第1話 初陣
二十歳の坊主頭で甲冑を身にまとった青年、外岡士郎は雑木林をたくさんの食材を背負いながらニヤニヤしながら歩いている。
士郎の妄想
「士郎さん、士郎さん高嶺の花の館山城城主の娘、天羽経丸さんと付き合うという快挙達成おめでとうございます」
「あぁ、ありがとう」
「今回の快挙達成できた要因は?」
士郎はドヤ顔で
「まぁ、自分から勇気を振り絞って告白したことかな」
「さすが士郎さん、天羽経丸さんに告白する勇気がありそれを実行し成功させられるのは日ノ本中を探しても外岡士郎ただ、一人ですよ」
士郎はニヤニヤしながら
「まぁ、まぁ、そんなホントの事を言って褒めるなって」
「最後に恋愛に悩んでいる皆に一言お願いします」
士郎はめちゃくちゃドヤ顔で
「恋愛は諦めず勇気を持って自分から行動すれば必ず成功する(叶う)」
「以上、外岡士郎さんからでした」
士郎は人差し指と親指を立ててポーズを決めドヤ顔で
「皆、それがしの成功に続けよ」
「ゴーン!!」
士郎は思いっきり木に激突した。
「イテテテテテ」
士郎は涙目になりながら人差し指を見て
ヤバい、折れたかもしれない
士郎は必死に立ち上がり涙目になりながらも自分を奮い立たせるために大きな声で
「安房の国!外岡士郎はこんなところでくじける男じゃない!!」
と叫んだ。
茂みから
「うるせぇなぁ!!」
士郎は人がいた事に驚きながら
「すみません」
驚く士郎の前に茂みから野武士が十人現れ、士郎を取り囲む。
士郎は怯えながら甲高い声で
「何?何でしょうか?」
「お前のせいで耳がおかしくなった。持っている物全ておいていけ」
士郎は申し訳なさそう
「すみませんでした。しかし、それは出来ませぬ」
野武士達の親分の男が皆に向かって。
「じゃあこいつは殺す。皆の者!刀を抜け‼」
野武士達は次々と刀を抜いて刃を士郎に向けて来た。
士郎は恐怖で全身震わせながら大慌てで」
「えっ!えっ!!えっ!!!待って、待ってください」
このままじゃ、殺される。奴らを全力で威圧するか
士郎は低く声で威圧しているつもりだが実際は慌てて甲高く震える声でめちゃくちゃ丁寧語で
「待て、待てください!それがしを誰だと思ってますか‼」
「それがしはですねぇ、」
士郎の言葉の途中に野武士達が一斉に声を揃えて
「外岡士郎」
野武士達の言葉に士郎は大慌てで
「なんで?なんで⁉それがしの名前がわかるんですか?」
と思わずひょうきんな声を出してしまった。
野武士達は呆れながら
「だって胸に書いてあるからな」
士郎は慌てて胸を見ると黒の甲冑に白文字で大きく
「あっ、ああああ!母さん。それがしがよく落とし物するからって大きく名前と住所書きやがって」
士郎は大声で
「もうヤバいよ!!この状況を打開する案が全く浮かばない!!!」
士郎は泣きながらで
「それがしパニックだよ!!」
親分は呆れながら吐き捨てるように
「殺せ!」
男達は一斉に士郎に襲い掛かって来るが士郎は恐怖で刀も抜けず動けずにいると士郎の後ろからいきなり男が現れ野武士達を簡単に斬り倒していった。
身長百八十センチ台の爽やかイケメンの男は倒れた敵を容赦なく息の根を止めていく。
士郎はいきなりの出来事に何が起こったか理解できなかったが男の正体が片倉さんと分かると
(それがし助かったんだぁ)
片倉さんは倒れた敵一人一人の心臓を突き刺していく。
やり過ぎだと思った士郎は
「片倉さん、もういいんじゃないですか」
片倉さんは真剣な表情で
「ダメだよ、士郎君。クズは徹底的に滅ぼさなきゃ」
片倉さんは全員の息を確実に止めてから刀を鞘にしまって座り込んでいる士郎に手を差し出して
「怪我はない?士郎君」
士郎は片倉さんの差し出してくれた手を握って立ち上がり
「ありがとうございます。おかげさまで怪我はありませんでした。ところで片倉さんはなぜここにいるんですか?」
片倉さんは
「士郎君帰って来るのが遅いから心配になって迎えに来ちゃった」
「あいかわらず優しいですね。片倉さん」
片倉さんは照れくさくなり
「へへへ」
と笑いながら誤魔化し
「士郎君は漏らし癖治った?」
士郎は強い口調で
