最終話 Humpty Dumpty
「Mother Goose」 は、古くから伝承されてきた童謡の総称で、特定の作者がいない為、著作権はありません。
「Humpty Dumpty」は「壊れたものは、元には戻らない」の比喩表現(ひゆひょうげん=例え)として使われます。
【少尉視点】
夜襲事件から、一ヶ月後。
久し振りに、特殊精鋭部隊「Specters」と「Specters航空支援部隊」の出撃となった。
今回の任務は、「Boot Camp(ブートキャンプ=新兵訓練施設)の制圧」
百戦錬磨(ひゃくせんれんま=数々の実戦で鍛えられた)の中将が考えた、「曹長の為の前哨戦(ぜんしょうせん=勘を取り戻す為の小戦闘)」だそうだ。
俺は新兵相手じゃ全然物足りないけど、戦場を駆け回れるんだったら、なんでもいいや。
曹長の体調は、まだ万全じゃないんだけど、今はネコの手も借りたいぐらい、人手が足りない。
ただでさえ人手が足りなかったのに、夜襲事件で貴重な人員がさらに減ってしまった。
うちの大将様は、夜襲を受けて黙っているようなヤツじゃない。
中将も「やられたらやり返す」と、憤慨(ふんがい=不正や不当なことなどに対して、めちゃくちゃ腹を立てる)している。
なんで、「夜襲事件から一ヶ月後」なのかと言うと、曹長の回復訓練と駐屯地の修繕に、それだけ時間が掛かったからだ。
今回の作戦内容は、以下の通り。
まず、航空機による爆弾の投下で奇襲攻撃。
次に、俺が航空機から飛び降りて特攻。
曹長は、防壁から「Sniper-Rifle」で狙撃。
航空支援部隊は、上空から機銃掃射(きじゅうそうしゃ=機関銃で敵をなぎ払う)。
中将の戦略通り攻めれば、さほど時間も掛からずに制圧完了。
やっぱり新兵相手じゃ、呆気なかったな。
繋ぎっぱなしになっている、無線機に声を掛ける。
「お疲れさん。今、行くから待ってろよ」
一ヶ月リハビリしたとはいえ、ゆっくりとしか歩けないアイツを迎えに行く。
『Humpty Dumpty sat on a wall♪(ハンプティダンプティは壁の上に座っていた)』
返事の代わりに、明るい歌声が聞こえてきた。
聞き覚えのある歌は「Mother Goose」の「Humpty Dumpty」か。
Humpty Dumpty sat on a wall,
ハンプティダンプティは壁の上に座っていた、
Humpty Dumpty had a great fall.
ハンプティダンプティが落っこちた。
All the King's horses, And all the King's men
王様の馬と王様の家来とみんなで頑張っても
Couldn't put Humpty together again!
ハンプティを元には戻せなかった!
これは、歌詞が「なぞなぞ」になっている「なぞなぞ歌」ってヤツ。
「ハンプティダンプティ(『ずんぐりむっくり』を意味するスラング)とは、なんでしょうか?」と、問い掛けている「なぞなぞ」なんだよね。
誰でも一度は聞いたことがある、超有名な「なぞなぞ」だから、俺でも答えを知っている。
「『卵』だろ」
『あははははっ』
「ふははははっ」
答えを言い当てたら、曹長が声を立てて笑い出した。
釣られて、俺も一緒になって笑った。
そういえば、アイツが声を立てて笑うのも、久し振りじゃね?
歌声を聞くのも、久し振りだな。
だいたいその場の思い付きで、クソみたいな歌を唄っていることが多いんだけど。
別に、既存の歌を唄うことも珍しくはない。
アイツも、戦場に出たことで、自分を取り戻したのかもしれない。
俺もアイツも、似た者同士ってことか。
アイツが背中を守ってくれれば、俺は自由に戦場を駆けることが出来る。
やっぱりアイツは、俺にとって必要不可欠な存在だと、再確認する。
防壁に近付くにつれて、敵兵の死体の数が増えてきた。
行く先々で、地面を埋め尽くすように転がっている。
死体の損傷は少なく、ほとんどヘッドショット(head shot=頭に一撃必殺)で仕留められていた。
さすがは曹長、狙撃の腕は落ちてねぇな。
あまりの死体の多さに、アイツの安否が心配になってきた。
でもさっき、歌ってたくらいだから大丈夫か。
怪我くらいは、してるかもしれないけど。
しばらく歩くと、ようやく防壁に辿り着いた。
スナイパーライフルを抱いて、地面に伏せている曹長を見つけた。
曹長に向かって、軽く声を掛ける。
「お~い、待たせたな。帰るぞ~」
しかし、曹長は身じろぎひとつしなかった。
不思議に思って、肩を掴んで揺すると、曹長の体が少し横へ転がって、顔が見えた。
自らが流した血だまりに沈む曹長は、目を閉じたまま穏やかな笑みを浮かべていた。
最後までお付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。
少しでもお楽しみ頂ければ、幸いに存じます。
不快なお気持ちになられましたら、心よりお詫び申し上げます。




