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119.メイド喫茶(文化祭、その1)

 

 前日祭の福引大会にて、ホテルニューISOBEのチケットを手に入れた僕。

 大切に持ち帰り、自宅の引き出しに保管して、翌日。


 いよいよ、文化祭が始まる。

 超がつくくらいの早朝。伯父と一緒に、伯父の畑でとれた、野菜やキノコ、そして、果物を伯父のトラックに乗せる。そして、いつもは自転車にのって学校に行くのだが、今日は、伯父の運転するトラックに乗って家を出た。


 学園の校門にたどり着くと、早織と結花が出迎えてくれる。


「おはよう、ハッシー。」

 ニコニコと笑う結花。

「朝早くからありがとう、輝君。」

 早織は、ニコニコ笑いながら出迎える。


「ううん。二人も朝早くから大変だったんじゃない。」

 僕はそう聞くが、早織と結花は首を横に振る。

 そして、トラックから伯父も降りて来る。


「おはようございます。色々とありがとうございます。」

 早織は伯父に深々と頭を下げた。


「おう。気にすんなよ。そして、元気になってくれて本当に良かった。」

 伯父は、早織を見て安心する。

 そう、黒山とのやり取りの一件で、伯父は、僕と早織の雨に濡れた自転車をこのトラックに乗せて、家まで運んでくれたのだった。


「はい。ありがとうございます。」

 早織は大きく深呼吸して、頭を下げる。再び頭を上げた早織の瞳の奥には、特別なものが輝いていた。

 その表情を見てホッとする伯父。


 そうして、伯父と僕は、慣れた手つきで、トラックから積み荷を降ろす。


「おう、お嬢さん、ご注文の品だぜ!!」

 伯父の進はそう言いながら、野菜と果物を早織に渡す。


 そう。このトラックから下ろしてきたものは、メイド喫茶の出し物で使う、メニューの材料だ。


「ありがとうございます。」

 早織は伯父に頭を下げる。


「おう。明日の分はまた、明日持って来てやっから。」

 伯父は早織に、大胆に笑いながら、言った。


 早織は伯父に頭を下げ。そうして、伯父は再びトラックに乗り込む。


「とりあえず、俺は一旦戻るぜ、輝。また文化祭にも行くから。」

 そうして、伯父はニコニコ笑いながらトラックを発進させて、それを見送る僕。そして、早織と結花。


「ありがとう。輝君。北條さん。」

 早織は、ニコニコ笑う。

「よろしく。頑張ろうね。八木原さん。」

 結花はニコニコ笑って、早織に言う。


「大丈夫だよ。早織。」

 僕はニコニコ笑って、そう応える。

 そう。早織は絶対、大丈夫。


「ありがとう。」

 早織は瞳の色をさらに輝かせる。


 そうして、僕たちは、僕が伯父とともに持ってきた材料を運んでいった。


 結花の招集で、既に集まっていた、何人かの家庭科部員にも手伝ってもらい、材料を家庭科室の一角に集める。


 材料がそろっていることを確認して、料理の仕込みを開始する早織。


「それじゃ、皆さん、よろしくお願いします。」

 早織は元気よく頭を下げ、家庭科部の調理担当の部員に最後の確認をしながら、料理の仕込みを開始した。


 早織の指示で、テキパキと動く家庭科部員たち。

 その動きの効率の良さは、本当に普段から料理している人の動きだ。


「えっと、輝君は、野菜を洗ってもらえる?」

 早織は、伯父の畑でとれた野菜を指さす。


「うん、わかった。」

 僕は早織の言葉に頷く。


「洗ったら、ここに置いて行って。切るのは私たちがやるから。」

 早織はそう言って、洗った材料の置き場所を用意してくれた。


 頷く僕。

 キャベツやニンジン、ニンニクやニラなどの野菜を洗っていく。


 そして、文化祭は秋の季節、伯父の畑の果物には、葡萄ができ始めていた。

 この葡萄とを含め、早織はデザートをたくさん作っていくようだ。


 葡萄、そして、オレンジやリンゴ、梨など、果物を洗っていく。

 そして、いくつか、パイナップルなど、伯父の家の気候では育たない南国フルーツは、スーパーで買ったものを早織が準備しておいてくれ、今度はそっちの食材を準備し始めるのだが。

