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「あっれ~、お兄さん、こんな所で何やってんの~?」
「……お前には関係ない」
「……え、顔こっわ! 待って俺嫌われてる!? え、俺たち初対面っすよね……!?」
「……」
あからさまな敵対心を向けられて、酔いも少しは冷めたらしい男は、訳が分からないといった様子で狼狽えている。
「えぇ、マジ何なの……。つーか、玲衣夜くん大丈夫かなぁ……。杉本くんが大丈夫って言うから置いてきちゃったけど、めちゃくちゃ真っ赤な顔してたしなぁ……やっぱ心配だし、俺戻ろうか…」
どうやらこの男、トイレを出てすぐ、玲衣夜たちのもとに行っていたようだ。
酔っぱらった思考のまま、ふわふわと独り言を口にしていた幹事の男だったが――そこで言葉は途切れた。――理が、男の顔の真横に、片手をついたからだ。傍から見たら、男が男に壁ドンしているようにしか見えないだろう。
「……俺が行く。お前は戻ってろ」
「え、いやいや……ってかそもそも、お兄さん誰っすか? ……つーか、お兄さんも顔赤くね? え、飲みすぎ? 大丈夫っすか?」
「……」
男の言葉を無視して踵を返した理。その足取りは、先ほどよりもずいぶんと早く見える。
理がソファの置かれた場所まで戻れば、玲衣夜は依然としてそこに座っていた。千晴の姿は見当たらない。人の気配を感じて顔を上げた玲衣夜だったが――その顔にはいつも通り、ゆるりと気の抜ける笑みが広がっていた。
「……あれ、理くん、また戻ってきたのかい? トイレかな?」
「……っ、はぁ、……さっさと戻るぞ」
理がその表情を目にした時には、幹事の男が言っていたような――顔を赤く染め上げた玲衣夜の姿を見ることはできなかった。それが何だか、惜しいことをしたように思えてしまって――浮かんだ雑念を振り払うようにして小さく頭を振りながら、その細い手首を掴む。
「ぉわっ、理くん、ちょっと待っておくれよ……!」
「……どうせお前たちも解散する時間だろう。タクシーを呼んであるから、杉本くんも一緒に、ついでに乗っていけ」
「……いいのかい? それじゃあ……お言葉に甘えようかな」
理に手を引かれる玲衣夜は、多少ふらつきながらもしっかりとした足取りで後をついていく。さきほど幹事の男が言っていた玲衣夜の顔の赤さは、酔いのせいだったのか、それとも――。
その真相は、玲衣夜本人にしか知り得ないことなのであった。
「(……全く、不器用なんだから)」
そして、影でこっそり二人の様子を見守っていた千晴。その表情には穏やかな笑みが浮かんでいる。
その言葉がどちらに向けられたものだったのか……それもまた、千晴にしか知り得ないことではあったが――――きっとすべての真相が解き明かされる日は、もうすぐそこまで迫ってきていることだろう。




