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月より遠い恋をした  作者: ネコカエデ
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月より遠い恋をした

 今年も雪が降った。僕の卒業式の日も雪だった。


 雪はあの日見た桜の花びらのようにフワフワしていた。3月の日差しは柔らかく、春を感じさせる。時々、雲間から光が差して、明るく照らし、幻想的だった。


 田畑にはすでに小さな草や花が生えていて、落ちてきた3月の雪をじんわりと溶かしていく。


 懐かしい母校の校舎を見上げる。時が経っても、卒業式の景色はあまり変わらないんだなと思った。どこかにあの日、卒業証書を片手に持ち、また卒業しても集まろうと言って写真を撮っている僕や新太あらたがいる気がした。


桜音おと!ほら……千陽ちはるさんでしょ?あれでしょ!?」


 迎えに来た僕を指差すのはきっと桜音ちゃんの話によく出てくる茉莉まりちゃんだろうなと思った。僕がニコッと笑って、少し会釈すると、茉莉ちゃんはキャーとなぜか高い声をあげた。


 桜音ちゃんは何かを茉莉ちゃんと話して、それから僕の方へ駆けてきた。


「千陽さん、お待たせしました」


 フフッと僕を見て、少し照れ気味に……だけど嬉しそうに笑う桜音ちゃんの髪についた柔らかな雪を払う。


 随分、僕は卒業式まで長く感じた。待っていた。だけど、この日が来てしまうと、涙を溢していた君も一人で頑張っていた君も僕を好きだと言ってくれた君も全部愛おしい日々に感じた。


「卒業、おめでとう」


 ありがとうございます。そう桜音ちゃんは言った。


 この僕らがいる大好きな場所。田や畑や川に海に、山に全部、想いは溶けていって、ずっと繋がっていく、僕と君の未来に。


 ふと、空を見上げる。この雪がやめば、また忙しい春だ。種を芽吹かせ、新しい命を吹き込んでいく。


 手を伸ばして、隣にいる桜音ちゃんに触れる。手を繋ぐと互いの温かさが伝わる。顔を見合わせて笑う。

 

 今なら遠い月だって越えていける。二人なら月より遠くにもっとその先にすらいける気がする。


 そんな恋を僕らはした。

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