118.福引大会(前日祭、その2)
体育祭が終われば、次は前日祭のもう一つのイベント、福引大会だ。
その体育祭の片付けと、福引大会の準備に、精を出す、僕たち、生徒会メンバー。
やはり、僕たちは、力仕事をこなしていくのだが。
「社長!!大丈夫っすか?」
「ハッシー、手伝うよ~」
義信と結花は、笑いながら、備品運びを手伝ってくれる。
さすがに、体育祭のリレーで走れても、物を運ぶなどの、パワー系に関しては、僕は得意ではないから助かる。
さて、そんな感じで、福引大会の準備は早めに終了。
ほとんどが、イベントなどの会場設営のため、事前に椅子を何脚、机を何台とあらかじめ、リストに記載しておけば、あとは図面通りに準備しておけば良かったので、早く終わることができた。
図面は書記である僕と早織が作成したのだが、ピアノのコンクールで忙しかった時期でもあり、ほとんどが、早織の作成したものだった。
本当に、早織は繊細で、見やすい図で助かっている。
その早織が、今度は、メイド喫茶の準備、そして、その先を見据えての活動で、今は忙しい。
助け合わないと。僕は思う。
そして、文化祭までの期間、早織には沢山のいいところがあるということも、改めてわかった。
そう、森の定食屋での黒山との一件以来、早織は感情の落ち込みが激しかったかもしれないが、それでも目標に向かって頑張る早織を応援しないと行けない。
「どうしたの?輝君。」
その早織が僕に声をかけてくる。
「ううん。ちょっとね。ありがとう。早織。あらかじめ、早織の作成した資料が見やすかったから、早く準備できたんだと思う。」
僕は早織に言う。
「よかった。役に立って。」
早織はニコニコ笑っている。
「こちらこそだよ。自信もって、頑張ろう!!」
僕は早織の瞳を見る。
「うん!!」
早織は大きく頷いた。
「お疲れ様!!そしたら、もう一度、福引大会の確認の打ち合わせをしよう。」
葉月がニコニコと笑いながら、こちらに近づいてくる。
その声とともに、福引大会の最終確認を行う僕たち。
「まずは。もう一回、景品が揃っているか確認しましょう!!」
加奈子がニコニコと笑っている。
そうして、僕たちは、先日決めた福引大会の景品が揃っているか確認する。
大丈夫だ。揃っている。
発注をかけた景品も、届いていた。
もしも届いていない場合は、目録で渡すことになっていたが、それも大丈夫そうだ。
「ふふふっ。大丈夫なようね。」
史奈がニコニコ笑いながら、僕たちを見る。
史奈の発言に僕は頷く。
「それじゃあ、ここからはこの人たちにも手伝ってもらおうかしら。」
史奈がウィンクして、僕たち生徒会メンバーのもとに赤城兄妹を連れて来た。
「あ、あの・・・・。」
「よ、よろしくお願いします・・・・・。」
赤城兄妹、兄の隼人と、妹の未来は緊張しながら、ペコペコ頭を下げる。
「そんなに緊張しないで、私たちがお願いしたんだから。」
史奈は笑う。
「は、はいっ。」
未来は緊張しながらも返事をする。
「えっと、お願いというのは?」
僕は史奈に聞く。僕は、なぜここに家庭科部の赤城兄妹がいるのか、まったく理由がわからず、驚いていた。
「ふふふっ。皆で、赤城さんたちのお家に行ったことがあるでしょ。その時に、輝君に内緒でお願いしていたのよね。」
史奈がウィンクする。
生徒会メンバーの女性陣も、史奈の言葉に大きく頷く。
「実は、福引大会用の衣装を作ってくれていたのよね。」
史奈が赤城兄妹に向かって言った。
「は、はいっ。」
妹の未来が緊張しながらも大きく頷く。
「うわぁ~。すごい!!」
僕は驚き、改めて、赤城兄妹にお礼を言う。
「それじゃあ、輝君と、義信君はこれを着てくれる。赤城さんたちが作ってくれました。私たちも着替えてくるから待っててね♪」
史奈の指示で、赤城兄妹が用意してくれた衣装に着替える僕と義信。
「カッコいいっすね、社長!!」
「あ、ああっ、義信も似合ってるよ。」
まるでカジノのディーラーに居るような。ベストとスラックス、さらには蝶ネクタイだった。
流石は赤城兄妹だ。大人の社交場の衣装の仕上がりだった。
「あ、あのっ、橋本君は、その衣装で、明日のメイド喫茶の接客をしてもらいますので、汚さずに、生徒会室とかに、保管していただけると。」
一緒に居た、赤城兄妹の双子の兄、隼人が僕に言う。
「おおっ。すごい。本当にありがとう。了解です。」
僕は笑顔で、隼人の言葉に応える。
「明日。見に行きますぜ、社長。」
義信も親指を立てて頷いていた。
