108.家庭科部、そして、葉月の誕生会
「うわぁ~。八木原さん、コンタクトにしたの?」
「すっごく可愛い!!」
家庭科室に入る僕たち。
やはり、家庭科部員たちも早織のコンタクトデビューの話題で持ちきりだった。
「あ、ありがとう。」
早織は恥ずかしそうに、頬を赤くし、家庭科部員たちに頭を下げる。
そして、家庭科部の文化祭準備が始まるのだが。
「えっと、まず初めに、素晴らしいコンタクトデビューを果たした、八木原さんからお知らせです。」
家庭科部の部長さんからニコニコ笑う。
「あの、えっと。ありがとうございます。私が兼部している、生徒会メンバーのお二人が、文化祭のメイド喫茶を手伝ってくれます。生徒会の橋本君と、北條さんです。」
早織は僕たちを紹介してくれる。
「うぁ~。来てくれたんだ。」
「ようこそ~。」
そんな黄色い声援があり、拍手をする家庭科部員たち。
早織に促され、前に出る僕と結花。
「橋本輝です。よろしくお願いします。」
僕は頭を下げると皆からさらに大きな拍手が飛ぶ。
「よく知ってるよ~。」
「推薦人と最優秀伴奏者賞を取った子だよね~。」
家庭科部員たちはニコニコ笑っている。
続いて、結花も自己紹介する。
こちらも、ニコニコ笑いながら拍手を贈る家庭科部員たち。
「そしたら、二人とも、よろしくお願いします。私は家庭科部部長の二年A組の【富田奈津季】です。よろしくね。」
家庭科部の富田部長が挨拶をする。
「「よろしくお願いします。」」
僕と結花は深々と頭を下げる。
「よろしく。そしたら、八木原さんと一緒に、そこの席に座ってね。」
富田部長は、家庭科室のあいている席に僕たちを促す。
「さてと。そうしたら、文化祭準備デーの最初の打ち合わせをやります。といっても、やることは決まっているので、後は準備だけです。精一杯頑張りましょう。」
富田部長はニコニコ笑いながら挨拶をする。
「「「はいっ。」」」
部員たちは、大きく返事をした。
「それでは、橋本君と、北條さんも聞いているかもしれなですが、家庭科部は毎年恒例の『メイド喫茶』です。いつもは料理担当と衣装担当に分かれて、当日の衣装とメイド喫茶のメニューを準備します。そして、今年は一年生にどっちもエース候補がいるので、それぞれの担当のリーダーに大抜擢します。」
富田部長の英断に部員たちは拍手を贈った。
「料理担当のリーダーは、八木原早織さん。お爺様直伝の料理は絶品。歴代の地元の総理大臣も来たことがある、お店の店長の孫娘。既に、彼女の作るデザートは、お店に置いてあります。」
富田部長は早織を自慢するように言う。
皆もそれに拍手を贈る。
「ということなので、橋本君と北條さんは八木原さんのサポートということを、生徒会長から聞いているので、それをお願いね。普段料理の活動をしている部員は、料理担当をお願いします。」
「「「はいっ。」」」
富田部長の言葉に、返事をする、料理担当の人達。
「そして、衣装担当のリーダーは、二人。双子の【赤城兄妹】にお願いします。ああっ、橋本君と北條さんは初めてだよね。そしたら、自己紹介しましょうか。」
富田部長は赤城兄妹の方を向いて、自己紹介するように促す。
立ち上がった一人は、女子生徒。そして、もう一人はなんと、男子生徒だった。
「あのっ。えっと、ふ、双子の妹の【赤城未来】です。一年A組です。よろしくお願いします。」
「えっと、兄の【赤城隼人】です。」
なるほど、どうやら、七クラスあるうち、A組の男子が、赤城隼人というわけだ。
「は、橋本さんのことは、よ、よく、存じ上げております。合唱コンクールの最優秀伴奏者賞。生徒会長の推薦人と。ご活躍されていて。」
妹の未来がニコニコ笑っている。
「「よろしくお願いします!!」」
僕と結花が頭を下げる。
「二人の活躍はすごいわよ。ご両親もそういう衣装を作る会社を持っていて、この双子もそれを手伝っていてね。双子のアトリエまであるのよ。」
富田部長が教えてくれる。
「すご~い。」
「なんとっ。」
結花と僕は目を丸くする。
「あの、是非、お二人とも、そして、八木原さんを含めて、今度、アトリエにいらしてください。というより来て欲しいです。皆様、衣装の採寸がまだなので。」
