第3話 兄妹
朝九時頃、海老太郎はもの凄い勢いで息を切らしながら場内を駆ける。
「ハァ、ハァ、経丸さん、経丸さん」
と大きな声を出しながらバッと勢いよく経丸の部屋の襖を開け
「ハァ、ハァ、経丸さん、不審者を捕まえました」
経丸は少し驚き、横にいた片倉さんも少し驚き、士郎はビビり散らかしちょっと間を置いてから
「海老太郎、経丸さん女性だぞ。女性の部屋を許可なくいきなり開けちゃダメだろ」
「すみません」
経丸は優しい口調で
「いいんですよ、士郎さん。海老太郎さんは急ぎの用事だったんですから」
「急ぎの用事とはいえ、経丸さんが着替えていたらどうするんですか?」
経丸は海老太郎に
「その時はすぐ閉めてくれますよね」
「はい、もちろん。その時はすぐ閉めますよ」
「いや、すぐ閉めるとかそういう問題ではないんじゃないですか?」
経丸は士郎の肩をポンと叩いて
「士郎さん、気にし過ぎですよ」
海老太郎は経丸に同調して
「そうです。士郎さん気にしすぎ」
士郎は海老太郎の首を絞めながら
「お前が言うんじゃねぇ」
片倉さんが
「ところで海老太郎君が捕まえた不審な人物は?」
海老太郎は得意げに
「表の木に縛り付けております」
「じゃあ、見に行くか」
皆で表の木に行くと黒髪ショートカットの小顔の女の子が縛り付けられていて士郎を見て
「おっ、兄貴」
「凛!!!」
士郎は慌てて木に縛り付けられている凛の縄をほどき
「大丈夫か!怪我無いか」
凛は少し笑いながら
「大丈夫、怪我無いよ」
海老太郎はキョトンとした顔で
「士郎さん、何で不審者をほどいちゃうんですか?」
「てめぇ!海老太郎!!」
「士郎さん、どうしました?」
士郎は海老太郎に乗っかり馬乗りになって
「よくも、俺の大事な妹を縛り付けやがって」
「えっ、えっ、士郎さんの妹何ですか?」
「そうだよ、妹の凛だよ」
凛は士郎をはがして
「やめなさい」
士郎は海老太郎を指さし
「だって、こいつお前の事、木に縛り付けたんだぞ!!」
「間違えちゃったんだからしかたないでしょ」
「仕方なくないだろ!!」
「兄がいきなりすみません」
そう言って凛が頭を下げると海老太郎は
「不審者と間違えて縛り付けてすみません。いつもやられてます」
「いつもやられてます。じゃないだろ!!」
凛が少し呆れた感じで
「兄貴、うるさい」
士郎は黙る。
「お騒がせしてすみません。私、外岡士郎の妹の外岡凛と申します」
「士郎さんにこんなに可愛らしい妹さんがいたんですね」
凛は経丸に褒められ顔を真っ赤にして照れながら
「いや、そんな可愛らしいなんて、経丸さんは凄くお綺麗ですよ」
「ありがとうございます」
士郎は得意げに
「経丸さん、凛はねぇ、それがしと違って勉強も武術も優秀なんですよ」
「はい、見ればわかります」
「経丸さん、ちょっとそれがしに失礼ではないですか?」
経丸はキョトンとした顔で
「えっ?何がですか」
「そこは、いや、士郎さんも優秀ですよって言ってほしかったですね。それがしは謙遜で言っている訳でもあるんですから」
「あー、あぁ~あ、あ?会話って難しいですね」
思わず片倉と凛は笑う。
片倉さんはうなだれる士郎の肩を優しく叩いて小声で
「まぁ、まぁどんまい、どんまい」
士郎が
「なんで?海老太郎は凛を縛り付けたんだ?」
「外岡士郎いますかって聞かれてそんな奴、この城にはいない、いない奴を呼んでるなんて怪しいと思って縛り付けたんですが」
士郎が呆れた感じで
「海老太郎、それがしの名前は?」
「士郎さん」
「それがし、外岡士郎って言うんだ」
「えっ?士郎さんは士郎さんじゃないんですか?」
「えっ?えっ?」
戸惑う士郎に海老太郎は
「だって、皆。士郎さんって呼んでるじゃないですか?外岡士郎なんて初めて聞きましたよ」
「いや、ちょっと。恐い、恐い」
片倉さんが
「フルネームの名札つけて歩かない士郎君が悪いね」