「当り前だろ、治ってるに決まってるじゃないですか」
士郎は本当のところ野武士達に囲まれた時に少し漏らしていた。
「てか?おつかいになんで甲冑着てるの?」
「これ!経丸さんから貰ったんだ!!」
自慢げの士郎の表情を見ながら
「そっか、それはよかったね。だから気に入ってるのか」
「はい、もうこれお気に入りで外行くときは必ず着てます!!」
黒髪ロングの上品な顔立ちの美少女は村の人達と田植えをしている。
「姫様、お茶とおむすびの用意ができました。一旦お昼にしましょう」
美少女は顔をあげて嬉しそうな声で
「お昼ですか!!」
姫様と言われる黒髪ロングの上品な顔立ちの美少女は頬に泥が付いたまま村人達と楽しく話しながらおむすびを頬張っていると
一緒に食べていた農民の子供の一人が
「あっ、士郎と片倉さん」
士郎と片倉さんは子供の声に気づき
士郎は子供に近づき頭をなぜながら
「おっ、太郎じゃないか」
「士郎、経丸様もいるよ」
「えっ!経丸さんが」
経丸は慌てておにぎりを飲み込み
「士郎さん、片倉さんお疲れ様です」
士郎と片倉さんの二人も
「お疲れ様です」
と返す。
士郎が
「経丸さんはここで何されているんですか?」
経丸の隣いたおばさんが割って入るように
「姫様は田植えを手伝ってくださってたんですよ」
「さすがは経丸さん。偉いですね」
「いや、いや私は参加させていただいただけですから」
おばさんは
「姫様は偉いですよ。毎日各地の田畑を回ってお手伝いしてくださるんですからそんな素晴らしい姫様、日ノ本中探しても天羽経丸様以外いないですよ」
「いや、私は皆さんに色んな経験をさせていただいてだけなので偉いのは安房の国を支えてくださる皆さんですよ」
「ホントに姫様は謙虚すぎますよ」
「確かに謙虚過ぎる。それがしが経丸さんの立場ならふんぞり返るからね」
片倉さんは茶化すように
「そしてひっくり返りますからね」
「やかましいわ」
皆が笑った。
おばさんが
「片倉さんと士郎さんもよろしければおむすび食べて行って下さい」
片倉さんが
「いや、我々は何もしていないのでお気持ちだけ頂きます」
「そんな事言わず皆で食べた方が美味しいですからぜひ食べてください。うちのお米美味しいですよ」
そう言った後おばさんは士郎に目配せする。
あっ、片倉さんに食べてもらいたいんだ。しかたない誘導するか
「片倉さん、ご厚意に甘えましょうよ」
「しかし、働いていない者が食べるのは働いてる皆さんに申し訳ない」
「じゃあ、おにぎりご馳走になるお礼にこの食材で皆に味噌汁を振舞いましょうよ」
「それはいいアイデアだね」
士郎と片倉さんは皆に味噌汁を振舞った。
おばさんは笑顔で
「嬉しいな、こんなイケメンとご飯食べれて嬉しいわ」
「こんなに美味しいおにぎり食べれて僕も嬉しいです」
「またぁまたぁ、そんな嬉しい事言ってくれちゃって」
おばさんは嬉しそうに片倉さんの肩を叩いた。
子供達が士郎に
「おい、士郎。おむすび食ったら俺達と鬼ごっこな」
「おっ、いいだろう。それがしは鬼ごっこの神様って言われてるから相当強いぞ!!」
「じゃあ、士郎から鬼な」
「待て、待てじゃんけんで決めるんじゃないのか?」
「鬼は士郎決まり!!逃げろ~」
子供達は一斉に逃げてく
士郎は子供達を追いかけて行った。
次の日
片倉さんが農民に呼ばれ連れられた場所には子供から大人まで何人もの人が斬られ遺体となって地面に転がっていた。
「ごめん、士郎くん今日飲みの予定だったけど急遽急ぎの用事ができてしまった」
「えっ!嘘ー!!片倉さんと飲めるの楽しみにしてたのになぁ」
「ごめんね、今度必ず埋め合わせするから」
「片倉さんが急遽断るってことはよっぽどの用事なんですね」
「そうだね」
片倉さんは士郎と別れ館山城に向かった。
片倉さんは部屋の前で膝を付き襖越しに
「若、大事なお話があります。少しお時間頂けないでしょうか」
襖越しから
「はい、わかりました。この部屋でお話しますか?」
「入ってもよろしいのでしょうか」
「はい、もう入って大丈夫です」
片倉は襖を丁寧に開けて一礼してから部屋に入った。
