110.双子の覚醒
「実物とかあるの?過去に作った奴とかで。」
結花が隼人と未来に話しかける。
「えっ。あ、あるには・・・・・・。」
「あるけど・・・・・・。」
双子の隼人と未来が頷く。
そうして、過去に作ったメイド服の実物を見せてもらうことになった。
そのメイド服が保管されている、双子に案内され、アトリエにつながる別の部屋へ。
その部屋は、メイド服だけでなく、過去に作った衣装すべてを保管する部屋なのだろうか。クローゼットがたくさん敷き詰められている。
隼人は、クローゼットの一つを開けてくれる。
そこにはメイド服は勿論、その他にも、いろいろな服があるのだが。
メイド服は勿論、他の服に関しても、どれも普段着るような服が入っていないような気がする。
明らかに魔女を思わせるような服、巫女服、どこかで見覚えがあるような・・・・・・。
「すごいね。」
葉月がニコニコ笑う。
「うわ~。たくさんの服がいっぱい。どこかで見たことあるような服もありそう・・・。」
ここまで無口に近かったコーラス部の風歌も、さすがにこれには瞳の色をキラキラさせていた。
「メイド服は、これと、これと・・・・・。」
隼人は恥ずかしがりながらも、メイド服に該当する服を指さしていく。
「うわぁ。すごい。」
結花はそう言って、手を伸ばしてメイド服をクローゼットから取り出し、床に広げ始める。
「こんなのがたくさんあるんだぁ。」
結花は少しはしゃいでいた。
そして、生徒会メンバーもその服、一着、一着に、興味津々だった。
そして、僕も一緒にメイド服を見ていくが、どこか恥ずかしそうにしている赤城兄妹の姿がある。
「ご、ごめん、何か僕たちが、はしゃいじゃって、その。実物見ないと思って・・・・。」
僕は隼人と、未来に謝る。
同じく頷く生徒会メンバーたち。
「う、ううん。き、気にしないで。」
未来が首を振る。
「そ、そうだよ。み、皆さんは悪くないから。」
同じく隼人が首を振る。
二人のお言葉に甘え、しばらく服を眺める僕たち。すると。
「ねえ、ねえ、着てみてもいい?」
結花が隼人と未来に尋ねる。
「えっ。」
驚く未来。
「べ、別に、良いけど。そ、それは、み、未来のサイズだから・・・・・。」
隼人が言う。
「そうなんだ。じゃあ、赤城さんも一緒に着よう!!ああっ、そうだ、八木原さんも一緒に着よう!!八木原さんも着れば、当日のイメージが湧いて来るよ♪」
結花はメイド服を自分の分、そして、早織と未来の分をそれぞれ取り出す。
結花の提案とはいえ、お互いに顔を見合わせる、隼人と未来。そして、早織。
「は、はいっ、そうですよね。」
早織は結花の言葉に頷く。自分が着ればイメージが湧くと判断したのだろう。
しかし。
「えっ、一緒に・・・・・。」
少し戸惑う未来のすがた、すぐに兄の方を見る。
そして、少し緊張しながらも、深呼吸して。
「べ、別に・・・・。」
「良いけど・・・・。」
隼人と未来は戸惑いながらも、顔を見合わせ、ほんの少し、首を縦に振った。
「さあ、早く、早く♪それじゃ、着替えてくるね♪」
結花は、未来に着替える部屋に案内させる。
そうして、メイド服を着替えに行った、結花と早織、そして、未来。
待つこと数分。
「ジャーン。ハッシーどう?」
メイド服を着た結花がニコニコ笑いながら立っている。
黒の光沢のあるベースの衣装に、メイドのエプロン。まさに、正統派メイドという感じだ。
「では、では、ゴホン。」
結花は深呼吸をして。
「お帰りなさいませ。ご主人様♪」
結花は早速、メイド服のスカートをたくし上げて、挨拶をする。
