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Specters3  作者: 製作:橋元宏平 原案および監修:J 
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第二話 Trap

【隊長視点】

 ひと通り偵察を終えた俺らは、建物の入り口で合流することにした。

 曹長は、大きく手を振りながら、笑顔で合流地点に現れた。

「お~い、たいちょぉ~、お疲れ~ぃっ!」

「おう、お疲れさ~ん」

 片手を軽く上げて、応えた。

 曹長は寄って来ると、形の良い眉尻が下がる。

 なんでお前はそんなに、喜怒哀楽が分かりやすいんだ。

 普通、サングラスを掛けたら、もっと表情が分かりにくくなるもんだろ。

 あと、声にも感情が現れるんだよね。

 お前、マジで分かりやすすぎ。

「なんもなかったねぇ」

「なんもなかったなぁ」

「なんか、拍子抜け~」

「ムダに気ぃ張って疲れたし、早く帰って寝てぇわ」

 俺があくび混じりに言うと、曹長は楽しげに笑う。

「アンタ、それ、いつもじゃん。早く帰って、カレー食べたぁ~いっ!」

「お前は、すぐそれだ。また、食いもんの話してる」

 呆れると、曹長は子供のように言い返してくる。

「だって、腹減ったんだもんっ。隊長こそ、飯に興味なさすぎじゃない?」

「だって、飯食うの面倒臭ぇんだもん」

「『食うの面倒臭い』って、それ、人としておかしくない?」

「あ~……でも、今はなんかリンゴが食いてぇなぁ」

「あ、俺も、リンゴ食いたい!」

「切って皮剥くの、面倒臭い(めんどい)し、まるかじりしたい」

「分かるわぁ~。やっぱ、リンゴは、まるかじりだよね~!」

「リンゴは、皮ありこそ至高だと思うんだよね。皮の部分も含めて、リンゴは美味い」

「まるかじりって、なんか贅沢ぜいたくな気がしない?」

「するする」

 そんなくだらない会話をしながら、車が迎えに来る地点へ向かう。

 突然、曹長が足を止めた。

 緊張した面持ちで、黙って空を見上げている。

 曹長の変化に、俺も足を止める。

「どうした?」

「この音は……『B-52(ストラトフォートレス)』だ! 戻るぞっ!」

 曹長が全速力で、来た道を戻っていく。

 俺は慌てて、その背を追う。

「まさかっ!」

「俺だって、まさかと思いたいわっ!」

 コイツは、耳が良い。

「対空砲」の異名を持ち、航空機を撃墜させることにかけては、右を出る者はいない。

 発見から撃墜まで、わずか数秒。

 狙撃の腕に関しては、絶対的な信頼を置いている。

 コイツが確信を持って言うからには、間違いない。


「B-52」は「ボーイング社」が開発し、アメリカ空軍に採用された戦略爆撃機。

 愛称は「ストラトフォートレス(Stratofortress=成層圏の要塞)」

 使用される兵器は「バンカーバスター(Bunker Buster=地中貫通爆弾)」

「テキサス・インスツルメンツ社」の防衛システム、および電子グループに開発された。

 爆撃範囲が広いので、近くに建物があったら避難すべき。

 建物へ逃げ込んでも「貫通爆弾」の名の通り、天井も壁も貫通するので油断ならない。


 まもなくB-52が、豪速で飛来してくる音が聞こえてきた。

 俺らは、急いで建物へ飛び込む。

 バンカーバスターが投下され、凄まじい爆撃で、建物がめちゃくちゃに壊される。

 爆撃と、崩れてくるコンクリートの瓦礫がれきから、必死に逃げ回る。

 建物に使われた形跡がなかったのは、これが目的だったのか。 

 たったふたり殺す為に、こんなもん出してくるとか、バカかっ!

 もしかして、潜入部隊が壊滅させられたのも、これが原因か?

 俺の体は、爆発に吹っ飛ばされ、窓ガラスを突き破り、外へ放り出された。

 受け身を取ることすら出来ず、地面へ叩き付けられる。

 爆撃の衝撃で、意識を失ってしまった。


 どれぐらい、気絶していたのだろう。

 肌を焼く炎の熱気と、全身に激痛を感じて、意識を取り戻した。

 焦げ臭い煙を吸って、むせた。

 最悪の目覚めだ。

 あれから、どうなった?