「片倉さん、これ見てこんなに大きくフルネームで書かれている甲冑着てるんだよ」
「あっ、ホントだ!ちゃんと大きく書いてある。海老太郎君次からここ見ようね」
「はい、わかりました。外岡士郎さんの名前今、覚えました」
士郎以外、皆拍手する。
「何で皆、海老太郎にそんな優しすぎるの」
皆、声を揃えて
「いい人だから」
「待て、待て凛は今日あったばかりで海老太郎の事そんなわからないだろ」
「いや、わかるよ」
「へっ?」
「だって、私の事縛る時」
回想
「すみません。ちょっとあなた、今、不審者って扱いになってしまうんですけど木にお縛りしてよろしいでしょうか?」
「えっ?私、縛られるんですか?」
「すみません。縛ります」
「縛るんなら、経丸さんとか呼んで来てもらえませんか?誤解が解けると思うので」
海老太郎は凄い大きい声で
「はい、わかりました!早急に呼んで来てまいります!!」
凛はあまりの海老太郎の声の大きさに少し驚く
海老太郎は凛を縛り始め
「痛くはないですか?」
「大丈夫ですよ」
「よかったです。じゃあ僕は経丸さん呼んで来ます」
「はい」
回想終わり
「ねぇ、不審者と思っている人間を縛り付ける時さえ痛くないように気を使ってくれるんだよ」
経丸は納得した表情で
「やっぱり、優しい方ですね」
「待て待て、おかしいってまず凛、お前なんで素直に縛られてるんだ」
「だって、下手に逃げたり抵抗したりしたら攻撃されるかも知れないじゃん。それに経丸さんが来れば兄貴も来て誤解が解けると思って素直にしたがったの」
「凄いな、めちゃくちゃ意味の分からない状態でも冷静に対処するんだな」
「まぁ、慌てふためいたりしたら解決策を見失うからね」
士郎は思わず
「おぉ~」
と感心する。
「ところで凛、それがしに何の用で来たの?」
「兄貴、この前の戦で怪我しなかったか様子を見に来たの。」
「その為だけに来たのか?
「そうだよ、こっちは凄く心配してるんだから」
経丸が
「凛ちゃんって凄く優しい方なんですね」
「いや、その、違うんですよ。私のお年玉が減るから心配してあげてるんですよ」
士郎がニヤニヤしながら凛を指さし
「いや、照れ隠しです。それがしの事大事に思ってくれてるんですよ」
凛は照れて顔を真っ赤にしながら
「余計な事言いながら、人を指さすな」
「凛さんって働き先決まってるんですか?」
「まだです。これから探そうと思ってまして」
「もしよかったら、天羽家で働きませんか?」
凛は経丸の問いかけに
「えっ?」
と言って驚く
士郎が強い口調で
「経丸さん、それはダメです。凛を戦とか危険な場所に行かせることは出来ません」
「あっ、そうですよね」
「待ってください!!私、天羽家で働きたいです」
「おい、凛。戦はとても危険なんだ。ここで働くのはやめときなさい」
「危険なのはわかってる。でもここの人達、皆いい人達だから働きたい」
「何言ってんだ!!仕事の内容が危険すぎる。別の安全な所で働きなさい」
「兄貴、仕事は仕事内容じゃないんだよ。共に働く人間関係が大切なんだ。私は人間関係がいい場所で働きたいんだ」
「人間関係って今日初めて会った人達の何がわかるんだ」
「兄貴、この方々、皆いい人達なんでしょ?」
「いい人達なのかなぁ?皆してそれがしをイジって来るが」
凛は真剣な目で士郎を見て
「兄貴、真剣に答えて」
「いい人達って言うより、最高の仲間だ」
士郎は自分の言葉に恥ずかしくなり顔を真っ赤にし
「いや、そのね。あのね。何て言うんだろうね」
なんかグチュグチュって誤魔化そうとする士郎に対し
「兄貴が自信を持ってそう言うんだから最高の人たちなんだよ。兄貴の最高の仲間なら私は最高の方々だと思うからだから仲間に入れてもらいたい」
「凛・・・」
凛も恥ずかしくなって
「いないよ、こんな出来の悪い兄貴を仲間に入れてくれる方々」
