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01



 ぎらぎらと真夏の太陽の光が照り付ける地面。中火にかけたフライパン底のように熱されているアスファルトの上を、千晴は歩いている。

 森林公園の横を通り過ぎれば、子どもたちの元気な声と一緒に、蝉のやかましい鳴き声に鼓膜を圧迫された。


 ――もう夏だ。来週には八月に入るとはいえ、これは七月の気温ではないように思う。今年は梅雨が明けるのもあっという間だったし、その分暑い時期が長引いているのだと思えば、仕方がないのかもしれないけれど。


 大学での講義を終えた千晴は、額に滲む汗をぬぐいながら、バイト先である“一ノ瀬探偵事務所”に向かっていた。

 生ぬるい風が剝き出しの素肌を撫でていく。手のひらを団扇代わりにして顔を仰ぎながら歩みを続けていれば、数十メートル先に煤けた色合いの煉瓦の壁面が特徴的な建物が見えてくる。――目的地はもうすぐだ。


 事務所はビルの二階にある。ちなみに一階はレトロ風な喫茶店になっていて、感じの良いマスターとアルバイトの男子高校生の二人で切り盛りしているらしい。

 千晴がこの建物を初めて見た時は、某有名漫画の“見た目は子ども頭脳は大人”の名探偵の世界みたいだなぁ、なんてことを思ったりもしたものだ。


 二階へと続く外階段を上って扉を開ければ、ひんやりとした冷気が玄関先まで流れてくる。

 入ってすぐにある応接室とダイニングキッチンを通り過ぎて、奥にあるオフィス兼くつろぎスペースでもある居間を覗いてみれば、そこには予想通りとも言うべきか――ガンガンに冷房をきかせた室内でソファに寝そべり、薄手の毛布にくるまっている玲衣夜の姿があった。


「はぁ~、快適快適。もう一生此処で生活していたいものだねぇ」


 その手には某有名な週刊少年誌を持ち、黒ゴムで前髪をちょんまげにして、二つに半分こできるアイス、ぱぴこのチョコ味を口にくわえている。完全なるくつろぎモードだ。


 ――何というか、これはもう……知らない人から見たら完全にただの引きこもりである。この人がこれまで数々の難事件を解決してきた凄腕の名探偵だなんて、傍から見たら信じられないだろう。というか、僕も少し信じられなくなりそうだ。


 荷物を下ろして脱衣所でうがい手洗いをした千晴がオフィスに戻れば、玲衣夜はようやくその存在に気づいたようだ。


「おぉ。千晴、きていたんだね。今日の大学はどうだったんだい?」

「別に普通だけど……講義受けて学食食べて、それで終わり」

「そうかい。変わらない日常もまた、尊ぶべき大切なものだからねぇ。窮する事態に見舞われることがなかったなら何よりだよ」


 話しながらも、玲衣夜がソファから起き上がる気配は見られない。だらっとした体制でソファの上に沈んだままだ。

 無言で近づいた千晴が玲衣夜愛用のマシュマロ毛布を奪ってみれば、玲衣夜は「あぁっ!」と悲鳴じみた声を漏らす。


「何をするんだい千晴! 私の愛しの毛布が……!」

「こんな真夏に毛布はいらないでしょ。寒いなら冷房の温度を下げればいいんじゃない?」

「チッチッ、千晴は分かってないねぇ。熱い真夏に、クーラーをガンガンにきかせて毛布にくるまるのが最高の贅沢なんじゃないか! これにアイスもあれば、ここはもう天国だね」


 ――きらきらと瞳を輝かせて熱弁している玲衣さんには悪いが、正直、ひたすら不健康極まりないと思うんだけど。



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