黒髪ロングの上品な顔の美少女天羽経丸は片倉さんにお茶を差し出す。
「若、お気遣いありがとうございます」
「いえいえ」
と言って経丸はにこやかに微笑んだ。
「片倉さん、お話とは」
「今朝、都賀勝敏の者達に安房の民10人以上ががいきなり斬り殺される事件がありました」
片倉の言葉に経丸の顔が一気に強張った。
「斬られた方々のご様態は?」
「全員、亡くなりました」
経丸は暫らく呆然とし少し時が経ってから立ち上がって
「絶対に許せない!!」
「片倉さん、すぐに亡くなった方々の元に連れて行ってください」
「わかりました」
経丸は力強く
「片倉さん、すぐに戦の準備をし都賀勝敏を討ち取り取りましょう!!」
片倉は力強く
「もちろんです」
天羽家は都賀勝敏を討つべく戦支度を始めた。
士郎は館山城にいる経丸の元を訪ねて
「経丸さん、本気で都賀勝敏と戦うおつもりですか」
「はい、戦います!!」
「都賀は天羽家よりも格上の相手じゃないですか‼」
「そうですね」
士郎は片倉さんの方を見ながら
「戦って勝てる相手じゃないじゃないですか!何で片倉さん止めないんですか‼」
「俺も戦うべきだと思う」
士郎は驚いたが冷静な口調で
「片倉さん、敵の兵力わかってますよね」
「もちろん、わかってるよ」
「戦えば絶対に負けます。負け戦は回避すべきですよ‼」
片倉さんは士郎を真剣な目で見つめながら
「負け戦なんかにしないよ。絶対に勝つ‼」
「勝つって、こっちは長経様が不在なんですよ。今の状況なら集められて五百、相手は五千以上勝てるわけないでしょ!!」
「都賀勝敏の挑発に乗るべきではないです。長経様が駿河から帰って来るまで戦は起こすべきではないです」
士郎の言葉に経丸は強い口調で
「父上が帰って来るまで、安房の皆さんが犠牲になっているのを見過ごすって事ですか!!」
士郎は言葉を詰まらせながら
「いや、その、それは、戦って負けて多くの人が亡くなる事を考えたら犠牲を見逃すのも仕方ないですよ・・・」
片倉さんが間に入って冷静な口調で
「士郎君、それ若が犠牲になるってなっても同じことを言える?」
「片倉さんのお役目は経丸様が危険な目に遭わないよう守る事じゃないのですか」
「士郎さん、心配してくれてありがとう。でも私は戦う安房の民の方々を殺されてそのまま何もしないなんて私にはできない!!必ず仇を取って安房の国を民の方々が安心して暮らせるような国にする!!」
「その考えは立派ですが、現実的に無理です。戦えば天羽家は負ける。負ければ経丸様が死んでしまう。それがしは絶対に嫌だ。だからここは辛いかも知れないが戦うべきではない!!」
「絶対に勝つので大丈夫です!!」
強い口調で言い切る経丸に士郎は慌てて
「無理ですって!相手は格上です!!」
「無理とかじゃないんです!やるしかないんです‼」
士郎は必死に
「しっかり、現実を見てください!!相手は五千こっちは五百。十倍の差があるんですよ!勝つなんて夢のまた夢なんですよ。理想の夢なんか見たってつらい現実にぶっ壊されるだけですよ」
「厳しい現実なら理想の夢でぶっ壊せばいいじゃないですか!!」
「どうして、そう前向きでいられるんですか!不安とかないんですか」
「士郎さん、私だって不安ですよ。でも、戦わなきゃいけない。だったら強い気持ちを持って覚悟を決めるしかないんですよ!!」
「人間、最後は絶対に成し遂げるという強い気持ちが物を言うと思うんです!!」
「気持ちが、か」
「そうです。だから私は絶対に勝つという強い気持ちを持ってこの戦に望みます!!」
経丸の堅い意思を感じた士郎はこれ以上言っても戦うことを回避することはないと悟り
「わかりました。ご武運をお祈りいたします」
そう言って士郎は去っていった。
片倉さんは士郎が去っていくのを見ると
「若、士郎君に渡すものがあったの忘れていたんで渡してきてよろしいでしょうか」
経丸は優しい口調で
「はい、気を付けて行ってください」
「おい、士郎君」
「片倉さんどうしてここに?」
「ちょっと、俺行きたい店あるんだ。付き合ってくれないか?」
「この後、別に用事ないからいいですけど」
士郎は片倉さんに連れられて小さな居酒屋に入りカウンター席に座った。
