100.早織のお店で~第一部完結~
第一部最終回、本当にご覧いただき、ありがとうございました。
【森の定食屋】。八木原早織が経営しているお店。
僕も、このお店の新メニューを開発したことがある。その時が懐かしい。
生徒会のメンバー、葉月、加奈子、史奈と出会い。クラスメイト、結花と早織と出会い。コーラス部で心音と風歌。さらには、幼馴染、マユとの再会。
すべてが詰まった雲雀川の地。
【森の定食屋】にはテラス席がいくつか用意され、そのテラス席の先には、綺麗な庭があって、いろいろな花が施されている。
「ここで結婚式をする人もいるの。」
早織の言葉を思い出す。素敵なガーデンウェディングが出来そうで、事実、結婚の雑誌でも紹介されるほど。
その早織のお店の二階部分に僕は居た。
白い、タキシードを着て。
呼吸がだんだんと荒くなってくるのが自分でもわかる。
こういう衣装はピアノの演奏会でも、とうてい着ないだろう。
「・・・・輝。」
加奈子の声。
僕は振り返る。
「お待たせ、輝。」
ウェディングドレスに身を包んだ、加奈子。
細身のマーメイドドレスと呼ばれていて。加奈子にぴったり。
結婚式が行われる。そう。
僕と加奈子は、お互い、ピアノとバレエで惹かれ合い・・・・・。
「ありがとう。輝。私で、本当に良かったの?」
僕は頷く。
今さら何を言っているのと聞きたくなるが。
「私は、あなたが高校時代、一緒に居た他の人より・・・。」
加奈子はその言葉を言い、少し戸惑いながらも、両手で、両方の胸を押さえて、その両手は大きく半球を描いた。
「はははっ、確かにそうかもしれない、でも。」
「でも・・・?」
加奈子は食い入るように僕を見つめる。
「このドレスは他の誰より加奈子が似合ってる。その・・・・・。」
僕も恥ずかしがりそうに、両手で、縦の線を描く。
バレエを小さいころから習っていて、今も、プロのバレエ団で活躍する加奈子。綺麗な体のライン。わかっただろうか。
「ふふふっ、ありがと、輝。」
加奈子はそう言ってにっこり笑った。
「さあ、行こうか。皆待ってる。」
僕は手を伸ばし、加奈子と手を繋ごうとするが・・・・・。
「ちょーっと待った!!」
階段を勢いよく駆け上がる葉月。
そして驚く僕と加奈子。
なぜなら、葉月は光り輝く純白のウェディングドレスを着ている。そのドレスは綺麗な刺繍が施されて・・・・・。
「輝君。私と約束したよね。結婚しようって。今からでも遅くないよ!!パパからも許可もらってる!!」
葉月はニコニコ笑っている。
「あらあら、そうはいかないわ、葉月ちゃん、加奈子ちゃん。」
階段を駆け上がってきたのは葉月だけではなかった。葉月の後ろに史奈が大人びたように上がって来た。
そして史奈も、肩の部分が露出し、胸の谷間を覗かせた、白地のウェディングドレスを着ていた。
「私だって、本気よ~。ねえ、このまま、私と式、乗っ取っちゃおうかしら。」
史奈はニコニコしてウィンクしている。
「ちょっと待って。」
史奈が手を差し出してきた瞬間、別の声。だけど、その声は、加奈子でも葉月でもなく。
「ハッシー、私とこのまま式しちゃおう!!」
結花が勢いよく、階段を登って来た、彼女もまたウェディングドレスで、綺麗なアクセサリーが施されている。
「ひ、輝君。ここは、私のお店よ、私が主役!!」
結花のその後に、早織が一気に声をあげてやってくる。
早織もウェディングドレス。そして。
「にへへっ、ご、ごめん、輝君、やっぱ、勇気でなくて、仕度してて、遅くなった。」
風歌も階段を上がって、僕たちの控室にやって来た。
当然、風歌もウェディングドレス。
早織と風歌のウェディングドレスは、とてもシンプル。
だけど、風歌は若干ピンク地の生地だろうか。
「あーっ、抜け駆けずるい!!ひかるん、わたしと一緒だよね。」
同じような感じで、マユも階段を駆け上がってやって来た。
「ねぇ、結婚するなら私とだよね。」
「まって、ハッシーは絶対渡さない!!」
「輝君は私のものだもん!!」
そうして取り合いになるが。
「残念ね、結花。」
その声にピンと反応する僕たち。
なんと、そこに居たのは心音だった。
結花と同じ、アクセサリーを多く施されたウェディングドレスを着ていたが、結花とは違い青地。
「いえいえ、橋本さん、私とはどうですか?」
そして、その輪の中に藤代さんも入ってくる。彼女は、うん。白無垢で角隠しまで被っている。
本当に綺麗な美女たち。
って、感心している場合ではない。
僕は、一体、何人の、『何等分・・・・・・』おっと行けない。行けない。ゴホンッ。何人の花嫁と取り合いになっているのだろうか。
「良いすね、大統領!!ウハウハで最高っすね。」
参列してくれて様子を見ていた義信は、僕に笑いながら声をかける。
「違う、違う、ここは結婚式で、僕のパートナーは、当然一人だけで、そのパートナーは・・・。」
「うわぁっ!!」
「ぜぇ、ぜぇ、はぁっ、はぁっ・・・・・・・。」
見慣れた天井。伯父の農家の離屋の天井。
服は何も来ておらず、生まれたままの姿の僕。
「さ、さむいっ。」
そのせいか、一気に体が冷え込む。十月の最初の週末。
暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったもので、僕の身体は、一気に冷え込んでくる
北関東のこの場所は内陸に近く、夏場は暑いが、冬場は一気に冷え込む。寒暖差の激しい場所だ。もう、そんな時期になっていた。
「・・・・・輝君、今日もありがとう。」
葉月のすやすやとした寝顔。
「輝・・・・。」
