第16話 片倉
回想
片倉さんが五歳の時に出来事だった。
燃え盛る村、野武士達がいきなり火をつけたため村人は逃げ回り村が大混乱に陥っている。片倉さんの家族は必死に逃げていたが野武士達に囲まれてしまった。
片倉さんの父親は野武士達に土下座し
「なんとか子供の命だけはお助けください」
野武士達はニヤニヤしながら
「おー、必死な姿が情けなくていいねぇ」
そう言って派手な頭の中身のなさそうな小悪人顔の野武士のリーダー池袋が片倉さんの父親に斬りかかる。
それを片倉さんの母親が体を盾にして防いだ。片倉さんの父親は驚き
「おい、美佐子‼」
片倉さんの母親は胸を抑えながら五歳の片倉さんに
「早く逃げなさい」
五歳の片倉さんは体中を震えさせながら泣いている。片倉さんの母親は逃げ出さない片倉さんに「早く‼」と怒鳴りつける。
片倉さんは逃げ出すが、
「ザン」
片倉さんの父親が思いっきり斬られて大きな音を立てて倒れた。
その音に振り向こうとする片倉さんに
「振り向くなーいけー!」
片倉さんは泣きながら必死に逃げ納屋を見つけ、その奥で縮こまりながら座っていた。しばらくすると足音が聞こえる。片倉さんは恐怖で震えながら
(お願い、こっちに来るな。お願いだから)
その願いは叶わず足音の主が納屋を開けた。
(僕も殺されるんだ)
片倉さんは恐怖のあまり失禁しながらも
(死にたくない、死にたくない、せっかく母上と父上が守ってくれたから)
足音の主は片倉さんに近づき片倉さんの手を掴んだ。
(このまま、僕は殺されちゃうんだ)
「おい、大丈夫か!怪我はないか」
片倉さんは予想外の言葉に腰が抜けた。
足音の主は片倉さんの体をよく見て
「よし、怪我はなさそうだな」
足音の主は片倉さんを背負った。
足音の主は家来達と合流し
「長経様、その男の子は?」
「一旦、うちで保護する」
その言葉を聞いて片倉さんは少し安心して長経様に身を任せた。
「さぁ、今から成敗しに行きますか」
家来達は一斉に
「おー!」
片倉さんの両親とかに襲い掛かった野武士達は薄暗い森で溜り、酒を飲んで宴会をしていた。
小悪党の池袋は
「いやぁー弱い者いじめは楽しいな、なぁ皆」
「そうですね、弱い者いじめの後の酒はうまいですわ」
「ワッハッハー」
野武士達は一斉に笑い出し浮かれながら酒を飲んでいた。
「それに最後に殺したあの家族傑作だったよな、あの両親ガキを生かすために必死なんだから」
「そうですよ、あんな小さなガキ一人じゃ生きていけないのに」
「ある意味生かしておく方が残酷よ、はっはっはっ」
池袋に合わせて皆、笑い出した。
池袋の様子を見ていた長経様は
「あの両親ガキを逃がすのに必死なんだから」
と池袋が言った時に片倉さんが力強く自分の背中掴んできたのを感じて長経様は片倉の両親は殺された事を悟った。
「あいつら人間じゃねぇな」
長経様は背中から片倉さんを下ろして悔しくて震えて泣いている、片倉さんの肩をポンと叩いて
「両親の仇取って来てやる」
長経様は小さな声で
「皆の者!準備はいいか?」
「はい」
「突撃じゃー!」
長経様達はいきなり池袋達に襲い掛かった。
いきなり襲われた池袋達は
「何事だ!何事だ!」
飲んだくれていた野武士達は抵抗出来ずに次々と討ち取られていったが池袋だけは命からがら逃げて行ったのであった。
長経様は片倉さんを連れて帰った。
館山城で片倉さんは昼も夜も両親を失ったことに落ち込んで何日も黙って庭の隅に座り込んでいた。
そんなある日
長経様は興奮しながら片倉さんの袖を引っ張り
「おい、ちょっと来てよ。片倉」
片倉さんは言わるがままに長経様に付いて行った。
長経様に連れられて行った部屋には母親に抱きかかえられている赤ちゃんがいた。
「我の娘が産まれたんだよ」
長経様は赤ちゃんを抱えて片倉さんに見せた。
片倉さんは生まれて初めて見た赤ちゃんに心の底から感動してずっと閉ざされていた心の扉がゆっくりと開き呟くように
「可愛い」
長経様はもの凄い笑顔で
「そうか、可愛いか。それは嬉しいな」
「はい、とても可愛いです」