「ここの鹿の内臓肉を焼く奴が旨いらしいんだよ」
「えっ、それがし内臓肉なんか食べた事ないですけど気持ち悪くないんですか?」
片倉さんは笑顔で
「俺も食べた事なくて一人じゃ恐いから士郎君を誘ったんじゃないか」
「何もそれがしを巻き込む事ないじゃないですか。もしもお腹を壊すような食べ物だったらどうするんですか」
片倉さんは笑顔で
「士郎君は大丈夫だよ。小さい頃田んぼの水飲んでも平気だったじゃん」
士郎は少し強い口調で
「平気じゃないですよ、あの時は上からも下からも出るもの出て大変だったんですから」
「汚いなぁ、そういう話ご飯前にするべき話じゃないよ」
士郎はツッコむように
「あなたがこんな話になるような事を言ったんじゃないか!」
片倉さんは笑いながら
「そっか、ごめん。ごめん」
片倉さんは店員に
「すみません、酒二つと鹿の内臓肉二つとお水一つお願いします」
士郎達の前に鹿の内臓肉が運ばれて来ると片倉はおもちゃ箱を開ける少年のようにワクワクした無邪気な表情と明るい声で
「士郎君、今日は思いっきり食べようぜ」
士郎は片倉さんとは対照的に冷静に
「はい、そうですね」
片倉さんはそれがしにグラスを向けてきて
「じゃあ、乾杯」
「はい、乾杯」
片倉さんはワクワクしながら肉を焼きはじめ笑顔で
「おい、内臓肉焼けたみたいだぞ」
「じゃあ、片倉さんどうぞ」
片倉さんは優しい表情で
「いや、士郎君先食べていいよ」
えっ、こんなわけのわからないもの食べたくないなぁ
士郎が困惑しているのを察した片倉さんは
「わかった、二人でせいの!で食べようぜ」
士郎は目をつぶりながら内臓肉を口に入れた。
「あっ、美味しい!片倉さん美味しくないですか?」
片倉さんは苦虫を噛み潰したような顔で
「ごめん、俺ダメみたい」
士郎は
「あんたがダメなんかい!」
とツッコミ片倉さんは笑った。
苦手でもなんとか飲み込もうとする片倉さんを士郎は思わず笑った。
しばらくして士郎は酒を飲みながら
「片倉さん、ありがとうございます。それがしに気を使って話す場を作ってくださって」
「士郎くんの考えもわかるからなぁ、確かに好きな人が危険な目に合うってわかってたら止めたいもんな」
片倉の言葉に士郎は慌てて
「いや、別に好きとかじゃなくてですね」
片倉は士郎の方をポンと優しく叩いて
「本気で人を好きになるのはカッコいい事だぜ」
「いや、そのまぁ、その」
「俺は若は一流の武将になるべき人間だと思ってる」
「若は武術の腕、人望、そして考え方が一流だと思う」
「兵力差があっても若が率いれば都賀に負けることはないと踏んだ。だから俺は今回戦うべきだと思った。若と都賀じゃ人としての器が違うからな」
「でも、戦は大将の器だけでやるわけではないじゃないですか!兵力差が違えばいくら大将の差があってもひっくり返すのは至難の業ですよ」
片倉さんは士郎に優しい口調で
「士郎くん、好きな人を心配する気持ちはよくわかる。でもな本当に好きなら信じることも大事なんじゃないか!!」
「経丸様なら勝てると信じてついて行くのが何よりも若は喜ぶと思うが」
(それがしは心配ばかりして経丸様を信じ切れてなかった。そっか、ホントに好きなら経丸様の事を信じないと)
「共に戦い、若に士郎君が頼りになる男だと証明しようぜ!」
「片倉さん、それがし戦うよ」
「士郎君」
「ただ、約束してほしい。どんなことがあっても絶対に経丸さんを死なせないこと」
片倉さんは士郎の右手をがっちり両手で握って
「わかった。約束する」
「ありがとうございます」
「片倉さん、本当にありがとうございました。このような話せる場を作ってくださってそれがし納得できました」
片倉は笑いながら
「士郎くんらしくないなぁ、それより戦が終わったら今度は若と3人で飲みに行こうか」
「はい、是非」
「じゃあ、行こうか」
「片倉さん、会計は?」
「もう払った」
「いや、僕が払いますよ。僕のためにわざわざ店に連れてきて頂いたんですから」
片倉さんは笑顔で
「戦勝祝いの時奢ってくれ」
「えっ?」
「絶対に勝つからお金用意しといてよ」
