03
千晴が事務所での出来事を振り返っている間にも自己紹介は進められていて、ようやく女性陣の話も終わったようだ。
そこからは、各々近くの席の者と雑談をし、軽く食事をとりながら酒を飲んで――ほどよくアルコールが回り、僅かな緊張した雰囲気もすっかり消えてしまった。場は賑やかにも雑然としたものに変わっている。
飲み会が始まって、一時間ほどが経過しただろうか。千晴がトイレへ行こうと席を立てば、それに便乗した玲衣夜も後を付いてきた。二人で並んで歩きながら、騒がしい個室の前を通り過ぎてお手洗いのある方へと足を進める。
玲衣夜は涼みにきただけのようで、通路の脇にあったソファに腰を下ろした。目線で待っていると告げられたため、千晴は用を足すためトイレに入る。
「……杉本くん、か?」
「……え?」
一歩足を踏み入れて、第一声。掛けられた言葉に顔を向ければ、そこには僅かに目を見開いた理がいた。
普段と同じようにダークグレーのスーツをばっちり着こなしてはいるが、その顔は若干赤らんでいて、いつものようなきりりとした面差しは鳴りを潜めている。
「どうして一ノ瀬さんがここに?」
「俺は……仕事の付き合いでな。君も誰かと飲みにきているんだろう?」
「はい、そうです。この前の海の時といい、すごい偶然ですね」
「あぁ、本当にな。……今日は、あいつも一緒なのか?」
「はい、玲衣さんも一緒ですよ。今は、そこの廊下にあるソファで休んでます」
二人揃ってトイレを出れば、そこには確かに、玲衣夜がソファに座って休んでいた。けれど――その隣には、理の見知らぬ男も座っていたのだ。もちろん今回の合コン参加者なのだが、そんなことを知るはずもない理は、笑みを浮かべて楽しそうに話している二人を見て暫し呆然としていた。
足を止めた理に気づいた千晴は、その表情を伺おうとそっと視線を向ける。そこには千晴の想像通り、眉を顰めて気難しそうな顔をした理がいて。
「あぁ、千晴が戻って――ん? 何故理くんがここに?」
「……」
理は言葉を返すことなく、スタスタとソファの前を横切っていく。――いや、横切ろうとしたのだ。けれど、玲衣夜の隣に座る男との距離がやけに近いことが気になってしまって――結局素通りすることはできなかった。




