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111.ヒーローの言葉

 

 隼人の用意してくれたキーボードに向かう僕。

 先ほどの一件で、双子の赤城兄妹は、服職人だけでなく、コスプレイヤーとユーチューバーをやっていることがわかった。


「す、すごいじゃん、ハッシー。YouTubeでアニソンのピアノの伴奏じゃん。マジで聞きたーい!!」

 興奮状態の結花。


「すごいよ!!輝君。チャンネル登録者もそこそこ居るし。輝君もYouTubeデビューだね。」

 葉月はさらに続ける。


 僕は照れながら。

「まあ、僕のピアノコンクールの演奏は既にYouTubeに上がっているものがあるので。デビューではないですが・・・・。」


「アハハ!そうだよね。」

 葉月がニコニコ笑う。


「でも、こうして、誰かのチャンネルに、こうしてオファーを頂けるのは初めてですね。」

 僕は、少し照れる。

 皆も頷く。改めて、皆の顔を見る僕。


「まあ、皆が言うなら・・・・・。」

 そういって、僕は、先ほど隼人から受けっとった青鬼のお面をつける。

 だが、お面をつけると、僕は少し戸惑う。


「どうしたの?ハッシー。お面とても似合っているし、この状態だと、動画上では、ハッシーの顔はバレないと思う。」

 確かに結花のいう通りだ。お面をつけていれば、僕の顔はネットにさらされるリスクは半減される。


「うーん。まあ、そうなんだけど、ちょっと視野が狭くて、やりにくい感じかな。それに、少し、頭が、きつくて。」

 僕は正直にお面をかぶっての感想を言う。

 僕の視野はほとんど遮られていた。こうしてみると、盲目のピアニストの人というのは本当にすごいと思う。

 しかし、今回は、お面だ。頭がきついという方が問題で。圧迫されている感じがある。

 そして、呼吸もしにくい。流石にそれは少しやりずらい。


「ああ、確かにきつそう。」

 結花が状態を確認する。


「申し訳ござらぬ。すぐに直しましょう。」

 双子の兄、隼人が僕に謝る。


「ああ、確かに、そうなんだけど。視野が狭い、そして、このお面だと、呼吸もやりずらい、というのも問題で・・・・。暗譜だったら行けそうなんだけど。楽譜を見て演奏することはこの状態だとできないかも。すぐに動画の撮影なら、楽譜がないと無理かな。」

 そして、僕はさらに続ける。

 お面をかぶって戸惑っていると、色々なリスクもあることがわかった。


「そして、ごめん、色々な懸念事項もわかってきて、この後も、僕のコンクールが続くと思うし、加奈子のバレエとか、他にもいろいろあるから。僕のピアノの練習とか、生徒会とかで、実はパンパンだったりするから、定期的に、毎回の動画に出演するのは無理だと思う。それに、そうなっても、練習に割ける時間も少なくなるので、楽譜がないとまずできないかも。」

 僕は正直に言ってみる。


 そして、あることを思い出す。確か、お面ってこういう造り以外のものあったよな、紙袋を被ったりとか。


「えっと、確か、紙袋に青鬼のお面をデザインして、十分に目の部分を開けてもらって、それを被って、楽譜をみて、演奏するということなら、いけるかもだけど。あったよね。紙袋を被って、表面に青鬼のデザインをして、それをお面にするやり方って。そうすると少しではあるけど、顔とお面に空間ができるから・・・・。」


