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異世界訪問前(12日目)

「神束さん、どう言うこと?」


 出社して席に着くなり、隣席の同僚がそう声をかけてくる。


「え、何がですか?」


 首を傾げる私に、同僚は、ずい、とスマートフォンの画面を見せる。


「ユーチューブ見てたら、前に神束さんが話してた、きのこが出てきたんだけど」

「ユーチューブ?」


 画面を覗き込めば、蜂蜜色の髪に翡翠のインナーカラーを覗かせた女の人が映っている。

 ……この子、会ったわね。一昨日。


「はなってユーチューバーでね。大きく分類すると美容系になるかな。詳しすぎる説明と、謎の異世界ワールドが面白くて『異世界系ユーチューバー』として、一部の界隈では今、人気急上昇中らしいよ」


 ……うん、明らかに山田花子よね。そういえば一昨日の帰りがけに、弟から異世界産のきのことかりんごを貰っていた。

 それにしても、異世界系ユーチューバーって普通に浸透しているのね。


「それが何か?」

「前に神束さん、話していたじゃない? ビハダケとか、ビハクダケとか。それがこの動画で紹介されてるの! 異世界産のきのこだって!」


 そういえば同僚に肌が綺麗になった理由を問い質されて、うっかり零してしまった事があった。忘れているかと思っていたら覚えていたのね。

 どう返そうか悩みつつ、ひとまずパソコンを立ち上げる。


「あれ? 妹の動画、見てるんですか?」


 山田太郎の声に振り返る。山田太郎はお疲れ様です、とお辞儀をすると自席まで移動して鞄を下ろす。


「妹?」


 同僚が今度は私とは逆隣の席に座る山田太郎を見る。


「はい。妹の花子です」

「山田くんって妹さんがいたのね。じゃあ、もしかして、はなが話してる異世界の話も本当なの?」

「まあ、花子は二代目の神様ですからね」

「妹さんも? ……あれ? でも、てことは、神束さんって……」

「あ、もうすぐミーティングの時間ですよ」


 何かを察しかけた同僚の言葉を遮り、モニターの右上に表示された通知を伝える。

 あからさまな誤魔化しに同僚は怪訝な視線を投げかけてくる。でも、あえてそれに気づかないふりをする。

 何も話す気がない私に諦めがついたのか、同僚は、はあ、とため息をつく。スマートフォンの画面を消すと、キャビネットからノートパソコンを取り出す。


「ミーティングってどこだっけ?」

「『akagi』です」


 会議室の場所を伝えると天板裏の引き出しを開ける。中にあるノートとペンを手に取る。山田太郎も揃ってぞろぞろとミーティングルームに向かった。



「それで神束さん、どういうこと? 神束さんも異世界に行ってるってこと? あ、もしかして弟くんも何か関係していたり……」

「それより、何を食べますか? 今日の日替わりはトルコライスらしいですよ」


 その後はつつがなくミーティングも午前の仕事も終えたから、完全に油断していたランチタイム。恒例となりつつある同僚に連れ出されてのランチは質問攻めの嵐だった。それをどうにか交わしながら、食事を済ます。

 山田太郎の話も受け流さずにちゃんと聞いてくれる同僚だし、もしかしたら私の話もちゃんと聞いてくれるかもしれない。でも、どう話せばいいかなんて、私にも分からないもの。せめてもう少し、整理する時間が欲しい。

 食後の紅茶を飲みながら、そっと息をつく。

 そして、定時後の十八時過ぎ。女子トイレの個室で弟の電話を受けると、異世界に召喚された。

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