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「助けてください! 私……命を狙われているかもしれないんです!」
一ノ瀬事務所の応接室にて。玲衣夜と向かい合うようにして座っているのは、今回の依頼人である鈴木江里子さん、二十八歳。
仕事は事務職をしていて、最近は祖父の介護に勤しんでいたらしいが、つい先月、病気で亡くなったらしい。
依頼内容について詳しい話を聞けば、ここ最近、夜にインターホンが鳴るらしいのだが、確認してもそこに人影はないらしい。けれどそれから数分ほど経つと、玄関先から発砲音のようなものが聞こえてくるらしいのだ。
そんな奇妙なことが三日ほど前から、毎夜続いているのだという。
“命を狙われている”という何とも物騒なワードに、珈琲を淹れてきた千晴は眉を寄せて、心配気な面持ちで江里子に声を掛ける。
「どうぞ、珈琲です」
「あ、ありがとうございます」
「それにしても、命を狙われているだなんて……警察にも相談した方がいいんじゃないですか?」
千晴の言うことはもっともだろう。警察ならば、自宅周辺の見回りも強化してくれるだろうし、怪しい人物を見かければ声を掛けてくれるはず。
けれど千晴の提案に、江里子は何とも言えない渋い表情をして口をまごつかせる。
「いえ、その……警察は、あまり信用できないというか……大事にはしたくなくて」
「……ふむ、そうですか」
何かを考え込むように、黙って江里子の話を聞いていた玲衣夜は、おもむろに立ち上がった。
「それではひとまず、鈴木さんのお宅にお邪魔させてもらってもよろしいですか? 色々と確認させていただきたいので」
「えっと、はい。それはもちろん構いません。……お願いします」
江里子からの了承の言葉ににっこり笑った玲衣夜は、自身の隣に座っている悠叶に視線を向ける。
悠叶は依頼人の前だということも気にせずに、スマホをいじっている。
「悠叶はどうする? 今回も留守番しているかい?」
「……いや、ついていく」
珍しく同行するという悠叶に、玲衣夜と千晴は顔を見合わせた。
「悠叶がついてくると言うだなんて……まさか……、何か拾い食いでもしたんじゃないだろうね?」
「……一発ぶんなぐってもいいか」
「もう、玲衣さん! さすがに悠叶くんだって、拾い食いはしないでしょ」
「……さすがにってどういう意味だ」
口をすべらせた千晴は、悠叶から訝し気な目を向けられて「あはは……」と空笑いを浮かべる。
「ええっと……でも、悠叶くんが自分からついてくるって言うなんて、本当に珍しいよね」
「……はぁ。別に、特に意味はねーよ」
嘆息して立ち上がった悠叶は「さっさと行こうぜ」と行く気満々の様子だ。普段は面倒くさがったり、だらけきっている姿ばかり見ているため、本当に珍しく思える。
「そうだね。それじゃあ――早速、鈴木さんのお宅に向かいましょう」
こうして、深夜の訪ね人と謎の発砲音について解き明かすための調査が始まった。




