10
カーテンの隙間から、朝陽が差し込んでいる。そのまぶしさに意識を浮上させた玲衣夜は、重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。
玲衣夜にしては、珍しく早い時間に目が覚めたといっていいだろう。といってもすでに八時を回ってはいるが。
ソファで寝ていたことがバレれば、また千晴からお小言を貰ってしまうだろう。ムッと唇を尖らせた千晴の顔を想像して、玲衣夜は口許を緩めた。そして、起き上がろうと身体に力を入れる。――けれど、何故だか身体が動かない。
何だか身体が……特に腹部のあたりに重さを感じることに気がついた。というか、人肌のぬくもりを感じる、ような……。
おそるおそる視線を下ろしてみれば、玲衣夜の腹部のあたりに巻き付いている腕。
まばゆい金の髪の持ち主は、玲衣夜のお腹に顔を埋めていて、その表情を窺うことはできない。
「う~ん……これは一体、どういう状況なのだろう?」
悠叶の腕をそっと動かしてみれば、案外すぐに腹部から外すことができた。拍子に小さく寝返った悠叶の顔が露わになる。
その顔を覗き込めば、いつもの無表情からは想像ができない、あどけない寝顔が広がっていて。
「……お~い、悠叶さん? そろそろ起きないかい?」
「……」
「うぉっ、ちょ、締め付けるのはやめておくれ」
「……うるせぇ。寝かせろ」
「ん~、まぁ私は構わないけれど……あと三十分で起きないと、千晴がきてしまうからねぇ。この状況を見られたら、色々と勘違いされてしまう気がするのだけれど……」
「……」
「……まぁそれも面白そうだし、いいか」
色々と諦めたらしい玲衣夜は、再びソファに頭を沈めて、その瞳を閉じた。――この状態でまさかの二度寝である。
そして玲衣夜の想像通り、三十分後に事務所に顔を出した千晴にたたき起こされた二人。
寝ぼけ眼で「おはよう」なんて告げた玲衣夜と欠伸をする悠叶は、物凄くいい笑顔をした千晴に揃って正座をさせられることになり、約一時間にも及ぶお説教を聞かされることになるのだった。
そしてこの日を境に、何故か悠叶が事務所で寝泊まりすることが徐々に増えていくようになったのだ。
理由を聞いても口を割らない悠叶に、玲衣夜は早々に諦めてお泊りを許可し、それを心配した千晴まで事務所に寝泊まりすることが増えていく。
――こうして、素直になれない一人の男の子の不器用な優しさで、玲衣夜が一人で涙する夜は、その数を減らすことになる。一ノ瀬探偵事務所での賑やかな夜の日々が、幕を開けたのだった。




