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Specters3  作者: 製作:橋元宏平 原案および監修:J 
8/10

第八話 Emergency

戦闘シーン、怪我や流血描写などがありますので、苦手な人は閲覧注意。

グロ表現はありません。

【少尉視点】

 曹長の自殺未遂事件以来、武器の持ち込みは一切禁止となった。

 ナイフの一本も、持ち込めない。

 武器は攻撃の道具だけど、守る為の道具でもある。

 武器や防具を装備してないと、体が軽くて落ち着かねぇんだけど。

 まぁ、コイツの為なら、仕方がないか。

 装備は全て、部屋の入口に置いてある。

「よし、行くか」

 それらを身に着け、「Combat-knifeコンバットナイフ」と「AK-12」を構えて、廊下へ飛び出した。

「Combat-knifeコンバットナイフ」は、素早く静かに敵を仕留める、接近戦用の軍用ナイフ。

 全長三〇㎝、刀長十八㎝。

 刀の素材は、高炭素鋼(こうたんそこう=ハイカーボンスチール=鉄と炭素の合金)。

 両刃で、刃背が鋸刃セレーションとなっている。

 ナイフは移動速度が落ちず、命中率は高いが、届く距離リーチはかなり短い。

 でも、特攻を仕掛ける俺にとっては、距離リーチの短さは問題にならない。

 距離が遠い場合は、「AK-12」で応戦する。

「AK-12」は、AKシリーズ最新モデルのAssault-Rifleアサルトライフル

 低反動ていリコイルで、最高威力も高い。

 視認性が良いので、照準器サイト類は不要。

 遠距離では、全自動フルオートで命中させるのはやや難しく、撃ち負けやすい。

 あと、再充填リロード時間が長い。

 なので、拡張銃倉マガジンを付けて、弾数を補っている。

 近頃、戦場を駆ける機会に恵まれなかった。

 潜入や偵察、監視するだけの簡単なお仕事ばかりで、正直つまらん。

 今、自由に走り回って敵を倒せることが、純粋に嬉しい。

 爆音と銃撃音に、血沸き肉躍る(ちわきにくおどる)。

 戦いに喜びを感じている。

 俺は自分が狂戦士バーサーカーだと、自覚している。

 だって、戦ってる時が一番楽しいんだ。

 やっぱり、戦場でしか生きられない人間なんだ。

「ひひっ……ふふふふっ……あっははははははははっ! さぁ、楽しませてくれよっ!」


 少し離れた物陰で、ラフな格好の大将が「FP6」をぶっ放しているのが見えた。

「FP6」は、クラス最高の威力を誇るShotgunショットガン

「ファバーム社」と「H&K」が開発、「H&K」が販売していたポンプアクション方式。

 Shotgunショットガンの中で、最大の威力と最長射程を持つ。

 最大威力は、実際には一mも無いので、近距離でも倒せない場合がある。

 射程が長い代わりに最低威力が低く、射程ギリギリでは全弾命中しても倒せない。

 大将が普段、護身用に装備している銃は「44 Magnumマグナム

 クラス最高威力を誇る、「Magnum Revolverマグナムリボルバー

 照準器サイトに緑の夜光塗料が塗られており、視認性に優れる。

 威力が非常に高く、Handgunハンドガンの中でも最高の射程を持つ。

 このHandgunハンドガンの最大の特徴は、近距離での一撃必殺ワンショットキル

 ただし、反動が強く、連射が利かない。

 至近距離なら、実用性は十分。

