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第17話  父上

 鷲雪は片倉さんの言葉を聞いて


「お前、この人数相手に立った二人で勝てると思ってるの?」


 鷲雪の言葉に片倉さんは冷静に


「しゃべってないでかかって来いよ」


「行け、あのクソ生意気を殺せ」


 鷲雪の指示で三十人の男が一斉に片倉さんに襲い掛かった。


 片倉さんは一瞬で三十人を斬り倒して


「カスは束になってもカスだ!!」


 と怒鳴りつけた。




 片倉さんは長経様に


「殿、国光軍は弱すぎます。二人で壊滅させられますよ」


「わかった、じゃあ国光軍を潰すか」


 片倉さんと長経様は次々と向かって来る国光軍を斬り倒していった。


 鷲雪は横にいるチムとガクに


 二人の圧倒的な強さを目の当たりにした鷲雪は少し動揺しながら


「あの二人強すぎないか」


 ガクは顔面蒼白で


「あの強さは桁違いです。ここは撤退しましょう」


「わかった、撤退するか」


 鷲雪は大声で


「撤退!!」


と叫び兵と共に撤退していった。


「殿、追いかけますか」


「いや、追いかけなくていい」


 長経様は嬉しそうな顔で


「水道、強くなったなぁおかげで助かった。ありがとう」


 片倉さんは長経様の言葉を聞いてめちゃくちゃ嬉しくてもの満面の笑みで


「もの凄い嬉しいお言葉をありがとうございます」


 長経様は笑顔で


「これで天羽家も安泰だ」


 と言ったその時、片倉さんの視界には先ほど撤退したはずの鷲雪が長経様に火縄銃を目に向けている姿が目に入り


「殿、危ない伏せて‼」


 ズドーン!!