 正直、スーパーで準備した食材を準備するのは、少し楽であった。

 やはり、伯父の畑から直送ということもあり、土が結構ついている。


 僕はその野菜を洗うのに慣れているが、農作業になれていない、家庭科部員だと、確かに洗って土を落とすのに、時間がかかりそうだ。


 早織と家庭科部員たちは僕の洗った野菜を手際よく切っていき、メニューを作り置きしていった

 デザートなどは多めに作っていき、冷蔵庫に入れておく、注文が来たら、持っていく仕組みだ。

 メイド喫茶で使う教室も、家庭科室の隣の教室を使用する。

 注文客に届けるのもそんなに難しくなかったし、何なら、料理を運ぶ、台車も準備してくれていた。


 フルーツケーキに、ワッフル。そういったものを作って冷蔵庫にしまっていく早織と家庭科部員たち。

 実に手際が良かった。


「よしっ、後は直前で大丈夫かな。」

 早織は周りを見回し、ホッと一息つく。

 早織の言葉に安心する僕。


 少し休憩していると。


「ひと段落着いたかな。」

 全体を見ていた家庭科部の富田部長がやってきて。

「さあ。最後の打ち合わせ。簡単にしましょう。」

 富田部長は微笑みながら、早織と家庭科部員たちを隣の教室に案内した。


 隣の教室は、見事にメイド喫茶を思わせる装飾がつけられていた。

 カラフルなウエルカムボード、花が置かれた花瓶。黒板には、ピンクと白の風船が周りに施され、キャラクターの絵が描かれていた。


「装飾班の皆が手伝ってくれました。」

 富田部長は調理を担当していた、家庭科部員たちにニコニコ笑いながら頷く。


 家庭科部のメイド喫茶は、調理をメインにする、調理班と、衣装や装飾をメインにする装飾班で構成されている。

 当然、早織は調理班で、しかもリーダーとして、ここまで頑張って来た。

 僕と結花も、調理班で、早織のサポートだ。


 早織とともに、その調理班で一緒に今日まで活動していた家庭科部員たち。

 一斉に、教室の飾りつけを見て、驚いている。


「すごい。」

「きれい!!」

 そんな声が飛び交っていた。


「調理班の皆もお疲れ様。今までの感謝の気持ちを込めて、私手作りのこれをどうぞ。皆で見てね。」

 富田部長が差し出してきたのは、富田部長お手製のメニュー表だった。


「メニューはこれで合ってる?八木原さん。」

 富田部長はそのメニュー表を早織と僕、そして、結花に見せる。


 本当にかわいいイラストがついた、メニュー表だ。

 こっちまでドキドキしてしまう。


「はい。大丈夫です。ありがとうございます。」

「良かった。」

 富田部長が微笑んでいた。


 富田部長も、こうして、後輩が頑張ってくれていて誇らしいのだろう。それが凄く伝わってくる。


 そうして、富田部長は打ち合わせを進めていく。


 富田部長の指示で、次に、装飾班のリーダーで、今回のメイドの衣装を作ってくれた、赤城兄妹が登場する。

 いくつか、大きなスーツケースを持ってきており、メイド服が入っていた。


