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八月に入って早一週間。学生にとっては夏休みに突入しているということもあって、その余暇時間を有意義に過ごそうと勉学やバイトに励んだり、はたまた遊ぶことに全力を尽くす者もいるだろうし、だらだらと暇を持て余して気づけば休みが終わってしまっていた、なんて悲観する者もいるかもしれない。
此処一ノ瀬探偵事務所の冷房が効いた部屋でのんびり過ごしている二人もまた、長いようでいてあっという間に過ぎ去る夏休みを謳歌している学生だ。
探偵事務所の所有者である玲衣夜は、所用があるとのことであいにく不在にしている。そのため、今この空間にいるのは千晴と悠叶の二人きりである。
「……」
「……」
応接室にある定位置のソファに凭れ掛かって本を読んでいる悠叶と、対面するソファの端の方に座ってレポート作成に勤しんでいる千晴。これまでは必ず玲衣夜が共に居合わせたため、二人きりになるのは初めてのことだった。
いつもは賑やかな事務所内も、今はカタカタとキーボードを叩く音と、紙を捲る音しか聞こえない。静かな時間で満ちている。
沈黙など然して気にならない千晴ではあったが、年も近いであろう悠叶と一度ゆっくり話してみたいという思いがあったのも事実だった。悠叶が答えてくれるかは微妙なところだが、レポートを書く手を止めて自ら話しかけてみることにする。
「悠叶くん、もうすぐお昼だけど何か食べる?」
「……アイツ、どこ行ったんだ」
「え? ……あぁ、玲衣さんなら野暮用だってさ。朝早くから出掛けて行ったよ」
「……」
「……とりあえず、そうめんがあったはずだから用意するね」
十二時を過ぎた壁時計を見て提案した千晴は、一人キッチンに立って二人分の昼食を準備する。用意したそうめんやカットしたトマトを皿に盛り付けて戻れば、悠叶は変わらず定位置のソファで丸まっている。その目は閉じられているので、もしかしたら眠っているのかもしれない。
千晴がテーブルに皿を並べていけば、物音に気付いたのか、悠叶が薄っすらと目を開けた。
「昼食の用意ができたよ。よかったら食べてね」
「……」
置かれた皿を無言で見つめる悠叶。口にしてくれなければ自分が二人分食べればいいかと考えていたが、千晴の予想に反して、悠叶は以外にもその上体を起こして食べる姿勢をとる。きちんと手を合わせてから、器を持って静かにそうめんを啜りはじめた。
千晴も倣うようにして「いただきます」と手を合わせてから、刻んだ葱と海苔を散らしたそうめんを口にした。よく冷えていて、喉をするっと通っていく。さっぱりしていて美味しい。
しばらくお互い無言で食べ進めていたが、三玉ほど食べたところで千晴が手を止めて、悠叶に話しかける。
「悠叶くんは学生だよね?」
「……あぁ」
「やっぱり。ってことは僕と一緒かぁ。家はどこらへんなの?」
「……こっから二駅んとこ」
「へぇ、そうなんだ」
意外にも続く会話。そのままポツポツと話し続けていれば、居間兼応接室であるこの部屋の扉が、大きな音を立てて開かれた。