妹の未来が頭を下げる。
「あ、あのっ、橋本さんも、メイドの衣装はあれですけれど、僕と一緒の、その、男性用の制服を作りますので。」
隼人はすぐに未来の言葉を補足する。
「すみません。ありがとうございます。」
僕は赤城兄妹に頭を下げた。
どうやら、ここに居るメンバーの中で、メイド服の衣装の採寸がまだなのは、僕と結花と早織の三人。
他のメンバーの採寸は先日の早織が休んだ、あの日、黒山と遭遇した翌日に済ませていたらしい。
「わかりました。行かせていただきます。」
僕は頷く。結花と早織も同じだった。
「はいっ、ということなので、週末、二人のアトリエで、三人とも忘れずに採寸受けてね。赤城兄妹が腕によりをかけて、衣装を準備してくれるわ。
その他の普段、被服の活動をしている皆さんは、赤城兄妹のサポートと、当日の装飾、会場設営、そして、フロアの運営を行います。調理担当の人はおそらく当日は調理で忙しいので。よろしくお願いします。」
富田部長はニコニコと笑っていた。
その言葉に頷く部員たち。
そうして、今日の残りの活動は、調理担当と衣装担当に分かれて活動することになった。
全体の統括と指揮は、富田部長含め、二年生、三年生がやってくれるとのことだった。
衣装担当は、会場の装飾もあるので、その会場の装飾の打ち合わせ。
そして、僕たち調理担当は、試作品の製作と、レシピの共有だった。
早速、早織は、普段、【森の定食屋】でどんな料理を作って出しているのか、実演することに。
「いきなりですみませんが、普段作っている、デザートから行きます。パスタとか、食べ物はまた次回以降で。私も練習しないといけないので。」
早織はニコニコ笑いながら頷く。
他の調理担当の部員たちも大きくなずいた。
早織は慣れた手つきで、卵をボウルに割って、牛乳、水、砂糖、そして蜂蜜と、ボウルに入れてかき混ぜていく。
「蜂蜜は隠し味で少量。生地に練り込む。ということなので、生地を作ります。」
他の部員たちも同じようにやって、ボウルが全部で三つ出来た。
一つのボウルからはそのまま、生地を取り出し、フライパンで焼いていく。
そして残り二つは、一つにはイチゴジャムを、もう一つのボウルはぶどうジュースを入れて混ぜ込んでいく。
そして、残り二つの生地も、ボウルから取り出し、フライパンで焼いていく。
「オーソドックスに、パンケーキの生地です。普通の風味と、イチゴ味、ぶどう味を作りました。」
そうして、パンケーキが何枚か焼きあがる。
その間に慣れた手つきでフルーツを刻んでいく。
オレンジとパイン、リンゴ。そして、さくらんぼ。
「フルーツの切り方も見せ方が重要で。こういう角度で。」
早織は実演していく。
そうして出来上がったのは、パンケーキと、フルーツポンチ。
パンケーキにはメープルシロップとトッピングする。
さらに、余った記事があるので。早織はさらに牛乳を加えていく。
「さっきより生地の厚さが薄くなったと思います。クレープの生地になりますね。」
「「「おおっ。」」」
早織の言葉に皆が驚く。
そうして出来上がったのは、パンケーキのメープルシロップ掛け、普通の味、ブドウ味、イチゴ味の三種類。そして、同じ感じでフルーツのクレープ。さらにはミルクレープ。
そしてフルーツポンチと、デザートが所狭しと並べられていた。
そして、何といっても、早織の手際の良さだ。
ここまで、そんなに時間が経過していない。
「すごい。流石、早織。」
僕は目を丸くする。
「うんうん。流石、八木原さん。」
結花も同じ反応をする。
「うわぁ~。これで、お客さん、ご主人様を迎えられそう。」
「私たちも、お帰りなさいませ、ご主人様って、練習しなきゃ~。」
他の部員たちも早織の手際の良さに驚き、そして、心から称賛していた。
しかし。
「デザートで、これだけできるんだよね。そしたら、メインの料理は・・・・。」
僕は目を丸くして驚いていた。
「そうだね。結構沢山試作品作って、ここから出せそうなのを絞っていく感じだね。」
早織は笑っていた。
