07
「……あ、玲衣さんが戻ってきた」
「あ、一ノ瀬さんも! 二人共どこに行ってたんですか!? あと五分で始まっちゃいますよ!」
海の家パラダイスの前で待っていたらしい千晴と山崎、そして千晴に手首を握られながら辛うじて立っているらしい悠叶。通常ならその手を振り払っているだろうが、暑さにやられて抵抗する気も失せたようだ。
「山崎、お前場所取りをしているんじゃなかったのか?」
「あっ。……だ、だって一ノ瀬さんが中々戻ってこないので、心配になっちゃって……」
口籠りながらしょんぼり肩を落とす山崎。玲衣夜はその肩を励ますように優しく叩く。
「まぁまぁ、そう落ち込まないで。一緒に見れば、その分楽しさも倍増だよ! どこで見たって楽しめるさ」
「そうだね。店の方も空いてるし、小林さんが皆で見てきていいって」
「そうかい。それじゃあ早速見に行こうか」
五人で会場に向かって砂浜の上を歩いていく。玲衣夜たちが履いているビーチサンダルはすっかり砂まみれだ。
設営された会場に着けば、ステージ前は物凄い人だかりだった。前方に椅子も用意されているようだが、後方は基本的にはスタンディング席となっている。
無料イベントとなっており、特にチケットを購入していなくても見ることができるため、興味はなくとも人だかりが気になって覗きに来ている者もいるのだろう。
「うわ、凄い人……見えるかな、これ」
「あ、俺オペラグラスなら三つ持ってきてるから、よかったらこの一つ、千晴くんたち三人で使って。はい、これは一ノ瀬さんの分です」
「……山崎。二つまでならまぁ分かるが、何故三つも持ってきているんだ」
「これは予備分です! 何があるか分からないので! せっかくのイベントでもしものことがあったら嫌ですし!」
山崎からオペラグラスを受け取った理は、理解できないといった表情をしている。
「おぉ、これならこの席からでも十分よく見えそうだね」
千晴から手渡されたオペラグラスを使ってステージ上を見つめる玲衣夜は、その目立つ頭髪や高身長、何より整った容姿も相俟って、周囲の目を集めていた。もちろんそれは玲衣夜だけに限らず、悠叶や理といった面々にも言えることなのだが。
「お、始まるみたいだね」
それから一分ほどして、イベントが始まった。
進行役の男性の紹介で、主要キャラの声優陣が続々とステージに登壇する。
「うわ、エッジ役の声優さんだ! 渋くてカッコいいなぁ~」
「凄いな、アニメと同じ海賊衣装を着ているんだね。細部まで完璧に再現されているみたいだ」
「あの男は、何故合間合間に謎の言葉を叫んでいるんだ……? そういう癖でもあるのか?」
各々が全く別々の視点でイベントを楽しみながらも、ステージは順調に進んでいく。プログラムも終盤に差し掛かり、女性声優二人でエンディング曲を歌う時間となった。




