117.体育祭(前日祭、その1)
文化祭期間の前日。今日から文化祭の準備、つまり会場設営に本格的に取り掛かる。
日程は全部で五日間。
一日目の今日が準備デー。二日目が前日祭として、体育祭と福引大会が行われる。三日目、四日目が丁度、十一月の二週目の土日にあたり、ここが文化祭。そして、五日目が片付けの日だ。
当然、今日から、生徒たちは、その準備に大忙し。
そして、もちろんのことだが、僕たち生徒会は、その準備を取り仕切る組織なので、超大忙しだった。
一日目、二日目は、生徒会メンバーとの活動、つまり会場設営がメインとなる。
それが終われば、生徒会は全体を統括する見回りの役割となるので、文化祭が行われる、三日目、四日目は、家庭科部のメイド喫茶の手伝いと花園学園グランプリの司会進行となっている。
早速、生徒会メンバーで準備を行っていくのだが。
「社長、大丈夫っすか?」
義信の声に僕は頷く。
因みにだが、入学してから、僕は義信の中では随分と出征した。
上司から始まって、ピアノコンクールなどの活躍を経て、今は社長である。
随分と早い出世スピードで、将来、社会人になったときに、これぐらい出世が早いといいなと祈りつつも、僕は義信の声掛けにゆっくりと反応した。
しかし、その反応の鈍さが、義信に伝わっただろう。
「やっぱ疲れてるっすね。大丈夫っすよ。休んでください。」
花園学園、今年から共学になった元女子校。
一年生の各クラスに一人ずつ、男子がいる。
故に、いわゆる、力仕事は、僕と義信の仕事だった。
先ほどから、重いものばっかり運んでいるような気がして止まなかった。
確かに、こういう仕事は男子生徒向けなのだが。
そうはいっても・・・・。
僕の特技はピアノ。小さい頃は、マユと一緒に陸上教室に通っていたものの、運動部とかの出身ではないため、力仕事で出来ることはやはり限られてくるようだし、スタミナが落ちるのが少し早かったようだ。
その点、さすがはラグビー部出身の義信。力自慢だった。
「ハハハッ、やっぱりハッシー、力はなさすぎ~♪」
「ふふふ、無理しなくていいわよ。休んで。」
流石に、僕と義信だけでは、人出が不足しているので、結花と史奈も一緒に手伝っている。
史奈の方はずっとバレーボール部で、運動部出身者だし、結花の方も、心音と一緒に居た、元ヤンキーということもあって、体力はあった。
「ごめん、ごめん、僕も、男子なのに・・・・・。」
結花のリアクションに手を挙げる僕。
「な~んてね。ハッシーにはハッシーの特技があるし、アタシもそれで助けてもらったからお互い様!!」
結花は笑顔を見せる。
流石は、心音と一緒にヤンキーをやっていた経験のある結花。
そして、そのやり取りを微笑ましく笑いながら見ている史奈。
恥ずかしい話ではあるが、力は僕よりも結花や史奈の方がありそうだ。
「あ、ありがとう。結花。」
僕は恥ずかしそうに言うが。
「あっ、今のは、心音パイセンからの受け売り。アタシも昔は、力のない男なんて、相手にしていなかったし・・・・。」
結花は顔を赤くしながら、僕の背中を叩き、親指を立てて、ウィンクする。
「うん。ありがとう。」
僕はそう言いながら、再び、準備作業を続けた。
確か、心音の方が先に突然ヤンキーから足を洗ったと言っていた。
その時に、彼女も一緒に、足を洗ったのだろうか。あまり、細かいことは聞かないでおこう。
今の結花は、ヤンキーから足を洗い、持ち前の明るさを存分に出しているのだから。
そうして、この一日の準備作業を進めて、翌日の二日目、前日祭のイベントの一つ。体育祭を迎えた。
学校内を見回すと、文化祭の色とりどりの装飾がなされていた。
その一つ一つが本当に丁寧に装飾が施されており、さすがは、今年から共学になった元女子校だった。僕では、こういうデザインが思いつかないし、たとえ思いついたとしても、こんなに上手に仕上げられそうにない。
この二日目も一通りの準備を終えて、生徒会室へ。
「お疲れ様、それじゃ、最初のイベント、楽しんでね!!」
葉月はニコニコと笑いながら、僕たちを出迎えてくれる。
ここまでの準備の労をねぎらうかのように。
そうして、加奈子と葉月からの諸連絡を終えて、僕たちはクラスの元へ向かうのだった。
体育祭はクラス対抗。
グランドと体育館で色々な競技が行われる。
ちなみに一年の男子は力加減を同じにしたいため、出場種目をこちらで指定されており、バスケットボールとリレーに出場することになっていた。
そうなると当然、僕もバスケットボールとリレーに出ることになった。
まずは、バスケットボール。
結花と、早織も一緒に出場するというので心強い。とはいっても。
僕は球技はとても苦手だったため。
やっぱり、運動部の女子たちにはとても太刀打ちできなかった。
