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第11話  長経

ある日


 稲荷は冷静に


「殿、海に大軍の船がおります。どこかが攻めてきたようです」


 経丸は稲荷の言葉を聞いて急ぎ窓から海を見ると大きな声で


「あっ!!」


「敵は強敵なのですか?」


「父上!父上が帰ってきたんです!!」


「それは迎え撃たねば!父上⁉」


 経丸は笑顔で


「はい、父上が帰って来た‼」


「はい」



 経丸はテンション高く


「父上〜!!」


と叫び走って城を出て行くそれに片倉さん達も付いて行くが士郎は付いて行こうとしない、その様子を見た凛が


「どうしたの兄貴?行かないの」


 士郎は少し困惑した顔で


「それがしはちょっといいかな」


「何で?」


「この服じゃダメだ。今すぐ服を新調し、お父上にご挨拶できる格好にならなければ」


「図々しいわ!!すぐ行くよ」


 士郎は凛に引っ張られ急いで皆のもとに向かった。




 先に長経様の軍勢を迎えに行っていた経丸達。



 経丸は長経様に


「父上!」


「経丸‼」


 二人は再開を果たし抱き合う。


「経丸、聞いたぞ!お主達の大活躍を!!」


 経丸は笑顔で


「はい、皆が頑張ってくれました!」


「殿、お久しぶりです」


「久しぶりだなぁ、水道」


 片倉さんは


「はい」


と嬉しそうに返事をした。


「ところで父上達、結果はどうだったんですか?」


「それは後で話そう、ところで経丸そちらにいる方々は?」


「稲荷です」


「ひのです」


「海老太郎です」


「外岡凛です」


「それがし、安房国の英雄外岡士郎です!」


 士郎の言葉を聞いた長経は


「君かあの有名な!外岡士郎君は!!」


 士郎は嬉しさのあまり目を輝かせて


「えっ!長経様、それがしのこと知ってるんですか?!」


 長経は


「当たり前だよ!安房国で外岡士郎の名前を知らぬ者は一人もおらんだろ」


「やはり、それがし安房国の英雄外岡士郎って名で有名になったんだな」


 長経様は真顔で


「いや?安房国で一番ダサいって」


 長経様の言葉に皆は腹を抱えながら笑い転げた。


「長経様」


「何ですか?」


 士郎は嫌みっぽく


「それがしの魅力がわからないなんて当主としてまだまだですね」


「兄貴!!なんて失礼な事を」


「うちの兄貴が大変申し訳ありません」


 長経は士郎に近づき真剣な表情で


「外岡士郎、夜道には気をつけるんだそ」


「えっ?えっ?ああ、すみません。申し訳ございませんでした」


 慌てて謝る士郎に長経様は笑いながら


「どうですか?私の迫真の演技は」


「えっ?えっ?演技⁉」


 と士郎は困惑する。


 片倉さんは笑いながら


「さすがは長経様。士郎君の扱いがわかってらっしゃる」


 凛も長経様の冗談だって事を理解し笑いながら


「兄貴の情けない態度、おかしい」


 状況を理解できない海老太郎は経丸にキョトンとした顔で


「今?どういう事ですか?」


「父上が、士郎さんに対してドッキリを仕掛けたんです」


「経丸さん」


「はい」


「父上って誰の事ですか?」


 皆、思わず転ぶ。


「このお方が経丸さんのお父上、天羽長経様」


 海老太郎は長経様をじっくり見て呟くように


「父上」


「待て、待てその言い方だとお前の父上みたいになるだろ!!」


 皆笑う。


 長経様は笑いながら


「海老太郎君、君面白いな」


「父上の冗談も面白かったと思います」


「理解してなかった癖によく言うわ」


 と士郎は言って海老太郎の頭を優しく叩いた。

 

