表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/186

1.ピアノコンクール

思い切って、改訂版を出しました。

以前から、応援してくださっている皆様には申し訳ないですが、改めて、読んでいただければ嬉しいです。

初めましての皆さま。ご覧いただき、ありがとうございます。

少しでも、続きが気になるという方は、是非、下の☆マークから高評価と、いいね、そして、ブックマーク登録をよろしくお願いいたします。


 ぞろぞろ、と舞台上に正装姿の大人たちがステージ上に入場してきた。

 審査を終了し、全ての結果が出そろった合図。


 ここは、【東京オペラシティ】と呼ばれるコンサートホールであり、今日はここでピアノコンクールの全国大会、中学生部門が行われていた。


 ステージ上に入場してきた大人たちは、審査員たち。

 中学生部門とはいえ、全国から超がつくぐらい優秀なピアニストの卵が集まったこのコンクール。審査員たちの表情は真剣そのもので、客席で待機している、演奏を終えた中学生一人一人に敬意を示している表情だ。


 そう、彼らは中学生に対して心から敬意を示している。


 「皆様、大変長らくお待たせいたしました。審査の結果が出そろいましたので、ただいまから、結果を発表いたします。結果発表に先立ちまして、講評を行います。よろしくお願いいたします。」


 司会の合図で、審査員の一人の男性が前に出て、用意されたステージ中央のマイクに向かう。


 「え~、皆様、演奏お疲れさまでした。皆様の演奏は大変興味深く、審査員一同聞き入ってしまいました。本当に、素敵な演奏、ありがとうございました。」


 審査員の一人は挨拶を述べて、講評を述べる。

 だけど、僕、【橋本(はしもと)(ひかる)】は、その講評の言葉が頭に入ってこなかった。


 おそらく、僕を含め、この客席にいる多くの中学生がそうなのだろう。

 なぜなら僕は、このコンクールでピアノ演奏を終え、これから行われる結果発表を緊張して待っている。ここに居る中学生と同じように。


 講評をきちんと聞こうとしている、真面目な性格の人間も、やはりここでは結果が気になるようだ。


 「え~、それでは皆様、きっと、ドキドキしていますから、講評はこれくらいにして、改めて、皆様に敬意を示して、私からの挨拶とします。どうもありがとうございました。」

 審査員を代表して、講評を述べた人物は深々と頭を下げて、拍手に送られて、ステージの奥へと下がっていった。


 いよいよだ。

 「ごくっ・・・・。」

 僕は唾を飲み込み深呼吸する。


 緊張はしているがベストは尽くした。

 課題曲一曲、自由曲二曲、計、三曲演奏したが三曲とも上手くいった。


 課題曲ショパンのエチュードから一つ選ぶ。

 『エチュード、Op10-4』。ピアノの先生から大丈夫だからと太鼓判を押されて臨んだ。

 自由曲は三拍子系の曲が得意なので、同じショパンから、二曲選んだ。

 『マズルカ、Op33-2、ニ長調』、そして、『ワルツOp18』、ターンタタターンで始まる、通称、『華麗なる大円舞曲』だった。


 小学校からずっとコンクールに出場している。大丈夫。

 僕は、そう言い聞かせ、再び深呼吸する。


 「それでは発表します。」

 司会の声がひと際大きくなる。

 十位以内であれば入賞。よって、審査結果は、十位から発表されるようだった。


 十位、九位、八位、七位、六位、五位、四位と続く。

 そして。銅賞三位。銀賞二位。ここからは賞状の他に記念品の盾がもらえる。三位には光り輝く銅の盾。二位には光り輝く銀の盾が贈られ、受賞者の表情はさらに嬉しそうだった。


 残すは、金賞一位のみ。僕の名前は、まだ呼ばれない。今年はレベルも高かったし、おそらく圏外に沈んでしまったのだろう。ここまで来られるだけ良しとしよう。来年もあるし、また頑張れば。

