05
席に戻った玲衣夜たちは、その後も味の濃い摘みを口にしながらアルコールをちびちびと飲み、皆で雑談を楽しんでいた。玲衣夜がこれまで解決してきた事件の話でその場は大いに盛り上がり、女性陣だけでなく男性陣の興味をも引いたようだ。
はじめは玲衣夜に対して面白くない感情を抱いていた幹事の男も、今ではすっかり玲衣夜に絆されたようで、千晴の反対の空いた席を陣取って酒を飲み交わしている。
こういう場のノリが苦手な千晴も、玲衣夜のおかげで肩の力を抜いて楽しめたようだ。その表情から緊張や不安の色はすっかり消えている。
あと十五分ほどしたら店を出るとのことで、女性陣はメニュー表と睨めっこしながらどのデザートを食べようかと楽しそうにしているし、男性陣は女性陣の見えないところで伝票に目を通している。会が終わりに近づいていく空気が漂っていた。
千晴と玲衣夜の分の代金は誘ってきた友人が支払ってくれることになっていた。それは悪いからと断っても「こっちが無理に頼んだんだから払わせてくれ!」の一点張りだったため、今回はその言葉に甘えることにしたのだ。
玲衣夜はアルコールで目元を赤くしながら、目の前に座る女性にどのデザートが好きかと問われて真剣に考えている。そんな玲衣夜の顔をじっと見つめる女性の目の奥には、ハートマークが見える。
きっと玲衣夜の答えに、女性陣は「えぇ、私が作ってあげますよ!」なんて答えて、玲衣夜は「お菓子作りが得意なのかい? 素敵だねぇ」とさらりと微笑み返すのだろう。更にうっとりした表情で玲衣夜を見つめる女性陣や一部の男性陣の姿が想像できる。
きゃっきゃと楽しそうに雑談する姿を横目に席を立った千晴は、再度トイレへと足を向ける。千晴が席を立ったことに気づいた玲衣夜もその腰を上げようとしていたが、千晴は目で“大丈夫だよ”と伝えた。
千晴の表情を見て小さく頷いた玲衣夜は、立ち上がることなくそのまま女性に問われた答えを口にする。
「甘いものは何でも好きだけれど……最近はプリンにハマっているかな」
「え、私もプリン大好きです!」
「はい! 私、お菓子作るのが趣味なんですよぉ。 よければ今度、食べてほしいですぅ」
「へぇ、お菓子作りが得意なのかい? 素敵な趣味だねぇ。私は料理は全然だから、尊敬するよ」
ゆるりと微笑む玲衣夜。その麗しい笑みを視界に捉えて、うっとりと目を細める女性陣。玲衣夜を気に入ったらしい右隣に座る男もまた、玲衣夜を横目に見て恍惚とした吐息を漏らしている。
そんな、予想通りの光景が広がる空間からすでに抜け出していた千晴は、用を足してトイレから出てきたところだった。座敷に戻ろうとしたところで――先ほどのソファに、理が一人で腰掛けている姿を見つける。
「一ノ瀬さん、さっきぶりですね」
「……あぁ、杉本くんか」
千晴は小さく頭を下げる。ゆるゆると顔を上げた理の顔もまた、玲衣夜同様、普段より薄っすらと赤く染まっている。
ちなみに千晴はノンアルコールしか口にしていないため完全な素面状態だ。理は仕事の付き合いだと言っていたし、もしかしたら上司に飲まされたのかもしれない。
そんなことを考えながら「隣、座ってもいいですか?」と理に確認をとる。無言で端の方にずれてくれた理に礼を言い、千晴も並んで腰を下ろした。
「……あいつ、楽しそうだったな」
ぽつり、理が呟いた。視線は斜め下に向けられているため、その表情まで窺うことはできないけれど……その声には不機嫌そうな色がふんだんに込められている。
これは誤解を解いておいた方が良さそうだと考えた千晴は、理の方に顔を向けた。
「今回の合コンは、僕が友人に誘われたんです。断り切れなくて参加することになったんですけど……玲衣さんは、僕を心配してついてきてくれたんですよ」
「杉本くんを心配して?」
「はい」
千晴は、一年前の記憶を呼び起こしていた。顔を真っ赤に染めて泥酔していた玲衣夜との出会いは、お世辞にもいいものとは言えなかった。けれど――。
「僕と玲衣さんが初めて出会ったのは、居酒屋だったんです。僕はそこで――あの人に救われたんです」




