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――あぁ、よかった。いつもの玲衣さんだ。
穏やかな表情で笑い続ける玲衣夜に、千晴は心の底から安堵した。感動モノの映画を観た時に涙する姿を見たことはあっても、こんな――辛そうな、寂しそうな顔で泣く玲衣夜を見るのは、初めてのことだったからだ。
きっと玲衣夜は、千晴たちが知ることのない深い傷を負っていて、今でも苦しんでいるのだろう。そして、それを笑顔の裏に隠していたのかもしれない。
けれど、こうして本心を話してくれて、自分たちの前で泣いてくれて、最後には笑ってくれた。それならいいのだ。これから先、この人が悲しみに沈むことのないように……また涙することがあっても、こうしてそばにいて、その涙を拭うことができたのなら――それでいい。
そんな祈りにも似た思いを胸に抱きながら、慈愛を持った目で、また決意を秘めた目で、そして、隠しきれない愛おしさを孕んだ目で――各々、玲衣夜を見つめていたのだった。
「……ありがとう。理くん、悠叶、千晴」
「別に……礼を言われるようなことをした覚えはない」
「……それより腹減った。帰るぞ」
「ふふ、そうだね。帰ろうか、玲衣さん」
「――あぁ、そうだね。帰ろう」
***
帰り道の車内にて。助手席では、疲れ切った様子の山崎がぐっすりと眠っている。
上司に運転を任せるなんて中々に度胸がある奴だ……と多少呆れてしまいながらも、今日はせっかくのイベントだったというのに、会場の後処理に翻弄していたことも思い出して、後日労ってやらないとな、と小さな鼾をかいている部下を横目で見た。
そして、夜道を運転する理が次に考えるのは――やはり、今日一日の出来事だった。
――まさか休日にまで事件にかかわることになるとは思わなかった。しかも、あいつらと顔を合わせることになるだなんて……。
今日は驚きの連続だったが、そのどれにも、必ず玲衣夜の顔が思い浮かぶ。玲衣夜と二人きりで話して、溺れる玲衣夜を助けて、玲衣夜の秘密を知ることになって、それに……。
――あいつの泣き顔なんて、初めて見たな。
静かに涙を流す玲衣夜は、普段のおちゃらけた雰囲気とは一変して、ただただ、理の目に美しく映った。その姿は美青年というよりも、凛と咲く花のような、女性的な美しさが垣間見えたような気がした。――そうだ。それに、溺れる玲衣夜を抱き上げて砂浜まで運んだ時。男とは思えないような軽さにも驚いたのだ。それに、あの唇の柔らかさも……。
無意識に唇に手を当てていた理は、ハッとして小さく頭を振る。
――いや、あれは人命救助で仕方なく……そもそも、たかが唇と唇が触れ合っただけだ。しかも相手は男だぞ。何を意識してるんだ、俺は……。
胸中でもやもやと燻ぶる感情。この気持ちが何なのか、理には分からなかった。
初めて感じる名付けられない思いを抱いている自身に戸惑いながら、無数の星が輝く空の下、理の運転する車は緩やかな海岸線を進んでいったのだった。




