第19話 同盟
時は八坂翔平が太松太郎を討ち取った日の夜までさかのぼる。
夕刻、八坂家の清洲城で勝利の宴がおこなわれていた騒がしかった。
じいはキョロキョロしながら近くにいた家来に
「殿はみなかったか?」
「あの殿の事だからどこかうろちょろしてるんじゃないですか」
「まったく今日は殿が主役なのに」
その頃、八坂は領地内の民家を訪ねていた
「家の方いらっしゃいますか?」
「はい、あっ、これはお殿様」
いきなりの八坂の訪問に驚き、慌てて膝を付いて頭を下げる民に向かって八坂は
「本当にすみませんでした」
と言って土下座した。
民は慌てて
「どうなされたんですか、顔をあげてください」
「すみません、あなたの大切な旦那さんを奪ってしまって」
「仕方のない事ですよ、戦なんですから、主人ちゃんと戦ってましたか?」
「そりゃ、俺のために全力で戦ってくました」
「そうですか、主人も喜んでいると思います。わざわざ勝ち戦の宴をお殿様が抜けて家にお褒めの言葉を言いに来て下さるのですから」
「俺は早くこの国から戦を無くし、皆が幸せに暮らせる世の中を作りたい!!」
「お殿様なら必ずできますよ」
民の言葉に八坂は
「ありがとうございます」
と言って丁寧に頭を下げる。
「これ少ないが供養に当ててください」
八坂は民にお金を渡した。
「いや、これは私達にはもったいないですよ」
「今まで我に奉仕してくれた分だ、困ったことがあったら遠慮なく申してください。あなた方のことは必ず支えますから」
民は目を潤ませながら
「お殿様、お気遣いありがとうございます」
八坂が去って行こうとする時に
「お殿様!!」
この声に八坂は振り向く民は両膝を地面につけ
「必ず!必ず!この世を戦のない世にしてください!!」
そう言って泣き崩れながら頭を下げる。それを見た八坂は両頬に涙を伝わせながら覚悟の決まった声で一言
「お任せください!!」
民は八坂の去っていく背中を見て
(主人があなたに仕えてた事は私のほこりです)
八坂は三日かけて死者が出た家を一軒一軒回っていったのであった
国光家では、麒麟は鷲雪を自身の部屋に呼んで
「八坂翔平からぜひ直接会いたいとの返事が来た」
「殿がいきなり直接行くのは危険すぎます。この私が一人で行きます」
「鷲雪は十分役割を果たしてくれた。これは俺の仕事だ」
「しかし、私達は敵対してたんですよ。八坂翔平は殿の首を刎ねるかも知れません」
「大丈夫!絶対に大丈夫だから」
鷲雪は凄く心配そうな表情で
「しかし、もしもの事が殿に起きたら私は生きていけないです」
麒麟は優しい表情と口調で
「俺が絶対に大丈夫って言ってるのに信用できないのか?」
「信用できます。絶対に大丈夫です」
「じゃあ、共に行こう」
「はい」
翌日、麒麟と鷲雪は八坂のいる那古野城に向かった。
麒麟と鷲雪は八坂の居城、名古屋城に向かう。
麒麟は不安そうな表情で震えている、鷲雪の肩を優しく叩いて
「大丈夫、俺が付いてる!!」
「はい、そうですよね。殿がいれば恐い者なしですよね」
二人が那古野城の前に着くと八坂が那古野城の前立っていた。
八坂翔平は麒麟と鷲雪に
「あなた方が国光麒麟殿と鷲雪殿ですか?」
二人は声を揃えて
「はい、あなたは」
「那古野城、城主八坂翔平でございます」
麒麟と鷲雪は驚き鷲雪が
「えっ、八坂殿自らが城の前で我らを待っていてくださったんですか?」
「まぁ、来る時間がわかっていたのでわざわざ来られるのでお出迎えしようかと」
「ありがとうございます」
と言って麒麟と鷲雪は八坂に深々と頭を下げた。
八坂はちょっと申し訳なさそうに