士郎は深々と頭を下げながら
「すみません。今日はご馳走様です」
その頃、久留里城の都賀勝敏は大福を下品な食べ方で食べながら
「経丸は我らに戦を仕掛けてくるか。やはり、おなごは馬鹿じゃのう。感情的になって俺の挑発に乗るとは」
都賀勝敏の側近荒井は
「馬鹿ですよね。こちらは天羽家の領土が欲しいから戦に持ち込みたかった。それに長経不在の状態で戦をするとは」
「経丸の首を取り安房の国を我らの物にしようぞ!!」
「はい」
士郎は一人考えていた。
それがしにできることはそれがしはどうやって経丸様に貢献すればいいか
それがしは武術が優れてるわけでもないそれがし一人味方になったところでそこまで戦に影響しない。
一人の味方?待てよ。味方を増やせばいいんだ。
一人でも多くの味方を増やせばその分勝ちに近づく
士郎は箱を取り出し
今まで3年間で貯めた500万これ全て使って人をかき集められるだけかき集めよう
次の日士郎は館山城に走って行き
士郎は館山城の前に立ち大声で
「経丸様」
「士郎さん、どうしたんですか!!」
「それがし、経丸様の力に全力でなります!!」
「士郎さん」
「それがし、それがしに出来る事やるべき事を全力で致します!!」
士郎と経丸と片倉さんは安房国の民を集めて炊き出しを振舞った。士郎が主に炊き出しを大鍋で作り経丸と片倉さんはそれをサポートしながら完成すると士郎が容器によそい経丸と片倉さんは炊き出しに並ぶ人一人一人に炊き出しを渡していく。
そして士郎、経丸、片倉さんは皆と共に円形に座って炊き出しを和気あいあいと話した。
士郎の隣に座った士郎より五歳年下の少年吉野が
「士郎、今日火曜日でも金曜日でもないのに何で炊き出したんだ?」
「今日は大事な話があるから臨時の炊き出しさ」
「そっか!」
「まだ、皆に言うなよ。頃合い見て大事な話始めるから」
「わかった」
士郎は頃合いを見計らって
「皆さんに大事なお話があります」
農民の中の士郎より五歳くらい若い少年が士郎
「なんだ、士郎真剣な話か」
士郎はいつもより少し低いトーンで
「そうだ」
いつものおチャラけた雰囲気の士郎とは違う為、皆が静まり返る。
士郎は間を少し置いて真剣な表情で
「皆さん、これから天羽家は天羽経丸さんを大将として隣国の強敵都賀勝敏と戦います」
「都賀勝敏は卑怯なやつで長経様不在を狙って安房国の民を殺し天羽家と戦をしようとする悪党です」
「そんな悪党を天羽経丸様自らが立ち上がり討ち果たそうとしております」
士郎は両膝を地面につき
「そこで皆様にお願いです。共に戦ってください!!」
そう言って額を地面につける。
経丸は士郎の行動に驚き
「士郎さん!」
一人の爺さんが
「俺達年寄りは若い者を守るためなら最前線で戦ってくたばっても構わない!!」
「高じぃ!!」
「何一人カッコつけてんだ!高さん、俺達だって戦うぜ」
「そうだ!そうだ!!」
「ヨボヨボの年寄りが戦って若者が引っ込んでるわけ行かねぇなぁ。俺等も戦うぜ!!」
「そうだ!そうだ!爺さん達には負けねぇぜ!!」
士郎は嬉しさのあまり目を潤ませながら
「みんなありがとう」
「それに我々は日頃、経丸様にお世話になっておるここで立たねば人ではない!!」
「そうだ、今こそ恩義を果たすべき皆共に戦おうではないか」
「おう!!」
経丸は嬉しさのあまり涙目になりながら両膝をついて
「皆さん、ありがとうございます」
と地面に額をつけると民達が慌てて
「経丸様、我らにそんな頭を下げないでください」
「そうです。頭をお上げください」
「皆さんのお気持ちが本当に嬉しいんです」
「経丸様の為に働くのは当たり前だですよ」
「そうです。いつもの恩返しをさせてくださいよ」
経丸の目から涙がボロボロと零れ落ちた。
士郎は高じぃに駆け寄り
「本当にありがとうございました!高じぃのお陰でみんなが共に戦ってくれます」
高じぃは笑顔で
「今度酒付き合えよ」
「高じぃの酒は長いじゃないですか」
「25時間コースな」
「一日を少し超えてる!!」
「飲みの時は時間短く感じるから一日の時間を一時間増やすことにした」
「そんな、バカな」
二人は笑いあった!