「「「ああ~。」」」

 赤城兄妹。そして皆が納得する。


「そして、僕は別に、お面とかつけずに、顔が映っても問題なさそう。既に、いくつかコンクールでの僕の演奏が上がってるみたいだし・・・・。」

 僕は赤城兄妹の方を向いて、青鬼のお面を外して、そう言った。

 うん、確かに、こっちの方が視野が開けて、楽譜も見ることができる、当たり前だが、少し楽だ。

 お面をつけての演奏は、はっきり言って、慣れが必要だろう。


 そうして、ピアノを弾こうとしたが。

「まって、ハッシー。確かに、そうなんだけど。」

 結花が僕の肩をポンポンと叩く。

 一緒に心音がこちらに向かってくる。


「マジごめん。動画に出れるというので、テンション上がっちゃったけど、ハッシーの言葉を聞いて、結構ヤバいことに気付いた。」

 結花が僕に謝ってくる。そして、一緒に僕の元に来た心音も大きく頷く。


「ヤバいって言うと。」

 僕は結花に言う。

 結花は僕に耳を貸すように言った。


「だって、ハッシー、今この時期は、例の安久尾建設の連中が逮捕された直後だよ。コンクールの動画もそうなんだけど、安久尾建設の連中のおかげで、ネットのニュースに、ハッシーが載っちゃってるし。しばらくは様子を見た方がいいかも・・・・。たとえ、お面をつけての演奏でも。」

 結花が僕に話をする。

「あっ。そうか。」

 僕は頷く。


「うん。それに、橋本君は勿論なんだけど、その動画で、影響が出そうなのは、おそらく、赤城さん達と、八木原さんにも影響が出てきそう。特に、八木原さんが一番影響が出るかも。この間の、黒山っていうジジイも、年寄りの割には、ネットのニュースを見ているようだし、この場所とか、特定されそう。そうなってくると、コスプレ状態の赤城兄妹は別として、普通の状態の赤城さんたちが対応するとなると・・・・。」

 結花の話に、心音が補足する。


 恥ずかしがり屋で内気な、赤城兄妹。魔法がかかっているのは、コスプレの時のみ。

 そうなってくると、色々な人がここを訪ねて来て、普段の赤城兄妹が対応すると、少し厄介だ。


「なるほど・・・・。ちょっとまずいですね。」

 僕は大きく頷く。


「なになに~どうしたの?」

 葉月が聞いてくる。

「輝。それに、心音と結花も。どうした?」

 加奈子も心配そうだ。


「どうしたのだ、師匠。悩みがあれば、聞くが。」

 赤城兄妹の双子の妹、未来、いや、メイドのキャラクターのコスプレをした未来が、厨二病万歳の口調で聞いてくる。


「ちょっと、生徒会の皆、集まってくれる。話したいから。ああ。えっと、生徒会メンバーで話をしているその間に。えっと、ハッシーに動画に出てもらう前に、真面目な話をしたいので、赤城さんたちはお面外して、着替えてきてもらって、良いかな?」

