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第22話 罰金

 経丸達が帰った後の金崎の居城春日山城では


「殿―‼」


 家来が慌ただしく金崎の前に現れた。


金崎は酒を飲んでいたが落ち着いた感じで一杯お酒を口に運んでから


「どうなされました?」


「たくさんの国衆が来ております」


「わかりました、こちらにお呼びください」


 国衆達が慌てながら


「金崎様」


「どうなされました?皆さん」


「不動武虎に攻め込まれ城を落とされました」


「我も同じ」


 我も我もと次々と声が上がった。


「金崎様、不動武虎を討ち取ってくださいお願いします」


 金崎は一つ間を置いて


「わかりました、私に任せてください」


 依頼を快く承ける金崎に家臣が


「お待ちくだされ殿、お断りくだされ。不動の騎馬隊は強いですから我らにたくさんの犠牲が出ることは必須ですよ」


 家臣が戦いたくないというのも無理はない。不動武虎とは五百年前から代々甲斐を拠点としている名門家で日ノ本一と言われている騎馬隊を率いて四十代後半の筋肉の鎧を着ているような体つきで武術にも優れている武闘派の大名である。


「助けを求められたら見捨てずに助ける。それがこの家の家風ではないですか」


「しかし今までと相手が違いすぎます」


「金崎家は義を重んじる家、助けを求められたらそれに応えなければいけないのですよ」


 金崎は家臣の意見を受け入れずに戦うことを決意したのであった。



 数日後、館山城では


「経丸さん、金崎様より手紙が届いてます」


「どれですか?」


 経丸はチビルから渡された手紙を読んだ。


 読んでいる経丸の横で片倉さんが


「若、なんて書いてありましたか?」


「今度、戦があるから援軍をお願いできませんかと」


「ほー戦ですか、相手はどこですか?」


「不動家です」


 片倉さんは驚きながら


「不動家って、南平金々亡き後、最強と言われている大名ではないですか?」


「そうですが金崎殿なら勝てますよ」


「若、南平金々は最強と言われてても油断したから八坂に負けましたけど松戸公明は絶対に油断などしない、しかも強いのに慎重に考えて行動を取る男でございます。相当な強敵でございます」


「確かに強い相手です。私らだけで戦うなら全く勝負にもなりませんが、金崎殿がついておられる。ましてや私達が主軸として戦うわけではありませんから。あくまで援軍ですから」


