103.文化祭の係り決め
ピアノコンクールが明けて、十月の二週目、月曜日の生徒会。そう、ここに居るメンバー、ほぼ全てが僕の家の離屋で、祝福の一夜を過ごした、その翌日。
ここから、約一か月間、文化祭の準備期間となるわけである。
「それでは、輝のピアノコンクールも終わったことだし、輝が本格的に生徒会活動が出来ることなります。輝、本当に、入賞おめでとう!!」
加奈子がニコニコ笑っている。
「あ、ありがとうございます。すみません、コーラス部と、ピアノのコンクールに本格的に参加している間、皆さんにご迷惑おかけして。」
「大丈夫よ。輝君、本当によく頑張ったわね。」
にこにこと笑う史奈。
「それに、コンクールの開催前も、生徒会の活動を頑張っていたわけだし。迷惑なんて掛かってないよ。」
葉月がうんうんと頷く。
「はい。本当に良かったです。」
僕はほっとしたような感じがする。ここから、文化祭に向けて頑張ろうと思う。
「それでは、文化祭に向けて頑張りましょう。今日は、前回に引き続いて、係の割り振り、そして、最終決定までもっていこうと思います。」
加奈子の言葉で、今日の生徒会活動を開始する。
先ほどの、加奈子の説明のように、今日の作業は文化祭の全校生徒の係りの割り振りだ。
といっても、作業としては前から実施していたので、今日はその最終調整。
僕たちは全校生徒のリストを見ながら、文化祭の係り決めの最終調整に入っていた。
中間試験の直前には係りを最終決定し、試験期間中にそのリストを配布、中間試験明けから、本格的な準備に入る。
その時に先日、コンクールの前に決まった、文化祭のテーマも同時に発表だ。
今年の文化祭のテーマは、【夢の箱舟~With Friends~】である。
僕たちは、その発表日に向けて、大忙しだった。
係りの割り振りは最初の内は簡単なのだが、だんだんと難しくなる。
今がその一番難しい段階だろう。
係りの割り振りを簡単に説明していく。
最初のステップは、部活に入っている人はその部活の出し物の係りとなる。
次は、最初のステップと似たような作業なのだが、部活の中で特に運動部の生徒たち。彼らは、当日試合と重なってしまい、文化祭が行われる、土日のどちらか、その両方に参加できない場合が多い。
土日、両方とも参加できない部活は試合を優先してもらい。前日や後片付けの会場設営に協力してもらう。
そして、次に、二日間のうち、片方のみ参加できる部活。そういった部活の生徒は、土曜に試合の部活、日曜に試合の部活と交代する形で、土日のどちらかに、受付などの会場運営や駐車場係を手伝ってもらう。
ここまでは簡単で、すでに終わっている。
そしてこれで、全校生徒の七割くらいは係りが決まる。
次に、生徒会とは別に、文化祭の実行委員が存在する。その実行委員に入っている生徒。これは、実行委員会から、どの係になるかは、実行委員に任せている。受付や、イベントの企画、会場の装飾やポスター貼りがそれだ。
事前に生徒会の方で、実行委委員に何をやって欲しいかのリストを配り、それを基に、係りを実行委員が決めてくれる。
そうして割り振られて来た、係のリストを受け取り、僕たちはそれを確認する。
これも、比較的簡単ですぐに終わる。
次は、部活にも実行委員にも所属していない生徒だが。その生徒には、各学年ごとの出し物があるので、そこに行ってもらう。もしくは、その中で、何人かしっかりしている生徒がいれば、休憩室の手伝いだったり、別の企画の担当に回ってもらったりする。
それは、担任の先生から話を通してくれるらしい。
この流れで、全ての生徒の係りを決めることができる。ここまでは簡単で、実行委員や先生方との連携もスムーズに出来ているので、すぐに決まることができる。
問題はここから、部活と実行委員の両方に所属している人や、部活をいくつか掛け持ちしている人についてだ。