 心音がそう言って、赤城兄妹に指示する。

 赤城兄妹は着替えに戻り、生徒会メンバーと風歌を集めて、先ほどの結花と心音とのやり取りの話をした。


「あちゃ~。」

「そうだよね。」

 葉月と史奈が、うんうんと頷く。


「そっか、まだまだ。影響があるし、今一番まずいのは早織よね。」

「うん。八木原さんも折角、立ち直れたのに。」

 加奈子と風歌が、大きく頷く。


「ご、ごめんね、輝君、私なんかのために。」

 早織は頭を下げるが。

 僕たちは首を振る。


「大丈夫だよ。早織。僕も気づけて良かった。」

 僕は大きく頷く。

「そうね。まして、ここで撮影するとなると、この場所も問題よね。」

 史奈が窓の外を見て言う。

 赤城兄妹のアトリエは、雲雀川の、霧峯地区という場所だ。同じ地区には、黒山の経営するレストラン、【洋食屋のKUROYAMA】がある。

 この場所を特定され、黒山に突撃されても困るのだった。


「お、お待たせしました。」

「あ、あの、着替え終わりました。」

 着替えて普通の服に戻った、赤城兄妹。


 そこには、やはり、少し人見知りで、恥ずかしがりやな双子の姿があった。

 この姿を見て安心する僕たち。

 やっぱり、さっきの決断は間違ってなかったと察する。


「えっと。お話というのは。」

 双子の兄、隼人が聞いてくる。


「うん。まあ、結論を言うと、ハッシーは、しばらく動画に出演できなそうなんだよね。理由なんだけど。大丈夫?ハッシー。」

 結花が僕の方を見る。


「まあ、僕の件は大丈夫。ネットのニュースを見て補足してくれれば。それよりも、早織の件は黙ってて。」

「そうだね。」

 僕の言葉に結花は頷く。そして、同じく頷く、生徒会メンバーと心音、風歌。


 そうして、結花は、赤城兄妹にネットのニュースを検索するように指示し、僕のこと、安久尾建設のことを話した。

 やはり、僕も辛いことを思い出してしまうので、皆がいろいろとフォローしてくれた。

 そして、今年から共学になった元女子校に僕が来た経緯と、今、動画を投稿したら間違いなく、いろいろと問題が起こることも指摘した。

 そして、最後に、厨二病全開で、僕たちに頼んできたことも話した。そして、それが、本当にそのキャラになり切っていて、素晴らしかったことも話したのだった。


「ご、ご、ご、ごめんなさいーい。私たち、そんなこと・・・・・。」

「ほ、本当は、橋本さんに動画出演を、依頼するときは、コスプレではなく、普通の状態で、と思ったのですが、勇気が出なくて・・・・・。」

 やはり予想通りな反応。

 隼人と未来は、口元を覆い。一生懸命に頭を下げる。


「そ、それに、橋本さんが、そんな過去を持っていただなんて。本当に、ごめんなさい。それに、橋本さんの、他のスケジュールの件の調整もしないで、無視してしまって。た、確かに、そうですよね。」

 未来がさらに続けて言う。そして、さらにかしこまってしまう、赤城兄妹の二人。


「ううん。別に気にしてないからいいよ。それに、二人とも、変身した姿でないと、ハッシーに頼めなかったんじゃ・・・・・・。」

 結花はニコニコ笑いながら、双子の目を見て笑う。


 赤城兄妹は、お互い目を合わせて。

「そ、それは。」

「そうかも。」

 二人は大きく、コクっと頷いた。


 僕もその頷きを見て笑顔になる。


「今言った感じで、ハッシーは、しばらく動画に出演できなさそうなんだけど・・・。」

 結花の言葉に、赤城兄妹が落胆する。


「まあ、それも、無期限というわけではなくて。そうだね。ここに居る生徒会長のバレエのクリスマスコンサートが終われば、動画は作れるんじゃない。その時期が駄目だったとしても、遅くても来年の春には動画は出来そうだよ。」

 結花の言葉に、少し希望に満ちた表情を取り戻してく、赤城兄妹。

 来年の春。そう、【春のキングオブパスタ】が行われる。そこに早織が出場して、もう一度一歩を踏み出してくれれば。


「それに、赤城さん達も、文化祭までは忙しいんじゃない。」

 結花が赤城兄妹に聞く。

 赤城兄妹は、確かにと、頷いている。


「ふふふっ、良かったわ。それに、別にYouTubeのために演奏しなくてもいいんじゃない?こういうのはどう?赤城さん達と、輝君で、文化祭のメインイベント、【花園学園グランプリ】に出て見ない?」

 史奈がニコニコ笑って、提案する。

 赤城兄妹は、その言葉を聞いて。あっ、という表情になる。


「そこであれば、問題ないんじゃない。」

 史奈の言葉に僕は頷く、確かにこういう特設ステージでの出演あれば、僕のスケジュールやネットのニュースなど、色々な問題が緩和されてくる。そして、赤城兄妹と早織が、安久尾建設や黒山のさらなる被害に遭う可能性も低くなる。


