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霊聴探偵一ノ瀬さんの怪傑推理綺譚(かいけつすいりきたん)  作者: 小花衣いろは
Episode5  Secrets of sea(海の秘密)

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09



 ――逃走した男が立ち止まったのは、砂浜から続く石段を登った先、海岸通りの塗装された道路上だった。

 男の背後にはガードレール。その向こうは青い海が広がっている。ここから水面まで五メートル近くはあるだろう。


 暴れる圭太を地面に投げ出した男は、勢いのままに尻餅をついた圭太を見下ろしている。かと思えばその手首を掴んで無理矢理立ち上がらせた。


「はぁ、はぁ……せっかく間近でリオネたんを撮影するチャンスだったのに……っ、オマエのせいで台無しじゃないか! リオネたんに嫌われたらどうしてくれるんだ!」


 走って乱れた呼吸を整えながら、荒い息を吐き出している男。

 間近でギロリと見下ろされた圭太は、その視線に、暴れるのを止めて硬直してしまった。今になって、恐怖心に苛まれているのだろう。

 けれど自身は間違ったことは言っていないと――声を上げずとも、尚も男を睨み上げて気丈に振舞っている。


「っ、その目、ムカつくんだよ……!」


 男が一歩後退すれば、圭太も引きずられるようにしてガードレールに近づいていく。その際――男の手に、圭太の手首につけられたブレスレットが触れた。


「……何だこれ」

「か、返せよ!」


 貝殻と緑色のシーグラスで作られた、美しいブレスレット。圭太の手首からそれを奪い取った男は、眼前に持ってきたブレスレットを見て――小馬鹿にしたように、鼻で笑った。


「ハッ、ガキが作ったおもちゃかよ」

「っ、それは、母ちゃんが作ってくれた宝物なんだ! 返せよ!」


 圭太が右手を上へと伸ばして、男に掴みかかる。よろけた男は、反動で手中のブレスレットを手放してしまう。――思い出が詰まったブレスレットが、空に投げ出された。


 そこにちょうど駆けつけた玲衣夜には、その光景がスローモーションのように映った。光に反射して、きらりと輝くブレスレット。――その煌めきに手を伸ばすようにして、玲衣夜は海へと飛び込んだ。


「っ、ばっ…」


 ――あの馬鹿が‼


 ようやく追いついた理は、海へと身を投げ出した玲衣夜の姿を見て、声にならない罵声を浴びせた。

 へたり込んでいる男の隣まで駆けよって海面を見下ろせば、そこにはターコイズブルーの髪色がはっきりと認識できる。しかし――何だか様子がおかしい。


「ねっ、姉ちゃん、大丈夫かな?」


 今にも泣きだしそうな顔で理を見上げる圭太。安心させるようにその頭を一撫でした理は、再度真下に視線を移す。


 ――あいつ、何やってるんだ?


 その姿ははっきりと認識できるものの、不自然な水しぶきが上がっているだけで、玲衣夜が海面から顔を上げる様子はない。


「おい、何やってるんだ! さっさと上がってこい!」


 理が声を荒げる。けれどやはり、玲衣夜が海面から顔を上げることはない。それどころか、その身体は少しずつ海に飲みこまれている、ような……。


「っ、一ノ瀬さん! 玲衣さんは……!?」


 追いかけてきた千晴が問う。理が目線を海の方へと向ければ、千晴は焦った様子で衝撃の事実を口にした。



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