士郎は戦場に向かう前に便所に籠り戦前の恐怖に震えながら大声で
「経丸さんを守るためなら外岡士郎は出来る!経丸さんを守るためなら外岡士郎は出来る!気持ちー‼気持ちー‼」
と自分を鼓舞して臆病な気持ちに打ち勝とうとした。
経丸は片倉さんに
「片倉さんって戦、緊張したりするんですか」
「若、握手してもらえますか?」
「え?握手ですか」
経丸は片倉さんと握手すると片倉さんの震えを感じ
「えっ!片倉さんでも緊張するんですね」
片倉は優しい口調で
「緊張ってね、本気になってる証拠なんですよ」
片倉さんの言葉に経丸は思わずこぼれるように
「片倉さん」
便所から戻って来た士郎が
「経丸さん、片倉さん・・・・」
士郎は驚きながら
「二人何で手を繋いでるの?」
「お互い緊張してるか確認してたんだ」
「それがしも緊張してますけど」
片倉さんは士郎をからかうように
「でも、士郎君手洗ってないでしょ」
「洗ってるわ!!」
経丸は士郎と片倉さんの手を握って
「皆、本気になってるんだ!!本気の私達なら絶対に勝てる!!」
片倉は強い口調で
「そうです!!絶対に勝てますよ」
「おっしゃ!!それがしの本気見せつけてやるぜ!!」
そして士郎は経丸から貰った大事な鎧に兜を被った。
経丸は天羽家の兵、五百と士郎が連れてきた三百の合わせて八百の兵に向かって
「今から私達はこの安房の国を守るため悪党、都賀勝敏を討ち果たす!皆の者出陣じゃー!!」
皆は興奮状態で
「オー‼」
士郎は1人
「気持ちー‼気持ちー‼」
と叫んでだ。
士郎達は戦場に着いた。
経丸は川を挟んで陣を構えている都賀軍の軍勢を見ながら
「片倉さん、いよいよですね」
「そうですね、私が奴らを一人残らず殲滅しますよ」
士郎は体中を震わせながら震えた声で
「それがしはどんなことをしてでも経丸様をお守りしますから」
経丸は優しい口調で
「士郎さん、ありがとうございます」
都賀勝敏は側近の荒井に
「敵の数は?」
「千にも満たないです」
「こちらの5分の1にも満たないか、この戦楽勝だな」
「はい、楽勝ですね」
経丸は皆に向かって
「敵は我らの5倍以上はいますが私達なら絶対に勝てる。私が先陣を切る!皆の者ついて参れ!!」
そう言って経丸は颯爽と敵陣に向かっていく。皆も急ぎ経丸を追って敵陣に向かって行った。
経丸は先陣で次々と敵の兵を斬り倒していく。
片倉さんも敵を圧倒的な強さで斬り倒していく。
その横で士郎は敵の攻撃を避けながら「気持ちー‼気持ちー‼」と叫び必死に喰らいついていくが
3人の敵兵に囲まれると
ヤバい!これは終わった。それがしここで死んだ。
横から経丸が一瞬にして3人の敵兵を鮮やかに蹴散らし
「士郎さん、前進しますよ」
「経丸さん、ありがとうございます」
天羽軍は圧倒的な戦力差がありながら都賀軍と一進一退の攻防を繰り広げる。
都賀勝敏は側近の荒井に
「何やってんだ!!さっさと蹴散らせよ!!」
「はい、すぐに」
荒井は全軍に発破をかけるが全く優位に進まずむしろ少し押され気味になっていた。この様子を士郎は見逃さず
頼むぞ、本当に頼むぞ
と願いを込めて法螺貝を吹いた。
士郎が法螺貝を吹いてしばらくすると敵が大混乱となった。
「殿、山岡隊裏切りとの情報が」
「なんだと、その情報はまことか」
「殿、申し上げます山岡隊裏切りとの情報が各地で飛び回っております」
「殿、山岡隊我らに向かってきております」
