表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/192

10.美少女バレリーナとの出会い

恋愛(現実世界)の日間ランキングにも出始めてきており、本当にありがとうございます。

少しでも、気になる方がいらっしゃいましたら、一番下の☆マークから高評価とブックマークを是非よろしくお願いいたします。

 

 本当に大きな部屋だった。

 壁際には大きなテレビモニターがあって、その脇にDVDとブルーレイが視聴できる大きなDVDデッキがある。

 いくつか本棚があって、難しそうな書物が並ぶ。

 さらに、棚の上には骨董や絵画が並ぶ。


 きっとかなりの値段がする物なのだろうなと思いながら、骨董と絵画を見回す。


 そして、リビングのようにくつろげる、テーブルと椅子が、テレビモニターの前に置かれている。

 このイスとテーブルも、いろいろと装飾がされ、アンティークなデザインが印象的だ。


 そして、この部屋で一番気になったのが。

【スタンウェイ】のグランドピアノだった。


 ピアノ‥‥。

 僕は、ピアノが趣味で、音楽が好きだからわかる。

 とても美しい音色が、このピアノからは奏でるのだろう。

 そのピアノは、本当にきれいに手入れされていた。


 ピアノに見入っていると、葉月先輩がやってきた。


「お待たせーっ!!」

 そういいながら、紅茶とお菓子が、テーブルの上に置かれた。


「そして‥‥。」

 葉月先輩はDVDを取り出す。

「ジャーン!!パパの部屋からとってきたよ~。」


 葉月先輩は得意げになって、そのDVDをセットする。


 大きなモニターに映像が入り込んできた。

 昨年の、生徒会長選挙の演説会が始まった。


「少し恥ずかしいわね。私のスピーチですもの。」

 瀬戸会長はそう言いながら、あまり見たくないような雰囲気で、紅茶をすすっている。


 去年の演説会。つまり瀬戸会長の演説がここにある。

「会長の推薦人の演説を見てみましょう。」

 そういいながら、葉月先輩はその個所までDVDを早送りする。


 そうして、該当する箇所で早送りを止める。丁度、瀬戸会長の推薦人がスピーチをする場面だった。

 一緒にバレーボール部で活躍している同級生だろうか。

 チームのムードメーカーをアピールし、そして、バレーボールに対する熱意。チームメイトを気遣う力など、エピソードを交えながら、熱心に語っていた。


「そうか、具体例かぁ‥‥。」

 僕はそう呟きながら、この演説を聞いていた。


「そうだね。こうして、一緒に遊ぶ機会を作るから、もう少し、さっき話した内容を詳しくできるといいわね。」

 瀬戸会長は恥ずかしながらも、僕に語っていた。


「と、言うわけで、輝君が少し吸収できたので、おまけで、瀬戸会長のスピーチを見ましょう。」

 そういいながら、葉月先輩はDVDを早送りして、瀬戸会長のスピーチの個所へ回す。


「ちょっと、やめて。葉月ちゃん。」

 瀬戸会長は、さらに恥ずかしそうな顔になる。やっぱり、去年の自分の演説を見るのは恥ずかしいようだ。


 映像の中で、瀬戸会長が演説のスピーチを始める。

 しかし、堂々と、丁寧に話す瀬戸会長の言葉はとても重みがあった。

 これは票の獲得も納得だ。


 スピーチが終わったとき、僕はDVDの中から聞こえる、会衆の拍手と一緒に拍手をした。


「はーい。瀬戸会長でした。」

 葉月先輩は得意げになりながら、DVDの映像を止めた。


 僕は頷きながら、やっぱり瀬戸会長はすごいと思う、と感じる。

 一方の会長は、少し恥ずかしい顔をしたままだ。


 僕たちは、紅茶を飲みながらお話をする。

「と、言うことで、輝君はもっと私たちと過ごして、加奈子の魅力を知ってもらわないとだね。」

 葉月先輩はそう言いながら笑っている。


 僕も頷く。


「そうですね。皆さんありがたいです。」

 僕はそう言いながらも、部屋にあるスタンウェイのグランドピアノが気になる。

 先ほどのDVDを見たときもそうだった。


「橋本君。どうしたの?」

 瀬戸会長がそわそわした僕に気付いたのだろう。

 少し落ち着いて、やっと我に返ったようだ。


「ああ。あれは【スタンウェイ】のグランドピアノですよね。とても綺麗に手入れされていますので。」

 僕はそう言いながら視線をピアノに向ける。


「よくわかったね。おばあちゃんが弾いていたの。五年位前に、に亡くなる直前まで。おばあちゃんは、花園学園の先代理事長だよ。それ以来、おばあちゃんを思い出しながら、お手入れしているんだ。手放したくないし、この部屋に置いておくだけでもきれいだしね。」