加奈子の寝言、つぶやき。
結花、史奈、風歌、早織、そして、マユ。
加奈子とマユ以外の胸は大きく上下して再びドキドキしてしまう。
加奈子とマユは、他のメンバーと比べて、胸のふくらみが小さいが、加奈子はバレエ、マユは陸上ということもあり、その分体のラインがはっきりしていて・・・・・。
皆、全員、生まれたままの姿ですやすやと眠っている。
さすがに、大分時間がたったので、体が冷え込むだろうと思い、暖房のスイッチを入れる。
もう、そんな時期だ。
結婚式の一幕は夢だった。ある意味、夢で安心する僕。
ここの週末を迎えるまでは長かった。
マスコミの対応は学校の取材で、市長と理事長のフォローもあって、完了したが、それでもマスコミの人、週刊誌の人達が訪問してくることもあって、簡単ではあったがお話をした。
バレエ教室でも話題が持ちきりになり、心配してくれた人への謝罪とお礼をする。
勿論、花園学園でそれぞれ心配してくれたメンバーにも。
そして、マユの方にも取材が来たらしく。
「ちょっと大変だったぁ~。」
とマユが疲れた顔で話し、時には一緒に取材を受けて、お互いにフォローし合ったのだった。
といっても、マユにフォローされっぱなしの僕だったが。
そうこうしているうちに、実家、つまり、僕の父と母から郵便物を転送してもらう。
僕あての郵便物で、送り主は、反町高校の新理事長。
そこには謝罪の手紙と、必要があれば高卒認定試験のフォローと認定が取れ次第、高校の卒業証書の授与、もしくは来春より統合された高校での無条件での入学許可、大学の受験フォローなどが丁寧に書かれていた。
どうやら、過去の年度を遡れば、僕以外にも被害に遭った生徒がいるらしい。
その方々全員含め、一斉にフォローしますというような内容だった。
「どうする?輝。」
実際に両親から電話もかかってきたが。
「ううん。再入学する必要はないし、受験や高卒認定のフォローも必要ないよ。僕はもう、花園学園に転入しているし、そこで素敵な友達に出会ったから。」
と、丁重にフォローを断った。
そして、この十月の初旬を迎えたのだった。
夢から覚め、だんだんと思い出して来るこの週末の出来事。
この週末は、ピアノコンクールの全国コンクールが行われ、机の上には三枚賞状が置かれていた。
『二台ピアノ・連弾部門、銅賞三位 橋本輝、緑風歌』
『個人部門、五位入賞 橋本輝』
『個人部門、七位入賞 緑風歌』
あとは同じような文章が続く。
「おめでとう。輝。」
「輝君、おめでとう!!」
皆から祝福され、僕はお礼を言った。
勿論、ここまで、導いてくれた、原田先生と茂木、藤田先生、岩島先生に深々と頭を下げて。
「輝君、おめでとう。そして、お帰りなさい!!ピアノの世界に輝君がもどってきてくれて、嬉しい!!」
風歌はこれまでにない喜びを爆発させていた。
そう、再びみんなのおかげで、戻って来た、僕が好きだったこの世界に。戻ってくることができた。
今年は、今の状況を把握するために出場した経緯がある。
次は金賞一位を目指して、頑張ってみたい、いや、それが駄目でも、もっと他の分野でも音楽にかかわってみたい。そう思った自分がたしかに居た。
そうして、祝福の中、コンクールからの帰路、原田先生のワンボックスカーに乗り込んで、生徒会メンバーともども、ここまで送ってもらい、伯父、伯母が畑の野菜を大量に用いてたくさん料理を作り、早織もそれを手伝い、小さな祝勝会をやったのだった。
そうして、その後、この離屋に泊った、僕と、美少女たち。
原田先生からのお祝いは、例の袋だった。
「まあ、もっと、良いものを贈るさ、今は仮ということで。今夜は思いっきり楽しんで来い。」
原田先生にニコニコ言われ、何度目かの離屋で過ごす美少女たちのとの夜。例の袋を案の定、全て使い切っていたのだった。
花園学園に入学して、半年強。本当に素敵な仲間、友達。そして、恋人たちに出会った。
ここまでの期間、本当にいろいろなことがあった、密度の濃い、時間だった。
改めて、机に置かれている賞状を見る。
そして、ベッドの上を見る。
夢の中のようにいるようだが、最後には一人に選ばないといけない。でも。
まだ、良いんだよね。このメンバーと一緒に居て許されるんだよね。少なくとも、高校にいる間は。
そう思いながら胸に手を当てる僕。
誰を選ぶことになっても、ここに居るメンバー、ひとり、ひとりに感謝しないといけないな。
楽しい思い出をくれた。再び走り出す勇気をくれた。そして、安久尾建設の魔の手からすくってくれた。
「ありがとう。みんな。」
僕は皆の方を向いて、静かにつぶやく。
再びベッドに入って寝息を立てる僕。
再び朝日が昇る。
そして、朝日が昇って、皆とおはようのキスを交わす。
僕たちはここから皆と一緒に、学校へ登校して行くのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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改めて、第一部、ここまで読んでいただきありがとうございました。
そして、改定前からの作品からご覧いただいている皆様、本当にありがとうございます。
というわけで、皆様に感謝の気持ちを込めまして、続編第二部の他に、本作過去編・スピンオフ版『 ちょっと昔の、勇気の恋舞踊』(https://ncode.syosetu.com/n0310ja/)をご用意しました。
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