「片倉が、この経丸を支えていくんだぞ」
「僕が、この子を支える?」
「そう、片倉がだ!」
「僕には無理ですよ、武士じゃないですから」
長経様は片倉さんの手を握り
「片倉は強くなれるぞ」
「なぜですか?」
「片倉は両親から凄く愛されていた。愛された事のある人間は立派な武将になれるぞ」
「そうなんですか」
長経様は優しい表情で
「だから経丸を頼む」
「でも私は強くありません」
片倉さんは真剣な目で
「でも、強くなりたい。だから稽古つけてくれませんか?」
長経様は片倉さんの言葉に嬉しくなり片倉さんの頭を優しくなぜて
「もちろんだとも」
それから二人は毎日剣術の稽古をした。
それから十年後
片倉さんは十五歳になり館山城で元服する事になった。
片倉さんは長経様に呼ばれ正装で広間に現れた。
「片倉に名をあげよう」
「はっ、ありがたき幸せ」
「お主の名は水道だ」
「水道?それはどういう意味があるんですか?」
「人が生きるのに必要なのは水だ、片倉の存在は天羽家にとって水になる男だ。道は経丸の進むべき道を片倉に開拓していって欲しいと願いを込めてこの二文字を合わせた名が水道だ」
片倉さんは自分が期待されている事に嬉しくなった。
「そのような素晴らしい意味を持つ名を頂ける事光栄でございます」
長経様は片倉さんの言葉が嬉しくニコニコ微笑んだ。
そこへ慌てて走って来た家来が
「殿、一大事にございます」
「どうした」
「池袋達が村人達に襲い掛かっています」
「水道、行くぞ」
「はい」
池袋達が襲い掛かっている現場では
池袋は人を刺しながら
「やっぱり、久しぶりにやる地元での弱い者いじめは最高だ!!」
池袋達は笑いながら次々と村人を刺していく
「そこまでだ」
「なんだ、お前達は」
「かかれー‼」
長経様達は池袋達に襲い掛かった。
「なんだ、お前達はいきなり」
池袋は慌てて逃げようとする。
片倉さんは逃げようとする池袋の肩をガッと掴み
「貴様!また逃げるのか‼」
「なんだ、お前は」
「十年前にお前に両親を殺されたガキだ」
池袋は半笑いで
「てめぇみたいな青二才が俺に勝てると思ってんのか?」
片倉さんは一瞬、池袋の迫力に怯んだが自分を奮い立たせるように大声で
「俺はもう二度と大事な人を失いたくない!だからお前みたいな人の人生を奪うクズは殺さないといけないんだ‼」
池袋は片倉さんの迫力に怯え背を向けて逃げようとしたが長経様達は池袋の背中に回り込んでいて長経様は池袋を睨みつけながら
「お主どこへ行くつもりだ?」
「クソが!」
片倉さんは大声で
「お前はこの期に及んでまだ逃げるのか‼」
と池袋に怒鳴りつけた。
「うるせぇ、俺の趣味は弱い者いじめだ!お前ら武士なんかと戦う意味などないんだ‼」
片倉さんは怒りで体中を震わせながら
「ふざけんな!お前の卑劣な趣味で俺の大事な両親は命を落したんだぞ!何の罪のない村の人々だって命を落したんだぞ‼」
池袋は片倉さんを小バカにするように
「何だお前、全身震わせちゃって恐いのか?お前はバカみたいだから教えてやるよ。この世で弱いのは罪なんだよ!弱い奴が強い奴に殺される。それは当然の事なんだよ‼」
片倉は低く力強い声で
「お前だけは必ず殺す!」
「はは、面白い。また弱い者いじめになっちゃうけどな」
片倉さんは刀を鞘から抜いて自分を落ち着かせるように小さく深呼吸して構えた。
「行くぜ、死ねぇー!クソガキ‼」
片倉さんは襲い掛かって来る池袋に
「お前なんかに負けるわけねぇだろ!!」
思いっきり池袋を返り討ちにする。
池袋の首は吹っ飛び、長経様は片倉さんに駆け寄り
「水道、強くなったな」
「ありがとうございます」
片倉さんは両親の仇が取れたのと長経様に認められたので感極まって長経様の胸で大泣きしながら
「私はこれからどんなことがあっても逃げずに大切な人は必ず守り抜きますから。絶対に守り抜きますから」
長経様は優しく片倉さんの頭をなぜてあげたのであった。
回想終わり
片倉さんは囲んでいる敵を前にして
「俺はあの日誓ったんだ!どんなことがあっても大切な人は守り切ると!!」
 