「ホントだ!皆の者山岡隊は裏切り部隊だ!!徹底的に潰せ!!」
経丸、片倉さんを先頭に猛烈な強さで攻められてた敵の軍勢山岡隊は一旦軍勢を立て直すため一旦陣を引いた行動がちょうど裏切り者との情報が流れていたタイミングだったのでいきなり都賀軍に一斉射撃をされた。
いきなり味方の都賀軍から攻撃を喰らった山岡隊は何が起こったのか全くわからず大混乱に陥った。
この大混乱を経丸、片倉さんが逃すわけもなく
「皆の者!総攻撃だあー!!」
天羽軍は混乱している都賀軍に突っ込んでいく。
大混乱に陥った都賀軍。都賀勝敏は
「荒井、俺は一旦戦場を離脱する。お前に殿を任せた」
「えっ!俺ですか」
「あぁ、頼むぞ」
「こんな危険な戦の殿などやりたくありません」
「いいからやれ!!」
都賀勝敏は荒井のけつに思いっきり蹴りを入れて逃げ出していった。
士郎は都賀軍の大混乱を見て思わずガッツポーズをし
よし、それがしの作が成功したぞ
回想
士郎は都賀の領土にある不良の溜まり場みたいなところに行きガラの悪い人達を見つけると
それがしはどんな汚い手を使ってでも経丸様を守るって決めたんだ!!
士郎は心のなかで「気持ちー!!気持ちー!!」と叫び覚悟を決めガラの悪い人達10人に向かって行き
「あなた方は、都賀に金で雇われてるんですよね」
「あぁ、そうだが」
「都賀に対する忠誠心はあるんですか」
男たちは笑いながら
「あるわけ無いだろそんなもん」
「金くれるから、戦ってるだけだ」
「まぁ、命張ってる割には安い給料だがな」
「いくら貰ってるんですか?」
「一戦、1万」
「やっす!!」
「おい、お前馬鹿にしてるのか」
「すみません。そんなわけじゃないです。労働力に対して賃金が見合ってないと思いまして」
「俺達みたいないくらでも代わりのいるもんはこんな価値しかないのさ」
「それがしが、あなた方に都賀勝敏を裏切れば20万渡すって言えば裏切りますか?」
「一戦、20万!!」
男達が驚く中、士郎は冷静な口調で
「はい」
「そりゃ、裏切るだろ。しかし俺達をからかうんじゃねぇよ。お前そんな金持ってるように見えないぞ!!」
士郎は一人一人の前に20万を置き
「これで都賀勝敏を裏切ってもらえませんか」
男達はすぐに手に取り
「おい、マジか!!こんなにもらえるのか」
「何をすればいい」
「今度の戦の途中で都賀の軍勢の中から裏切り者が出たと吹聴してほしい」
「そんな簡単な事か」
「もし、天羽家が戦で都賀勝敏を討ち取れたら更に一人に付き30万出す」
「おい、マジかよ!!」
「どうですか、やってくれますか?」
「わかった。やるよ」
「吹聴するタイミングはそれがしが法螺貝を吹いた時にお願いします。頼みますよ」
「わかった。やってやるよ」
回想終わり
経丸と片倉さんは敵を蹴散らしていき殿部隊の荒井を捉え片倉さんは荒井の胸ぐらを掴みながら
「おい、お前殺されたくなかったら都賀勝敏の居場所を答えろ!」
片倉さんの殺気に恐怖を感じた荒井は後ろを指さしながら
「先程、後ろに向かって逃げ出しました」
片倉さんは荒井の胸ぐらから手を放して経丸と共に都賀勝敏を追った。
経丸は都賀勝敏を見つけると
「罪のない方々を殺しておいて自分は負けそうになったら逃げるなんて本当に最低な人間ですね」
「うるせぇー、お前こそ今大人数で俺達少人数を追っかけてきて卑怯で最低ではないか」
片倉さんは呆れた感じで