 しかし。

「あ、あの、えっと、僕たち・・・・・。」

「ど、動画の中でだけなら・・・・・。」

 赤城兄妹は結花の提案に驚きの後、一気に不安そうな表情をしたが。


「大丈夫!!自信持ちなよ。」

 と、双子の肩をバシッと叩く。


「う、うん。」

「わ、わかった。」

 と、まだまだ緊張していたが。


 結花は僕と赤城兄妹に向かってウィンクする。

 僕も頷く。


 赤城兄妹はコスプレをして、出演することになる。

 それならば、やり切ってくれると、僕は信じていた。

 そして、彼ら二人は、変装しているキャラクターから勇気をもらえる日が来ればいいなと、僕は思った。


「とりあえず、その件も含めて打ち合わせしよう!!やりたい曲、どんどん言ってみて。ハッシー、何でも弾けちゃうから。」

 結花は赤城兄妹に向かってにこにこと笑っていた。


「え、えっと。」

「やりたい曲。」

 赤城兄妹は少し戸惑う。


 それを見かねた、史奈と葉月。


「ふふふっ、いきなり言われても迷っているわね。そうね。そうしたら、私からも赤城さんたちにお願いがあるのだけど、良いかしら。」

「あっ、会長ずるい。そしたら私も、赤城さんたちに頼みたいことあるのに。」

 そうして、史奈と葉月は赤城兄妹に向かって、ひそひそと内緒話をしている。

 その内緒話の内容に、赤城兄妹の表情はパアッと明るくなる。


「はい。是非喜んで。」

「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 隼人と未来は頭を下げていた。


「というわけで、私たちも打ち合わせのために、衣装に着替えてくるわね。」

 史奈がニコニコ笑う。

「ほらほら、加奈子も行くよ。ああ、心音と風歌も行くよ。」

 葉月は大きく手招きをする。


「それじゃ、待っててね。」

 葉月は僕と、早織、結花、義信に向かってウィンクする。

 今度は生徒会の二年生、三年生メンバーが着替えに行ってしまった。


 そして、数分後。


「おまたせ、輝君・・・。じゃなかった。お帰りなさいませ。ご主人様。」

 葉月がニコニコ笑う。

「あらあら、葉月ちゃんもなり切っているわね。どうかな。輝君。」

 史奈がクスクス笑っている。

 二人とも、メイド服がとても良く似合っている。


「ひ、輝。」

 加奈子のメイド姿。こちらは少し恥ずかしそう。

「お、お帰りなさいませ。ご、ご主人様。」

 加奈子の裏返る声は、とても新鮮だった。


「よく似合ってる。恥ずかしそうな加奈子も初めて見るかも。」

 僕はニコニコと笑って頷く。

 そして、心音は緊張している風歌を連れ出して現れる。

 心音と風歌もメイド服がとても良く似合っていた。


 そして。

「えっと、この格好でやるの・・・・。」

 赤城兄妹の妹、赤城未来は先ほどとは違う、別のメイド服を着て現れた。

 今度の衣装は、確かにメイドではあるが、メイドとカフェの店員を足して二で割ったような衣装。

 頭には金髪のカツラと、メイドのヘアバンドを装備している。


「ふふふ。そうよ。花園学園グランプリの曲を一緒に考えるのではなくて。」

 史奈がニコニコ笑っている。


「そ、それは、そうなんですけど、皆さん、その、そうそうたる先輩たちの前で・・・・。」

 未来はものすごく恥ずかしそうだ。


 明らかにコスプレしている未来。今度のメイドキャラはこういうキャラクターなのだろうか。


「ふふふっ、そう思って、差し入れ用意しておいたわ。ワンドリンク、飲む?」

 史奈がニコニコ笑いながら、カフェラテのようなものを差し出す。

 それを飲む未来。


 すると・・・・・。


「イェーイ!!」

 さっきまでのテンションはどこへやら。


「皆、こんにちはーぁ。」

 未来がものすごくハイテンションで元気に声をかける。


「こ、こんにちは。」

