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閑話休題 異世界人との遭遇前夜

 雲のない空に静かに星が瞬く。森の淵の少し上、白金色の十六夜月と小さな三日月から柔らかな明かりが斜めに差し込む。溢れる光に照らされたのは、ごつごつした岩場を流れる小さな川。


 がさっ。


 そんな川原に、森から足を踏み入れる影が二つ。


「なんかなんか、すごい風、吹いてたね」


 その一人、猫耳の少女が真っ先に川に近付くと、きょろきょろと周りを見る。


「……ここだけ、少し魔素が薄くなっている?」


 もう一人の少女は猫耳の少女の隣に並ぶと首を傾げる。さらりと肩に流れたシルバーグレイの髪の間から、尖った長い耳が覗く。シダ植物のような飾りの付いたピアスがしゃらん、と揺れる。


「え、あいつって魔法使うっけ?」

「いや、そんな報告は受けていないけど……」


 訝しげに眉を寄せ、考え込むように下を向く。手元のランタンで照らせば、少し焦げた跡が砂利の隙間から見えた。


「でもでも、なんかここだけ、変なんだよね」


 少女の隣。猫耳の少女は川を覗き込みながら、言葉を零す。


「変?」

「うん。リンゴーアップルとかモーモーピーチとかに混ざって、変な匂いがするの」

「変な匂い?」

「うん。なんだかよくわからないけれど……」


 猫耳の少女は顔を上げると、すんすんと鼻を動かす。


「ヒロセの匂いと似てる気もするけど、なんか違うし。ここに来るまでもちょっとしてたけど、ここでスパッと消えちゃった。何だろう、これ」


 そこまで言うと、こてん、と首を傾げる。


「そう……」


 猫耳の少女の言葉を受けて、改めて下を見る。

 焦げ跡を見る限り、それほど時間が経っているようには思えない。誰かがいた形跡はあるのに、人の気配はまるで感じない。


「あ、そういえば失くしたって言ってたブレスレット、見つかった?」


 猫耳少女はじっと目を凝らして、川底を覗き込んでいる。顔を上げると、ぐるりと見回す。


「……いいえ。ここにもなかったわ」


 少女の返答に、猫耳の少女はぐっと伸びをする。


「あいつもいないみたいだし、今日はもう帰ろうよ」

「そうね。もう、遅いし」


 少女は頷くと、首を巡らせる。僅かな魔素の揺れは感じたが、静かな川辺の景色に不審なところはない。それを不思議に思いながらも、二人して森へと引き返す。


「そういえば、ヒロセ、明日も来るかな」

「ああ、あの自称神様?」

「うん。ヒロセの話って面白いから、また聞きたいな」


 がさり、と深緑の葉が風に揺れる。独特の匂いを放つ檜皮色の木々の中、ランタンを片手にゆっくりと街へと戻っていく。


 その翌日の出会いを今はまだ知らない。

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