 改めて、赤城兄妹の作ったメイド服のクオリティの高さに驚く、僕たち。

 光沢感のある、まさに、とてもいいお屋敷で仕えているメイドたちを彷彿とさせる衣装だった。


「すごーい。」

「本当に綺麗。」

 と家庭科部員たちは目を丸くしている。


「本当に、すごいよね。家庭科でも、私は料理だけで、こういうのは、出来ないんだよね・・・。」

 早織はキラキラした瞳で、メイドの衣装にときめいている。


 確かに家庭科の授業では、料理以外でもこういう、衣食住の衣のこともやるよなぁ・・・。


 早速ではあるが、最終確認として、メイド服を早織、そして、家庭科部のメンバーに着てもらうことになった。

 それに興奮する家庭科部員たち。

 フロアの接客は基本装飾担当に家庭科部員たちが担当する。

 故に、装飾担当の家庭科部員たちの方が、調理担当の家庭科部員たちより、この文化祭で、メイド服を着る機会が多くなる。


 予算と時間の関係上、家庭科部員の人達の人数分のメイド服が作れなかったため、調理担当の多くの部員は、メイド服を着られることができる唯一の機会だったかもしれないと思い、余計に興奮する、調理担当の家庭科部のメンバー。


 しかし、調理担当の家庭科部員のかなでも、僅かな時間ではあるがメイド服が着られて、嬉しそうな部員たちとは対照的に。


「やっぱり、ちょっと、恥ずかしいかも・・・・・。」

 早織は顔を赤くしながら言ったが。


「八木原さんは、調理担当のリーダーということもあって、家庭科部のシフトの時間は、これを着てもらいます。きっと、お客さんとかに、料理の説明とかすると思いますので。料理を運ぶ調理担当の皆さんも、メイド服を着用して、こちらに来てください。」

 赤城兄妹の双子の兄、隼人が丁寧に説明する。

 その説明を聞いて、早織はさらに顔を赤くする。やはり、少し恥ずかしいのだろう。

 確かに、お披露目の時も、緊張していたよな。


「ほらほら、ハッシー、八木原さんに、何か言ってあげて。」

 結花が笑いながら、僕に言うと。


「とても似合ってる。大丈夫だよ。早織。」

 僕はニコニコ笑う。


 すると、その言葉に早織は少し安心したのだろう。

「う、うん。ありがとう。」

 だが、早織は、少し顔が赤い。そして。


「えっと、お、お帰りなさいませ、御主人様!!」

 早織は大きな声で言って、ぎこちなくスカートをたくし上げて豪快に会釈をしたのだった。


 その動作に笑う、僕たち。


 そんな感じで、諸注意等、全ての打ち合わせが終わる。

「えっと、それじゃあこんな感じで、皆さん大丈夫ですか?」

 富田部長が言う。


「えっと、事前に言っていたと思いますが、メイド服は数に限りがあって、フロア担当の人数分しか用意しかしていないので、シフトの時間に着回しする感じでお願いします。サイズはS、M、Lの三種類を用意しているので、このタグを見てください。皆さんの採寸をして、Sを多めに作っていますので。」