「ハハハッ、やっぱりハッシー。運動、苦手だね・・・・・。そしたら・・・・。」
結花は笑いながら、パスを促し、一気にゴール下まで、ドリブルをする。
そして。
結花のシュートは見事ゴールを決めた。
「ナイス!!そして、ごめん。」
と結花とハイタッチをする僕。
「大丈夫、大丈夫。流石にアタシも3ポイントシュートは出来ないけど、確実に行こう!!」
結花はそう言いながら、確実に攻めていった。
しかしながら、相手チームにバスケットボール部員が居たのだろう。
「負けちゃったね。でも、ナイスファイト!!」
結花はニコニコ笑っていた。
「うん。ごめん、そして、ありがとうね。フォローしてくれて。」
僕は結花に向けて頭を下げたが。
結花は首を横に振っていた。彼女は、この試合を楽しんでいたのだった。
「気にしなくていいよ、私なんか何もできなかったし・・・・。」
早織はハアハア言いながら、僕たちをフォローしていた。
「うんうん、運動部の多いチームに見事食らいついたな、よくやったぞ。」
担任の佐藤先生も、そう言って、迎えてくれた。
バスケットボールの試合は、僕たちはその後見学することになるのだが。
義信のE組が圧倒的に強かった。
運動部もそこそこ居たし、なんといっても、義信の身長。あれは女子たちにとっては反則だった。
「一年のバスケットボールはE組の優勝だね。」
僕は結花に笑いながら、生徒会用の記録をつける。
「ハハハ、義信の身長、あれはやっぱり反則だね。」
結花も笑いながら、そう言っていた。
そうして、他にも球技の試合がいくつかあり、その度に応援と、生徒会役員として、記録をつけていった。
その中には、バレーボールもあり、史奈はここでも大活躍だった。
葉月、加奈子、そして、心音と風歌はテニスに出場し、見事なダブルスを見せていた。
そして、最後の種目。
「最後の種目はクラス対抗リレーです。一発逆転の大チャンス!!グランドに集合してください!!」
司会のアナウンスのもと、高校の生徒全員が、グラウンドに集まる。
クラス対抗リレー。まずは一年生の部。
「アンカーは今年から共学になったということで、各クラスの唯一の男子です。ということなので、アンカーのみ、走る距離はトラック一周、四百メートル、その他の走者は半周ずつの二百メートルずつとします。」
司会のアナウンスのもとリレーが始まる。
よーい。ドン!!
一走者目からリレーが始まる。
なるほど。四百メートルなら・・・。
僕はマユと一緒だった小さいころを思い出す。
記憶を呼び戻している時でも、リレーは二走者目、三走者目とバトンが続いて行く。
僕はそれでも緊張の中、全神経を集中させた。
僕のクラス、一年B組は、現在四番手。
アンカーの僕の一つ前の走者、結花がスタートする。
結花はクラスの人気者でもあって、運動神経もあったから、こうして、リレーの選手に選ばれている。
順位は変わらず四番手。
それを見て、スタートラインに並ぶ、僕。
同じくスタートラインには、共に入学した、クラス唯一の男子生徒が並んでいた。
その中には、義信と、赤城兄妹の双子の兄、隼人の姿も。
一番手のクラスはE組。やはり運動部が多いクラスがトップだ。
すぐにバトンが義信に渡り、アンカー義信がスタート。
二番手、三番手のアンカーもスタートしていく、唯一の男子だからだろうか、良いところを見せようと必死だ。
そして、四番手、結花からバトンを受け取る。
「頑張って、ハッシー。」
僕は頷いて、走り出す。
精一杯やるだけ。何だろうか、心のどこかで余裕がある。
一人目を抜いていく。
「おお、B組の橋本君が一人抜いた。合唱コンクールの最優秀伴奏者賞以外でも、特技があったようです!!」
会場から、おおっ。という声。
そんな声も聞こえず、集中する僕。
マユだったらもっと早いよな。たとえ、長距離の選手でも・・・。
僕はそう思いながら、走っていく。
二人目も一気に抜いて、二位に立つ。
三人目も抜いていきたい、つまり、トップを走る義信に勝ちたい
だけど。
彼はラグビー部出身者。つまり、動ける○○だった。
運動部の割合が多いE組。これまでの貯金を使い、独走状態でゴール。
そして、二位が僕たちのクラスだった。
「すごいっす、社長!!まさか、まさか、こんなに迫ってくるなんて。」
義信が駆け寄ってくる。
「まあ、小学生までは一応、こういう競技やってたことあるから。」
「おおっ。凄いっすね!!」
義信がにこにこと笑う。
「ハッシー、ナイスファイト!!」
結花が笑っている。
「ごめん、やっぱり、E組独走は阻止できなかった・・・・。」
「ハハハッ、別にいいよ~。運動部の割合が多いんだもん、大丈夫、大丈夫!!」
結花がポンポンと叩く。
「すごいですね、橋本さん。」