一応、二つ、三つまで係りは入れられるが、さすがに複数持っていると、それだけ負担になるので、本人の意思確認が必要になってくる。
二つ係をかけ持つことは出来るかどうか。できない場合は、どの係を優先するのか。
担任の先生や、部活の顧問や部員たちと相談して、係が決まってくる。
ここは生徒の意思に委ねるのだが、相談して、決定した結果を共有しなければならない。
場合によっては人が不足している所に移動してもらう必要もあるからだ。
そうして、相談した結果を、ヒアリングしていく。
勿論、ここまで、生徒会ですべてやるのは大変なので、部活の先生や、部員の人達に協力してもらう。
ここが一番難しく、時間をかけたところだ。しかし、何とか、今日までにほぼ全てヒアリングした結果を反映させることが出来たのだった。
そして、最後の最後に。
「最後は、私達ね。」
加奈子が、全校生徒の担当者の割り振りを一通り確認したところで、僕たち生徒会役員の担当も忘れてはならない。
「基本的に、生徒会は、全体を統括する立場なので。前日の準備と片付けがメインかな。後は、当日、適当に見回ってもらう感じで。日曜日に行われる、生徒会主催のイベント、【花園学園グランプリ】の準備と司会進行とかをすれば大丈夫だから。」
葉月の言葉に僕たちも頷く。
幸いにも、担当のリストを見る限り、生徒の熱量もあるのだろう。人出はどこも足りているようで、僕たちも足りないところに入るという感じはなさそうだ。
「まあ、生徒会は基本、見回りと全体統括だよ。だから、準備期間も、生徒会の他に、掛け持ちしても良いよ。当日も、【花園学園グランプリ】以外の時間は、基本的に自由なので、その時間以外なら、他の出し物で、シフトも入れて良いからね。」
葉月はニコニコ笑いながら、僕たち、初めての文化祭、体育祭を迎える、一年生にアドバイスする。
「えっと、ちなみに、【花園学園グランプリ】はイベントのステージのことで、音楽やお笑いとか、いろいろやって良いんだよ。生徒会役員も参加OKだから、輝君もピアノで出てみたら?」
葉月はニコニコ笑う。
「ハハハッ。考えときます。」
僕は頷く、といっても文化祭自体が楽しそうなので、眼中に無かった。
「まあ、輝のピアノは沢山聞かせてもらったし、今回は無理しなくていいんじゃない。コンクールからの負担も大きいし、イベントを運営から手伝ってもらえれば。」
加奈子が葉月に向かって言う。冷静さを兼ね備えた表情だ。
「まあ、そうだよね。」
「それに、輝が一番忙しそうじゃない?コーラス部の出し物とかにも駆り出されそうだし。」
加奈子は冷静に言った。
加奈子の言葉に、僕もハッとする。
確かに、コーラス部の出し物で伴奏者として助っ人を依頼されそうだ。コーラス部の出し物は、講堂での演奏会を予定していたよな。
「あっ、そうかもしれませんね。心音先輩に聞いてないのですが。」
僕は心音からの文化祭についての連絡はまだ聞いていなかった。
「ああ。そうだよね。そしたら、心音と風歌に聞いてみようか。」
葉月はニコニコ笑う。
「とりあえず、輝の文化祭の動きはそれで。」
加奈子は次に進める。
「えっと、輝以外のメンバーは、生徒会の全体統括と、私と、葉月は、二年の出し物に行くとして。結花と義信は、高校一年の出し物、そして、瀬戸会長は高校三年の出し物。そして、早織は家庭科部だね。他に助っ人で頼まれてるとか、そう言うのは無い?」
加奈子が聞いたうえで、僕以外のメンバーは首を横に振った。
「それじゃあ、決まりね。輝の担当については、心音たちと相談して、決めましょう。」
加奈子が大きく頷く。その言葉にみんなも頷く。
因みに、各学年の出し物はこれから決めるため、何をするのかは未定なのだが。
家庭科部の出し物は決まっているようだ。
「はぁ。私が主体で出し物決めなきゃ~。」