 赤城兄妹の双子の妹、未来がメンバーに伝えて、大きく頷く、家庭科部員たち。


「八木原さんは何か、ないですか?」

 富田部長がニコニコ笑いながら、早織の方を向く。


「えっと、皆さん、よろしくお願いいたします。」

 早織は大きな声で、頭を下げた。


「「よろしくお願いします!!」」

 家庭科部員たちは、楽しそうに、頭を下げた。


 そうして、諸々の準備を終えて、文化祭の開始時刻になった。

 開始時刻と同時に、僕は一旦家庭科部の持ち場を離れて、コーラス部へ。


「よろしく、輝君。忙しそうだね。」

 という、風歌の声。


「そうだね。」

 僕は風歌に向かって頷く。


「早織ちゃんがとにかく心配だね。私も、メイド喫茶、皆で行くから。」

 一緒に居た心音はウィンクしながら、僕に向かって言った。


「はい。ありがとうございます。」

 そうして、コーラス部の発表。

 心音と風歌の計らいで、僕のピアノ伴奏は、本当にコーラス部の発表会の一番最初に設定してくれた。


 ピアノ伴奏を終え、今年のコンクール報告会のステージが終わる。

 確かに、トラウマの中弾けるか不安だったが、文化祭、そして、早織のことが心配だったため、いざ始まってみると、僕のトラウマは、もう、眼中に無かった。


 コンクール報告ステージの演奏が終わり、大きな拍手の中、風歌がハイタッチをする。


「ありがとう。輝君。忙しいのに。」

 風歌は、ニコニコ笑いながら頭を下げる。


「やっぱり、コーラス部だけだと、トラウマを思い出しそうだから、ある意味、家庭科部を手伝って、正解だったかもね。」

 心音もそういって、舞台袖で、ニコニコ笑っていた。


「それじゃ、頑張ってね。」

 風歌はニコニコしながら。

「大丈夫だよ。橋本君と、早織ちゃんなら。」

 心音は、親指を立てて、元気よく僕を見送ってくれ、再び、僕の背中を見送りながら、再びコーラス部のステージへと向かって行った。


 文化祭の開始時刻から、かなりの時間が経過する。

 それに比例して、お客の入りもどんどん増えていく。


 家庭科部のメイド喫茶は、開始時刻から、お客の入りはとても上々で、どんどんお客さんが増えていき、廊下で席が空くのを待っている人も出始めた。


 込み具合を見ても、隣の教室の出し物と比較すると、かなり混んでいる。

 本当にお客の入りも上々だ。


 コーラス部の演奏から戻った僕は、そこから昼の時間まで、早織を手伝うことになった。


「あっ、橋本君は昨日着た福引大会の衣装を着用してね。生徒会の仕事もそれで出来るから。」

 赤城姉妹の双子の妹、未来の言葉に従って、僕は昨日同様、シャツにベストを着て、対応していた。


 そう、メイドはあくまで女子。ここは元女子校で、男子は、各クラスに一人。この場にいるのは、赤城兄妹の双子の兄、隼人と僕だけ。

 つまり、僕の衣装は、僕専用のものになっていて、ベストも僕に合わせて作ってくれたようであり、サイズがピッタリだった。

 早織は、開始時刻になってから、本当に忙しく稼働することになった。

 かなりのスピードで、注文の料理を作っていき、デザートとかを冷蔵庫から、出し入れしている。


 流石は、定食屋の娘。多少忙しくても慣れている。

 皆も早織の動きに付いてきている。特に、家庭科部員の中でも、飲食店とかで、アルバイトをしているメンバーもいるようで、その部員たちは、早織の動き、いや、それ以上に、稼働し始めてからの順応が早かった。


