05
「玲衣さん、それどこのテーブルに持っていくの?」
「ん? さっき三番テーブルから注文が入っていただろう?」
「三番テーブルには誰も座ってないけど……」
「……」
「……」
「あっはっは、聞き間違えてしまったみたいだ。暑さを舐めちゃいけないということだね」
「え、幻聴? ……玲衣さん本当に大丈夫? ちょっと休んでくれば?」
「う~ん、そうだねぇ……。それじゃあ少しだけ休ませてもらおうかな」
悩んだ末、奥の方に戻ってエプロンを外した玲衣夜。店主の小林に一声かけて、海岸の方に向かって歩いていく。
てっきり奥の方で扇風機にでも当たりながら一休みするのだろうと思っていた千晴は、どこに行くのだろうかと少しの違和感を覚える。しかし玲衣夜がいなくなったからといって、客足が途絶えることはないのだ。
「すみませ~ん、注文いいですか?」
「っ、はい! ただいま」
新たな来店客に声を掛けられた千晴は、玲衣夜の後ろ姿から視線を外して、そちらに向き直ったのだった。
***
イベント開始まで、あと三十分。場所取りをしておくという山崎を置いて海の家に涼みに来た理は、玲衣夜の姿が見えないことに気づいた。
話しかけてくる若い女を無視して壁際でぼうっと突っ立っている悠叶と、注文をとったり後片付けをしたりとテキパキ働いている千晴。
声を掛けようか迷っていれば、理の存在に気づいたらしい千晴の方から近づいてきた。
「一ノ瀬さん、休みにきたんですか?」
「あぁ。……あいつはどうした」
「あいつ? ……あぁ、玲衣さんのことですね。さっき休憩に入ったんですけど……そういえば、まだ戻ってきていませんね」
店内から奥の方までぐるっと見渡して再確認した千晴は首を傾げる。
結局玲衣夜が一人でどこに行ったのかも分からないままなのだ。暑さにやられて倒れていなければいいけど……。
そんな心配が顔に出ていたのか、千晴の顔を一瞥した理が海岸の方を見つめながら提案する。
「……此処からステージまで戻るついでだ。見つけたら声を掛けておく」
「えっ、いいんですか? でも一ノ瀬さん、涼みにきたんじゃ……」
「……あいつは別として、君には現場でも世話になっているからな。ちゃらんぽらんな上司を持つと苦労するだろう」
「あはは……」
千晴は空笑いで返す。理は海の家を出て――ステージとは真逆の方に向かって歩いていく。
その背を見送っていた千晴は、ついでなどという言葉で本心を隠した理に――あの人も素直じゃないなぁ、なんて呆れた笑みを浮かべたのだった。