「うん。とても良く似合ってる。」
僕は結花に親指をあげて合図をする。
「へへへ。ありがとう。でも、アタシが着るとなぁ。もっと、正統派系の子が似合うという意味で、八木原さんと、赤城さん。早く早く。」
結花は早織と未来を手招きする。
まず最初にやってきたのは、早織。
「ひ、輝君。どうかな?」
少し緊張しながらもニコニコと笑って、結花と同じようにメイド服を着ている早織、結花の来ているメイド服のデザインとは微妙に違うが、こちらも正真正銘のメイドさん。
「えっと、お、お帰りなさいませ、ご主人様!!」
早織は緊張しながらも、挨拶した。
「うん。とってもかわいい。」
僕はニコニコと笑う。
生徒会メンバーも、心音と風歌も同じだった。
「あ、ありがとう!!」
早織は少し安心した。
そして。早織の次に、未来がやって来た。
未来がやって来たのは良いし、メイド服を着ているのは良いのだが・・・。
何だろうか、着替える前とは違い、未来は堂々とした姿勢でやって来た。
それは、メイド服を着る前と、着た後では、雲泥の差ともいえるべき佇まい。
「フフフッ。ハハハーッ。」
未来が高らかに笑う。
「ああ。我が同志たちよ。今宵も深淵の淵に立たされ、迷える子羊となっている姿が良ーく見える。」
先ほどの未来とは違う声。
「あ、赤城さん、一体どうしたの?」
僕は未来に尋ねる。
「な、なにが起きたの?」
結花が聞く。
「我は、赤城未来ではない。我が名は、【黒川エリザベス】。コードネームは【カプチーノ】だ!!」
「・・・・ん?」
首をかしげる僕。
「あっ。」
と驚く結花。そして、心音と風歌、さらには葉月も驚いている。
「どういうこと?」
驚く結花たちに僕は尋ねる。
「へぇ~、この衣装、どこかで見たことあると思ったら。上手いじゃん!!ハッシーこれこれ。」
結花はスマホを見せる。
【冥土バトル】というゲームアプリの公式サイト。
メイドと、冥土を掛け合わせ、メイドたちを育成して、戦うゲームらしい。
その中に、今、赤城未来が着ている衣装、そっくりそのままのキャラがいる。それが、【黒川エリザベス】というらしい。
そのキャラクターのいくつか台詞を聞くに。うん、典型的な厨二病のキャラだった。
なるほど、コスプレかぁ。よくできている。
「へぇ、赤城さんって、コスプレが趣味だったんだ。流石は服職人だね。」
結花が得意げになって、聞いてくるが。
「何を言うのだ?我が名は【黒川エリザベス】と言っているだろう。赤城未来など、我は知らない。」
完全にこのキャラクターになり切っている。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。妹と僕の趣味なんです。だから、あまり衣装は見せたくなかったと言いますか。」
これを見た未来の双子の兄、隼人が僕たちに頭を下げる。
「何言っているの?別に良いじゃない。すごくよくできているコスプレじゃん。」
結花が笑顔になる。
僕も頷く。何だろうか、とても元気になる。
「は、はい。妹は、普段は恥ずかしがり屋なのですが、コスプレをしている時だけ、どんなキャラでもなり切れるんです。」
隼人が説明をする。
なるほど。素晴らしい趣味であり。僕はいま、覚醒した赤城未来を見てしまったというわけだ。
「ふふふ。さあ、我が兄よ。そなたも、我とともに今宵の宴を始めよう。我が同志たちを歓迎せねばなるまい。さあ、これを。」
隼人が未来の言葉に頷く。未来、正確には【黒川エリザベス】と言った方がいいだろうか?
