02
「……あ、電話だ。ちょっと出ても大丈夫?」
「あぁ、もちろん」
引き受けた依頼の内容を確認していた玲衣夜と千晴の耳に、聞き慣れたスマホの着信音が届いた。それは千晴のもので、出てみれば大学の友人からの着信だった。
「もしもし? どうし…「助けてくれ千晴!」
開口一番、大声で助けを求められた千晴は困惑した。
「何があったの? 落ち着いて話してよ」
「実はさぁ――……」
友人の話をまとめると、自身の所属するサークルの先輩に合コンに誘われていたらしいのだが、元々参加予定だった二人が体調不良で寝込んでしまい、急遽代役を探しているらしい。穴埋め要員になる二人を連れてくるよう幹事役でもある先輩に頼まれたのはいいが、声を掛けた友人たちは皆急なことで都合がつかなかったらしい。
「ほら、俺って元々友達も少ないしさ。急なこともあって皆難しいっていうし……そこで頼みがあるんだけ「無理」
友人が言いきる前に、千晴はきっぱりと断りの言葉を告げる。
「いや、俺まだ何も言ってないんだけど!?」
「聞かなくても分かるよ。合コンに参加してほしいってことでしょ? ……無理だよ」
「っ、千晴頼むよ~! お前がこういうの苦手だってことは分かってるんだけどさ……でも今回だけでいいから……頼む! この通りだ!」
「えぇ……」
電話口で友人が言った通り、千晴はこういった飲み会の場があまり好きではない。それが分かっていたからこそ、友人もこうして最後の最後に千晴に泣きついてきたのだろう。
一年前の苦い記憶がよみがえった千晴は、口許をぎゅっと引き結んだ。本音は行きたくない、けれど――困っている友人を見捨てることも、できなくて。
「……はぁ、わかったよ。今回だけだからね」
「っ、千晴~‼ ほんとにありがとな……‼」
渋々了承すれば、耳元から友人の嬉々とした声が伝わってくる。
「よし、それじゃああと一人だな。千晴、誰か知り合いで当てはないか?」
「ん~、僕もそんなに友達が多いほうじゃないしなぁ……」
千晴と友人が誰か誘えそうな者はいないかと考え込んでいれば、そこにのんびりとした、穏やかな声が降ってくる。
「参加者を探しているのだろう? それなら私が付いて行ってもいいかな?」
「え、玲衣さんが?」
いつの間にかすぐ近くまできて、千晴たちの会話を盗み聞いていたらしい玲衣夜。茶目っ気のあるウィンクを一つ落として、千晴の返答を待っている。
「そこに誰かいんのか?」
玲衣夜の声が聴こえたのだろう。耳から離していたスマホのスピーカー越しに、友人の問いかける声も漏れ聞こえてくる。
「……もう一人の参加者、今決まったよ」
「えっ、ほんとかよ!? よかったぁ~……!」
友人の安堵した声と、玲衣夜の楽し気な笑みを目にしながら――斯くして、千晴と玲衣夜の合コン参加が決定したのであった。
その後、夕方になって事務所にやってきた悠叶も当然のように居酒屋まで付いてこようとしたのだが、未成年を酒の席に連れていくのはマズいということで、今回は留守番をお願いしてきたのだ。けれど――悠叶が簡単に納得するわけもなく、最後まで不機嫌全開のジトリとした目で睨みつけられながら、事務所を後にした二人。
合コンから帰ればへそを曲げて拗ねている悠叶にお出迎えされることが確定しているので、帰りに何か手土産でも買って帰った方がいいかもしれない。




