04
「……は?」
藤堂から言伝を頼まれて一ノ瀬探偵事務所を訪れていた理は、扉を開けてすぐ、目に飛び込んできた光景に素っ頓狂な声を漏らした。
「やぁ理くん。祭りの日以来だねぇ」
「一ノ瀬さんこんにちは」
へらりと締まりのない顔で笑う玲衣夜と、礼儀正しく頭を下げる千晴。ここまでは、いつも通りの光景だ。
「……」
「……誰なんだ、こいつは」
自身のことを鋭い目つきで睨みつけてくる、見覚えのない金髪男子の姿に、理は怪訝そうな顔で玲衣夜に説明を求めた。
「ん? 彼は二階堂悠叶くんだよ」
「違う、名前を聞いているんじゃない」
「それじゃあ……あぁ、彼はねぇ、珈琲はブラック派だよ」
「……杉本くん、説明してくれるか」
「あ、はい」
玲衣夜に聞くことを早々に諦めた理は、その視線を千晴に向ける。
はは、と乾いた笑みを浮かべた千晴が悠叶との出会いから、こうして事務所に顔を出すことになった経緯までを簡単に説明すれば、理は眉を顰めて玲衣夜を見遣る。
「……お前は警戒心がなさすぎる。それでよく探偵が務まっているな。何かあってからじゃ遅いんだぞ」
「う~ん、それに近い台詞を、前に千晴にも言われた気がするよ。理くんも案外心配性だよね」
「べ……別に俺は、お前を心配しているわけじゃなくて……捜査依頼をすることも多いし、こちらに不利益が生じたら困ると思って忠告しているだけだ。勘違いするなよ」
ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く理。
玲衣夜は笑いをかみ殺しながら「あぁ、善処するよ」と言葉を返した。
そして、そんな理と玲衣夜のやりとりを黙って見ていた悠叶が、低い声でぽつりと呟く。
「……んだよ、このおっさん」
「おっ……、君、目上の人に対する態度がなっていないんじゃないのか?」
「はっ、初対面でこいつ呼ばわりしてくるおっさんに言われたくねーよ」
「……それは、君が初対面にもかかわらず睨みをきかせてきたからだろう?」
理の忠告なんて何のその、小馬鹿にしたように鼻で笑う悠叶に、理のこめかみには青筋が浮かび上がる。
「ま、まぁまぁ、一ノ瀬さん落ち着いて。悠叶くんも、一ノ瀬さんに失礼だよ」
「……」
キッチンから珈琲を淹れてきた千晴が、静かな声で窘める。それにぷいっと顔を背けた悠叶は、ここ数日ですっかり定位置となってしまったソファの上に寝ころび、猫のように丸まってしまった。
ちなみに此処応接室と奥の方にあるオフィス、どちらにもソファがあるのだが、悠叶はどちらの部屋にも定位置を作っていた。どういう意図があるのかは分からないが、基本的には玲衣夜がいる空間に一緒に居ることが多いのだ。
此処応接室のソファは本来なら来客用にと用意しているものだったが、悠叶がここから退く気配がなかったため、昨日新たに同じ種類の小さめのソファを購入していた。今はローテーブルを囲むようにして三つのソファが設置されている。