 カッコよさ重視で、乱戦に不向きな銃を使っているところが、大将らしい。

 大将は強運の持ち主だから、目立った被弾はしていないように見える。

 不思議なことに、弾の方が大将を避けていくらしい。

 マジで素直に羨ましいよ、その強運。

 でも、軍勢に攻め込まれて、さすがの大将も追い詰められているようだ。

 こちらに気付いて、半泣きの情けない顔で、口を動かす。

Helpたすけてくれ」か。

 まったく、世話が焼ける大将様だな。

 一応、我が軍の最高幹部だから、見て見ぬふりは出来ねぇ。

「Frag grenadeフラググレネード」のピンを抜き、固まってる兵達へ向かって投げる。 

「Frag grenadeフラググレネード」は、いわゆる普通の手榴弾。 

 ピンを抜いてから、約四.五秒で爆発する。

 この手榴弾は投げ返すことが可能なので、ピンを抜いても、すぐには投げない。

 目標到達の瞬間で爆発するように、タイミングを計って投げる。

 肩が強い俺は、飛距離を自由に調整出来る。

 滞空時間と飛距離を感覚で計って、兵達の目の前で爆発させた。

 いくつか立て続けに投げて、生き残ったしぶといヤツは「AK-12」で仕留めた。

 その場にいた敵を全員片付けた後、大将の側へ駆け寄る。

「大丈夫か?」

「さっすが、少尉! 助かったぜっ!」

 大将が、嬉しそうに破顔一笑(はがんいっしょう=表情を崩してにっこり笑う)した。

 ふいに不思議そうな顔になり、問い掛けてくる。

「お前、なんでこんなとこにいんだよ?」

「なんでって、敵襲の非常事態だからに決まってんだろ」

「アイツは、どうした? まさか、ひとりで放置してきたんじゃねぇだろうな?」

「あ」


【曹長視点】

「『捕虜にせよ』と、命令でしてね。我が軍へご招待しますよ、大将殿」

 敵兵達に囲まれて、頭に銃口を突き付けられながら、ベッドから降ろされた。

 久し振りに床に立つと、敵兵に後ろから縄で縛られた。

 なんだ、殺してくれないのか。

 早く楽になりたかったのに、思う通りにはいかないみたい。

 捕虜になって、大切な人に迷惑を掛けるぐらいなら、この場で死にたい。

 抵抗したら、殺してくれるかな。

 縛られているのは腕だけだから、足は自由だ。

 しばらく歩いてなかったから、おぼつかないけど、逃げるふりぐらいは出来るかも。

 一切抵抗を見せない俺に、敵兵達は油断している。

 今なら、俺を見張っていた看守もいない。

 大切な人は、俺が死んだらきっと喜んでくれる。

 大切な人の為に、死ななければ。

 俺は震える足で、敵兵達から数歩走り出すふりをして見せる。

「貴様っ! 逃げられると思うなっ!」

 予想通り、敵兵達は簡単に釣れた。

 銃声と共に、左足のふくらはぎと右肩を撃ち抜かれる。

 縛られているから、上手く受け身が取れなかった。

 うつ伏せに倒れた俺の上に、隊長らしき男が馬乗りになる。

 頭を掴まれて、床に強く押し付けられた。

「ふざけた真似を……命令がなければ、この場で撃ち殺してやるものを」

 殺してくれれば、良かったのに。

 こんな中途半端に撃たれても、死ねないじゃん。

 せっかくなら、急所を撃ち抜いてくれれば死ねたのに。

 撃ち抜かれた肩と足が、酷く痛む。 

 弾は貫通してるから、出血量が多い。

 着ていた寝間着が赤く染まり、床にも血が広がっていく。

 このまま、出血多量で死ねないかな。

「大人しくしていれば、手荒な真似をせずに済んだのですがねぇ」

