできちゃった♪」
マユはニコニコ笑いながら、雲雀川経済大学附属の制服を着てやって来た。
マユこと熊谷真由子はメイド喫茶に入って、パスタとデザートを注文していく。
丁度、僕と早織が先ほど作り終えたパスタを再びレンジで温めたものが、マユの元へと運ばれていく。
マユが頼んだのは、キノコのパスタだ。
「おいしそう。部活終わって、急いできたから、すっごく、お腹減っちゃった。」
そういって、マユは運ばれて来たパスタとデザートを食べる。
「すごいじゃん。美味しい。」
マユはニコニコ笑って、早織の方を見た。
「あ、あのっ、ありがとう。」
早織は顔を赤くしている。
「ふふふっ。御世辞じゃないよ。頑張ったね。さおりん。」
マユはニコニコ笑いながら早織の方を見ている。
いつのころからか、マユは早織のことを“さおりん”と呼ぶようになった。
「まあ、ひかるんも、ひかるんだし、似てるかなって。」
マユはニコニコ笑う。
マユも、早織の事情を知る一人。早織の頑張った料理の味を心から褒めてくれる。
「さあ。お腹いっぱいになったし、行こうかな。ひかるんと、さおりんは、これから自由時間?」
僕と早織は顔を見合わせ。お互いに頷く。
「そうなんだ。それじゃあ。一緒に行こう。あっ、本当はひかるんと二人が良かったけど、事情も事情だし、すっごく頑張ってたし、さおりんも一緒にどうぞ。」
マユはニコニコしながら、早織にウィンクして頷く。
「え?えっと、その、あ、ありがとう。」
早織は思いがけない誘いに頷く。
当然だが、早織も、マユも、とある試合のメンバーだ。高校までは、僕と一緒に居られて、僕が高校を卒業する時に一人を決める・・・。
だがしかし、今は頑張っている早織を応援しようと、誰もが思っていた。僕もそうだ。今この瞬間、楽しもうと思った。
「さあ、思いっきり、ひかるんと、さおりんと一緒に、文化祭で遊ぼう!!」
そうして、僕と早織を教室から連れ出す。
マユと一緒に行ったのは、高校一年の帰宅部で構成される、高校一年の出し物だった。
高校一年の出し物は、お化け屋敷だった。
そのお化け屋敷の入り口、シーツを被っている、大柄な人影が立っていた。明らかに義信だ。
「ようこそお越しいただきました。社長、そして皆さん!!」
白のシーツの影は頭を下げた。
「おいおい。そう頭を下げられると、折角のお化けが台無しだろう。」
確かにそうだ。
「まあ、入り口案内で、接客も兼ねていますので。それより、どうっすか?メイド喫茶は。」
義信の言葉に頷く僕。
「ああ。順調だよ。結構人気みたいで良かった。」
「うんうん。私も、いっぱい食べちゃった。」
僕とマユはニコニコ笑っていた。
「そりゃあ良かったっすね。八木原さんも、本当に良かった。」
義信がニコニコ笑う。
「う、うん。ありがとう。磯部君。その、本当だったら、私もここを手伝うはずなのに。」
早織は頭を下げるが、義信は首を横に振り。
「そんなことは言わずに、頑張ってくだせえ。あのジジイには俺もムカつきましたから。」
義信は大きく頷いた。そして。
「それじゃあ、幼馴染の方と、八木原さんと一緒に楽しんでくだせぇ!!三名様、ご案内で~す。」
義信はそう言って、僕とマユ、そして早織を真っ暗な教室に通した。
本当に、ここは教室なのだろうか?
真っ暗で何も見えなかった。
「ひ、ひかるん。真っ暗だよ」
マユは少し震えながら、でも、何だろうか、心に余裕を持ちながら僕に寄りかかってくる。
「ひ、輝君。こっちも、何だか、怖い。」
反対側に寄りかかるのは早織。こちらはかなり震えている。
「あ、ああ。そうだよね。」
おそらく早織と同じくらい緊張している僕がいる。
そして、マユはそこまで緊張していないだろう。
いい意味で、小さいころからずっと、マユは僕よりも肝っ玉系だ。だから、運動部でも活躍で着ているのだろう。
そう、マユよりも僕の方がお化けは苦手だった。
「なんだろう、夏を思い出す。ひかるんとペアだったら、どんなに良かったかなぁ~って。」
確かにそうだ。夏、茂木の別荘で、皆で肝試ししたよな・・・・・。
この数か月のイベントが印象にありすぎて、その肝試しが、遠い思い出になった自分がいる。
そんな風に思い出していると。
「きゃ、きゃあっ。」
「ひ、ひいっ。」
早織と僕は驚く。
頭の上に布のようなものが通ったり。
扉を開ければ、ゾンビに扮した生徒たちが。
「うりゃぁぁぁぁ~。」
と声をあげて、襲い掛かる。
「うわぁぁぁ!!」
「ひゃぁぁ!!」
思わず声を上げる僕と早織。
「いや~。助けて~。」
と、ニコニコ笑いながら、叫ぶマユ。
僕たちは、一気に走り回り、お化け屋敷と化した教室を出ようとするが。
その都度、ミイラに出くわしたり、吸血鬼に扮した生徒に出くわしたりと、まさにハイクオリティなお化け屋敷だった。
やっとの思いで、お化け屋敷を出る僕と早織、そしてマユ。
「はあ、はあ、ごめん、僕、すっごくなんか、ヤバそう。」
僕は驚いたためか、思いっきり、咳をしてしまう。
「こ、怖かったね。輝君。」
早織も肩で息をしながら、ハアハアと音を立てて、やっとの思いに外に出られたことに安心している。
「あははは、大丈夫?ひかるん。さおりん。」
「ああ、何とかね。ありがとう。」
マユが優しく声をかけ、頷く僕。早織も黙ってうなずいた。
「結構面白かったね。」
マユはにやにやと笑いながら頷いている。
「マユは怖くなかったの?」
僕は聞くが。
「まあ、作り物だったしね。」
マユの言葉に驚く、僕と早織。
確かに、夏、茂木の別荘の時の肝試しの時、マユは、かなり余裕の表情だった記憶がある。
「お帰りなさい、楽しんでいただけたようで何よりです。」
シーツを被った義信に再び出迎えられる。
「いやぁ~、ハイクオリティだったよ。」
僕は呼吸を整え、義信に親指を立てる。
「うん。凄かった。」
マユはニコニコ笑う。
「本当に、お化けがいるのかと思った。」
早織は未だに息が乱れているのだろうか。息を切らしながら、義信に言った。
「そう言っていただけて、何よりです。」
義信は笑っていた。
そうして、義信にお礼を言って、僕たちはお化け屋敷の会場を後にする。
残りの時間は、運動部で食いしん坊なマユのために、そして、おそらく昼食を澄ましていないであろう、早織のために、運動部が主催する屋台を回った。
どれも美味しく食べるマユはニコニコ笑っていた。
そうして、時間が過ぎ去り、夕方に近づくころ。
「じゃ、ひかるん、さおりん、明日も部活の終わりに急いで、ここに行くから、頑張ってね。そして、待っててね♪」
マユの言葉に僕と早織は頷き、マユと別れて、再びシフトへと戻る僕と早織。
引き続き、残りの時間をメイド喫茶のシフトと、生徒会メンバーとして、隅々まで見回りをするというルーティーンを続け、文化祭一日目の時間が過ぎて行ったのだった。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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