「しかし、援軍でも大敗すればこの前みたいに我らの中からもたくさんの犠牲者が出るんですよ」


「でも、私達、前に踏み出さないと確かに戦は恐いけどここで逃げたら二度と戦えなくなる気がして」


 若は恐怖に打ち勝つために前に進もうとしてるんだ。それなのに俺は逃げようとして


 片倉さんは自分の逃げ腰の姿勢に腹が立った。


 深く深呼吸をして戦う覚悟を決め


「若、すみませんでした。若の言うとおり戦いましょう」


「片倉さん、ありがとうございます。片倉さんが共に戦ってくれれば私の恐怖心が少しやわらぎます」


「若、もったいないお言葉」


 片倉さんは深く経丸に頭を下げた。


「片倉さん、皆さんに金崎殿の元へ援軍に行くことを伝えてその支度をお願いしてください」


「はい、わかりました」


 こうして経丸達は金崎家に向かって出立した。


 春日山城


「金崎様、ただいま参陣いたしました」


 金崎は経丸の手を固く握り


「よく来てくれました、経丸さん」


 経丸は笑顔で


「はい」


 経丸は金崎に


「こちら、片倉さん、稲荷さん、海老太郎さん」


「この前は若達がお世話になりました」


 片倉さんは深々と頭を下げた。


 金崎は優しい口調で


「いえ、いえこちらこそ援軍に来てもらいお世話になっております」


 金崎は経丸に


「経丸さん、立派な頼もしい仲間がいて幸せ者ですね」


「はい、いつも皆さんに助けられて」


「そうそう、それがしが主に経丸様を助けてるんですけどね」


 凛が笑いながら


「天羽家の税金がよく言うね」


「凛、それがしの事天羽家の税金と呼んでいたのか!!」


 怒る士郎の横で海老太郎は片倉さんに


「税金って何ですか?」


「まぁ、簡単に言えば何も悪い事してないのに理由を付けて取られる厄介な罰金ってこと」


 海老太郎は真顔で


「じゃあ、士郎さんは天羽家の厄介なばい菌なんだ」


 片倉さんは慌てて


「ばい菌じゃない、罰金!!意味変わってきちゃうから」


 皆笑う。


 凛が笑いながら


「ばい菌の方が表現としてあってるかもしれないね」


「凛、てめぇ!兄貴のそれがしを散々バカにしやがって」


 海老太郎がいきなり大声で


「士郎さん!!口空けてください」


 海老太郎は士郎の口にいきなりひょうたんをツッコむ


 士郎はひょうたんから自分の口に勢いよく流れ込んできたものを


「ブッ!!」


 と吐きだし、顔を真っ赤にしながら


「いきなり、何すんだ!海老太郎!!」


「士郎さんばい菌なんで、お酒で消毒しました」


 片倉さんが


「海老太郎君!!賢くなったな」


「はい、僕賢いです」


 皆笑った。


 士郎は顔を真っ赤にしながら大声で


「片倉!海老太郎まとめてぶっ飛ばしてやる!!」


 金崎は優しい口調で


「疲れているでしょうから温泉でも入って来て下さい」


 士郎達は声を揃えて


「ありがとうございます」


 天羽家の皆は金崎の言葉に甘えて大きめの温泉に入った。


 士郎は片倉さんに


「片倉さん、今回戦う不動軍ってどんな戦いをするんですか?」


「騎馬隊で戦場を縦横無尽に駆け巡り敵を圧倒する戦い方をするよ」


 海老太郎は手を挙げて大声で


「縦横無尽って何ですか?」


「簡単に言えば、思う存分暴れまわるって事」


「騎馬隊で思う存分暴れまわるって事ですね」


 片倉さんは海老太郎を人差し指で指しながら


「そう、そういう事!」


 海老太郎は真剣な表情で


「なるほど、ところで騎馬隊って何ですか?」


 思わず皆、湯の中に沈む。


「馬に乗って戦う兵隊って事」


「なるほど、でも馬に乗って戦う人見た事ありますよ」


「他の家は大将クラスしか馬に乗って戦わないが不動家は全体の六割の兵が馬に乗って戦うんだ」


「えっ、何で不動家はそんなに沢山馬がいるんですか」


 片倉さんは海老太郎が理解しやすいように


「不動家が支配している土地はいい馬がたくさん生まれる場所だから」


 と簡単な単語で説明した。


 海老太郎は片倉さんに


「ズルいっすね」


「確かにズルいよな」


 海老太郎は大きな声で


「じゃあ、馬に乗ってる相手なんかどうやって戦うんですか?」


「馬に乗って戦う相手に攻撃する時は乗っている者を狙わず馬を攻撃します」


 経丸の言葉に海老太郎が


「えっ~!お馬さん可哀そう」


 経丸は真剣な表情で


「戦とは殺し合いですよ。敵に同情している余裕などないんです」