「それがしが出来悪いのは凛が出来の良いとこ全部持っていったからだろ!!」
「あんたが全部置いてったんだろ!!」
凛の返しに皆笑いながら拍手する。
「経丸さん、私を天羽家の仲間に入れてください」
経丸は嬉しく、少しいつもより声のトーンが高くなって
「私は大歓迎です」
片倉さんは優しい口調で
「俺も大歓迎です」
海老太郎は大きな声で
「僕も大歓迎です」
経丸は士郎を見て
「士郎さんは?」
「戦の時、絶対に最前線には行かせず後方からの支援のみって条件なら」
「わかりました。その条件は絶対に守ります。それでいいですよね。凛さん」
「はい、ありがとうございます」
経丸と凛は堅い握手を交わした。
経丸が
「じゃあ、今日は凛ちゃんの歓迎会しましょうよ!!」
海老太郎は大きな声で
「いいですね、僕、最近気になってる店見つけたんですよ!!」
「えっ?どこ」
「なんとね、内臓肉を食べれる店なんですよ、外岡士郎さん内臓肉食べた事ありますか?」
士郎と片倉さんは思わず笑う。
「何で笑うんですか?」
「この前、片倉さんがその店気になっているって言うから行って、片倉さんワクワクしてていざその肉食べてみたら嫌いだったんよ」
「そうなんですね。じゃあ片倉さんがその肉好きになるようにするためにその店にしますか?」
片倉さんは少し笑いながら
「海老太郎君、それは鬼よ」
「好き嫌いすると大きくなれませんよ」
士郎が
「片倉さん、身長百八十五センチ超えてるんだよ。この中じゃ、ぶっちぎりに大きいんだよ」
「じゃあ、好き嫌いしてもいいか」
テンポの良さに思わず皆笑う。
「あっさり、納得したな」
経丸が
「お店に行くんじゃなくて、ここで皆で食べませんか?」
経丸の案に士郎が
「いいですね、ここなら海も見渡せるし最高な案です」
「凛ちゃん、何食べたいですか?」
「いや、私はそんな特には」
「凛は肉が好きだ!そうだ、バーベキューにしようよ」
「兄貴、贅沢過ぎるって」
経丸が
「いいですねバーベキュー。じゃあバーベキュー決定で」
「おい、凛こっちの肉焼けたぞ」
「兄貴、先に経丸さんや片倉さんに食べて頂かないと」
「何気使ってんの?これ凛の歓迎会だぜ」
「そう、凛ちゃんの歓迎会だから凛ちゃん遠慮せず食べて」
「お言葉に甘えて頂きます」
凛は肉を頬張ると
「凄く美味しいです」
「そっか、よかった」
「じゃあ、これは経丸さん」
「私の大きくないですか?」
「いいから、いいから」
経丸も肉を頬張ると
「凛ちゃん、凄く美味しいね」
「そうですよね。美味しいですよね」
「どんどん焼くから遠慮せずいっぱい食べな」
経丸が
「ありがとう、士郎さん」
「ありがとう、兄貴」
士郎は褒められて照れながら
「おう、片倉さんと海老太郎もちゃんと食べてるか?」
「照れちゃって、ちゃんと俺らも食べてるよ」
海老太郎は肉を箸でもって
「士郎さんの顔、このお肉より赤いですが何かあったんですか?」
「お前、ぶっ飛ばすぞ!!」
と士郎が行った後海老太郎が肉を食べようとし士郎は慌てて
「あっ!!待てそれまだ真っ赤だ。もっとよく焼け!!」
「赤いと食べちゃダメなんですか?」
「赤いのはダメだぞ肉はちゃんと焼いてね」
「士郎さん、これは?」
「食べていいよ」
「じゃあ、士郎さんこれは?」
「食べてよし」
そのやり取りが十回以上続き
「じゃあ士郎さんこれは?」
「いい加減自分で判断しろ!!毎回それがしに聞くな」
「すみません、士郎さん肉判断係だと思ってたので」
「そんな係になった覚えないわ!!」
片倉さんが煽るように
「じゃあ、士郎さんこれは」
「片倉!!ぶっ飛ばす!!」
片倉さんは笑いながら
「士郎君、冗談だよ」
「わかってますよ」
「兄貴、これは?」
「凛てめぇ!!」
「士郎さん、これは?」
「経丸さんまで!!」
皆、笑った。
凛の歓迎会は凄く盛り上がったのであった。