 隊長が俺の上から退くと、首の後ろを掴まれて、無理矢理立たされた。

 今度は、ふたりの兵士が左右から俺の腕を捕らえる。

 二度目はないと、言わんばかりだ。

 ほとんど引きずられるように、強引に連れて行かれる。

「さ、行きましょうか」


【隊長視点】

 何故、曹長から目を離してしまったのか。

 動けないアイツを守れるのは、俺しかいなかったのに。

 何があっても、ひとりにしてはいけなかった。

 今まで俺らは、アイツの危険に対して、敏感過ぎる程敏感だった。 

 もしかしたら、蓄積されてきた心労による、気の緩みがあったのかもしれない。

 いや、そんなことは自分を正当化する、ただの言い訳だ。

 敵兵がアイツを見つけてしまったら、無抵抗のまま殺されてしまうに違いない。

 アイツは、俺らに迷惑を掛けるぐらいなら、迷わず死を選ぶ。

 とにかく、今は一刻も早く、アイツの安否を確認したい。

 焦燥感に駆られる(=早く何とかしなければと、気持ちが急きたてられる)。  

「邪魔だ! 退けっ!」

 大将と共に、銃をぶっ放しながら、曹長の元へ急ぐ。 

 大将の私室は、駐屯地の一番奥にある。

 敵兵達も、この先に大将室があることを知っているのか。

 敵兵の数が、増えてきているような気がする。

 行く手を阻もうと、通路を塞ぐ敵兵達が腹立たしい。

 横にいる大将も、焦りの色が濃い。

 俺と同じように、曹長の身を案じ、苛立っているのだろう。

 俺がアイツから離れたせいで、こんなことになっちまった。

「戦場を駆け回って戦いたい」という欲に負けた、俺が悪い。

 後悔ばかりが、押し寄せてくる。

 曹長と大将と中将に、謝罪したかった。

 でも、謝るのは後だ。

 今は、曹長を助けることに集中しなければ。

 邪魔な敵兵達をぶっ飛ばし、ひたすら走る。

 なかなか先へ進めなくて、もどかしい。

「おぉ~い! 置いてかないでくれぇ~っ!」

 大将は、俺の速さに付いてこれないらしい。

 全力で走ると、距離が開いてしまう。

 大将を置いて行く訳にもいかず、俺は時々振り返る。

「急げ! 早くしろっ!」

 あと少し。

 あの角を曲がれば、大将の私室だ。

 今行くぞ、曹長。

 どうか、無事でいてくれ。

 頼むから、早まらないでくれ。

 祈り空しく、ようやく見えた扉は破られていた。


【中将視点】

 何か、胸騒ぎがした。

 夜は少尉ジジイが当番だけど、アイツ、抜けてっからな。

 銃声が聞こえたら血が騒いで、飛び出しちまいそうな気がすんのよね。

 少尉ジジイのせいで、アイツに何かあったら絶対許さねぇ。

 倒した敵兵達を飛び越えて、大将の私室へ急ぐ。

 廊下に、多くの死体が転がっている。

 多量の赤い足跡が、大将の私室へ向かっていた。

 まさか。

 心臓が痛い程脈打ち、全身から汗が噴き出す。

 もっと早く走れと、自分の足を叱り付け、全速力で駆ける。

 やっと辿り着いた部屋の扉は、派手にぶち壊されていた。

 壁に貼り付いて、中の様子を伺うと、大将クソジェネラル少尉ジジイの背中が見えた。

 敵兵六人に銃口を向けられて、ふたりは両手を上げている。

 部屋の奥には、縄で上半身を縛られた曹長が捕らわれていた。

 白かった寝間着は真っ赤に染まり、曹長は脱力していて、敵兵ふたりに体を抱えられている。

 人質を取られ、降伏(こうふく=敗れたことを認めて従う)させられているようだ。

 クソ! 嫌な予感が当たっちまったっ!