ハアハアと息をしながら近づいてくるのは、A組男子、赤城兄妹の双子の兄、隼人だった。
「まあ、何とかね。小学校の記憶を呼び覚ますのに必死だった。」
僕は隼人にもこたえる。
「まあ、ハッシーと隼人君には、別の特技があるから。むしろ、そっちの方が高く評価してるし、大丈夫。大丈夫。今回は、義信が目立たないとね。」
結花がニコニコ笑う。
その後、二年生、三年生のクラス対抗リレーが終了して、体育祭の全種目が終了。
「皆様、お疲れさまでした!!これより、得点を合計しますので、しばらくお待ちください。得点を合計している間に、エキシビションとして、部活対抗リレーを行います。出場できる部活はどうぞお集まりください。」
と、司会の放送部のアナウンス。
そうしたところに、葉月が駆け寄ってくる。
「すごいじゃん、輝君。」
葉月はニコニコ笑う。
「そうね。流石はマユちゃんと一緒に陸上教室に通ってた、と言ったところかしら・・・・・。」
史奈がニコニコと笑った。
「と、言うわけで、輝君と義信君が大健闘したので、エキシビジョンマッチ。部活対抗リレーに、生徒会も参加してみたいと思いま~す!!」
葉月が親指を立てて行った。
「良いよね、加奈子!!」
葉月は加奈子を見る。
「えっ。まあ、良いけど・・・・・。」
加奈子は葉月に向かって頷く。
なんと、生徒会も部活対抗リレーに参加することになった。
やる気満々の義信と結花。
僕も渋々ゆっくりと頷いた。
そして、リレーの代表者は七名。
生徒会メンバーは、葉月、加奈子、史奈、結花、早織、義信、そして僕。
丁度七名だ。
風歌と心音はコーラス部だし、マユは違う学校だ。
早織も、渋々の表情だったが、結花がなだめて。
「大丈夫、ハッシーと義信が何とかしてくれるよ!!」
と結花の言葉に早織の表情が変わる。
「うん、そうだよね。私も頑張る。」
と、少し安心した早織がそこに居た。
「はははっ。頑張ってみる。」
「おう、任せてくだせえ。」
僕は少し緊張して頷く。その一方で、義信はドヤ顔で、自分の胸を拳で叩きながら大きく笑った。
そうして、リレーのスタートラインに並ぶ。
よーい。ドン!!
スタートの号砲が鳴った。
第一走者の早織。案の定後方からのスタートでバトンは第二走者の葉月へ。
しかし、トップとの差は広げられていく。
第三走者は加奈子。ここから一気にギアをあげたい。
加奈子も、原田の合宿の走り練習で鍛えられているはず。
頑張れ、加奈子!!
「さあ、生徒会の新旧会長同士のバトンリレーだ!!」
アナウンスが入り、第四走者の史奈。
ここからは女子でも運動部経験者が続く。
差は縮まるか・・・・・。
しかし史奈も、球技が得意で、こういった競技は慣れていないのか、トップとの差が埋まらず。
そして、第五走者の結花へ。
結花は一チーム抜き去ることが出来た。
さあ、ここから差を縮めたい。
第六走者の僕。結花からバトンを受け取り、一気に走り出す。
だが、先ほどのクラス対抗では四百メートル分あったが、ここでは半周、二百メートルの距離。
僕も一チーム抜いて、一つ順位を上げることがやっとだった。
アンカーは義信。
流石の義信も、二チーム抜くことは出来たが、オール運動部で構成された女子チームには勝てなかった。義信にバトンが渡るまでの差が大きすぎた。
「ああっ、ごめんね、なんか言い出しっぺの私が足を引っ張っちゃったみたいで。」
葉月は笑いながら頭を下げる。
「そんな、気にしないで。なんだかんだで、僕、すごく楽しかった。」
何だろうか。確かに、一位にはなれなかったが、生徒会メンバーは、クラス以上に一緒にいる時間が長い。
絆を深められた気がする。
「そうね。クラス以上にみんなを応援したくなっちゃったわ~。」
史奈がニコニコ笑う。
義信も、結花も、そして、早織と加奈子も頷いていた。
「それではエキシビションはこの辺にして、体育祭の合計得点の結果が出ましたので発表します!!」
そして、司会の放送部員から、一年E組の優勝がコールされた。
なんと、E組は一年生は勿論、上級生のクラスも差し置いて優勝してしまったのだ。
確かに、運動部員の多さと、一際、体の大きい義信のパワーは反則だったに違いない。
にこにこと笑う義信達は、こっちも誇らしかった。
「さあ。引き続き、文化祭の準備を頑張りましょう。一六時に前日祭の後半戦、福引大会を行いますので、体育館に集合してください。それでは。」
そんな司会の挨拶で、前日祭のイベントの一つ、体育祭が終了したのだった。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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