そして。そんな会話の中に居ると。
「ジャーン!!お待たせ!!」
葉月がニコニコ笑いながらこちらに登場。
葉月の声がした方を振り向くと、僕は言葉が出なかった。そして、さらに、一気に胸の高鳴りが抑えきれなかった。
「おおっ!!すごいっすー、是非とも!!」
義信の大声が聞こえるが。
「へへへっ。でもごめん、輝君に最初に感想聞きたいなぁ~」
葉月は僕の方を向いて、クリクリした瞳で僕を見てくる。
葉月の来ている衣装。
それは、黒タイツ、黒の蝶ネクタイ。そして、頭の上には黒い大きな耳。
そう、バニーガールの衣装に身を包んだ葉月がそこに居たのだった。
そして、バニースーツの中から、胸の大きな谷間を覗かせる。
くるっと回って、尻尾があることもアピール。
少しお尻を振って、恥ずかしそうな顔をする。
白いフワフワのうさぎの尻尾・・・・。
僕は、それを見て、さらに、息を飲み。さらに凄くドキドキする。
「ど、どう、かな?輝君。」
葉月の瞳はまるで本物のうさぎのよう。お尻を振ってアピールをしていたのだろうか、少し恥ずかしそう。
一気に、体中を駆け巡る僕の血液が沸騰しそうな勢い。
「う、うん。と、とてもかわいい。」
照れたように僕は言う。
「あらあら、完全に輝君、ノックアウトしちゃったわね。」
次に現れたのは史奈だった。
史奈も葉月と同じ、バニーガールの格好をして、僕の横にピタッとくっつく。
「ねえ、輝君。後で、良いことしましょうね♪」
史奈も背は小さいながらも、大きな胸の谷間を覗かせる、いや、わざと僕に見えるような位置に回って、ニコニコと笑う。
「ハッシー、こっちも見てよ。」
同じようにバニーガールの服装をしている結花。
結花は葉月と同じように少し恥ずかしそうだが、史奈と反対側の僕の隣にピタッとくっつく。
同じように、大きな胸の谷間がのぞいている。
そして、葉月と同じように、だが、史奈は恥ずかしがる素振りもなければ、堂々と、後ろの尻尾を振ってくる。
そう、お尻を振りながら・・・・・。
何だろう、完全に何かの技を食らった感じがある僕。
そして。
「ひ、輝君。ちょっと、私は、恥ずかしいけど・・・・・。」
早織はドキドキしながら、同じようにバニーガールのコスプレをして現れた。
同じように、大きな胸の谷間が早織からも覗いているが、早織は、それをアピールしようともせず、かといって、お尻を振って、うさぎの尻尾がついているアピールもしなかった。
ドキドキしている、野うさぎ。まさにそのものだった。
「ふふふっ、赤城さんたちに作ってもらっちゃったのよね。」
史奈は赤城兄妹の方を向く。
「は、はい。み、皆さん、似合ってます。」
未来がキラキラした眼をしている。バニーガールの衣装を着た、憧れの生徒会メンバー、そんな感じなのだろうか。
隼人はやっぱり僕と同じ、男の子なのだろうか。僕と同じような表情をして、どうしたらいいかわからない様子。
「ふふふっ、そして、こういう衣装だから、加奈子ちゃんの下着を借りちゃったりして・・・・。」
史奈がにこにこと笑うと、葉月と結花、そして早織が顔を赤らめる。
加奈子の下着はバレエの衣装や練習着を着る想定もあってか、衣装と下着の部分が被らないように下着の面積が狭いものが多い。
なれていない面々はやっぱり恥ずかしそうだ。
そして。
「お待たせ、輝!!」
最後に加奈子が登場。
胸の谷間は他のメンバーより小さく見えていないが。
このバニーガールの衣装を誰よりも完璧に着こなす加奈子の姿があった。
こういう衣装は、体のラインがどうしても見えてしまう。
加奈子の、バレエの、綺麗な体のラインはより美しく仕上がっていた。
「ふふっ、やっぱりこっちにして正解だったわね。メイド服を着た加奈子ちゃんを見て思ったのだけど・・・・。」
加奈子の姿を見て史奈は笑っていた。
「そ、そうですね、会長。輝君も喜んでくれたみたいですし。」
葉月がそれに続く。
改めて、バニーガールの衣装に身を包んだ、生徒会メンバーを見回す僕。
最高の贅沢をしている、そんな気分だ。
「この前日祭は、福引大会だけでなく、仮装大会とフォークダンスを兼ねているんだよね。」
と葉月が説明する。
「そう、私たちだけじゃなくて、皆結構、いろんな衣装を着ているの。」
加奈子もニコニコ笑っている。
「まあ、私たちは福引大会の司会もあるから、こんな感じの衣装ね。改めて、よろしくね♪」
史奈がニコニコと説明し、頷く僕たち生徒会の一年生メンバー。
