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霊聴探偵一ノ瀬さんの怪傑推理綺譚(かいけつすいりきたん)  作者: 小花衣いろは
Episode6  Indulge(甘やかす)

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06



「いやぁ~。たっぷり寝て、玲衣さん完全復活だよ!」


 玲衣夜が熱を出して寝込んだ、翌々日のこと。


 すっかり熱も下がって回復したらしい玲衣夜は、千晴と二人で夕食の買い出しに赴いていた。今日は玲衣夜のリクエストで和食に決定し、商店街で魚や野菜を買い込んできたところだ。

 玲衣夜が体調を崩していたことを知った商店街の人たちから色々とおまけも付けてもらい、二人が一つずつ持っているエコバッグの中身はぱんぱんに膨れ上がっている。


「もう、病み上がりなんだから無理しないでね。買い出しだって僕一人で行けたのに」

「いやぁ、家でだらだらするのも好きなんだけどねぇ。外に出るなと制限されると、無性に出たくなってしまうものじゃないかい?」

「まぁ玲衣さんって基本はインドア派だけど、アウトドアも行っちゃえば思いきり楽しんじゃう人だしね。それに天邪鬼なところもあるし」

「うむ、そういうことだね。……そういうことなのかな?」


 天邪鬼という言葉に納得できなかったようでコテンと首を傾げながらも、へらりと笑って返す玲衣夜。それからしばらく、とりとめのない雑談をしながら事務所に向かって歩いていたのだが――目的地も目前といったところで、前方に何かを見つけたようだ。玲衣夜はその足を止めて遠くの方をじっと見つめる。


「あれ、悠叶じゃないかい?」

「え? ほんとに?」


 玲衣夜たちが歩いてきた道とは反対方向から、こちらに向かって歩いてくる人物が見える。遠目からでも分かるモデルのようなすらりとした体躯に、柔らかな金髪。あれは悠叶で間違いないだろう。

 一昨日事務所に悠叶がきた時は、千晴がアルバイトの手伝いから戻ってすぐに帰宅してしまったらしいので、眠っていた玲衣夜が顔を合わせることはなかった。昨日は事務所にきていないので、玲衣夜と悠叶が会うのは数日振りのことになる。

 玲衣夜と千晴が事務所前で足を止めて待っていれば、近づいてきた人物は、やはり悠叶で間違いなくて――けれど、何かがおかしい。何がおかしいって、それは悠叶の格好にあった。


「……悠叶くん。それ、どうしたの?」


 玲衣夜たちの目の前で立ち止まった悠叶。千晴が恐る恐る尋ねるが、悠叶は何を問われているのか分からないといった様子で黙ったままだ。


「……うむ。悠叶は制服も似合うんだねぇ」


 玲衣夜がしみじみと呟いた。


 ――そう。何故か学生制服であるブレザーを着て現れた悠叶。よく見れば、背中にはぺったんこにつぶれた黒のリュックサックを背負っている。そこに教科書といった類のものは入っていなさそうだ。

 シャツは第三ボタンまで外し、指定のネクタイは着用せず、制服をほどよく着崩している悠叶の姿は……どこからどう見てもイマドキの男子高校生だ。


「……えっ!? もしかして、悠叶くんってまだ高校生だったの!? 大学生じゃなくて……?」

「……あぁ」


 千晴の問いに静かに頷く悠叶。千晴は瞳をぱちぱちと瞬いている。


「いやぁ~びっくりだねぇ」


 悠叶が現役高校生であることは玲衣夜も知らなかったようだが、こちらはすでに事実を受け入れた様子でのほほんと笑っている。


「……別に、嘘は言ってねぇ」

「うむ、確かに。千晴は悠叶に学生か、としか聞いていなかったのだろう? ……ん? 未成年の男子高生を事務所に寝泊まりさせているって……もしかして結構アウトラインギリギリだったりするのかな? ……うむ。まぁ細かいことはいいか」


 一人で考え込んだかと思えば、すぐに納得した様子で笑っている玲衣夜。さすがはザ・マイペースの称号を周囲の人間から授かっているだけはある。


「……って、いや笑い事じゃないよ玲衣さん! 悠叶くん、まだ高校生ってことは実家暮らし……だよね? 外泊のこと、親御さんは知ってるの?」


 問われた悠叶はむっつりと口を閉ざしていたが、答えを待つ千晴と玲衣夜からの視線を受け、ボソリと返事をする。


「別に……オレが帰っても帰らなくても、アイツらは気づかねぇよ」

「……」


 ――それって、どういう意味なんだろう。


 悠叶は家族と仲が悪いのだろうか。悠叶の言葉の真意が分からず疑問を抱いてしまった千晴だったが、家族間のプライベートな問題に無遠慮に踏み込むのもどうかと思い、躊躇してしまう。

 けれどほんの一瞬流れた気まずい沈黙は、玲衣夜のゆるりとした声で霧散してしまった。


「まぁまぁ。とりあえず中に入ろうじゃないか。私の手もそろそろ限界だしねぇ」


 そう言って右手に持ったエコバッグを掲げて見せた玲衣夜は、ゆったりとした足取りで外階段を上っていく。顔を見合わせた千晴と悠叶もまた、玲衣夜の後に続いたのだった。



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