 顔を上げると、建物は跡形もなく崩れ去り、完全に炎に呑まれていた。

 激しく燃え盛る炎、立ち昇る黒々とした煙、飛び散る火の粉。

 これじゃ、逃げ出すことも絶望的。

 あの建物には、曹長もいたはず……。

 いや、きっと曹長は無事だ。

 俺と同じように、外へ逃げたに決まっている。

 繋ぎっぱなしになっている無線機へ向かって、呼び掛ける。

「おい! 返事をしろっ! 頼む、返事をしてくれっ!」

 何度呼び掛けても、ノイズしか聞こえない。

 もしかすると、外へ逃げたは良いけど、怪我で動けなくなっているのかもしれない。

 痛む体を無理矢理起こし、周囲を探す。

 だが、曹長はどこにもいなかった。

 まさか、逃げ遅れて、瓦礫に圧し潰されたんじゃ……。

 音を立てて焼け崩れる瓦礫の前で、呆然と立ち尽くした。


【曹長視点】

 俺と隊長は、急いで建物の中へ飛び込んだ。

 この周辺に、他に逃げ込める建物はない。

 敵さんは、俺らがこの建物へ逃げ込むことを想定していたんだ。

 敵さんの思惑通り、まんまと罠に引っ掛かってしまった。

 まさに、袋のネズミ状態。

 無数の「バンカーバスター」が投下されて、必死に逃げ回るしかない。

 当然、仲良く逃げるなんてことは出来なくて、隊長と離れ離れになってしまった。

 コンクリート製の建物は、「バンカーバスター」による攻撃で穴だらけ。

 大量の瓦礫の欠片が落ちてきて、体に当たる。

 気が付いたら、逃げ場がなくなっていた。

 見渡す限り、瓦礫がれきの山が出来てて、しかも炎の壁に周囲を囲まれている。

 硝煙と火災による煙が立ち込めていて、ほとんど何も見えない。

 炎による熱で、室内温度も上がり続けている。

 全身を焼かれているみたいに、肌が痛む。

 息を吸うと、熱い空気が入ってくる。

 熱さで汗が止まらないのに、すぐに乾いていく。

 まるでサウナにいるような……いや、そんな生易しい熱さじゃない。

 巨大なオーブンの中で、焼かれているみたいだ。

 このままここにいたら、丸焼きになっちまう。

 口元を覆って、低姿勢を取っているけど、煙とガスをかなり吸ってしまった気もする。

 熱く乾いた空気を吸い込んだ喉が痛くて、咳が止まらない。

 意識も、朦朧もうろうとしてきた。

 熱い、苦しい、痛い……もうダメだ、死ぬ。

 隊長の姿は、どこにも見えない。

 隊長は、無事に建物から逃げられたかな?

 すみません、隊長。

 俺、ここまでみたいです。

 今まで、ありがとうございました。

 そう、諦めた時だった。

 何気なく、床に手を着いたら、何かに触れた。

 煙で視界が不明瞭(ふめいりょう=ハッキリしない)な中、床に顔を近付けて目を凝らす。

 良く見れば、床に手のひらサイズの金属部品が埋まっていた。

 金属部品を押すと、部品が一回転して、引手(ひきて=扉を開閉する時に、引っ張る部分)が現れた。

 引手に手を掛けて引っ張ると、ハッチ(hatch=船の貨物倉の物資の出し入れ、あるいは人の出入りの為、甲板に設けられる開口部)のように、四角く切り抜かれた床が、ふたのように持ち上がった。

 切り抜かれた床の裏は、分厚い鉄板でかなり重い。

 穴を覗き込むと、鉄製のはしごが壁に固定されていた。

 でも中は暗くて、何があるか分からない。

 たぶん、地下室か、地下貯蔵庫だろう。

 よっしゃ! ラッキーッ!

 幸運の女神は、まだ俺を見捨ててはいなかったっ!