そうして、各々が着替えを終え、それぞれの場所にスタンバイする、生徒会メンバーたち。
会場には続々と、様々な仮装をした生徒たちが入ってきた。
そして、コスプレが好きな、赤城兄妹も衣装に着替えていた。
赤城兄妹の仮装は、有名なアニメのキャラクターらしい。
衣装の手伝いもしてくれていたので、僕は、赤城兄妹と少し話す機会があった。
「私たちは、文化祭の時もあるので、メインはそっちで。その、よろしくお願いします。花園学園グランプリの伴奏と、メイド喫茶。」
未来はそう言いながら、ニコニコと笑う。
コスプレのキャラクターを演じられる未来。未来の衣装のキャラクターは礼儀正しい後輩キャラクターなのだろう、と、考察できた。
「うん。よろしく!!」
僕はそう言って、再び、自分のスタンバイする場所まで歩き出していった。
そして、しばらくして、全校生徒が会場に集まってくる。
思い思いの衣装で、皆が歓談していたところに、僕たち生徒会メンバーが、体育館に設けられたステージに登場したところで、会場のヴォルテージはさらに上がった。
「皆さん!!お待たせしました!!これから前日祭恒例メインイベント、福引大会をやります!!」
生徒会長である加奈子が少し元気な声を出しながら、挨拶をする。
「「「キャーッ」」」」
「「「やったー!!!」」」
会場からの盛り上がりも最高潮。
「そしたら、司会を変わっていただき、この二人にバトンタッチします!!」
そうして、加奈子からマイクを渡される僕。そして、その横に立つ葉月。
僕は、緊張していたが。
「こ、こんにちは、福引大会の司会を務めます。生徒会の橋本輝です。よろしくお願いします。」
「「キャーッ」」
「「イェーイ!!」」
そんな声がする、会場。大きな拍手が沸き起こる。
「よ~く知ってるよ~!!」
そんな声もちらほら。
確かに、加奈子の推薦人、合唱コンクールの最優秀伴奏者賞で、よく知られていたのかもしれない。
そして。
「輝君と一緒に司会をやります、生徒会の花園葉月でーす。みなさーん、素敵な商品をゲットしちゃってくださーい!!」
葉月はそう言いながら、笑っていた。
そうして、僕たちは諸々の説明を行い。
福引大会に入っていった。
福引はシンプルで、学年、クラス、出席番号の三つの箱から、それぞれ数字の書かれている紙を取り出して、読み上げていく。
故に、この学園の生徒全員にチャンスがある。
「それじゃあ、行きますよ。まずは、家庭科部特製のお菓子で~す。」
葉月がニコニコと言う。
「輝君、箱から紙を取り出して、コールしてください!!」
葉月の指示で、僕は箱から取り出した数字を読み上げて行った。
「やったー!!」
当選した該当者が壇上に上がる。
景品を手渡していく、僕たち。
他にも、ボールペンや、キャラクターのシールがあり、そして、この間の生徒会のミーティングで決めた、図書券、ギフトカード、食事券、任天堂スイッチが当選者に手渡されていく。
食事券やスイッチの時は該当者は最高に盛り上がっていた。
そして。
「それでは続きまして、二等!!この県で一位、二位の宿屋に必ず食い込む。ホテルニューISOBEスイートルームペア宿泊券です。」
葉月の言葉に一気に会場が盛り上がる。
豪華な賞品に大盛り上がりだった。
葉月の指示で、学年とクラスを読み上げる僕。
「学年は、高校一年!!」
「クラスは・・・。B組!!」
司会を進めていく僕。
「出席番号は、三十九番!!」
僕はコールしたが・・・・。
「・・・・・?」
学年とクラスと出席番号、どこかで聞いたことがあるような・・・・・。
「はい、高校一年B組三十九番の方・・・・・・。って、輝君じゃん!!おめでとう!!」
葉月もびっくり。
僕はポカーン。
当たった感想を言うマイクが渡され・・・・。
「あ、あの、ありがとうございます。すみません。僕も司会やってて、司会に夢中になって、出席番号とか、どこかで聞いたことあるなぁと思ったのですが・・・・・。」
「ああ、確かに、そういうことよくあるよね~。」
と葉月からチケットの入った封筒を僕に渡してくれた。慌ててポケットにしまう僕。
まさか、自分が当選するなんて。と、思っていたのだった。
「やったね!!」
「おめでとう!!」
との会場の声。
そして、僕は深呼吸して。司会を進めるべく、次に切り替えていく。
1等は当然、東京ディ〇ニーランド、同じように当選者を読み上げて行った。
その当選者は、元気よく壇上に上がり、ピースサインでチケットをもらった。
そして、いよいよ。特賞、理事長の慎一からのスペシャル旅行券。
