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世界維持装置  作者: 桜咲 人生
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正義のために人を殺す。

綺麗事を語れるのは案外平和な時だけなのかもな。

と誰かが言っていた。

 なら一緒語れないかもなと返してやったが、それはやはり正しいのかもしれない。

 平和だからこそ、叶わない夢を見れるのであって、そこが戦場もしくは貧困街ならば、考えるエネルギーを今を生きるための力へと変えるだろう。

 そう生きる力に。

「ヘルメス右!」

 後ろからエルトの声が聞こえ、左側に走りチームメイトの居る岩陰に飛び込む。

 ドラゴンの炎は私に届かず、その熱は隠れている私にさえ暑さを伝えた。

「ヘルメス、大丈夫?」

「ああ、大丈夫」

 チームメイトのハレスはご自慢の弓を抱えため息をついた。

「は〜、流石に星4相手に3人は辛いよ」

「仕方ないよ。他に依頼しても受け入れられないでしょ。こんな大物」

「だな、さてとこれからどうする?」

 楽しくなるとニヤニヤしだすのだ、こいつの悪い癖だ。

 エルトは後衛で防衛魔法を張っている。

 少しばかし辛いな。

「あいつの腹に魔法をぶち込む。

 だからあのデカブツの気を引いてくれ」

「OK。

 分かったぜ、受けてたってやろう」

 まず、ハレスが飛び出しドラゴンの顔目指して弓矢を放つ。

「へいへいこっちだぜ」

 挑発しながら、走り抜けている。

 ドラゴンはそちらに気をそらし、全長15mのその体の中で作られた炎のブレスをハレスに向けてぶちまけた。

 やつのブレスの威力は桁違いだが、今の魔法の技術だけは魔物に対抗することが出来る。

「へっ、どんな攻撃だろうと守ることが出来れば、当たらねってことよ」

 防御魔法

 エレクロトシールド

 一方向に対してのみ有効のシールド魔法。

 守ることに関しては他に出るものはないが、魔力浪費と一方向のみしか使えないためあまり使用されない。

「ナイスだぜ。エルト!」

 後衛のエルトのサポートによって守られたハレスご自慢の弓矢に魔法を付与している。

 彼女の魔法はなにかと時間がかかるのだ。

「いくぜ、冷凍れいか魔法 月下氷月」

 付与魔法

 月下氷月

 付与された物体が他の物質に当たった時、その周りの半径2mを凍らせる魔法。

 付与する時間はかかるが、扱いやすく効果は出やすい。

 言い放たれたその弓矢は銀色の弧を描き、あのドラゴンの目に当たりその周りを凍らせた。

 ドラゴンは苦しそうに唸り、じたばたし始めた。

 今がチャンスか。

 私はドラゴンの腹に向かい走った。

 ドラゴンというのは基本的に硬い鱗に覆われているが、腹や足などは殆ど覆われていない。

 それは単純に重さや動きにくさなどが関係している。

 なので、狙うならば足もしくは腹の二択なのだ。

 しかし足ではトドメは刺せず、グダリこちらの疲労が溜まり殺されるというパターンがよく見られるため、大半は目を潰し混乱させる。

 だから目を潰し、腹にでかい1発をくれてやるのだ。

 やつの足元まで来たら、私はずっと魔力を貯めていた右手にやつの腹に向ける。

「天を唸らせ地を轟かせ 敵を滅する力を放て 爆破魔法 烈火れっか

 爆発魔法

 烈火

 自身の手から爆発をおこし、敵を消し飛ばす魔法。

 範囲は広いが、自身に当たらないよう気をつけなければならない。

 何かと燃費も悪い。

 ドンとと大きい音を立て後ろに吹っ飛ぶ。

 飛んだ私をエルトがキャッチし戦闘が終わった。

 ドラゴンの方を見ると、五臓六腑を盛大にぶちまけて倒れていた。

「もっと綺麗にやってくれないと気味が悪いぜ」

 ハレスが近づいてきながら愚痴を吐いた。

 こればかりは言い返せない、今回の敵は強かったし綺麗に中までとばせなかった。

「まあ、しょうがないでしょ。

 今回の任務は達成されたので、とりあえず帰りましょうか」

「「だな」」

 後処理は手配してくれるとの事なので、帰ることにした。

「よくやってくれた君たち。

 あのドラゴンには手を焼いていてね。

 退治に手を回すことが出来ず、ほっといていたから退治できて安心安心。

 ああそれと君達にはもうひとつ司令が出されていてね。そちらの方も頑張って行ってくれないといけないんだけど、どうかな?」

 着いてまもなく報告に行ったのだが、報告は次の任務へと様変わりしたらしい。

 ハレスは見るからに嫌がっているが、文句は言わない。

「それじゃ、よろしく」

 そう言うと、ニコッと微笑んだ。

 その表情を見る限り、否定権は無いらしい。

「やってられねえよ本当に。

 終わったと思ったらまた次だ。

 どんな呪いが付きまとってやがんのか」

「しょうがないでしょハレス。

 この国は人材不足。

 仕事をして、食べ物を食べれているだけマシでしょ」

 それは生きるうえで最低条件な気もするが、確かに仕事があり食べ物も食べることが出来る事は幸せなのかもしれない。

 そう思いながら酒を飲む。

 私達が所属している部隊k20は魔物専門の部隊と言われているが、実際は雑用で他の部隊の手伝いや畑仕事など様々な事をやっている仕事多き部隊。

 それは前の大戦争の時、殆どの魔物が死に生き残ったもの達も数が少なく殆どが村や王国に現れることが無い。

「本当に何なんだよ〜。

 2日かかった仕事の次は村の手伝いだなんて。

 あんまりだー。」

 ベロンベロンになりながらも酒を飲むハレス。

 酒をそこまで飲んではいけないと言いながらも、自分が一番酔っている。

 それも、グラスの1杯で。

 ここの酒はアルコール濃度は高くなく、どんどん飲めるようにしているのだがこの有様だ。

 それに比べジョッキー5杯を飲んでも顔色一つ変えないエルトは異常だろう。

 私はグラス3杯で辞めておいた、明日も仕事なので。

「そろそろ上がりましょうか」

 そうだな。と返事をしてハレスに声をかけるが返事がない。

 どうやら寝ているらしい。

 しょうがないなとハレスをおんぶし、酒場を出る。

 まだ騒がしい酒場は明かりを落としそうにない。

 明日仕事だと言うのに、こんな飲んで気持ち良さそうに寝て。

 いいご身分な事だ。

「私が持ちましょうか?」

「いや、大丈夫だ。

 こいつには重いふたつの身が付いていないからな。

 軽い軽い」

「もう、そんな酷いこと言って、後で伝えておきますからね」

 と身を揺らしながら注意してくる。

「ごめんて、言わないでおいてこいつ気にしてんだからさ」

「もう分かりましたよ。

 そろそろ着きますよ」

 エルトは先を歩いている。

 星明かりはまだ光を失わずに輝いている。

 そういえば最初に綺麗事は平和な時にしか言えないと思っていたが、どうやら違うらしい。

 だって、平和というのはいつだって訪れない。

 自身が納得し皆が笑い合う毎日なんて一生経ってもこないだろうし、どこかでは必ず誰かが泣いている。

 それを平和だとは言えない。

 だからこそ綺麗事は日常でしか言えないんだろう。

 綺麗事は訪れないから綺麗なのだ。

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