レシピの候補の多さ、そして、手際の良さに目を丸くする、家庭科部員たち。
そうして、皆で試食したがどれも美味しくできていて、全部出せそうだった。
「デザートはこだわってみよう。どれも出せそうだしね。」
「うん、というか、実際のお店で出されているしね。」
家庭科部員たちはニコニコ笑っており、大満足の表情だった。
とりあえず、デザートはきっと美味しく食べることが出来そうだ。
さて、こう作りすぎてしまうと、余ってしまうものもあるのだが。
「余りは大丈夫です。今日はこの後、私たち、生徒会メンバーで少し打ち合わせがあるので。」
結花がニコニコ笑っている。
そうして、早織はタッパーをいくつか用意し、余ったデザートのパンケーキやクレープはそこに入れて、片づけを始めたのだった。
とりあえず、家庭科部の、文化祭打ち合わせの初日はこんな感じだった。
「ありがとう。八木原さん。」
部員たちはニコニコ笑っている。
「橋本君も、北條さんも、ありがとう。これからよろしくね。八木原さんのこと本当に生徒会でも見てくれててありがとう。」
家庭科部の部員たちは僕たちにもお礼を言う。
「そんな、僕の方こそ、突然手伝いに来てしまって、ごめんなさい。」
僕は皆に謝るが、皆は一斉に首を横に振る。
そうして、富田部長がニコニコ出て来て、挨拶する。
「大丈夫よ。八木原さん、生徒会と掛け持ちするようになってから、よく笑うようになったわ。今日も最初、コンタクトを入れてきたから、びっくりしちゃった。こんなに可愛いだなんて。」
富田部長がニコニコ笑って、僕たちに頷く。
「あ、あの、そう言っていただけて、嬉しいです。」
僕と結花は頷き、早織は照れながら、顔を赤く染めている。
「ふふふっ。それじゃ、またよろしくね~。生徒会も頑張ってね。」
富田部長はニコニコ笑って、僕たちを見送ってくれた。
そうして、生徒会室に急ぐ僕たち。
いつもの、生徒会室の扉を開ける。
「お疲れ様。皆。」
加奈子が声をかける。
「はいっ、お疲れ様です。」
「お疲れ様でーすっ。」
「お疲れ様です。」
僕たちは加奈子やみんなに挨拶する。
どうやら、僕たちが一番遅く来たようで、既に、加奈子、葉月、史奈、さらには義信が生徒会室で待っていた。
「みんなお疲れ様。あらあら。早織ちゃんは、コンタクトにしたと言う噂は本当なのね。似合ってるわよ。」
史奈がニコニコ笑いながら、早織に微笑む。
「本当。やっと決心して、コンタクトデビューという感じだね。」
葉月もニコニコ笑っている。
「あ、ありがとうございます。皆さん。」
早織はさらに恥ずかしそうな顔をしていた。
「社長、お疲れ様です。一年の出し物は、お化け屋敷っすよ。思いっきり脅かしますね。」
義信が得意げになって笑う。
「そうなんだ。楽しみだね。」
僕は笑っている。
「はい。そしたら、みんな揃ったので、文化祭の確認するよ。」
加奈子は、僕たちを席に座るように促して、資料を渡していく。
そして、簡単に資料を読み合わせした後。
「それじゃあ、試験も付かれたので、打ち合わせは、ここまでにして。」
加奈子はニコニコ笑う。そして。
「せーのっ!」
ポーンッ!!と鳴り出すクラッカー。
一斉にクラッカーの音が鳴り響く。
「数日遅れてしまったけど、お誕生日おめでとう。葉月!!」
加奈子の言葉。そして。
皆から一斉に拍手をする。
「へへへっ、ありがとう。」
葉月は一気に顔を赤くし、照れながら笑っていた。
そう、生徒会の準備はまた後日にして。
今日、各々の打ち合わせの後に集まったのは他でもなく、葉月の誕生日会を行うことになっていた。
十月十二日まれの葉月。中間試験のため、数日ほど遅れてしまったが、
ちなみに、古典の旧暦ではこの時期はギリギリ八月。
現代の時期でも少し暖かい。暖かい時期に生まれてきたかったのだろう、八月の暦、葉月が名付けられた。
理事長の慎一、つまり葉月の父親曰はく。葉月、そして姉の弥生も、出産予定日はまだまだ先であって、生まれたときの体重が小さかったらしく、保育器の中で数週間過ごしたとか。
故に生まれたときの時期にこだわりたかったのか、それぞれ暦が名付けられている。
