115.史奈の誕生日、そして‥‥。
気づけば、十月も最後の週末になっていた。
文化祭準備は、とてもスムーズに進んでいった。
さて、文化祭だが、家庭科部と生徒会の他に、コーラス部の活動もあることを忘れてはならない。
家庭科部と生徒会打ち合わせの翌日は、心音と風歌に迎えられ、コーラス部で、コンクール報告のステージの練習をすることに。
「大丈夫?輝君。」
風歌に問いかけられる。
合唱コンクールの報告。つまり、安久尾に嫌がらせされたときに演奏した曲をやらなければならないのだが。
「ちょっと橋本君の様子を見つつ、伴奏聞きながら最初、歌っていきましょう。」
心音も僕のことを心配してくれているのか、最初は、伴奏に合わせて指揮を振ってくれていた。
僕は、終始落ち着いていた。もう、済んだことだし、それに今は、早織の方が心配だ。
しかし、その心配の対象となっている早織も、今、自分を、自分自身を変えていきたいと、必死で、全力で頑張っているのだ。
僕も負けてはいられない。
そんな気持ちで、一気にピアノを弾いていく。
「うん。大丈夫そうだね。」
心音が頷いて、だんだんと練習のギアを上げていく。
そのギアを上げた心音に、僕もついて行くことができたし、コーラス部の皆も同じだった。
こうして、コーラス部の練習も、快調に進んでいった。
「良かった。輝君の調子が戻って。」
風歌は安心しきっていた。
それは、心音も同じで、大きく頷いていた。
そうして、平日の出来事が目まぐるしく、過ぎていき。
今日、あっという間に、十月最後の週末を迎えていたのだった。
週末の土曜日は、赤城兄妹のアトリエに行って、風歌とともに、【花園学園グランプリ】の練習をした。
練習も順調で、某、プ〇ュアのコスプレをした未来は、本当にそのキャラクターになり切っていて、終始、大和撫子の振る舞いをして、僕と風歌のことを丁寧に気遣ってくれたのだった。
そして、翌、日曜日。
僕たちは、地元の焼肉店に来ていたのだった。
一緒に居るのは生徒会メンバーの、史奈、葉月、加奈子、結花、早織、そして義信だ。
この焼肉店は、早織のアイディアでも出ていた、文化祭の福引大会、そして、【花園学園グランプリ】の景品にある、食事券のお店だ。
本当に、地元では有名店で、地元の人間でこのお店を知らない人は居ないらしい。
ここのお店に来た目的は、二つ。
一つは、過ぎてしまったが、史奈の誕生日会。十月二十四日が史奈の誕生日なのだが、何日か過ぎてしまっていた。
そして、もう一つ。それも史奈に関係することなのだが・・・・。
先日の生徒会室。その日は、久しぶりに史奈もやってきた。
しかも、ニコニコしながらやって来た。そして。鞄からあるものを取り出す。
「ジャーン!!」
史奈が得意げに、僕たちに見せてきたもの。
それは、大学の合格通知だった。
「おめでとうございます!!」
「すごーい!!」
皆で拍手喝采になる。
合格した大学は、雲雀川経済大学。マユの付属高校の母体となっている大学だ。
この大学は、中堅クラスの、地元に密着した全国でも数少ない公立大学だった。自治体は勿論、地元の企業が共同出資して成り立っていた。
故に、学部も法、経済、商、社会情報(介護福祉学科、情報システム学科)、農学部という、就職にも役に立ちそうな学部で構成される。さらには、地元の就職に役立つ授業が展開され、在学中に何らかの資格合格をする人も多いことが特徴的だ。
史奈は地元企業、瀬戸運送の社長令嬢でもある。勿論、瀬戸運送もこの大学に協賛金を出している。
そのまま、地元に就職、もしくは瀬戸運送の総務に入るのであれば、史奈にとって、この大学合格は最高の結果である。