未来が隼人に差し出したもの。それは、赤鬼のお面だった。
隼人はその赤鬼のお面をつける。
「あーっ。」
再び、驚く結花。
「ああ。我が妹よ。今宵もボディーガードとして、見届けよう。」
お面をつけた隼人の第一声。
なるほど、隼人もお面をつけたことによって、覚醒しているようだった。
「フフフッ、早速だが、我らの正体に気付いている同志もいるようだ。それに、我らが師匠になってもらいたい同志もいる。最高の宴と行こう!!」
未来の言葉に、隼人は別の部屋から、ギターを持ってきた。
そして。
おそらく、【冥土バトル】のテーマソングを歌う。
そして、さらに、未来がコスプレしている。【黒川エリザベス】のキャラソンらしきものを歌った。
なぜ、二曲目に歌った曲が、キャラソンだとわかったのかと言えば。
前者に関しては、戦うということもあり、勇気が湧いてくる歌で、後者は、明らかに厨二病の言葉を羅列した歌詞だった。
そしてどちらも迫力のある演奏だった。
思わず拍手をする僕たち。そして、さらに驚き、拍手をする結花。そして、生徒会メンバー。
「す、すごーい。」
結花は興奮している。
「赤城さんたちは、【YouTube】にも出てるでしょ?見たことある。」
結花はニコニコ笑いながら二人に問いかける。
「「いかにも!!」」
声を揃えて頷く、赤城兄妹。
「ハッシー。見て見て。」
再び結花はスマホを取り出す。そして。YouTubeの画面を僕に見せた。
【赤鬼メイド】というチャンネルで、そのYouTubeの動画には、そっくりそのまま、メイド服を着てカツラを付けた妹と、赤鬼のお面を被った兄が、ギターを弾きながら歌っている。
他にも、様々なアニメのキャラクターコスプレもしており、アニソンやゲームのテーマソングの動画投稿が次々となされていく。
そして、チャンネル登録者、視聴回数、高評価の数も、かなりの数がある。
勿論、トップユーチューバーと比べれば、彼らはまだ高校生なので、動画投稿頻度も少ないことから、かなり少ない規模のチャンネルなのだが。
改めて、赤城兄妹のすごさに出会う僕。
二人は服職人であり、コスプレイヤーであり、ユーチューバーだったのだ。
「早速、我々を受け入れてくださり、光栄である。」
「はい。とても感謝の気持ちでいっぱいです。」
未来と隼人は結花に頭を下げる。
そして。さらに二人は、さらに歩み寄り、最敬礼で、僕、そして、心音と風歌に頭を下げる。
「そして、お会いできて光栄に思います。師匠!!」
「師匠。私も感激です。」
何が何だかわからない僕。
「師匠?僕が?」
僕は完全に戸惑っている。
「いかにも、先日の校内合唱コンクールでの、一年生での最優秀伴奏者賞。我が心の深淵の奥の奥まで響き渡り、ああ、七色に輝く、美しい、そのピアノの奏でる音や。」
未来は【黒川エリザベス】になり切っている。
「さらにはそちらのお二人は、最優秀指揮者賞に、金賞クラスの伴奏。さらに我が心はさらに深淵の奥の奥まで、光を照らしたのだ。」
未来の言葉に、心音と風歌も一礼をする。
「ふふふっ、ありがとう。」
「へへへっ、ユーチューバーの人達に褒めてもらえて、嬉しい。」
心音と風歌はニコニコ笑った。
「私も、とても感動したでござる。」
隼人は赤鬼らしく、末尾に日本の言葉をつけて対応する。
なるほど、そう言うことか。確かに、あれだけのアニソンが歌えて、音楽をやっていればそうなるよな。
僕もどんな形であれ、音楽をやっている仲間に出会えて光栄だ。
「ああ、僕も音楽をやっている、仲間に出会えてうれしいよ。」
僕は素直な気持ちを二人に言う。
二人は目を見合わせる。そして、涙を浮かべる。
「ああ、感動しました。どうか、師匠と呼ばせて共に、我々を弟子に加えていただけないでしょうか?」
未来が言う。
「どうか、キーボードという形で、僕たちと一緒に動画にご出演していただきたく。」
隼人が、未来の厨二病満載の言葉を僕と風歌に分かり易く翻訳してくれる。
そう言って、隼人が持ってきたものは青鬼のお面と、キーボードだった。
「はははっ。そしたら。少しだけなら。」
「ありがとうございます。師匠。」
隼人が深々と頭を下げる。
「感謝します。師匠。」
未来も深々と頭を下げる。
そうして、僕は青鬼のお面を受け取り、キーボードへ向かうのだった。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
少しでも続きが気になりましたら、下の☆マークから高評価とブックマーク登録をよろしくお願いいたします。




