第14話 南平
そして翌朝五時、伝令に行っていた鉄平が八坂の元に現れて
「太松太郎が進軍の準備を開始してる。奴が桶狭間に付くのは二時間後くらいかと」
八坂は起き上がり真剣な表情で
「わかった」
と一言、言うと鉄平はまた敵の情報を集めに行った。
「天ちゃん、お茶漬けをお願いします」
「はい」
天子は素早く茶漬けを用意した。
八坂は茶漬けをかきこむように食べ
「人間五十年下天のうちに比べれば夢幻の如くなり」
八坂はかっこよく熱盛を舞ったのだった。
八坂は武具を着て法螺貝を爺やに吹かせ寝ぼけ眼で集まって来る家来達に
「今から南平軍の本陣にツッコむぞ!」
心配そうな顔をする家来達に
「俺は天下を取る男、こんなところで死にはしない、黙って俺に付いてこい‼」
家来達は八坂のいつもは見られない真剣な表情を見て頼もしく思った。
八坂は馬に乗り大声で
「皆の者!俺に遅れを取るなー‼行くぞー‼」
八坂は凄い勢いで走って行く家来達は八坂に置いて行かれないように急いで支度した。
八坂は先を急ぐので皆も必死に付いて行くのがどんどんと遅れる者が続出した。
「殿、皆が付いてこれてないですよ」
「何‼」
八坂が爺やの言葉を聞いて振り返った、そこには家来五人しかいなかった。
「まぁ、いいやちょうどここの熱田神宮で必勝祈願するから爺や、賽銭の用意を」
「はい、わかりました」
八坂と数少ない家来と必勝祈願していると続々と遅れていた者が追いついてきた。
家臣達は息を切らしながら
「殿、急に出陣って言われても困りますよ」
八坂は笑いながら
「悪いな、勝つためには敵に行動をばれたくなかったからな」
そう言って八坂は家臣達の肩を叩いた。
そして南平軍の様子を見に行っていた伝令の鉄平が八坂の前に現れて
「殿、南平軍は長く延び切っていて本陣はこの先の盆地で休息を取っています」
「南平金々、本人はいたか?」
「豪華な輿があったからその中にいると思う」
この伝令の鉄平の情報に八坂は
しめた、この戦俺らの勝ちだ!
「よい情報をありがとう」
八坂は伝令に丁寧にお礼を言い皆に向かって
「いいか、今お前達は日ノ本の歴史のターニングポイントにいる」
八坂は大声で
「歴史を変えよ!そしてこの日ノ本を俺と共に変えるぞ‼」
皆は雄たけびをあげるといきなり大雨が降り出した。
これはしめた!これで奴らなおさら混乱するぞ!
「天も我らに味方した!目指すは南平金々の首ただ一つ俺に続けー‼」
その頃の南平本軍は桶狭間山の麓の平地になっている場所にいて各自突然の雨を避けるため木の下などに入ったためバラバラになっていた。
「殿、この雨なかなかやみそうにありませんね」
「まぁ、そうだな的な」
「殿、近くの住民が酒を持ってきました」
「おーいいところに酒を持ってきたな。この戦もう勝ち戦だ、皆の者戦勝祝いだ飲め飲め的な」
南平本軍の兵達は次々に酒を飲んでいった。
「八坂攻めなどこの南平金々にかかれば楽勝だな、愉快、愉快的な」
この油断と雨の音で八坂軍が近づいているのに南平本軍の者は誰一人気づかなかった。
八坂軍は遂に南平本軍を見下ろせる位置まで進軍していた。
「いいか皆の者、他の者には目をくれるな、狙うは南平金々の首ただひとーつ‼」
八坂の号令で八坂を先頭に八坂軍は一斉に
「ドドドドドドドドド!!」
ともの凄い音を立てながら桶狭間山を下り南平本軍に襲い掛かった。
南平金々は騒音を聞いて
「おい何事だ、誰か酔って喧嘩でもしてるのか?的な」
すぐに様子を確認しに行った家来が慌てながら戻って来て大声で
「申し上げます、八坂軍が奇襲を仕掛けて来ました」
南平金々は動揺しながら
「なぜだ、八坂はこの南平金々に怯えて城で震えているのではないのか?」
「殿、とりあえずお逃げくだされ」
