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異世界帰還後(7日目)

「神束さん、ランチ行きましょう」


 翌日。十二時を過ぎたから職場の自席で昼食のカロリーメイトを取り出したら、隣席の同僚が声をかけてきた。そのまま腕を掴まれて、リフレッシュルームに連行される。


「神束さんはハーブティーだよね?」

「あ、はい」


 席に着くなり同僚はそう聞くと早々にドリンクを取りに行く。お礼を言うタイミングもなかった。

 私はカロリーメイトとスマートフォンを机の上に置く。なんとなく落ち着かず、周囲を見回す。

 リフレッシュルームはゆったりと広い。執務スペースとは淡い緑の固定式パーテーションで区切られ、フロアのほぼ半分を占めている。部署によっては自席の用意もあるけど、フリーアドレス制も導入されているためか、ノートパソコンを開いている人も多い。

 壁一面を覆う窓からは陽が差し込み、リフレッシュルーム内は存外明るい。遠くに新宿の街並みが見えた。


「今日はカモミールティーだったよ」

「ありがとうございます」


 差し出された紙コップを受け取ると、同僚は向かいの席に座る。

 リフレッシュルームには社員なら自由に使えるドリンクバーが常設されている。ドリンクバーにはコーヒーや紅茶、緑茶、コーラやオレンジジュースなどの通常メニューのほかに、CFOのその日の気分で変わるハーブティーの設置もある。今日は何か気分を落ち着かせたいことでもあったのかしら。

 ひとまずカモミールティーを一口飲む。ふんわりと広がるカモミールの香りにほっと息をつく。お昼を食べようとカロリーメイトの箱を開けていると、不意に視線を感じて顔を上げる。


「……あの、何か?」

「神束さん、ちょっと痩せた?」


 真っ直ぐ私を見て聞いてくる同僚に首を傾げる。


「体重はそれほど変わってないですが」

「なんだか前よりすっきりしているような……」


 疑わしげな同僚の視線から逃れるように、下を向いてもしょもしょとカロリーメイトを食べる。


「それより、神束さん。今日こそ最近キレイになっている美容の秘訣を教えてよ! あと、リスの動画も見せてください」


 ばんと机を叩く音に驚いて顔を上げる。ぐいっと身を乗り出した同僚と目が合う。


「秘訣も何も……」


 ほぼ、異世界産の食べ物のおかげだ。昨日の野いちごのジャムの影響か、今日も肌の調子はいい。でもそのままを伝えても通じる気がしない。そもそもなんて説明したらいいかもわからない。


「まあ、最近、果物とかきのこをよく食べるようになりました。あとは散歩もよくしますね」

「果物? きのこ? 具体的には?」

「えっと……」


 答えられる範囲で返すと、ずいっと詰め寄られる。返答に困っていると、机の上のスマートフォンが目についた。


「それより、りっくんの動画、見ませんか?」

「りっくん?」

「飼っているリスの名前です」


 スマートフォンを手に取ると、攻略本アプリを立ち上げる。りっくんを映すライブカメラの映像はここの一コンテンツとして存在している。


「……また誤魔化したか」


 同僚は少し不満そうにしつつも、これ以上の追及を諦めたのか姿勢を戻して持ってきたお弁当を広げ始める。


「それにしても、神束さんも最近謎が多いよね。元々自分のことそんなに話す人でもなかったけど」

「そうですか?」


 ライブカメラ映像を表示させると、スマートフォンを横向きに置く。今日は森の中を駆け回るりっくんが映し出されていた。


「そのリス? も普通のリスとはちょっと違うし。あ、今日は部屋の中じゃないんだね」

「そうみたいですね」


 私の返答に同僚は首を傾げる。


「自分で設置しているんじゃないの?」

「弟がやっていることなので」

「そっか。弟くんが預かっているんだっけ?」


 同僚は卵焼きを食べながらスマートフォンの画面を覗き込む。


「そういえば、今度、中途採用で来る人も、なんだか謎な人みたいなのよね」


 りっくんの動画を見ていると、ふと同僚がそう零す。


「謎?」

「なんだか、経歴に異世界がどうとか書いてあったんだって。CEOは面白そうだからって採用を決めたらしいけど。異世界とか、謎じゃない?」


 同僚から聞こえてきた言葉にぴくりと動きを止める。すぐにもぐもぐと食べ始める。


「ええ、謎ですね……」


 異世界とか、そんなオープンにしていいものなのだろうか。少し気にはなるけれど、その人にはなるべく近づかないようにしよう。

 とりあえず森の中を駆け回るりっくんは可愛かった。早く、家に来られるようにならないかしら。

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