「なんちゅう理屈だ、お前の軍が壊滅しただけだろ。元はと言えばお前の軍の方が圧倒的に兵の数多かったんだし」
経丸は一人で都賀勝敏に向かっていき冷静な口調で
「一騎討ちで決めましょうか」
都賀勝敏は大声で
「お前、おなごの癖に舐めんじゃねぇぞ!!」
都賀勝敏は一緒に逃げてきた部下たちに合図をし経丸を囲まさせた。
経丸は冷静な口調で
「どういうおつもりですか?」
都賀勝敏は大声で
「皆の者、やれ!!」
部下達は一斉に経丸に襲いかかるが
経丸は一瞬にして蹴散らした。
都賀勝敏は驚きのあまり腰を抜かしながら
「お前!バケモノか」
片倉はフフッと笑って
「終わったな、あいつ」
経丸は一瞬にして都賀勝敏との間合いを詰め都賀の首を力いっぱい斬りつけた。思いっきり刎ねられた都賀の首は宙に浮きそれを経丸は左手でキャッチし都賀の首を持っている左手を上に掲げ大声で
「敵将!討ち取ったー‼」
経丸のこの一言で天羽家と都賀の戦いは終わりを告げた。
戦が終わり士郎達は館山城に戻った。
館山城は戦勝祝で大いに盛り上がった。
経丸と片倉さんと談笑してるとフラフラしながら高じぃはやってきて炊き出しを作っている士郎の隣に座り
「おい、しろちゃん。飲もうぜ」
「もう少しで完成するのでお待ちを、今日はありがとうございました。高じぃの強さにはほんとに驚きました!!」
高じぃは上機嫌で士郎の肩に腕を回して
「ちょっと、本気出せばあんなもんよ」
「もう、後三十年若ければ片倉さんと同じくらい強かったんだけどなぁ」
「それは話し盛りすぎ、せいぜいそれがしくらい」
「おい、しろちゃん大分、酔いが回ってるようだ。水のめ!水のめ!!」
「まだ、一滴も飲んでおらぬわ」
みんな笑う。
経丸は
「おかげさまで勝てました。ありがとうございました」
と頭を下げる経丸に高じぃは
「いや、こんなべっぴんさんにお礼を言われるなんて命張ったがいがあったわ!!今日は最高の夜だ!!飲もうよ、経丸さん」
経丸は笑顔で
「はい、ぜひ」
士郎は経丸に
「経丸さん、この人底なしだからまともに相手しちゃだめだよ」
「士郎さん、お気遣いありがとう。無理せずゆっくり飲みますよ」
「そうだ、ゆっくり無理せず飲もうぜ。今日は25時間あるんだからな」
「高じぃは少し飲む量減らしな、もう七十超えてるんだから」
「量を減らす?バカ言うな。酒が飲めなくなったら、もう俺は終わりよ。片倉さんあんた一番強そうだから飲み比べしよ」
片倉さんはニコニコしながら
「いいですよ。僕手加減しませんよ」
そう言って片倉さんは茶碗に日本酒を入れて一気に飲み干した。
「おっ、いい飲みプリだ。最高だね」
そう言って高じぃは片倉さんと飲み比べをし片倉さんはケロッとしてたが高じぃは酔い潰れて寝てしまったのだった。
経丸や片倉さんと高じぃは話しながら飲むお酒は士郎に取っては最高に楽しかった。
経丸は次の日、士郎に
「士郎さん、あなたがたくさんの方々を味方につけてくれたためこの戦、勝てました。ありがとうございました」
「これからは外岡士郎、臆病風に吹かれることなく誠心誠意経丸様と共に戦い、経丸様と共に安房の国を守っていきます」
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
経丸は士郎に深々と頭を下げ士郎もまた経丸に深々と頭を下げたのだった。
天羽家の人々はこの戦乱をどう生き抜いて行くのだろうか
天羽家の大河ドラマが今ここに始まったのであった。