「みんな、すごく協力的で。私よりもすごいかも。」

 早織は、そういう部員たちの動きを見ながら、感心する。


 確かに、早織のお店は閑散としている場合が多かったからなぁ。と僕は思う。

 そして、早織も、


 そんな感じで、忙しく、メイド喫茶の業務をしている。

 僕は、早織の指示のもと、調理場と飲食の会場をメニューを運んだりして、行き来していると。


「よっ、少年。元気そうだな。」

 聞きなれた声がする。

 見るとそこには、加奈子のバレエの先生である、原田先生が立っていて。メイド喫茶で順番を待っている列に並んでいた。


 原田先生の姿を見て、少し驚く僕。


「文化祭なんだろ?外部の人がこうして来るんだ。私だって来てみたいさ。それとも、私が来て不服か?少年?」

 原田先生はにやにやと笑う。


「い、いえ。まさか来てくれるなんて、驚いただけです。ご来場、ありがとうございます。」

 僕は原田先生に頭を下げる。


「そうか。それなら、まあいいか。このまま並んで、入らせてもらうぞ!!」

 原田先生はニコニコ笑う。


「それにな。実は、ここは、私が通っていた学校でもある。ああ。ローザンヌで留学するので、すぐにここは中退するのだが、それでも、色々とな。」

 原田先生は、少し遠くを見るような瞳ではあったが、僕に対して、少し声のトーンを低くしながら言った。

「そうなんですね。」

 僕はなるほどと思いながら、頷く。

 原田先生もここに通っていたのかと思うと感慨深い。


「まあ、そう言うことだよ。それに、加奈子ちゃん含め、ウチの生徒もこの学校に通っている人が居るんだ。こういう文化祭で活躍するのを見るのも、楽しいよ。」

 原田先生はまた少し笑顔になり、僕に語り掛けた。


「はい。ありがとうございます。来ていただいて。」

 僕の言葉に原田先生はいつもの調子の表情に戻っていた。


 原田先生と言葉を交わして、調理室へ。

 するとそこへ、結花がやってくる。


「ハッシーお疲れ。ハッシーはこのまま休憩に入って大丈夫だよ。」

 結花がニコニコ笑う。

 そうか。もうシフトの交代の時間か。と思い、結花に引継ぎを済ませる。


「そうだ。結花も、そして、早織も一瞬、手を止められるか?」

 僕は結花と早織に言う。


 二人は頷く。

 実際に、シフトの時間であっても、保護者や知り合いが来たら、自由に話に行っている部員もちらほらいる。

 早織と結花も例外ではなく、他の部員もこの暗黙の了解を理解してくれたようで、僕の元へ行ってくるように、促してくれた。


 家庭科室を出て、隣の教室で設置されている、メイド喫茶の会場へ。

 見るとそこへは、原田先生が丁度、列の先頭に並び、スタッフに促されて、メイド喫茶に入っていくところだった。


 早織と結花も原田先生を見て、僕が、手を止めてこっちに来るように指示した意味を理解する。


「こんにちは。」

「こ、こんにちは。」

 結花と早織は原田先生に頭を下げ、挨拶をする。


「おう、二人とも元気そうだ。」

 原田先生はニコニコ笑う。結花と早織は、実際にバレエをやっているわけではないが、夏に加奈子と一緒に茂木の別荘に行ったこと、僕のピアノのコンクールに一緒に行ったこと、原田先生はよく覚えていた。


