101.料理の修業
第二部突入です。
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「また道三さんの料理の方が評価されましたか。まったく、いいっすよねぇ。」
料理人、【黒山昭二】はただ一点を見つめている。
ここは大阪のホテル。東京五輪が終わって次は万博という間の六年間。
といっても、現在ではなく、昭和三九年から、昭和四五年の間。つまり、一九六四年から一九七〇年の間の年だ。
世界の人からも評価される料理をということで、黒山昭二は、六四年の東京五輪終了後、出来たばかりの新幹線に乗り込んで、大阪のホテルに修業の場所を移した。
だが、新幹線の中には黒山の他にもう一人、黒山と同じ、北関東出身の同郷の料理人のライバルが一緒に乗っていたのだった。
彼の名前は、【八木原道三】。同じく、黒山と同じ志を持ち、料理の修業先を関西の方へと移した。
だが新幹線の車内、先に席を立ったのは道三だった。
「それじゃあ、黒山さん、お先に。」
道三は、世界の人に日本の料理を知ってもらうという割合が多かった。そのため、新幹線を新大阪の一つ手前、千年の都、京都で降りたのだった。
そうして、黒山と、道三は、お互いに数年間、黒山は新大阪のホテルで、道三は京都の料理屋で修業をしていたのだが。
そんなある日。
「すまねぇ、黒山さん、助けてくれ、俺の料理屋が潰れてしまった。」
なんと道三の修業していた、京都の料理屋が潰れてしまったらしい。
仕方なく、黒山は自分の修業先である、大阪のホテルに道三を迎えたのだが。
そこに居た道三は良い意味で変わっていた。
まず、京都の料理屋で、彼女が出来て、彼女もフロアスタッフを京都の料理屋でやっていたというので、道三の彼女も一緒に、大阪のホテルに迎えることになった。
そして、あれよあれよという間に、道三は和食で培った技術を基に、洋食メインのこのホテルでも、メキメキと腕をあげて、一気に大阪のホテルで出世していったのだった。
さらに、道三の彼女の方も・・・・・・。
彼女はもともと、料理スタッフとして京都の料理屋に勤務していたのだが、スキルがなかなか伸びず、途中からフロアスタッフに転身したという。
だが、大阪のホテルの料理人が不足しているというので、調理のスタッフも道三の彼女は兼ねるようになったのだが。
どうやら彼女は和食よりも、洋食の才能があったらしい。
メキメキと腕をあげて、今や黒山に追いつかれそうになっていた。
「八木原道三め・・・。彼女といちゃ付いていただけじゃねぇのかよ。料理屋が潰れた時点で、俺が勝ったと思ったのに・・・・。」
黒山の心はだんだんと、嫉妬心に蝕まれていった。
なぜだ?
彼女といちゃ付いてたから、料理の腕は落ちたんじゃねえのか。
だから、それが原因で京都の料理屋が潰れたんじゃねぇのかよ。
そこから黒山は再び修業をし、大阪のホテルで腕を磨いていった。
だが、黒山の道三に対する嫉妬心は日に日に増していったのだった。
だがしかし、料理の技術もそれに比例して向上していった。
そうして、さらに数年がたち、大阪万博の開始直前。大阪のホテルは八木原と黒山の二枚看板の名前がそこにはあった。
一九七〇年早春。大阪万博が開始。
大阪のホテルは、万博閉幕まで、予約客でいっぱいだった。
メインは【太陽の塔】そして、【月の石】。
テレビからは連日のように『こんにちは~。こんにちは~。』と連呼した歌が流れていた。
道三と黒山のホテルは大阪でもかなり名の知れたホテルであり、万博期間中は日本は勿論、世界中から要人が訪れていた。
そんなある日のこと。
「大蔵大臣(現在の財務大臣)が万博視察のため宿泊される。誠心誠意をもって料理をするように。」
と道三と黒山に通達があった。
そして、大蔵大臣の宿泊の日。
珍しく道三と黒山は協力して料理を作ったのだった。
それもそのはず、やはり二人のライバル闘争心以上に、店の信頼が大事、ということは二人とも心得ていた。
そして。
「この料理はとても美味しいな。」
大蔵大臣は、ニコニコと笑う。それはテレビでは見せないくらいの笑顔だった。
「よろしければ、担当シェフにご挨拶されますか?」
ホテルの料理長は大蔵大臣のこの言葉を聞いて、とっさに反応が出たのだった。
「ええ。是非とも。」
大蔵大臣は大きく頷いた。
料理長は、大蔵大臣の元へ、二人の料理人を引き連れてきた。
道三と、黒山だった。
「本日、大臣の料理を担当させていただきました。八木原と、黒山でございます。」
道三と、黒山は頭を下げる。
「顔をあげてください。とても贅沢に堪能しました。」
大蔵大臣はニコニコと笑いながら、ほう、ほう、と気さくに声をかける。
いくつか、会話をし、話題は。
「ところで、お二人のご出身は?」
と話題は道三と黒山の故郷の話題に。
北関東の雲雀川の名前を二人は口をそろえて言った。
「なんと、私と同じとは、驚きました。」
大蔵大臣は驚きながらもニコニコ笑う。
「はい。高校時代から、よく地元の選挙ポスターでお見掛けしており、先生のことは存じ上げております。」
黒山がニヤニヤと笑いながら言う。
道三も黒山の言葉に頷く。
「それは、それは。ありがとうございます。」
大蔵大臣は笑っていた。そして、考えた。そして、真剣な表情をする。
道三と黒山は表情が変わった大蔵大臣に一気に緊張した表情になったが。
「申し訳ありません、そんなに緊張しなくても。」
大蔵大臣は深呼吸する。そして。
「そうですね。ここではなんですから、万博の視察が終わりましたら、お話ししましょう。明日はお時間ございますか?」
と丁寧に質問し、道三と黒山は頷いた。
そうして、翌日、万博の視察を終えた大蔵大臣に呼び出された場所に向かい。こう切り出された。
「お二方とも、私の地元、つまり、お二人の地元に貢献していただけませんか?土地の値段などのサポートは私がしますので、どうでしょう?それぞれ、地元でお店を開店していただけませんか?お返事はいつでも待ってますので。」
これが、政治家の話術なのだろうか。
その言葉に二人とも引き込まれる何かがあったことは確かだったし、将来、自分のお店を持ちたいという夢も二人にはあり、それが思いがけない形で叶うことに、ものすごく嬉しかった。
道三と黒山は静かに頷いた。
そして、万博が終わったと同時に、二人は故郷、北関東にある、雲雀川の町へ戻ったのだった。
そして、大蔵大臣から土地を譲られ、お店を同時に開店させたのだった。