特賞の発表を始めるにあたって、理事長の慎一が登場。
「皆さん、楽しんでいてくれて何よりです。日ごろお世話になっている地域の方々に感謝を込めながら、最高の文化祭にしてください。来場者の中には、未来の後輩もいます。この学校に入学したいと思えるように、よろしくお願いします!!」
挨拶を述べる慎一。
そして。
「それではお待ちかね、旅行券は、私もいいものを手に入れました。なんと、沖縄です!!沖縄の一番有名なあの宿の旅行券が手に入りましたよ!!」
慎一の言葉に、会場のヴォルテージは最高潮に達している。
「はい、ありがとうございます。」
「うわぁ~すごーい。私も行きたーい!!」
僕と葉月は会場の仲間と同じように飛び上がりたい気持ちを押さえつつ、司会進行を行った。
「それでは、特賞は理事長に引いていただきましょう!!」
と、僕はアナウンスして、慎一はにこにこと笑いながら、箱に手を入れる。
「学年は高校二年!!」
慎一の取り出した紙を読み上げる。
高校二年らしき生徒は盛り上がった。
「クラスはC組!!」
さらに慎一は箱の中へと手を伸ばす。
C組と言えば、葉月たちのクラス。これは、二等を当てた僕に続いて・・・・・・。
花園学園の一クラスの人数は三十九人まで。四十人を超えるともう一クラス作らなくてはいけない暗黙のルールがある。つまり、三十九人に絞られている。
葉月か、加奈子が来るのか・・・。
葉月は、花園で出席番号はやや遅い方、加奈子は、井野、で出席番号は当然早い。どうだ。
さっき、僕が、ホテルニューISOBEのチケットを当てたとき、一緒に喜んでくれたんだ、葉月が当たったときも、一緒に喜ぼう!!そう心に刻んで、祈りながら待っていた。
慎一は、出席番号の紙を僕に渡してくれた。
「出席番号は、三十三番!!」
僕は元気よくコールする。
割合遅い方。葉月にワンチャンあるか・・・。だが、葉月の反応は、葉月自身はその福引に外れたようだったが、すぐにニコニコ笑っている。
その理由がよくわかった。
壇上に現れたのはよく知っている人物だった。
いや、正確には壇上の手前で戸惑っている。
特賞の当選者は風歌だった。
緑風歌。緑の‘み’、ということで、出席番号もこのあたりになる。
心音に引っ張られて、ステージの手前に連れて来られる風歌。
C組のメンバーとコーラス部のメンバーも一緒だ。
恥ずかしがりながら、壇上に上がるか迷う風歌。
「おめでとう、風歌!!」
僕は壇上手前に居る風歌に気付き、手招きをする。
僕に気付き、安心して、壇上に上がる風歌。
「あ、あの、ありがとうございます。う、嬉しいです。」
そういって、簡単な感想を言って、風歌は慎一から沖縄の旅行券をもらった。
風歌にとって、これが精いっぱいだろう。
しかし、旅行券を受け取った風歌はものすごく笑顔だった。
こうして、福引大会は終了して、フォークダンスに入る。
何人かとペアを組みながら踊る僕。
当然、その中にはバニーガール衣装の葉月たちも含まれる。
「やったね、輝君。」
葉月は笑いながらニコニコと声をかける。
「ありがとうございます。」
僕はそう言いながら、笑った。
加奈子ともペアを組む。
バレエが特技ということもあって、フォークダンスをリードしてもらう。
「こうやってやるのよ!!」
加奈子はそう言って、ニコニコと笑って、見本を見せつつ、僕もやってみる。
その後は、何だろうか、加奈子の指導のおかげか、とてもうまく踊れている気がする。
「輝君のピアノでのリズム感も持っているからだよ!!」
と葉月。
「私もそう思う、ここまで上達する人いないよ!!」
加奈子も頷く。
「しっかし、社長!!おめでとうございます。最高の準備をして、お迎えしますので、いつでも来てくだせぇ。」
義信の言葉に、改めて、福引が当たった嬉しさがある。
改めてポケットを確認すると、そこには、義信の祖父母が経営する、この県内でランキング一位、二位の常連、ホテルニューISOBEのチケットがあった。
前日祭はこれにて終了。
文化祭へと突入する。花園学園だった。
さあ、早織とともにメイド喫茶を頑張ろう。
僕は福引が当たった嬉しさで心が小躍りしていたが、早織のため、気持ちを切り替えていくのだった。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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