 鷲雪は火縄銃で長経様の背中を討ち抜いた。


 片倉さんは撃たれて苦しい表情を浮かべている長経様に必死に声をかけるが長経様は必死に声を振り絞るように


「水道、経丸を頼む。経丸を頼んだ」


 片倉さんは泣きそうになるのを堪えながら


「殿、それはもちろんわかってますよ」


「水道ありがとう。水道だけは必ず生き延びてくれ」


 この言葉の後に片倉さんは長経様の体から魂が抜けたのを感じて


「殿、殿―‼」


 長経様はドンドン冷たくなっていったのであった。




 鷲雪は片倉さんが必死に長経に叫んでいるのを見て、手を震わせながら火縄銃を地面に落とし


「長経に当たったっぽいぞ」


 ガクが


「あ、あ。当たりましたね」


 泣き叫んでいる片倉を見て鷲雪は動揺し体の震えが止まらず大きな声で


「怯むな、怯むな、覚悟を決めてたんだろ鷲雪わたし!!」


 チムが慌てて


「鷲雪さん、大丈夫ですか。落ち着いてください」


「落ち着いてる!私は落ち着いてる!!私は自分のやるべき仕事を成し遂げたんだ!!私は!私は!」


 そう言って鷲雪は膝から崩れ落ち泣き崩れる。


 ガクが


「鷲雪さんもう撤退しましょう。これ以上片倉を見てはダメです」


 鷲雪は目を真っ赤にしながら


「ダメだ!鷲雪の首を取らないと鷲雪を討った証拠にならない」


 ガクは冷静に


「今、行けば片倉に返り討ちにされますよ」


「なら、片倉も殺さなきゃ」


 チムが必死な口調で


「鷲雪さん、冷静になってください!!」


「冷静だとも!!私は自分のすべきことをしっかり実行した!!その私に対して冷静じゃないと言うのか」


 ガクはチムに


「連れて行くぞ」


「そうだな」


「二人は鷲雪を抱える」


「離せ!!離せ!!なにしてんだお前達!長経の首を取らないと!!」


 ガクとチムの二人は暴れ抵抗する鷲雪を必死に抑えつけながら撤退して行った。




 片倉さんは泣きながら長経を背負い館山城に向かった。


 片倉さんは館山城の前に着くと長経を丁寧に降ろして


 こんなに優しく俺の事を強くしてくれた長経様をなぜ助けられなかったんだ‼俺はどの面下げて若に会えばいいんだ


「くそがー‼」


 片倉さんは思いっきり拳で地面を殴りつけた。


「片倉さん、何してるんですか?」


 いきなり聞こえる声に片倉さんは驚き後ろを振り返った。


「士郎君、稲荷君どうしてここに」


 士郎は威張るような態度で


「チビルと話しながら、長経様と片倉さんの帰りを待っていたんですよ」


 士郎は片倉さんの前に倒れている長経の姿が目に入り


「えっ!あっ!えっ」


「俺は何も出来なかった。俺はここまで育ててくれた恩人を助けるどころか俺の不注意で・・・俺は何の為に戦に行ったんだ‼」


 興奮状態の片倉さんに士郎は


「片倉さん、片倉さんは何も悪くないです。絶対に片倉さんは何も悪くないです」


 片倉さんはいきなり体育座りをし顔を両膝の間にうずくませながら蚊の鳴くような声で


「もう、だめだ。俺は若に合わせる顔がない」


「片倉さん、何言ってんですか」


 片倉さんは覚悟を決めた表情で士郎に刀を渡し


「士郎君、介錯を頼む」


「片倉さん!!何を言ってるんですか!!」


「もう、俺は生きている資格がない」


 片倉さんに士郎はいきなり思いっきり振りかぶって片倉さんの頬をバチーンと叩いた。


「何すんだ、士郎君」


「目を覚ませよ、片倉さん」


「はぁ?」


「経丸様に合わせる顔がない?ふざけんな‼経丸は唯一の肉親の父親を失ったんだぞ!これからの経丸を支えるのは片倉さんを筆頭としたそれがし達しかいないだろうが‼」


 片倉さんは振り絞る声で


「士郎君」


 士郎は片倉さんの肩をポンと優しく叩いて


「確かに片倉さんは相当辛いと思う、その気持ちは計り知れるものではないけど、でも経丸さんだっていつも不安と戦いながら生きている。けど片倉さんが平常心でいてくれるから安心できるんだ、だからお願いします。二度と経丸さんに合わせる顔がないとか言わないでください。それにそれがしは心の底から片倉さんに死んでほしくない」


 泣きじゃくる士郎に片倉さんは


「士郎君」


「それと今言うのは不謹慎かもしれないけど、生きて帰って来てくれてありがとうございました」


 士郎は泣きながら


「それがしは片倉さんが生きて無事帰って来てくれてホッ、とした」


 片倉さんは士郎の頭を乱暴になぜて


「士郎君、本当にありがとう」


 士郎達は館山城の城内に入った。




 片倉さんは経丸の前に行くと覚悟を決めて真剣な表情で


「殿、申し訳ございません」


 いきなり土下座をする片倉さんに経丸はキョトンとしながら


「何がですか?」


 片倉さんはうつむきながら


「私の不注意で長経様は麒麟に討たれました」


 片倉さんがそう言うと士郎と稲荷は丁寧に長経の遺体を経丸の前に運んだ。


 経丸は長経の遺体を見て驚きながらも、一旦大きく深呼吸をして冷静に


「なぜですか、国光麒麟殿は味方だったんじゃないんですか?」


 片倉さんは体の震えを必死に止めようとする経丸を見て罪悪感を感じながらも事の顛末を話始めた。


 話を聞いた経丸は片倉さんをぎゅっと抱きしめて


「片倉さんが無事で本当によかった」


 経丸の言葉に片倉さんは思わずボロボロと涙を流す。


「すみません、若。私がいながら長経様を守れずに」


 経丸は片倉さんの背中をさすりながら優しい口調で


「片倉さんは悪くないです。片倉さんが生きて帰って来てくれた。それが何よりも嬉しいです。お帰りなさい片倉さん」


 片倉は黙って涙を流し続けたのであった。




 経丸は自分の部屋に行き長経様から貰った刀を手に取りジッと眺めていると両頬に自然と涙が流れ出した。


 経丸は刀を両手で持ち包み込むように体を丸めながら


「父上、父上」


 経丸が一人でむせび泣いているところに士郎はノックをし


「経丸さん、士郎です。入ってもよろしいでしょうか?」


 経丸はとっさに目を擦り涙を拭きとり


「どうぞ」


「士郎さん、どうしたんですか?」


「いや、経丸さんを一人にしておくのは心配なので」


「私は大丈夫ですよ、ほら、この通り」


 経丸は士郎の前で必死に気丈に振舞った。


「経丸さん、強がらなくていいよ、辛い時は頼れ泣きたいときは泣いてもいいんですよ」


 経丸は震えた声で


「大丈夫、平気ですから」


 士郎は優しい表情で


「経丸さん、無理しないで。それがしでいくらでも話を聞きますから」


「大丈夫、大丈夫ですから」


 そう言って経丸の目から一気に涙が溢れ出した。


 泣き出した経丸を見て士郎は慌てて


「ごめん、泣かせてしまって」


「違う、違う、違います」


 経丸は泣きながら士郎の胸を叩き士郎の胸に顔を埋めた。


 士郎は何も言わず黙って泣いている経丸にその日の夜は寄り添ったのであった。


 経丸は我慢せず大泣きした。数日間腫れが引かないくらい大泣きしたのであった。





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