 とりあえず、ここに一時避難しよう。

 迷っている暇はない。 

 素早く穴へ逃げ込み、煙やガスが入って来ないように、中から蓋を閉めた。

 懐中電灯をけて、室内を見回す。

 思った通り、ここは地下貯蔵庫のようだ。

 しかし、中には何もなかった。

 コンクリート打ちっぱなし(コンクリートが剥き出しの壁や床)の部屋が、ひとつあるだけだ。

 使われた形跡はなく、空気は淀んでいる(よどんでいる=どんよりと、にごっている)。

 幸い、ハッチを閉めれば、煙もガスも炎も入って来なくなった。

 よし、爆撃と火災が収まるまで、しばらくここでやり過ごそう。


【大将視点】

 遅い、遅すぎる。

 ただの偵察に、どんだけ掛かってんだよ。

 なんだか、胸騒ぎがする。

 何かあったのかもしれない。

 俺の予感は、良いことも悪いことも、高確率で当たるんだよね。

 考えたくないけど、最悪の事態を考えちまう。

 中将も心配してるみたいで、時計をチラチラ見ている。

 自分の中だけに留めておくことが出来なくなり、中将に声を掛ける。

「なぁ、いくらなんでも遅すぎじゃね?」

「何チンタラやってやがんだ、グズ共め」

 中将の声には、焦りの色が濃く出ている。

 壊滅した潜入部隊のことを、思い出しているのかもしれない。

 あの時も、潜入部隊がなかなか帰還しなくて、中将はイラ立っていた。

 俺と中将は、曹長と少尉アイツらの無事を信じて、待つことしか出来ない。

 しばらくすると、執務室の扉をノックする音が聞こえた。

「失礼します」

 低い声と共に入って来たのは、少尉だった。

「おおっ! やっと帰って来たか! 遅かったじゃんっ!」

 少尉が帰って来たことが嬉しくて、俺は大喜びで駆け寄った。

 だが、少尉の格好は、お世辞にも無事とは言えなかった。

 何があったのか、満身創痍(まんしんそうい=全身傷だらけ)。

 医務室で手当てを受けてきたのか、真新しい包帯が巻かれている。

 少尉は、いつになく暗い表情で、応接セットのソファに深く腰を掛けた。 

 俺と中将は、少尉の向かいに座って問う。

「何かあったのか?」

「アイツが……死んだ」

 低い声で、少尉が短く答えた。

 そんな、まさか。

 最悪の予感が、当たっちまった……。

 全身の血液が逆流するような、恐怖と絶望を覚えた。

 中将が取り乱した様子で、少尉を問い詰める。

「『死んだ』って、どういうことだっ?」

「B-52が、爆撃してきたんだ」

「なん……だと……?」

「絨毯爆撃(じゅうたんばくげき=隅々まで、爆弾で攻撃)」で、有名な戦略爆撃機。

 なんで敵軍は、そんな大げさなもんを、出して来たんだ?

 俺が驚きつつ聞き返すと、少尉は俯いたまま、ぽつりぽつりと語り出す。

「俺は、なんとか建物から脱出出来たんだけど。たぶん、アイツは崩壊に巻き込まれて……」

 少尉はそこまで言うと、自分の顔を両手で覆って、黙り込んでしまった。

 中将は、身を乗り出してさらに問う。

「『たぶん』ってことは、遺体を確認してねぇんだな?」

「でも、建物の周りにアイツの姿はなかった。だから、逃げ遅れたんじゃねぇかと……」

「まだ、死んだとは限らねぇだろ? アイツは絶対生きてるって、俺は信じるっ!」

 少尉に言い聞かせると、中将も大きく頷く。

「アイツは、殺しても死なねぇよ。そんな簡単に、諦めんな」

「……ああ、そうだな」

 少尉は、両手で覆っていた顔を上げて、弱々しく笑った。


【中将視点】

雑魚ざこばっかになっちまうけど、良いのか?」

「探せるんなら、なんでも構わん」

 曹長アホを見つける為、新たに捜索部隊を結成することになった。

 人手不足には違いないが、入隊したてのピッカピカの新兵なら、いないこともない。

 そんなこんなで「Spectes二軍支援部隊(仮)」として、新兵ばっか寄せ集めた小隊(しょうたい=歩兵分隊の標準編成は十名)を結成してやった。

 そしたら、新兵どもは、そりゃもう大喜びよ。

 我が軍最強の「Specters」に、憧れる新兵は少なくない。

 仮とはいえ、小隊長を務めるのは「Specters」の隊長。

 憧れの「生きる英雄」と組めるなんて、新兵にとっちゃ夢のような話だろう。

 俺から見りゃ、戦闘狂のボケジジイだけどな。

 こうして「二軍支援部隊(仮)」は、曹長捜索へ向かった。

 使えねぇと思っていた新兵どもは、地味な捜索作業でも文句ひとつ言わなかったそうだ。

 何しろ、尊敬する小隊長様が、率先して働いてるんだからな。

 全員で力を合わせて、黒こげになった瓦礫をひとつずつ撤去。

 瓦礫を全部撤去した結果、曹長の遺体は見つからなかったらしい。

「二軍支援部隊(仮)」の報告を受けて、確信を得た。

 少なくとも、曹長は死んでいない。

 何か理由があって、どこかに身を潜めているか。

 それとも、敵軍の捕虜になったか。

 行方不明には変わりないが、生きている可能性がある。

 それだけで、希望の光が見えた。

 だが、それからが長かった。

 近くの森から捜索を開始したが、手掛かりは何も掴めなかったんだと。

 範囲を少しずつ広げても、成果は得られなかった。

 こうして苦労空しく、時間だけがイタズラに過ぎていった。

少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。

もし、不快なお気持ちになられましたら、誠に申し訳ございません。

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