 そう思った時だった。


 「おまたせしました、今年度のピアノコンクール全国大会、金賞一位、エントリーナンバー十七番、関東地区代表、橋本輝君!!」

 司会の人が、今日いちばんの声のボリュームで僕、橋本輝の名前をコールした。


 「は、はいっ!!」

 それに思わず急に立ち上がる僕。

 立ち上がった瞬間、会場からは今日いちばんの拍手が沸き起こった。


 金賞一位。やった。やった。


 僕は、一歩一歩ステージに近づく度、その嬉しさが沸き起こった。


 「素晴らしい表現力豊かな、ワルツの演奏を橋本君はしてくれました。小学校時代も全国大会に出場されていましたが、惜しくも入賞を逃していました。しかし、去年も中学一年生で、七位入賞、そして、今年優勝と、やはり、この時期の男の子なのだからでしょうか。だんだんと背が伸びて、力強い演奏ができるようになり、表現の幅がグッと広がったことで、今回、見事一位、優勝となりました。そして、橋本君は中学二年生。来年も中学生部門で素晴らしい演奏をされることを期待しています!!皆様、もう一度、橋本君に大きな拍手をお送りください。」


 司会、そして、審査員の人から僕の演奏について評価のアナウンスがあった。

 再び、会場は拍手に包まれ、僕はその中で。賞状と、光り輝く金の盾をもらった。


 「ありがとうございます!!」

 僕は涙と、笑顔で賞状と記念品を受け取ったのだった。




 翌朝、そのコンクールの模様は新聞やテレビで大きく報じられ、さらにはSNSの動画サイトの一つ、YouTubeで演奏までも公開された。


 「「ふうっ。」」

 そのコンクールの映像越しにため息をつく三人の人物。

 一人はほとんど白髪の外見で年齢が七十歳近く。他の二人は五十歳手前と言ったところだろうか、一人はいかにも高級そうな眼鏡をかけているが、もう一人はかけていない。だが、眼鏡をかけている人物もそうでない人物も、顔のパーツは一緒のものが大半だった。

 二人は兄弟だった。


 「すまなかったね。安久尾(あくお)君。」

 七十歳近い白髪の男が、二人に頭を下げる。


 「いえいえ、反町(そりまち)先生は何も悪くありません、むしろ小学校までは息子の方が、いろいろと上回っていたのですし、去年に関しては、マグレだと思い、息子も成長期に入るかなと思って、そのままにしておいたので。私も彼についてはノーマークでしたから。今年も息子と一緒に競り合うかな、と思ったのですが。」

 眼鏡をかけた方の男が言った。


 「しかし、彼も成長期に入って、こうも急激に、かつ圧倒的に差をつけられてしまうと、来年度も、五郎の全国大会優勝の可能性が潰されてしまうのでは?いや、今後、彼が五郎と同学年に居る限り、それも、中学生部門は勿論、この先の高校生部門も厳しいかと。兄貴、一体どうするんだよ。」

 眼鏡をかけていない方の男が兄に向かって言う。


 「ああ。そうだな。もともと、顔と名前を知ってもらえれば、大勢の人の前で緊張しないようにするために、息子にピアノを習わせたのだが。彼が居ると舞台に立つ機会も与えられなくなるなぁ。」