 皆笑った。



 長経様は感心したような感じで


「しかし、経丸にはこんなにも良い家臣達が出来たのか」


「父上、家臣ではありませんよ。大切な仲間です」


「おーそうか」


 長経様は嬉しそうに笑った。


「自己紹介してなかったね。私が経丸の父、天羽長経だ。皆よろしく」


 士郎達は声を揃えて


「はい、お願いします」


 そして皆は館山城に入った。




 その日の夜、経丸と片倉さんは長経様の部屋に呼ばれていた。


「経丸、水道。お前達に言いたいことがある」


 経丸と片倉さんは声を揃えて


「はい」


「我らは南平金金みなみたいらボンボン殿と同盟を結ぶことに成功した」


 経丸は笑顔で


「成功したんですね」


 南平金金とは駿河を完全に支配している日ノ本最大の大大名の一人で東海一の弓取りと呼ばれている。


「まぁ、同盟というより傘下に入った形なんだがな」


「傘下に入られたんですか父上!」


 経丸は驚いた。経丸は戦に負けた訳ではないのにどこかの大名の下に付くとは夢にも思っていなかったのである。


 経丸は心の中で戦に負けなければ他の大名の下に付いたりなどしないと考えている。経丸の考え方は戦国の世を生きるにはまだ幼いのである。


「まぁ。日ノ本、四大強国の一つだからな」


「でも父上、傘下に入るくらいなら他の国と対等な関係の同盟を結んだ方がよかったんじゃないでしょうか?」


 経丸の質問に長経は


「南平は日ノ本四大強国の内の甲斐全土と信濃をほぼ統一していて更に上野の一部を抑えている不動家と武蔵、伊豆、相模を統一している北野家、この両家と同盟を結んだ」


 経丸は驚き


「えっ、最強の同盟じゃないですか」


「だろ、この同盟は日ノ本を変える」


「しかし、殿。なぜこの国々は同盟を結んだのですか?」


 片倉さんの質問に長経は


「南平家は西側の愛知県が欲しい、不動家は北側の長野を制圧しそのまま日本海まで制圧したい北野家は東側の下野、上野、常陸、下総、上総、そしてここ安房国を制圧したい。この利害が一致したから同盟を結んだらしい」


 と答える。


 経丸は慌てて


「北野は安房国を制圧しようとしているって私達は攻め込まれるんじゃ」


「だから南平家と同盟を結べば同盟国の傘下の我々には北野家は手を出せないんだよ。手を出せばこの三家で一番強い南平と全面戦争になるからな」


「えっ、今の三家には大差がないんじゃないんですか?」


「南平家の狙っている愛知の東半分を支配している国光家は南平家の傘下に入ったし西半分の大名八坂家は当主が亡くなり継いだ息子がうつけだと噂になり後継ぎ争いが起きている家だ。そんなボロボロの家簡単に潰せるだろ」


