第73話
「桜音!カミヤンのところ行ってたの?」
茉莉ちゃんが早くお弁当食べようと言う。待っててくれたらしい。お弁当の蓋をあけながら話をする。カミヤンと生徒に呼ばれてるのは神谷先生。丁寧に話を聞いてくれるいい先生だと思う。
「うん。神谷先生と就職の話をしてたの」
「へぇ……とうとう決めたんだ〜」
やりたいことあるって良いなぁーと茉莉ちゃんは言う。大学行くけど、自分がやりたいことってよくわかんないと言っている。その少し不安な未来を私もわかる。少し前まで私もそうだった。
「千陽さんは大学へ進学してから見つけたって前に話していたから、いつどこでみつかるかわからないんじゃないかな?」
「そぉねぇ………」
私と茉莉ちゃんがお弁当を食べ始めようとすると、いきなり、声がした。
「新居さんも橘さんも花火大会、クラスの皆で行こうって話をしてるんだけど、行くよね?」
ニコニコしながら松沢くんがやってきた。
「私は……行かないかな」
そうだよねぇと茉莉ちゃんがからかうようにニヤッとした。松沢くんが、えーと声をあげる。
「皆行くのに、新居さんは行かないの?一緒に行こうよ。このクラスで過ごせるのも今年だけなんだし、卒業したら、なかなか会えないよ」
「そうなんだけど……でも……」
私が困ってると、松沢くんはとりあえず来る方向にしとくからね!と言う。確かに花火大会……千陽さんに誘われたわけでもないし、私が誘ったわけでもなく、約束してない。でも千陽さんと行きたいなと思ってたのだった。
「新居さんの弁当、うまそう!自分で作ってるの?」
今日のお弁当は肉詰めピーマン、トマトとキュウリとチーズのコロコロサラダ、揚げ茄子の田楽味噌。千陽さんが『夏野菜採れすぎてきて、消費しないとヤバイっていうメニュー』と笑わせてくれた。昨日はゴーヤチャンプルーだった!毎日、すごく美味しい。
「え?ううん……これは、私じゃなくて……」
「松沢くん、お昼休み終わっちゃうし、ご飯食べさせてよ」
千陽さんが作ってるのと言おうとして、茉莉ちゃんが遮る。確かに遅れて食べた私達は少し慌てなきゃいけない時間だった。
「あっ!ホントだ。ごめん!花火大会の打ち合わせしてくるよ。新居さんも絶対来て!」
素直に謝って、私達の机から離れ、他の人のところへ喋りに行く。
茉莉ちゃんが卵焼きをブスっとフォークで突き刺して、半眼になる。
「あいつ、完璧に桜音を誘いに来たわね!……栗栖さんのことはあまり言わないほうが良いんじゃない?」
「え!?そ、そう?」
「人にもよるけど、松沢くんはもしかしたら桜音のこと狙ってる気がする。彼氏はいるって言ってもいいけど、名前は教えないほうが良いんじゃない?同じ学校の生徒ならともかく、興味本位で面白おかしく噂されたら嫌でしょ?」
「松沢くんは友達多いし、別に私だけ特別じゃないと思うけど?みんなも花火大会行くんでしょう?それに私……やましいことしてるわけじゃないから、千陽さんとのことは堂々としていたいもの」
「桜音はそう言うけど、逆に他の人が10歳年上の彼氏と付き合ってるって聞いたらどう?誰!?どこの人!?ってなるでしょ。変に噂にならないほうがいいわよ」
そっか……と私は頷いた。確かにそうかもしれない。皆が騒いで、千陽さんに嫌な思いさせることになるのかも。それに私も注目浴びたくない。
「茉莉ちゃんは大人だなぁ……私、考えが甘いよね」
「人それぞれの考え方じゃないの?桜音の隠さず堂々と千陽さんと付き合いたいっていうのも間違いじゃないわよ……ただ、心配してるだけ!」
「うん……わかる。茉莉ちゃんありがとう」
「じゃあ、お礼に茄子の田楽を1つ頂きます!」
ああっ!と私が言うと、素早く口に入れる茉莉ちゃん。驚いたように茉莉ちゃんの目が見開かられた。
「な、なにこれ!?美味しい!味噌も自家製!?田楽味噌の味噌まで手作りしてる!?」
栗栖さん女子力高すぎよと茉莉ちゃんは言ったのだった。
読んで頂きありがとうございますm(_ _)mカクヨムでもカエデネコで活動しています。よかったらのぞいてみてください(*^^*)更新はあちらのほうが早いかと思います。