「ごめん、本当は大事な話だから城の中に案内するつもりだったんだけど、家臣の仲には国光家のお二人に会うの凄く反対しいる者もいて、ばれたら面倒な事になるからちょっと俺のお気に入りの店でもいいですか?」
「はい、反対されるのは当然な事なので八坂殿と話をさせていただく機会を設けてくださっただけでも我々は嬉しいので場所はどこでも構いません」
「オッケー!じゃあ、案内するわ」
八坂は自分のお気に入りの店に麒麟と鷲雪を案内した。
三人は店の個室に入り
八坂はお品書きを麒麟に渡すと
「八坂殿から先に選んでいただいて」
「俺は、もうここに来ると頼む物決まってるから」
「はっ!決めさせていただきます」
麒麟と鷲雪は早急に決めた。
八坂は店員を呼んで
「はちみつたっぷりフワフワパンケーキ一つにミルクティー砂糖多めお願いします」
麒麟が
「団子セット二つお願いします」
八坂はパンケーキを頬張りながら
「国光家は我らと同盟を結びたいと」
「はい、同盟を結んでいただきたくこちらにうかがわせて頂きました」
「敵だった、俺となぜ同盟を組みたいのですか?」
「国光家が生き残って行くためには八坂殿との同盟が必須だからです」
「かつての敵に頭を下げてでも生き残ろうとする。その理由は何でですか?」
「私にはこの日ノ本中から戦を無くし平和な世を作るって使命があるから。だからどんな形でも生き残り、使命を全うするんです」
「日ノ本から戦を無くす。そのような考えを持つ方に俺は初めて会いましたね」
「どういう意味ですか?」
「皆、誰もが本気でこの乱世を終わらせられるとは思ってない。自分の国を広げることや守る事しか考えてない。その中で麒麟殿は俺と同じで日ノ本中から戦を無くし平和な世を作ろうとしている。同じ志を持っている方に会えて俺は嬉しいです」
「八坂殿同盟を結んで頂きたいです」
頭を深々と下げる麒麟と鷲雪に八坂は
「結ぶなら条件が一つあります」
「条件ですか」
「この場で、鷲雪の首を刎ねよ」
この発言で一気に緊迫した空気に変わる。
「なぜ、鷲雪殿の首を刎ねなければならないのですか?」
「鷲雪殿は敵だった俺に媚を売るため味方をだまし討ちした。味方をだまし討ちするような奴は俺は信用できない!!だから鷲雪殿の首刎ねぬ限り八坂家と国光家の同盟はなし!!」
麒麟はグッと八坂を睨みつけ
「ならば、同盟などしてもらわなくて結構です!!」
鷲雪は慌てて
「麒麟様!何をおっしゃいますか!!私の首一つで八坂殿と同盟を組んでいただけるならかなり安いもんですよ!!」
麒麟は鷲雪の言葉を聞かずバン!!と机にお金を置いて
「八坂殿、私帰ります。八坂殿がいつ攻め込んで来ても迎え撃てるように岡崎城の準備をしないといけないので」
「鷲雪、行くぞ」
「えっ!麒麟様!!」
「なぜ、敵を不意討ちした家臣をそこまで庇う」
「俺の命に忠実に従った家臣を斬り捨てるわけないでしょ」
「麒麟様」
「あれはホントに麒麟殿の命だったのか?」
麒麟は堂々と
「もちろん!南平家と袂を分けた我らなりの意思表示でございます!!」
鷲雪は横で震えている。
鷲雪を連れて帰ろうとする麒麟に八坂は
「フフッ」
と笑って
「この前の戦で敵だった麒麟殿が正々堂々俺の前に現れる度胸に興味を持ったので今日あったが会うと麒麟殿がやはり器の大きい人物だとわかった。ここで部下を庇える麒麟殿は信用に値する」
八坂は
「同盟を組みましょうか」
「えっ!鷲雪の首は刎ねませんよ」
「鷲雪殿の事は全く信用できないが麒麟殿、あなたの事は信用できる。同じ志を持った者同士手を取り合って共に日ノ本を変えていきましょうよ」
「はい!ありがとうございます」
八坂と麒麟は握手を交わした。
こうして八坂翔平と国光麒麟は同盟を結んだのであった。