「は、はいっ。その、あの時は、雨の中、本当にありがとうございました。」

 早織は勇気を出して、原田先生に頭を下げる。

 雨の中、黒山に早織の真実を唐突に暴露されたあの日。早織は定食屋を飛び出し、橋から飛び降りようとしたところを、原田先生に助けられた。


「はははっ。あの時は、悩んで当然だ。少年から、聞いているよ。このメニュー、全部お前が作ったんだろ。」

 原田先生は、メニュー表を早織に見せる。

 早織は小さく頷く。


「自信持ちなって。それだけの料理ができるんだ。見て見な。周りを。お前は、ずっと調理のスタッフのようだし、会場全体を見る機会はなさそうだから、この時にでも。」

 原田先生は早織に周りを見るように促す。


「皆、お前の料理をおいしそうに食べているだろ。流石だよ。私だって、順番待ちして並んだんだ。なっ。」

 原田先生は、ニコニコと笑っている。

 早織は、目の奥にキラキラ光るものを見せて。


「はい。ありがとうございます。嬉しいです。」

「おう、まだまだ、文化祭。頑張れよ。」

 原田先生はそう言って、笑っていた。


 そうして、結花と早織は、調理場のシフトの時間もあるので、早々に戻って行き、僕が原田先生の元に、残る。


「少年、お前は見るからに休憩の時間のようだな。そしたら、ちょっと私に付き合え。色々話をしよう。」

 原田先生は、そう言って、僕を空いている向かいの席に促す。


 原田先生は、それを見ながら、飲み物と、フルーツのデザートを注文していく。


 運ばれて来た、料理を原田先生は感心するように、じっくり見ている。

 そうして、スプーンを手に取り、その味を確かめる。


 そして。

「ホラ、やっぱり、あの子はすごいよ。」

 原田先生は、大きく頷いた。

「はい。そうですね。少しずつではありますが、自分に自信を取り戻しているかなぁと思います。」

「だろうな。」

 原田先生は、頷きながら笑っていた。


 そうして、原田先生は周りを見回す。


「しっかし、コレ、よくできてるなぁ。ほら、メイドさんの衣装だ!!」

 原田先生は家庭科部のメンバーが着ている、メイド服を指さす。


「ありがとうございます。実は、同級生の子の手作りなんです。」

 僕は原田先生に説明する。

 その説明に、さらに驚いた原田先生。


「なんと、まさか、ここまでやるとは。」

 原田先生は驚きを隠せない様子だった。


 僕は辺りを見回して、赤城兄妹が二人とも、フロアで接客しているのを確認して。


「ああ、丁度作った子がいます。」

「おう、そうか。連れて来れるか。」

 原田先生の言葉に、僕は席を立ち、赤城兄妹を原田先生の元に連れて来た。


 メイド服を着ているからなのだろうか、コスプレをするときにはキャラクターになり切れるため、未来は元気よく、原田の元に来ることができた。


「こちらが、メイド服を作った、双子のご兄弟の、赤城さんです。」

 僕は原田先生に紹介する。


「えっと、こっちは僕の、えっと、ピアノを通しての知り合いの方で、メイドの衣装に興味があってね。」

 と、赤城兄妹に原田先生を紹介した。


「こんにちは。赤城未来です。双子の兄と一緒にこちらのメイド服を作りました。」

 未来は、謙虚でハキハキした声になる。

 おそらく、メイドを演じているのだろう。


「おお、そうか、ヨロシクな。私は、橋本君の知り合いの、原田です!!彼のピアノを通しての知り合いでね。普段は、加奈子ちゃん、ああ、ここでは生徒会長と言った方が分かり易いかな。その生徒会長のバレエの先生をしているよ。橋本君は加奈子ちゃんのバレエのピアノ伴奏もしているからね。知り合いなんだ。」

 原田先生はニコニコ笑う。


「よ、よろしくお願いします。」

「す、すみません、ご挨拶が遅れてしまって。」

 赤城兄妹は緊張した表情になる。

 “生徒会長のバレエの先生”、この言葉は、この学校においてのパワーワードかもしれない。


「はははっ、良いって。良いって。話したいと思ったのは、私なんだし。」

 原田先生がニコニコ笑う。

 しかし、赤城兄妹は案の定、そんなことを言われても・・・・。という表情だ。


「この衣装を頑張って作ったのだろう。クオリティが高くて、最高じゃないか。」

 原田先生は、ニコニコ笑う。


「はい。ありがとうございます。」

 未来はそれに返事をして頷く。


「これだけ作れるということは、他の衣装も作れるということか?」

 原田先生の言葉に今度は隼人が頷く。


「はい。そうです。」

 隼人は、家族で、そう言うお店を経験していること、兄妹のアトリエも持っていることを説明した。


「そうか、それはすごいな!!そしたら、君達さえよければ、是非、今度アトリエと、他にも作っている衣装を見せてくれないか。」

 原田先生はニコニコと笑いながら、会話をする。


「は、はいっ。よろしく願いします。」

 未来は原田先生の言葉に頷く。


「ハハハッ。そんなにかしこまらなくていいって。そしたら、また、その時、橋本君を通して連絡するからな。時間取ってもらって、ありがとよ。」

 原田先生はニコニコ笑って、赤城兄妹に頭を下げたのだった。


 そうして、原田先生は残っている料理を食べ終える。


 そして。

「さてと。少年!!お前の休憩時間のようだな。少し案内してくれないか?」

 原田先生はそう言ってにやにやと笑う。


 僕は頷く。


「ありがとうよ。少年も生徒会スタッフだし、お前の案内は心強い。よろしくな。」

 そう言って、原田先生は席を立ち、会計を済ませる。


「この少年、今から休憩時間のようだし、少し借りてくよ。」

 原田先生は、会計を担当した家庭科部員に行った、その部員も頷き、僕は原田先生とともに、メイド喫茶の会場を出て行くのだった。




今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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