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01



「玲衣さん、起きて」

「ん……、あぁ、千晴か……」

「千晴か、じゃないよ。今日は十四時から依頼が入ってるんでしょう? そろそろ起きて支度しないと」

「あぁ、そうだね……いま、おきる、から……」


 コクリと頷きながらも、その声は次第に小さくなっていく。依頼簿から顔を上げてソファの方に目を向ければ、声の主は今にも閉じられそうな瞼を必死にこじ開けていて――けれどそれも諦めてしまったのか、直ぐに静かな寝息が聞こえてきた。これは完全に、眠りの世界へと旅立ってしまったみたいだ。


「全く、玲衣さんってば……」


 年代ものの落ち着いた色合いのソファからすらりとした細長い手足を投げ出して、すぅすぅと寝息を立てているその顔を覗き込む。

 相変わらずの綺麗な顔だなぁと変に感心してしまいながら、その身体にブランケットをかけて、テーブル上に散らかっている紙屑やカップラーメンのゴミを片付けていく。


 ――この人は放っておくとカップラーメンばかり食べているから、いつか身体を壊してしまうんじゃないかって、心配になってしまう。


 テーブルの上を粗方綺麗にしてから、もう一度、ソファで寝ているその顔をまじまじと見つめてみる。

 整った顔立ちは中性的で、目鼻立ちがはっきりしていて、その肌は陶器のように白い。肩上で切り揃えられた髪は右サイドだけ長めになっていて、ターコイズブルーの色をした髪は驚くほどに艶やかだ。風呂上がりに髪も乾かさず、一人ではドライヤーさえ使おうとしない人の髪質とはとても思えない。


 この美しい人は、此処「一ノ瀬探偵事務所」の社長である、一ノ瀬玲衣夜(いちのせれいや)さん。

 ひょんなことから僕、杉本千晴すぎもとちはるは玲衣夜さんと出会い、紆余曲折を経て、こうしてこの探偵事務所でアルバイトとして雇ってもらうことになったのだ。


 まぁ玲衣さんとの出会いを語ると長くなってしまうから、それは今は置いておくとして――この探偵事務所の従業員は玲衣さんと僕の二人だけだ。僕は大学にも通っているから、実質、常に事務所にいるのは玲衣さん一人だけということになる。

 それなのにこの人ときたら……マイペースでいて楽観的、依頼があるないに関わらずこうしてぐうたらしてばかりいるのだ。

 大学にいる間も、この人が今何をしているのかなんて考えてしまう時間は、結構多い。それを友人に話したら「お前、息子を心配する母ちゃんみたいだな」なんて笑われてしまったのは記憶に新しい。


「んん~……そのビールは……まだ、いける……」


 思案する千晴の耳に、玲衣夜のくぐもった声が届いた。やっと起きたかと視線を落としたが、その目は未だにしっかりと閉じられていて。……ただの寝言だったようだ。


 一ノ瀬玲衣夜という人物を一言で表すなら、この人はちょっと――いや、かなり変わっている、不思議な魅力を持った人だと思う。


 これまで解決してきた事件は数知れず。密室事件の謎から巧みに仕組まれたトリックまで、どんな難事件もあっという間に解決してしまうのだ。

 頭の切れる凄い人だということは勿論理解している千晴だったが、それ以上に目立つのが、玲衣夜の日々の生活やその言動だった。


 玲衣夜はかなりの面倒くさがり屋だ。それに加えて出不精。

 依頼がなければ、大抵は一日中此処に篭ってだらだらと過ごしている。食事だってカップラーメンや菓子パンばかりで、自炊も全くしようとしない。でも料理ができないわけではないらしく、作るのが面倒くさいから買って済ませてしまうらしい。


 そんな玲衣夜を心配した千晴が健康面やらを気にしてつい色々と口出ししても、玲衣夜は「千晴は母親のようなことを言うねぇ」とのほほんと笑っているだけで。


 ――何か事件があれば凄く頼りになるのに、生活面においての不摂生が気になるから、つい世話を焼いちゃうんだよなぁ。……まぁ玲衣さんのそんなところも含めて、僕はこの人の傍にいることを選んだんだけど。


 いつもふわふわゆるゆるとした雰囲気でつかみどころがなく、マイペースで楽観的。そして、千晴だけに限らず、玲衣夜を知る者たちから変わり者だと噂される一番の所以は別にあるのだが……。



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