 しかも、絶体絶命の最悪な状況じゃねぇか。

 この状況を打破するには、どうすれば良いか。

 考えろ、俺。

 もっとも効果的なのは「M18 Smoke-Grenadeスモークグレネード」か「XM84(スタングレネード)」か。

 どちらも殺傷力ゼロで、視界妨害が出来る。

発煙手榴弾スモークグレネード」は、煙幕が満ちるまでの時間が少し遅いが、範囲が広い。

閃光手榴弾スタングレネード」は、起爆と同時に一八〇dBデシベルの爆発音と、百万cdカンデラ以上の閃光を放ち、視力と聴力を一時的に奪うことが出来る。

 夜襲で余裕ぶっこいてきたのか、敵兵共はガスマスクもサングラスも着けていない。

 仲間が巻き込まれるし、室内で使用するなら、発煙手榴弾が有効か。

 ただし、室内と言えど、窓も扉も全開だから、持続時間は短いと考えるべきだ。

 煙幕といっても、煙の中に入れば、薄っすら見えるしな。

 いや、わずかな時間でも、敵を動揺させてすきが作れれば良い。

 曹長を取り戻す時間さえ、稼げれば。

「発煙手榴弾」のピンを抜こうとした時、曹長が動いた。

 曹長が口で、敵兵の胸ポケットから「Frag grenadeフラググレネード」を奪った。

 歯でピンを抜き、よりにもよって「Frag grenadeフラググレネード」を口に咥えやがった。

 そんなことしたら、間違いなく死ぬ。

 アイツ、自爆する気かっ?

 何しやがんだ、あのバカッ!

 迷っている時間はなかった。

 俺はライトマシンガンを、敵兵に向かってぶっ放しながら、突入する。

 敵兵達が、俺に向かって銃を乱射してくる。

 あちこち被弾するが、気にしている場合じゃない。

 俺に敵兵の目が向いている間に、少尉が曹長に向かって走った。

「貴様、ふざけんなっ!」

 少尉は曹長の口から手榴弾を取り出し、敵兵へ投げると、曹長の上に覆いかぶさった。

「Frag grenadeフラググレネード」の殺傷範囲は、約十五m。

 逃げるにも、投擲(とうてき=遠くへ投げる)にも間に合わない。 

 敵味方関係なく、全員がその場に伏せた。


【大将視点】

 誰かが泣いている。

 気が付くと、俺は床に倒れていた。

 あれ? 何が起こったんだ?

 確か、曹長が手榴弾を咥えて……。

 そうだ! アイツは無事かっ?

 痛む体を無理矢理起こして、状況を確認する。

 室内にいた敵も味方も、全員が床に倒れていた。

 泣き声がする方向に目を向ければ、部屋の隅っこで曹長が泣いていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。俺のせいで……」

「え、曹長……?」

 恐る恐る声を掛けると、曹長は安堵した顔でこちらを向いた。

「あっ、大将、気付いたんだ?」

「ぇえぇえええええええぇええ~っ?」

 俺は驚きのあまり、思いっきり驚きの声を発してしまった。

 だって、だって、さっきまで人形みたいに動かなかったのに。

 いったい何があったのか知らないけど、普通に喋ってるし表情もある。

 俺らがずっと待ち望んでいた曹長が、そこにいた。

 俺は嬉しくて嬉しくて、すぐ横で倒れていた中将を叩き起こす。

「起きろ! アイツがっ、アイツがっ!」

「……うるせぇな……アイツがどうした? ぅ、痛ぇ……」

 爆発で気を失っていた中将が、被弾した傷を押さえながら目を覚ました。

 まだぼんやりしているのか、何度も瞬きした後、曹長を見た。

 曹長も中将を見て、申し訳なさそうに声を掛けてくる。

「ごめんね、中将。俺のせいで、いっぱい迷惑掛けて……」

「ぇえぇえええええええぇええ~っ?」

 中将もめっちゃ驚いて、俺と同じ反応をした。

 俺と中将の顔を交互に見て、曹長は驚いている。

「え? どうしたの? ふたりとも」

「どうしたもこうしたも、お前……」

 驚きのあまり、言葉が続かない。

 それからすぐ、少尉も意識を取り戻した。

「いたたた……何騒いでんの? お前ら」

「良かった、やっと起きた」

 嬉しそうに笑う曹長を見た少尉は、驚きすぎて固まった。

少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。

もし、不快なお気持ちになられましたら、誠に申し訳ございません。

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