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「それでは、今回の出会いを祝して……」
「「かんぱ~い‼」」
アルコールの注がれたグラスがぶつかり合う音がする。一瞬静まり返る室内。けれどアルコールをごくごくと摂取してグラスから口をはなせば、室内はまた騒がしさに包まれる。
――都内にある飲み屋“ゴン十郎”の店内にある座敷には、数人の男女が集まっていた。誕生席から見て右側が男性陣五人、左側には女性陣五人がいて、向き合うような形で腰を下ろしている。歳は二十代前半から後半までといったところだろう。
今この居酒屋では、飲み会という名の男女の出会いの集い――合コンが行われようとしているのだ。
和気あいあいとした雰囲気の中、自己紹介タイムが始まった。名前や年齢、趣味や好きなものなどを簡単に話して、自己紹介はつつがなく進められていく。
「――はい、それじゃあ次!」
「あぁ、私だね。私は一ノ瀬玲衣夜。今日は千晴に誘われて参加させてもらったんだ。よろしく頼むよ」
短い挨拶を終えた玲衣夜は女性であるにもかかわらず、何食わぬ顔をして男性陣の列に顔を並べている。しかしその事実をこの場で知っているのは千晴だけなので、誰かが気に留めるようなことはない。
玲衣夜の自己紹介がこれで終わりだと判断した幹事が次の者に自己紹介を回そうとすれば、玲衣夜の斜め前に座っていた女性が質問をする。
「あの、一ノ瀬さんって学生ではないですよね? お仕事って何されてるんですか?」
「ん? ……あぁ、仕事は、探偵業を営んでいるよ」
告げた玲衣夜の言葉に、女性陣から色めき立つような声が上がる。
「えぇっ、探偵さんなんですか?」
「カッコいい~! 色々お話聞かせてください!」
キャッキャッと女性陣に持て囃されている玲衣夜だったが、顔色を変えることなく「あぁ、勿論いいよ」と爽やかな微笑を浮かべている。その麗しい笑顔を正面から浴びた女性陣から、恍惚とした吐息が聞こえてきた。
それを面白く思わなかったのか、幹事の男性――今回の合コンの発端でもある男が、まだまだ質問したりなそうな女性陣が口を開くよりも先にと、進行を進めていく。
「はいはい、それじゃあ次いくぞ! 自己紹介よろしく!」
「えぇ、こんなイケメンくんの後だと自己紹介もしづらいんだけどなぁ……」
玲衣夜の左隣に座っていた男が、後頭部を掻きながらわざと落ち込んだ風にいえば、その場にはクスクスと楽しげな笑い声が響いた。
千晴と同じ大学に通う、先輩にあたるであろう男性の自己紹介を耳にしながら――玲衣夜より一足早く自己紹介を終えていた千晴は、誰にも聞こえないよう、小さく重たい吐息を漏らした。
千晴はこういった場があまり得意ではない。むしろ苦手意識さえもっている。まだ始まって十分足らずといったところだが、慣れない雰囲気に、その顔にはすでに疲れの色が垣間見える。
早く帰りたくて仕方がないけれど、この場に参加することになった原因は千晴自身にあるのだ。当然早々に抜けるような真似ができるはずもなく、自己紹介も手短に済ませて、大人しく周囲の面々の話を聞くことに徹していたのだ。
「……千晴、大丈夫かい?」
千晴の顔色があまりよくないことに気づいた玲衣夜が、千晴にだけ聞こえるような声量で問いかけた。その声色からは、千晴を心から心配してくれていることが伝わってくる。
「……うん、大丈夫だよ。ありがとう玲衣さん」
「……無理はしないようにね」
頷いて返した千晴は、結局断り切れずに参加を了承してしまった今朝の自分自身のことを恨めしく思った。――そもそも、何故千晴と玲衣夜が合コンに参加することになったのかといえば、事の始まりは、今朝の十時ごろまで時を遡ることになる。