 頭を抱える眼鏡をかけた男。


 「二人ともすまない。まさか、私の町に、強力なライバルがいたとは。」

 頭を抱える白髪の男。

 白髪の男が発した、『私の町に』という言葉。これはあながち間違っていない。


 なぜならば、白髪の男の名は、【反町(そりまち)太郎(たろう)】。東京からほど近く、東京のベッドタウンに位置する【反町市(そりまちし)】選出の衆議院議員だ。

 苗字と自治体の名前が一緒なのは、偶然ではなく必然だった。

 反町という名前は、室町時代からこのあたり一帯を治めていた武家の名前。

 故に、反町家の人物は代々、政治などの要職に就いていたのだった。


 当然、反町太郎も、二十代のころから国会議員になり、当選回数も十回を超え、法務大臣、外務大臣を歴任し、今は政権与党の幹事長だった。


 その反町は、さらに深いため息をついていた。


 「いえいえ。私も彼が私の町であれば、それなりに情報は掴めていたのですが、隣町でしたので。私も情報力不足です。先生もピアノのことになるとやはり・・・。」

 眼鏡の男は反町を傷つけないように、自分も情報力不足をアピールしながら、この言葉を発していた。


 眼鏡の男の名は【安久尾(あくお)次郎(じろう)】。反町市の隣に位置する、【北反町市(きたそりまちし)】選出の国会議員だった。

 反町市と北反町市は名前こそ似ているが、両方とも東京のベッドタウンに位置するため人口も多く、同じ選挙区だと、一票の格差に影響が出てしまうため、小選挙区は違っていた。

 次郎の当選回数は四回ほどだが、若い時から反町の秘書を務め、議員を務める以前から、政界では顔の効く人物だった。

 おそらく、次も当選すれば閣僚入りだろう。


 そして、眼鏡をかけていない方の人物の名は、その、安久尾次郎の弟【安久尾(あくお)竜次(りゅうじ)】。北反町市、そして、北反町市が含まれる県で一番大きな建設会社、【安久尾(あくお)建設(けんせつ)】の会社社長だった。


 「いやいや、構わないよ。安久尾君。事実だしね。」

 反町がうんうんと頷く。

 そして、反町は深呼吸して。


 「さてと。今後、どうしようか?」

 「ですね。」

 反町の提案に安久尾は考える。

 そして、深呼吸して。


 「やるしか・・・。ないか。」

 安久尾次郎はお互いの顔を見合わせる。


 「ああ。」

 「だな。」

 反町と竜次は大きく頷いた。


 「新たな敵の名前は、橋本輝。将来、安久尾君の息子の五郎(ごろう)君に影響が出る可能性大。出てきた新芽の状態である、今のうちに・・・・・。」

 「「「潰しますか!!」」」


 二人の政治家と一人の会社社長はニヤニヤと笑っていた。

 そして、ここは反町市内の反町の選挙事務所の会議室。三人以外は誰もいない。当然、ここは密室。


 そう、密室だった。


               


 季節が一巡りした。

 中学三年生の僕、橋本輝。ピアノコンクール県大会。

 去年は、県は勿論、全国で優勝したんだ。絶対に行ける。


 僕は大きく頷いてコンクールに挑んだ。

 課題曲、自由曲共にレベルアップして。


 課題曲。今年もショパンのエチュードから。

 『エチュード、Op10-5』通称、『黒鍵』。

 そして。

 『ワルツ、Op42、大円舞曲』

 『Op53、英雄ポロネーズ』

 曲の難易度もレベルを上げ、それをきっちり仕上げて臨んだ。


 そうして、きっちり演奏を行い。あふれるばかりの拍手が起こり。手ごたえを感じた僕。

 少し余裕を感じる。


 だけど・・・・。

 なぜだろうか、時々あざ笑うような視線を感じる。

 そして、全ての演奏者の演奏が終わり、講評に移るのだが。


 ステージ上にいる審査員は、去年の時とは違い、演奏者一人一人に敬意を感じる表情をしておらず、それどころか、違う意味の威圧的なものも感じた。


 なんだろう。この感じは。


 それは僕にはわからなかった。


 そして・・・・・。

 「県大会、優勝は、【安久尾(あくお)五郎(ごろう)】君に決定しました。おめでとうございます。」


 司会の発した言葉。この瞬間、僕は関東大会出場どころか、県大会で入賞圏外となった。

 拍手の中、安久尾と呼ばれた人物は立ち上がる。


 彼もまた、僕の方を向いてニヤニヤと笑っていた。


 悔しい・・・・・。ただ、その一言に尽きた。


 こうして、中学三年のピアノコンクールが終わった。

 そして、この時、散々な結果だったため、有力視されていた音楽系の高校の推薦と学費免除もほぼ絶望的になってしまった。



最後までご覧いただき、ありがとうございます。

これからも、頑張って投稿しますので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