南平金々は泣きそうになりながら逃げだしたが、八坂軍は南平を取り囲んだ。南平軍はいきなりの八坂軍の奇襲に軍勢が延び切っていたのと、酒を飲んでいたのとで対応など出来るわけもなく混乱し逃げ出すものが続出し、全然八坂軍に抵抗ができない、そのため大将の南平金々に逃げる間も与える事なく囲むことが出来た。八坂軍の兵は南平金々に襲い掛かる両軍入り乱れてもみくちゃの中、南平金々は足を刺されたが刺した男の腕を刺し返した。その後、別の男に背中を刺されたがそこは踏ん張ってその男の脇を刺したりして抵抗したが多勢に無勢遂に南平金々の首は無情にも刎ねられた。
「敵将、討ち取ったー‼」
八坂の若い家来のこの叫び声が桶狭間中をこだました。
これにて八坂軍はこの戦の勝者となった。
爺やは声を震わせながら
「とっ殿、かっかっ勝ちましたね」
八坂は心の中で
(ホントに勝っちゃったよ、でもここはかっこいいこと言わないと)
八坂は真剣な表情で
「おい爺や、そんな驚くなよ。俺は天下を取る男だぞ!こんな戦勝って当然だろ!!」
八坂は爺やと肩を組み
「だから俺に一生付いてこい!」
爺やは声が裏返って
「はっ、はい!」
八坂は爺やの裏がった声を聞いて爆笑した。
爺やは八坂の笑顔を見て空を仰ぎながら八坂の死んだ父に向かって
(大殿、若殿は立派になられましたぞ)
八坂は爺やの顔を覗き込んで
「えっ!なんで泣いてんの?なんで?」
「こ、これは殿の成長に感動し」
八坂は大声で
「おい、皆爺やが泣いてるぞ。早く見に来いよ」
(皆に自分が泣いている事を伝え子供のようにはしゃいでいる八坂を見て)
大殿、やはりまだ若殿はうつけ者です。
八坂は笑いながら皆に向かって
「今回、たまたま勝てただけなのに爺や俺が成長したとか言って感動して泣いてるわ」
鉄平は大声で
「たまたまではござらぬぞ!!」
いきなりの鉄平の言葉に爺やや皆、驚く。
「この戦、殿の緻密な計算によって勝てたのですよ!!」
「え?どういう事ですか?」
八坂翔平は笑いながら
「鉄平〜(笑)真面目な顔してどした(笑)」
鉄平は真剣な表情で
「殿、言わせて下さい」
「なぜ、殿と俺とは毎日のように馬を走らせていたのか、殿は大軍を迎え撃つ適切な場所を探し求めていたんですよ」
「えっ?」
「それで大軍が身動きを取るには厳しい狭い平地桶狭間を見つけた。敵軍を桶狭間におびき寄せるためにわざわざ大高城の周りに砦を築いた」
鉄平の言葉に皆、驚きながら爺やが
「この戦、全て殿の手のひらの上だったのか⁉」
「そうだ、八坂翔平はホントに天下統一を成し遂げる男にだぞ!!!!」
鉄平の言葉に八坂は思わず笑いながら皆を和ますように
「鉄平は熱いなぁ〜(笑)鉄平が熱すぎて俺甲冑脱いじゃおうっと」
皆、八坂翔平の言葉に笑い場が和む。
そして、八坂翔平はパーンと手を叩いて皆の注目を引き一瞬で八坂翔平は真剣な表情をして
「皆、俺等が天下取るよ!!」
「はい!!」
この戦の結果が天羽家に大きな影響をもたらすのであった。
長経様と片倉さんが陣中で待機をしていると息を切らしながら一人の男が長経様の前に慌てながら現れて
「長経様、も、も、申し上げますふっふっ南平金々が討ち取られました‼」
長経様と片倉さんは男の言っている事が理解できなくて長経様は恐ろしい顔で
「嘘だろ、何言ってんだ!戦でそういう冗談我は好まんぞ‼」
男は慌てながら
「長経様、本当です。南平金々は討ち取られました。八坂勢は南平金々を討ち取った勢いでこちらに攻めてきております」
長経様は気持ちを落ち着かせる為に一回大きく深呼吸をして
「いいか皆の者、ここはなりふり構わず逃げるぞ‼」
「はい」
天羽軍は退却を開始した。
長経様は退却しながら
(まさか、まさか南平金々殿が討ち取られるとは。世の中わからないものだ、とにかく無事逃げられればよいが)
長経様は焦りながら山の中を馬に乗って駆けていた。
果たして長経様と片倉さんは無事逃げられるのだろうか