僕たちは、先ほど、家庭科部で作った、メイド喫茶の試作品を色々、テーブルに出していく。
それを皆で食べる。
勿論、ハッピーバースデーの歌を歌って、葉月から好きなものを取っていく。
葉月はどれも美味しそうにニコニコ笑いながら食べていた。
「うん。やっぱり早織ちゃんはすごいね。」
葉月は大きく頷いている。
普段からお菓子が好きなのだろう。かなりの量を葉月は食べていた。
そして、各々、生徒会メンバーで、プレゼントを渡すことになり。
僕は・・・・・。
そう、加奈子の誕生日の時に原田先生が加奈子にプレゼントした、香水スプレーを渡したのだった。
当然だが、どこに売っているのか、何の香水を買えばいいかは原田先生に教わった。
クリスマスコンサートの練習もしているので、バレエ教室には僕のピアノコンクールが終わっても、定期的に通っていたのだ。
「おう、ヨシッ、そう言うことなら、教えてあげよう、少年!!あの香水も、葉月ちゃんとおそろいなら、加奈子ちゃんも使いやすいしな!!」
と、原田先生は元気に、ノリノリで言っていた。
ちなみに、原田先生は葉月のことも知っている、夏にみんなで海に行ったということももちろんなのだが、葉月はもともと加奈子と一緒に小さい頃は、原田先生のバレエスタジオに通っていたのだ。
そうして渡した香水は、葉月は勿論喜んでくれたし。
加奈子もお揃いで、さらに喜んでいた。
「輝君、最高!!本当にありがとう!!」
葉月はプレゼントを開けてニコニコ笑う。
そうして、慣れた手つきで、シューッと吹きかける。
「ふふふっ。私とお揃いで嬉しい。」
加奈子もプレゼントを見た瞬間喜んだが、少し考えて、僕の耳元に近づき。
「輝、コレ、原田先生に教えてもらったでしょ?」
加奈子は鋭い目つきで僕に囁く。
縦に首を振る僕。
「そうよね。でも、嬉しい。少し、私の持っているものとお揃いにしてくれて。」
加奈子はにこにこと笑った。
確か、加奈子は原田先生に、その香水の使い方を教えてもらっていた。
そんなこともあってか、コンクール前からだろうか、練習の後、中間試験の勉強会の後。
そして、伯父の家の離屋での、ベッドでの例のひと時。
今までは、バレエの練習の汗の割合が多かった加奈子からは良い香りがしていた。
そうして、葉月の誕生日のひと時は過ぎていった。
「さてと、時間も遅いし、お開きにしましょう。」
史奈の提案で片付けに入る。
「そして、葉月ちゃんの誕生日なので、今日だけは、私たちは家にまっすぐ帰ろうかな。葉月ちゃんはどうする?ゆっくりしていていいわよ!!」
史奈がさらに続けると。
葉月は頷き。
「はい。そしたら、お言葉に甘えて・・・・・。」
そして、僕のもとに近づき。
「輝君、私と一緒に帰ってもいい?」
葉月の言葉に僕は頷く。
そうして、皆が帰るのを見送り、僕と葉月は一緒に帰ることになった。
やってきたのは、僕の家ではなく、葉月の家、つまり、理事長の家。
「今日は仕事で、パパも遅くなるって言ってたし。」
葉月は僕を部屋に上がらせ、そして。
葉月のベッドの上、二人きりで、抱きしめ、お互いにキスを交わす。
にこにこと笑う葉月。
「文化祭、頑張ろうね!!」
こくりと頷く、僕。
「私も頑張るから、輝君の元気をください。」
葉月は耳元で囁く。
生まれたままの葉月の姿。
大きな胸元の谷間も露になる。
何度も見てきたが、ドキドキしてしまう。
その後どうなったかは言うまでもない。
僕たちはお互いに、文化祭に備えて、元気と勇気を分けていた。
二人だけの時間という、本当の誕生日プレゼントをもらった葉月は少し元気な表情になっていた。
やがて、葉月の父である、理事長の慎一も帰宅し、服を着替えて、共に食事の時へ。
葉月の誕生日を慎一も心から祝っていた。
そして、僕も理事長に近況を報告して、葉月に見送られながら、帰路に就くのだった。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
少しでも続きが気になりましたら、下の☆マークから高評価とブックマーク登録をよろしくお願いいたします。