生徒会長の実績、中学時代のバレーボール部の実績、高校でもレギュラーではなかったが、バレーボール部で活躍していたし、このスポーツ特有の、史奈の弱点、“身長の低さ”を克服するために頑張ってきたこと、そして、史奈自身の部活や生徒会でのコミュニケーションの高さ。
このすべてを考慮した結果。自己PRや調査書類の内容はほとんど埋まる。
推薦総合選抜を兼ねたAO入試で、見事ホームランを叩き出したのだった。というより、このホームランは必然的に生まれたといっても過言ではなかった。
皆で合格を喜んだが。
同時に寂しさも覚えてくる。
一年次の半分が過ぎてしまった。と改めて実感する。
確かに推薦や、AO入試は、秋ぐらいに合格が発表され、卒業までにはまだまだ、期間があるのだが・・・・。
「どうしたの?輝君。」
史奈がニコニコ笑う。寂しさを覚えた僕の表情が変わったからだろうか。史奈はそれを見逃さなかった。
「あの、実は・・・・・。」
正直に話す僕。
「優しいぃ~、大好き!!」
史奈が抱きしめてくる。
「でも、ずっと地元にいるから、遊びに行くわよ~。」
史奈がニコニコ笑う。
「うん。それ、私も思ってた。」
「そうよ、絶対地元の大学進学を良いことに、絶対毎日ここに居そう。」
葉月、加奈子が笑う。
「バレたかぁ~。」
「「バレてます。」」
皆が声をそろえて言ったので、確かにそうだと僕も思った。
しかし、そんなこともあったか、大学合格という結果は変わらない。
史奈の誕生日と大学合格祝いを兼ねて、史奈の大好物のお肉。
地元で良質なものを提供するが、その分、お金が少しかかってしまうという、そんな地元の焼き肉店に来ていたのだった。
高校生ということもあって、僕は伯父に、葉月は理事長に、そして、合格を勝ち取って、誰よりも祝福していたという、瀬戸運送の人達に少し金銭的に援助してもらって、史奈の大学合格と誕生日パーティーをするのだった。
僕は他の県で育ったため、このお店には初めて来た。
「長年、地元から愛されるお店だよ~。少し値段は高いかもだけど、とっても美味しいの。」
葉月はこのお店のことを簡単に説明する。
皆が食べたいメニューを注文していく。
僕は男子ということもあって、かなり食べる方であり、一緒に来ていた義信に習って、ご飯の大盛と、キムチの盛り合わせを注文し、あとは食べたい肉と、スープを注文した。
メニューが揃ったところで。
「瀬戸会長、誕生日と、大学合格、おめでとうございます!!」
加奈子がにこにこと笑って挨拶した。
拍手する、生徒会メンバー。
「それじゃあ、皆で、カンパーイ!!」
「「「カンパーイ!!」」」
加奈子の言葉で、乾杯し、肉をひたすら焼いていく僕たち。
十分に焼いて、口に入れてみると、とっても美味しかった。
「すごい美味しいです。こんな焼肉生まれて初めてかもしれない。」
僕は素直に感想を言う。
「でしょ、でしょ。一緒に頼んだキムチとかも美味しいから食べてね♪」
葉月の言葉に頷き、一緒に頼んでいた、キムチと、スープも口に入れてみるとどれもおいしかった。
今日の主役の史奈は大満足。
史奈の希望でこのお店がいいということになり、プレゼントも、このお店の食事代ということになっていた。
「ふふふ、やっぱり、ここは違うわね。」
ニコニコ笑う史奈。
本当にお腹いっぱいで、満足そうだった。
改めて、おめでとうを言い、このお店の焼肉に、史奈とともに大満足した、僕だった。
そして、いよいよ、十一月を迎える。すぐに、生徒会の、さらには、この高校のメインイベント、体育祭・文化祭を迎える。
僕たち生徒会メンバーは、再び、気を引き締めて、準備をしていくのだった。
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