「なるほど、確かにそうですね」


「経丸、後一つ、話しておくことがある」


「何ですか?」


「経丸に家督を継いでもらいたい」


 長経様の言葉に経丸は驚き


「えっ、えっ。そんな急に」


 長経様は


「頼んだぞ」


と言って経丸の肩を叩いくと、経丸は慌てて


「父上、私には無理ですよ」


「まぁ、すぐにとは言わんしばらく考えてからまた答えをくれ」




士郎が海老太郎と話している時、庭で扇子を振り回しているひのを見つけた。


「どうしたんだ、ひのちゃん。なんの踊りを踊っているんだ?」


 ひのちゃんは真剣な表情で


「士郎さん、これは踊りではありません。いざという時に戦うための訓練です」


 士郎は笑いながら


「ひのちゃんは相変わらず抜けてるな。扇子で戦えるわけないじゃん」


「士郎さん、私に向かっておでこを突き出してください」


「えっ?なんで?」


「いいから」


 士郎はひのちゃんに言われた通りおでこを突き出して


「ひのちゃん、こうでいいのか?」


「では、目をつぶって頂きます」


 ひのちゃんは士郎のおでこを軽く叩いた。叩かれた士郎はおでこを抑えながら


「いってー!いってー!めちゃくちゃいってー‼」


 猛烈に痛がっている士郎にひのちゃんは


「すみません。そんなに痛いですか」


 士郎は少し声を荒げながら


「痛いよ、何なのその扇子!!」


「これは鉄扇という護身道具です」


「鉄?ひのちゃんは鉄でそれがしのおでこを叩いたのか‼」


「士郎さん、鉄ではなく鉄扇です。鉄で出来た扇子です」


「鉄で出来た扇子何だか知らないけど、人のおでこを鉄製の物で叩いちゃだめだよ。鉄はとっても固いんだから」


 ひのは申し訳なさそうに


「すみません、鉄扇が武器として使えることをわかってもらおうと思ったので」


 海老太郎はニコニコしながら


「まぁ、気にしなくていいよひのちゃん。これで士郎さんも少しは頭よくなったかも知れないし」


「なるわけねぇーだろ、それどころかこんなに大きなコブが出来たじゃないか‼」


 士郎は自分のおでこに出来たコブを海老太郎とひのに見せると二人は大笑いし


「あっ、はっはっはっ凄い~でかいコブが出来てる!!」


「アハハホントですね、大きいですね」


 士郎は海老太郎のことヘッドロックしながら


「ひのちゃん、あんたは笑ってないで少しは心配しろ‼」 


 ひのちゃんは涙が出るほど笑いながら


「すみません。コブが大きいのがおっかしくって少し触ってみてもいいですか?」


「アホか、いいわけないだろ」


「凛に治療してもらって来る」


 士郎は


「凛―!凛―!」


 と叫びながらその場を離れた。




「ひのちゃん、僕が稽古の相手しようか?」


 ひのちゃんは海老太郎の言葉に驚き


「えっ、いいんですか」


 海老太郎は笑顔で


「もちろん。一人でやるより二人でやる方がお互い上達するし」


「海老太郎さん、ありがとうございます。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げるひのちゃんに海老太郎は笑顔で


「一緒に頑張ろう!」


「はい」




 経丸は長経様の部屋に行き


「失礼します」


 長経様は経丸の表情を見て


 覚悟を決めて来たな


 長経様は経丸の覚悟を感じたので座らせ温かいお茶を差し出す。


 経丸はそれをゆっくり一口飲んでから


「父上、私、天羽経丸は家督を継ぐことを決心いたしました」


 長経様は笑顔でただ一言


「あい、わかった」



 城内の大広間の上座に長経様は腰を下ろす。長経様は皆に向かって真剣な表情で


「これより重大な話をする」


「これより我、天羽長経は隠居し、家督を経丸に譲る」


 皆はざわついた。特に長経に付き従っていた家臣達は動揺を隠せない。


 ざわついている中、片倉さんは涙目になりながら経丸の手を握って


「若、おめでとうございます」


 この光景に皆、感動し拍手をしていた。


 経丸は皆に向かって


「皆さん、私はまだまだ未熟者ですが家督を継いでよりいっそう天羽家のために全力を尽くします。ご協力よろしくお願いします」


 深々と頭を下げる経丸を見て長経様は成長を感じ嬉しく思った。そして長経様は経丸の前にしゃがみ込んで


「経丸よ、天羽家を頼んだぞ」そう言って経丸の頭をなぜた。


「はい、父上」


 と経丸は元気よく大きな声で返事をしたのであった。


「経丸、家督を継ぐ者には渡さなければならない物がある。それは天羽家代々のあじさいの花押印と我が乗っていた馬。それをそなたに渡す」


「ありがたき幸せ」


 長経様から経丸の手に花押印が渡された。


 片倉さんは経丸に手渡された花押印を見て


 (若もご立派に成長されたのか)


 経丸が産まれた時から面倒を見ている片倉さんにはグッとくるものがあり熱くなる目頭を手で抑えた。


 経丸は花押印をまず片倉さんの二の腕に押した。


 士郎や海老太郎、チビル、凛、にも押しっていった。


 経丸がひのに押そうとした時


「私はまだこの印を押してもらえるほど天羽家に貢献していません」


 経丸は優しい口調で


「ひのさんは私達の仲間になってくれた、それだけで私達は嬉しかった。それに貢献なんてこれからしてくれればいいですよ」


 経丸の言葉が嬉しく呟くように


「経丸さん」


 経丸は優しい表情で


「だから、これからもよろしくね。ひのさん」


「はい、これからは天羽家に貢献できるように頑張ります」


 凛は少し笑いながら


「堅いよ、ひのさん。兄貴を見てみ。何も貢献してないどころかいつもケンカの原因にしかならないのに何も気にせず押してもらってるんだから」


「おい、何を言ってんだ!凛‼」


 海老太郎がめちゃくちゃ大きな声で


「いや、士郎さんは貢献してますよ!!」


「おっ!海老太郎君はそれがしの味方か良い奴だ!!」


 士郎は嬉しそうに海老太郎の頭をなぜる。


「はい、僕良い奴です」


 凛は士郎をからかってはいたが士郎が褒められて少し嬉しそうな顔で


「海老太郎さん、兄貴が貢献してると思ってくれてありがとうございます。兄貴どんなところが貢献していると思いますか?」


 海老太郎は真剣な表情で


「片倉さん、貢献ってどういう意味ですか?」


「皆の為に力を尽くすことだよ」


 海老太郎は真顔で


「士郎さんって皆の為に何してんですか?」


 皆、思わず爆笑する。

 

 士郎も思わず笑ったが


「おめぇ!ぶっ飛ばしてやる!!」


「何でですか!!疑問に思った事を言っただけじゃないですか!!」


 皆、思わず笑う。


こうして経丸の家督就任式は和やかに終わったのであった。


 






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