01
お盆期間を過ぎて八月も下旬に入ったとはいえ、その暑さは依然として続いている。熱い陽光がじりじりと照り付け、千晴の白い肌を容赦なく焦がしていく。
陽の下から屋内に戻った千晴は、奥の方で項垂れている二人を見て苦い笑みを浮かべた。
「あづい……じんでじまう……」
「大丈夫だよ、死なないから。はいこれ、スポドリ。水分補給はしっかりね。はい、悠叶くんも」
「……」
「悠叶くん、顔。凄いことになってるよ」
「あぁ、人一人殺ってきたような顔をしているねぇ」
「…………うるせぇ……」
スポーツドリンクを受けとった玲衣夜は怠慢な動きでキャップを開けて、ちびちびと中身を飲み干していく。
隣に座っていた悠叶は、最早動く元気もなさそうだ。悠叶から受け取った冷えたペットボトルを頬に当て、ぐでっとテーブルに突っ伏している。
「ったく、玲衣さんも、そこの少年――悠叶くんだったか? 二人共だらしがねぇなぁ。ちっとは千晴くんを見習えよ」
「……そもそも、私たちは不可解な現象が起こるという謎を解き明かしにきただけだよ。それが、こんな……」
玲衣夜は自身の腰元に巻かれたサロンエプロンを見て、それから目の前で笑う男――今回の依頼人である小林をじとりとした目で見つめる。
「まさか、海の家でアルバイトをすることになるなんてねぇ……」
「はっはっは、いや~悪いなぁ。ちょうど人手不足だったもんで。玲衣さんたちが手伝ってくれて助かるぜ!」
そう、玲衣夜たちが現在いる此処は、海の家“パラダイス”。
今回の依頼は、以前別件で依頼を受けたことのある小林からのもので、最近小林が営業する海の家の近くで起こる怪奇現象について調べてほしいというものだった。
しかし指定された時刻に小林のもとを訪ねてみればエプロンを手渡され、訳も分からぬまま海の家で接客業の手伝いをさせられたのだ。
顔見知りの小林からの頼みだ。まぁ少しくらい良いだろうと了承したのだが、元々暑さに弱い玲衣夜と悠叶は、一時間働いただけでこのありさまだった。
そもそも、事務所から炎天下の中、外に出ることさえ渋っていたのだ。玲衣夜は小林から美味い酒もご馳走するからと言われてやっとのことで重い腰を上げたというのに、暑い中で労働させられるなんて思ってもみなかったのだろう。
ちなみに、朝から事務所のソファで寝転がっていた悠叶は、玲衣夜に半ば強引に引きずられる形で此処までやってきた。悠叶だけ涼しい部屋でだらけているなど言語道断――要は、旅は道連れというやつだ。
悠叶に接客しようという気概は見られず、基本店内の壁際に突っ立っているだけだ。声を掛けてくる女性陣に鬱陶しそうに顔を顰めている姿が何度も見られた。
今は客足が落ち着いたタイミングで、店内の奥である休憩スペースで一息ついていたところなのだ。