 僕はそのテンションの差に驚いて、声が裏返る。


「んー。元気が足りないかなぁ。こんにちはーぁ!!」

 未来の言葉にさらに盛り上がる、僕たち。


 そして。

「それじゃあ、聞いてね。レッツゴー!!」

 未来の言葉に、隼人は赤鬼のお面をかぶり、再び、【赤鬼メイド】のライブが始まったのだった。


 彼女の歌が終わり、拍手を贈る僕たち。


「すごい。すごい。ごち●さの、シャ●ちゃんだね。」

 結花がニコニコ笑う。


「えっと。このキャラクターというのは・・・・・。」

 僕が皆に言う。


「ああ。これ。いま、赤城さんがコスプレしているキャラクターはね。コーヒー、カフェインを入れると酔っぱらって、テンションが上がるキャラクターなのよね。」

 史奈がニコニコ笑って、説明する。

 おそらく、そのアニメを見ているであろう、結花と風歌が大きく頷いている。


「結構人気で、アニメも三期くらいやってたかな。私も知ってるよ。」

 葉月はニコニコ笑う。

「僕も知ってるっすよ。社長、出てくるキャラクター、みんな可愛いっすよ。」

 義信は親指を立てて笑っている。


「そうなんだね。なんだか楽しそうだから、今度見て見ようかな。」

 僕は皆の言葉に頷いた。


「輝先輩、改めて、花園学園グランプリのご提案、ありがとうございます。こんな私でよければ、一生懸命、頑張っちゃいます。憧れの輝先輩と一緒なら・・・・。」

 未来は顔を赤くしながらも、明らかにコスプレをする前とは全然違い、堂々としている。


「はい。拙者もかたじけないでござる。」

 赤鬼のお面をかぶっていた、隼人も頭を下げた。



「で、輝先輩は、花園学園グランプリで、何の曲がやりたいですか?アニソンに限定しちゃって、申し訳ないのですが。」

 未来が聞いてくる。


「えっと、何でもいいよ。むしろ、ほとんど、僕はクラッシックピアノばっかりだったし、こういう最近のアニメに結構疎かったり。今コスプレしているキャラクターも、有名みたいだけど。僕、あまり知らなかったし。むしろ、楽譜を渡してくれれば。」


 僕は、そう言って、皆を見回す。



「そしたら、改めて、二人に決めてもらえばいいんじゃない。赤城さん達も、申し訳なさがあるかもしれないけど、大丈夫だよ、ハッシーどんな楽譜渡されても凄く上手いもん!!」

 結花の言葉に僕は頷く。


「そしたら、二人は何がやりたいの?これ?ごち●さ?シャ●ちゃん?」

 結花の言葉に赤城兄妹が顔を見合わせる。

 二人は深呼吸して頷きあう。


「そしたら。先輩に。」

「うん。是非やって欲しい曲があるのでござる。とってもピアノが綺麗な曲なのですが。」


 隼人と未来はそう言って、この衣装部屋の別のクローゼットを開ける。

 そこにもやはり衣装がたくさんあって、その一つを取り出す。


「こ、これはっ。」

 今度は僕の目が一気に見開いた。


 僕は、赤城兄妹が取り出した衣装に、一気に惹きこまれた。


 その衣装は、水色をベースにした綺麗な衣装だった。

 浮かび上がってくるのは、雪と氷。その雪にはすべてを浄化する効果があって。そう、優しさと勇気が満ち溢れる衣装で、双子の赤城兄妹は、その表現を繊細に、丁寧に作って再現していた。


 未来がこの衣装を着なくてもわかる。

 この衣装は、僕が小さかった頃からずっと、ずっと、日曜の朝にやっている、あのシリーズだ。


 そして、この衣装を着ている、キャラクターも見たことがある。

 さらに言えば、このキャラクターの登場する作品は、唯一、このシリーズの中で、僕が全話見たことがある作品だった。

 お話の内容が、とても良いストーリーで、かなり気に入っている。


 確かこのキャラクターのキャラソン、つまり、キャラクターソングが、ものすごく印象に残り、歌ランキングで、このシリーズの、オープニングやエンディング曲よりも上位に来ていた。


