06
「そろそろだねぇ」
現在時刻、二十時ちょうど。江里子の好意に甘えて夕食のカレーライスまでご馳走になった玲衣夜たちは、リビングで各々寛いでいた。
食後に淹れてもらった熱いお茶を飲みながら玲衣夜が呟けば、悠叶はスマホの画面から顔を上げ、江里子と一緒にバラエティ番組を観ていた千晴も、グッと表情を引き締める。
「昨夜は、二十時ぴったりにインターホンが鳴ったんです。でも、出てみたら誰も……」
江里子の言葉はそこで途切れる。
ピンポーンと軽やかに、来客を知らせる音が鳴り響いたからだ。
「鈴木さんは、後ろにいてくださいね」
「は、はい」
玲衣夜を先頭に、四人は連れ立って玄関に向かう。
千晴と悠叶は、何かあった時すぐに対処できるようにと玲衣夜の背後に控え、神経を尖らせている。
スニーカーを履き土間に下り立った玲衣夜が躊躇なく玄関の引き戸を開けようとすれば、そのタイミングで、ドンドンと扉を叩く音が響いてきた。よくよく見れば、硝子戸越し――玄関扉の向こう側に、人陰が見える。
「おい江里子、いるのは分かってんだよ! さっさと開けろ!」
ドンドンと扉を叩く声は男性のもので、その声は確かに“江里子”と依頼人である彼女の名前を口にしていた。つまりは知り合いなのだろう。
その荒々しい声だけを聞けば、良好な関係を築いている仲だとは言えなさそうだが。
「やっと出てきたな、って……アンタ、誰だよ」
玲衣夜が扉を開ければ、江里子が現れると思っていた男は面喰った顔をする。
「君なのかい? ここ数日、鈴木さんの家を訪れては、子どもがやる悪戯のようなピンポンダッシュを決めこんでいるのは」
「は、はぁ!? オレはそんなことしてねーよ!」
「……本当かい?」
「って、てゆーか、アンタは誰なんだよ! 江里子の新しい彼氏か!?」
「いや、私はただのしがない探偵だよ。最近鈴木さんの周りで起こっている、不可解な謎の真相を解明するためにきたのさ」
男は一瞬、困惑した様子で目をしばたたかせていたが、すぐに気を取り直して玲衣夜に突っかかる。
「探偵だか不可解な謎だか知らねーけど……つーか、別にオレは江里子に何かしようだなんて思ってねーよ! ただ、遺産を分けてもらおうと思ってるだけで……!」
「……遺産?」
「あぁ、そうだよ! 元々は、江里子のじいさんの遺産を分けてもらうはずだったのに……江里子のやつ、じいさんがぽっくり逝ったと思ったら遺産は渡せねぇ、オレとも別れるだなんて言いやがって……! 納得できるわけねーだろ!」
「ふむ、なるほどね。……鈴木さん、これはどういうことですか?」
玲衣夜が背後にチラリと視線を向けて問いかけるが、江里子は先ほどから黙り込んだままで、視線も下を向いている。長い髪が影を作って、彼女が今どんな表情をしているのかも分からない。




