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あの後、騒動を起こした男は連行されていき、その後のイベントは何事もなく行われて無事に幕を閉じた。
陽も暮れ始め、海はあたたかなオレンジ色に染まっている。海の家パラダイスまで戻ってきた玲衣夜たちは、警察官から事情聴取やらを受けていた。
圭太と玲衣夜は身体に異常がないかと医療班にも診てもらい、それらを全て終えれば、あっという間に時間が過ぎ去っていたのだ。
「はい、これ」
「っ、おれのブレスレット……!」
ようやく圭太と父親とゆっくり顔を合わせることができた玲衣夜は、ポケットに入れていたブレスレットを圭太に手渡した。受け取った圭太は、両手でぎゅっと握りしめて眩しい笑みを見せる。
「ありがとう!」
「あぁ、どういたしまして」
父親からも礼の言葉と一緒に「何かお礼をさせてください」と言われた玲衣夜は「いえいえ」と緩く首を振ってから、「ですが、一つお願いが」と人差し指を立てて見せた。
「お二人に、ついてきてほしい場所があるんです」
「私たちに、ですか?」
「はい」
不思議そうな顔をする親子に微笑んで返した玲衣夜は、後ろに控えていた千晴たちにも声を掛ける。
「千晴たちもついてきてくれるかい? よければ、理くんも。……あれ、そういえばザキくんはどこに行ったんだい?」
「あいつなら、疲れて寝てる」
理が顎で指す方を向けば、海の家パラダイスの店前にある長椅子で、ぐっすり眠っている山崎の姿が。イベントからまさかの事件が発生し、その処理に追われ――疲れてしまったらしい。
「僕たちが付いて行くのは勿論いいんだけど……どこに何をしに行くの?」
「さっきも言ったけれど、謎が解けたんだよ。――怪奇現象のね」
自信に満ちた、不敵な笑み。今回この海へ訪れることになった本来の目的である、怪奇現象の謎。玲衣夜はそれが解けたというのだ。
今回の依頼人である小林はまだ店の後片付けが残っているということで、圭太たち親子と玲衣夜、千晴、悠叶、理の六人でとある場所に向かうことになった。
小林から聞いた怪奇現象――それは、夕暮れから夜の時間帯になると、この海岸付近で、光る何かが宙に浮いている様を目撃する者がいるということだった。
玲衣夜を先頭に砂浜を歩き続けること、十五分ほど。
辿り着いたのは洞窟状になった、岩穴のようなところだった。周囲に人の姿は見られない。
「あ、ここ! おれがさっき教えてあげたとこじゃん!」
「あぁ、そうだね。秘密の場所だけれど……私の仲間にも教えてあげていいかな?」
「ん~……うん、いいよ! ブレスレットを見つけてくれたお礼だ!」
「ふふ、ありがとう」
玲衣夜はピタリとその足を止めたかと思えば、じっと宙を見て耳を澄ませている。
「……ふむ、なるほど」
一人納得したかのように呟いたかと思えば、奥の方に向かって歩いていく。圭太の父親は玲衣夜の読めない行動に困惑している様子だが、すっかり慣れた千晴や理たちは口を挟むことなく、その動向をじっと見守っている。
「……あぁ、あった。これだね」
岩場の窪みに手を入れた玲衣夜。そこから姿を現したのは、透き通った青色のシーグラスでできた、二つのブレスレットだった。
「これは……」
玲衣夜の手に握られたものを見て、圭太の父親は目を見開いた。
「信じられないかもしれませんが……これはあなたの奥さん、美佐子さんがお作りになられたものです」
「美佐子が……?」
「はい」
「ですが……さきほども言った通り、美佐子は事故で……」
「これ、母ちゃんが作ってくれたのとおんなじだよ」
駆け寄ってきた圭太が、青いブレスレットをじっと見つめて言う。
「これ……母ちゃんが作ったやつだろ?」
「あぁ、そうだよ。誕生日だった君と、お父さんへのプレゼントのようだ。……奥様は、これを渡したかったのでしょう。本当だったら、圭太くんの誕生日に此処へきて、二人にサプライズで」
玲衣夜の手からブレスレットを受け取った父親。その手は微かに震えていて……その目尻には、涙が滲んでいる。
「ですが、どうしてそんなことが分かったんですか……?」
問われた玲衣夜は微笑み、人差し指を口許にそっと押し当てたのだった。
「――It's a secret.」