 だから、この衣装を見たときにピンと来たのだった。


「これは、僕も知っているよ。プ●キュアだね。確か、このキャラクターの、キャラソン、すごく有名で、聞いたことある。」


 確かに、あの曲は、ギターではなく、ピアノと弦楽器のストリングスでやるからとても美しい。


「すごく、憧れ。この、ヒーローの言葉が印象に残って。」

 未来の言葉にすぐにみんなが反応する。


「うんうん。本当にこのシリーズはお話もよくて。」

「そうそう。」

 満場一致で、頷く。

 やはり、日曜朝のヒーローの言葉はやっぱり、心に響くものがある。


 実際に、このキャラソンが使われている場面をスマホの動画で確認する。


 この場面も、一番感動する場面の一つであり、少し、大きくなってから見ると、心に来るものがある。

 やっぱり、とても感動的だ。


 誰かに敷かれたレールではなく、初めて、自分の意思で未来を選ぶ。

 そうやって、悩んでも、勇気を振り絞って進み、成長していく。


 ここまでの過程。安久尾建設の一件もあり、このキャラクターの言うように、“寄り道”や“回り道”を繰り返していたのかもしれない。

 しかし、今はどうだろうか。その分、仲間に囲まれている。

 そして、それは早織だって、早織のご家族だって当てはまる。


 色々と思い出して、僕は頷く。

「これ、やっぱり、最高。唯一、このシリーズは全話見たことがあってさ。かなり、楽しくて、感動する話がたくさんあって。今見ると、僕も、頑張らないとと思う。」

 何だろうか。僕も勇気が湧いてくる。


「この曲で良いと思うよ。最高だよね。」

 僕は深呼吸して、赤城兄妹の方を向く。


「あ、ありがとうございます。先輩。」

「かたじけないでござる。師匠。」

 隼人と未来は、大きく頷いて、僕に頭を下げた。


 よし。頑張って、やってみよう。僕はそう深呼吸する。

 赤城姉妹の言うように、確かに、このキャラソンは、ピアノと弦楽器のストリングスが必要だ・・・。


 そう思ったとき、僕の頭の中に、クエスチョンマークが浮かび上がった。

 そして。

「ピアノやるけど。やっぱり、この曲、弦楽器、欲しいよね・・・・・・。」

 思ったことを口にしてみる。



「私、それ、やる・・・・・・。」


 手を挙げたのは風歌だった。

「このアニメ、大好き。恥ずかしいけど、今も、日曜の朝、見てる。きっと、未来ちゃんもそうだよね。」

 未来は風歌の言葉に頷く。


「ストリングスは、エレクトーンや、シンセサイザーで代用できると思う。ある?かな?私も、この女の子、好き。頑張ろうって、思った。」

 風歌の言葉に頷く、赤城兄妹。


 聞けば、キーボードも、シンセサイザーもあるとのこと、動画を始めたときに、買ったらしい。いつか、出来る人を探して、保管しておいたのだそうだ。

 そして、花園学園にも弦楽器の音が出るキーボードがあるそうだ。


「あ、ありがとうございます。風歌先輩。」

 にこにこと笑う未来。


「ありがとう風歌。ごめん、負担掛けさせちゃって。」

 僕からも頭を下げる。


「いいの、ひ、輝君がこうして、頑張っているから。私も・・・。」

 風歌は頷き、ニコニコ笑う。



「うん。頑張ろう!!」

 僕はそう言って、改めて、風歌と赤城兄妹と握手を交わして、練習を始めたのだった。


 隼人にキーボードと、シンセサイザーを用意してもらい、未来はプ●キュアの衣装に着替える。

 シンセサイザーから奏でる、弦楽器の音色、そして、未来のプ●キュアになり切った、透き通った声。

 こうして、双子のアトリエで一日を過ごした僕たち。

 メイド喫茶の衣装合わせと、花園学園グランプリの最初の練習が、本当に実りあるものになった、今日一日だった。




 


今回もご覧いただき、ありがとうございました。

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