 経丸のいつも見ない表情に海老太郎は震えながら


「す、すみません」


 士郎は慌てて


「経丸さん表情が恐い。経丸さんはそんなキャラじゃないでしょ。海老太郎ビビっちゃってるから」


 経丸は大きな声で


「私はこのメンバー誰一人として死なせたくない。もう大切な人を失いたくないんです‼」


「だから覚悟を持って戦って欲しいんです!相手は日ノ本最強の不動家なんですから‼」


 普段温厚な経丸が今まで見たことない、真剣な表情で大きく強い口調で話す姿にみんな驚き言葉を発せない中、が大きな声で


「カッコイイです、経丸さん。さすが私達の主です」


 凛は士郎に肩を軽く叩いて


「兄貴、経丸さんこんなに皆の事を思って覚悟をしている。私達も覚悟持って戦わないと失礼だよ‼」


「そうだね、確かに凛の言う通りだ」


 凛は海老太郎の肩をポンと優しく叩き優しい口調で


「海老太郎さん、私もさっきまで覚悟持ててなかったから大丈夫ですよ」


「そうなんですか」


「うん、海老太郎さんのおかげで皆しっかり気持ちを同じ方向に向けられた」


「そうなんですか!僕のおかげなんですか‼」


「そうですよね。経丸さん」


「海老太郎さん、ごめんなさい厳しい口調になってしまって」


「経丸さん、僕のおかげで皆がまとまったんですか?」


 経丸は笑顔で


「はい」


 凛は経丸に


「私、経丸さんに仕えられた事人生で一番の自慢です」


 凛の言葉に経丸は思わず嬉しくて泣きそうになる。


 士郎は凛の背中を叩きながら兄として凛を心配そうに


「凛、まさか死ぬ気じゃないよな・・・」


 凛は士郎を睨みながら


「縁起でもないこと言わないの!!」


 場の空気が重くなる。


 そりゃそうだ、士郎が妹を心配する気持ちは凄くわかるが、戦前に死ぬのか?なんて縁起でもない事を聞く士郎が悪い。


 凛はこの空気を換えようと少しおチャラけた感じで


「経丸さん、兄貴は多分この中で一番戦に対する意識低かったんで少し罰を与えるべきかと」


「そうですね、一か月減給しますか」


 経丸の言葉に皆、喜び笑い出す。


「待て待て、ふざけんな!凛‼何余計な事言ってんの!経丸さんも減給しようとすな」


 凛が


「この戦が無事終わったら兄貴の減給したお金で皆で美味しもの食べましょうよ」


 ひのが


「何、食べましょうか」


「ひのちゃん、話進めない!!」


 片倉さんがニコニコしながら


「経丸さん、多めに減給しましょう。そうすれば美味しものたくさん食べれますよ」


 士郎は慌てて


「おい、片倉さん何バカな事提案してんだ!」


「いいですね。わかりました。一か月給料なしにしましょう」


「おい、経丸さん!アンタは鬼か‼おい、チビルなんか言ってやれ」


「俺、美味しい肉が食いたい」


 士郎はチビルの頭をぐりぐりしながら


「てめぇ!口数少ないくせに珍しく喋ったらろくな事言わないな」


「お前がなんか言えって言ったんだろ‼」


「俺に味方しろよ!」


「やだぁ~皆から嫌われるもん」


 皆、チビルの言葉で笑う。


 海老太郎が突如大きな声で


「やったぁー!士郎さんのお金で美味し肉が食べれる」


 士郎はチビルを開放し、海老太郎を捕まえ頭をぐりぐりしながら


「おい、元はお前が原因なんだぞ。お前ももちろん減給される側に決まってんだろ」


「いや、僕は減給遠慮しておきます」


「何が遠慮しておくだ!ふざけるな‼こうなったらお前は必ず巻き込んでやる」


 経丸が


「海老太郎さんは普段の働きがいいので減給なんて出来ないですよ」


「どこが普段の働きいいんだよ!こいつは納屋燃やしたんだぞ‼」


「もう納屋の事なんて誰も言ってないですよ。士郎さんはしつこいんだから」


 海老太郎はそう言って呆れながら


「ふぅー」


 とため息をつくと士郎は海老太郎の首を絞め


「痛い、痛い、士郎さん痛いです‼」


「じゃあ、謝りなさい」


「ごめんなさい、ごめんなさい」


「しかたない許してやろう」


 海老太郎は経丸の背中に回って


「謝れば簡単に許すとかチョロい奴め」


「てめぇ!ぶっ飛ばしてやる!」


「きゃー、暴力男‼」


 天羽家の皆は心を一つの方向に向けて不動家との戦に臨むのであった。
















 











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