 葉月先輩は笑っている。

 確かにこの部屋との相性は抜群だ。


「なるほど。きっと、生前、お祖母様は大切にされていたのですね。綺麗な音を出していたのが伝わってきます。」

 僕は頷く。


「ねえ。ひょっとしてピアノ弾けるの?」

 葉月先輩が僕に聞いてくる。


 それに驚く僕。


「えっ?えっと、まあ。習ってはいました。」

 驚いて、声が裏返ったが、僕は正直に応える。

 するとキラキラと輝く、三人の瞳があった。


「本当?弾いて見せてよ。」

 葉月先輩が言う。


「私も聞きたいわ。」

 瀬戸会長が言う。


 うんうん。と頷く加奈子先輩。

 だが、無口に頷いているが、加奈子先輩が一番興味のある表情をしていて、顔を動かす動作も一番大きい。


「まあ。少しならいいですけれど。何かリクエストとかは?しばらく、練習とかしていないので、弾けない曲ならすみませんですが。」

 僕はドキドキしている。


「うーん。じゃあ。今まで習ってきた中で、一番難しい曲。」

 葉月先輩が得意げにリクエストする。


「そうね。少し聞かせてもらうだけでいいから、その難しい中でも、短めの曲で。」

 瀬戸会長が笑っている。


 そして、加奈子先輩も、うんうん。と頷いている。


 一番難しい曲。短め。

 僕は少し考える。

 リストの超絶技巧集とかにしてもいいが、そのレベルになると、しっかりと準備、かつ、楽譜を見ないと弾けない。


 今すぐに暗譜で弾けそうなのは、ショパンだろうか。

 僕は、頷きながらピアノへと向かう。


 しかし足取りは重い。暗譜で出来そうで、一番難しい曲で思いついたのが。

『ワルツOp42、大円舞曲』と『Op53、英雄ポロネーズ』だ。

 だが、少し戸惑う僕が居た。


 安久尾の力によって、コンクールで、悔しい思いをした曲。少し、弾いていいか戸惑う。


 同じワルツの『ワルツOp18、華麗なる大円舞曲』でもいいが。

 それだと、葉月先輩のリクエスト、『一番難しい曲』に応えられていないのではと戸惑う。

 難易度的には、『ワルツOp42、大円舞曲』の方が上だった。


 少し深呼吸をする。

 するとどうだろうか。暖かく迎え入れてくれた、生徒会の、ここに居る先輩たちの温もり。

 そんな感じのものに触れた。


 そして、幸いにも、ここは、葉月先輩の家、すなわち、理事長の家。


 理事長と、その娘の葉月先輩、そして、瀬戸会長や加奈子先輩は裏切りたくなかった。

「へえ、もっと難しい曲知ってるんだ。」と、あとから言われると、少し裏切った気持ちになってしまう。

 ますます、胸の鼓動が速くなる。


 しかし、何だろう‥‥。

 この曲をもう一度弾いてみたい気持ちが強かった。


 おそらく、生徒会の先輩たちの不思議な力によって。興味津々なみんなを裏切りたくなかったし。

 僕も、このメンバーと一緒に楽しみたい気持ちの方が強かった。


 そして、その気持ちが、前に出てくることを確認して、ピアノの椅子に座る僕。

 瀬戸会長、葉月、加奈子の三人は、ピアノの前に座る僕を囲うかのように立っている。


 よし。ショパンのワルツにしよう。『Op53、英雄ポロネーズ』は、少し演奏時間が長いので、また今度で。


 そう決めて、僕はショパンのワルツ、最初の音を弾き始めた。

『ワルツOp42、大円舞曲』。


 最初の一音で落ち着いたのか、すんなり、指が動いた。

 導入部分き、メロディーを弾いていく。


 三人の目の色が変わる。

 さらに曲調が変化していく部分になると、さらに三人の目の色が輝き始め。


 一気に曲が盛り上がっていく。


 最後のフィニッシュを決める。


 弾けたという、何かを乗り越えた感覚がそこにあった。

 不思議な力だった。安久尾によって、もう二度と人前で、ピアノを弾けないのではと思っていた。


 演奏が終わった瞬間、大きな拍手が三人から沸き起こる。


「すごい。指、私と同じ数だよね。」

 瀬戸会長が言う。


「輝君。習っていたというレベルじゃないよね。プロだよ。本当にすごい。」

 葉月先輩が言った。


 そして、一番ときめいていたのは加奈子先輩だった。

 顔を赤く染めながら言った。


「輝‥‥。これ‥‥。ショパンだよね!!」

 加奈子先輩は興奮している。


「そうですね。ショパンですね。」

 僕は、加奈子先輩の質問に答える。



「じゃあさ、じゃあさ。これは弾ける‥‥。えっと。」

 加奈子先輩は深呼吸する。


「♪タタタタタタ、タララタタタ、タタタラタタターン♪、っていう、えっとマズルカっていうんだけど。」


 加奈子の口ずさんだ歌は、もちろん知っている。

『マズルカニ長調、Op33-2』。


「もちろん知ってますよ。そして、弾けますよ。」