史奈は大きくため息。
担当が決まった途端、その話になる。葉月も、加奈子も同じようだ。
「家庭科部は毎年決まっていて、良いわね。楽しみよ~。」
史奈がニコニコ笑って、早織に言う。
「は、はい。食べ物はこれから考えるとして、衣装については、今年はすごい人が家庭科部に入ってくれて。」
早織は少し、自信を持った表情で応える。
「へえ。そうなんだ。楽しみだね。」
葉月はニコニコ笑う。
家庭科部の出し物は毎年恒例、“メイド喫茶”。
家庭科部の活動は、調理と被服に分かれて活動して、早織は当然、調理の活動を主に行う。
当然、文化祭の“メイド喫茶”も、早織は調理の担当で、飲食物を扱う。
そして、メイドの衣装も、毎年、被服担当の家庭科部員の手作りだという。
今年は、その衣装を担当する部員の中に、ものすごい人が入ったようで、早織も瞳の色をキラキラさせている。
早織はもともと、陰キャでおとなしい方だが、それでも、すごく楽しみな表情をしている。
確かに、クラスメイトや同学年の他の家庭科部員も、かなり楽しみにメイド喫茶の話をしていた気がする。
家庭科部のメイド喫茶、早織から話を聞いていると本当に楽しみだ。
「よーしっ、それじゃあ、今日はこんなところで、終わりましょう。この後、心音たちの予定が空いていたら、輝の文化祭の担当を決めて、担当決めはこれで終わりだね。予定通り、中間試験前には出せそうかな。」
加奈子は大きく頷く。
生徒会室を出る僕たち。
途中、コーラス部の練習の方を見に行くと、丁度練習が終わったところだった。
僕たち生徒会メンバーの存在に気づき、心音と風歌が近寄ってくる。
「ああっ、橋本君、いらっしゃい。どうしたの。今日は生徒会だったよね。大変でしょ、文化祭の準備で。」
心音がニコニコ笑っている。
「はい。まあでも、少し落ち着いてます。」
僕が答える。
「ああ。心音。」
加奈子の声。
「えっ、生徒会の皆もお揃いで、どうしたの?」
心音がニコニコ笑う。
「ああ。その輝のことで、聞きたいことがあって、来たのだけれど。輝の文化祭のことなんだけど。コーラス部で、あるかなって?これがわかれば、担当決めが決まるというか。」
加奈子が心音に説明する。
「「ああ。」」
心音と風歌は大きく頷く。
「そのことだったら、ちょっと、場所変えない?もうすぐ中間試験だし、この学校、そう言う試験前には閉まるの早いから。」
確かに、時間的にもそんな時間だった。
試験前の時期、校門が閉まる時間は確かに早い。
と、言うことではなくて。
「あっ。」
僕は少し唖然としてしまう。
「そうだ。中間試験ですね。大丈夫かなぁ。」
僕は不安になる。
「大丈夫よ。輝なら。」
加奈子はニコニコ笑う。
「でも、ピアノコンクールとかありましたし、加奈子も、風歌も、僕に時間を割いてくれたから。」
「大丈夫だよ。輝君。加奈子を何だと思っているの?」
葉月が得意げに言う。
「し、心配してくれて、ありがと。わ、私は、輝君といると楽しいから。そのぶん、勉強も、楽しくできてる。」
風歌がニコニコ笑う。
どうやら、心配することは僕だけで良さそうだ。
僕も、一学期の自信があったからだろう。二学期も予習、復習がしっかり出来ているような気がした。
さて、そんなことはさておき。
「大丈夫よ。試験のことは。それよりも、心音のいう通り、場所変えましょう。えっと、どこがいいかな?」
加奈子が皆の顔を見回す。
「わ、私のお店とかどうですか?話し合いが長引くようでしたら、夕食も。」
早織が提案する。
「「「「賛成!!」」」」
皆、早織の提案に大きく頷いた。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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