 僕は、加奈子先輩に応える。


「えっ、お願い、弾いて。弾いて。輝。」

 さっきまでの加奈子先輩はどこへ行ったのだろう。子供のように、無邪気にリクエストをねだる彼女。


 僕は、加奈子先輩のリクエストを弾く。

 再び拍手が沸き起こる。


 加奈子先輩は、さらに興奮して。

「じゃあさ、じゃあさ。これは‥‥。」

 再び、深呼吸して。


「ターン、タタターン、タタタン、タタタン、タタタタンターン!!」

 得意気に、加奈子先輩は鼻歌を歌う。


 まさに、『Op18、華麗なる大円舞曲』の導入部だった。

 得意気に加奈子先輩が鼻歌を歌ったので。


「はい。勿論です。一番得意だったりします。」

 僕は少しアピールする。


 そして、鍵盤に触れようとしたが‥‥。


「待って!!私が合図したら弾いてくれる。」

 加奈子はそう言って、ピアノから離れていき、この広い部屋の、テーブルも置かれていない、周りに何もないようなところに移動する。


「ど、どうしたんですか?加奈子先輩。」

 僕は聞いてみるが。


「ふふふっ。輝君。加奈子の魅力を存分に楽しんでください。」

 葉月先輩は得意げに、ニヤニヤ笑いながら言った。


「あらあら~。ついに目覚めちゃったわね。橋本君のピアノで、加奈子ちゃん魅力が。それじゃ、ピアノを弾きながら楽しんでね。ビックリすると思うわ。」

 瀬戸会長も、葉月先輩と同じようにニヤニヤしながら言った。


 僕は加奈子の方を見る。

 瀬戸会長と葉月先輩は、僕に加奈子先輩の方を見て欲しいと思ったのか、僕の視界を一気に開けてくれた。


 加奈子先輩は頷く。

「いつでもいいよ!!」


 僕は、ショパンのワルツを弾く。

 そして、加奈子先輩を見る。


 加奈子先輩を見た瞬間、慌てて、曲のテンポを落とそうとした。

「テンポはそのままでいいよ!!」

 加奈子先輩は大きな声で言って、僕のテンポに合わそうとしている。


 美しかった。

 加奈子先輩が僕に見せたもの。それは、クラシックバレエだった。

 手足を大きく、動かし、華麗に舞っている。


 本当に美しい。きっと、本物の衣装を着たら、それは‥‥。


 この日。僕は、美しい人に出会った。


 それは、舞踏会で華麗に舞う、プリンセスだった。

 清楚可憐で美しく、僕は見入っていた。

 鍵盤はほとんど見ずに、ただただ、加奈子の踊を見つめながら、僕はピアノを弾いた。


『ワルツOp18、華麗なる大円舞曲』を弾き終わる。

 一番楽しいピアノ演奏だった。

 過去の全て、どの演奏よりも、演奏が終わった充実感を得た。


 そして、過去の棘が全て洗い流されていった。


 弾き終わり、思わず拍手をする。そう、心から拍手をせずにはいられない。

 加奈子のバレエは本当に綺麗だった。


 全てに納得する僕。

 加奈子の容姿。

 そう、クラシックバレエをやっているから、シュッとした、細身の綺麗なスタイルだったのだ。

 髪の毛を伸ばした時、普段はまとめている痕跡が残るのもうなずける。


 葉月、瀬戸会長も拍手を贈る。


「ありがとう。輝。」

 加奈子はそう言いながら、笑っていた。

 出会ってから、一番の加奈子の笑顔だった。


「素晴らしかったよ。そして、輝君わかったかな?加奈子の魅力が。」

 葉月先輩が、感動したかのように僕に向かって言った。


「はいっ!!」

 僕は元気よく頷く。


「そうね。加奈子ちゃん。普段はおとなしいのだけど、自分の得意な所、好きな所では本当に活発になって、周りの人を盛り上げて行ってくれるのよね。このクラッシックバレエも四歳くらいの時からやっているのよね。」

 瀬戸会長は、加奈子先輩にウィンクしながら言った。


「はい。」

 加奈子先輩は、先ほどのバレエの舞いの時とは打って変わって、普段通りのおとなしい表情に戻っていた。


「ダメじゃない!!それを推薦人に伝えなきゃ。橋本君がピアノ弾ける、しかも本当にうまい人で良かったわ。初めての人でも、好きなこと、得意なことの自己紹介はちゃんとしなきゃ。ましてや推薦人には特に。」

 瀬戸会長は、加奈子先輩に向かって言う。


「はい。ごめんなさい。」

 加奈子先輩は、少し、暗めの表情になってしまった。


 だが、すぐに彼女は気持ちを切り替え、目の色を変えた。

 そう、バレエの舞を披露する時のあの目の色だった。


「輝。お願いがあるの。」

 加奈子先輩は改まって、僕に言った。


「ゴールデンウィークに私が出場する、バレエコンクール。その伴奏者になってください!!」

 今までに聞いたことの無いくらいの、加奈子先輩の大きな声だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